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亀田祥倫(4) 「レイトン教授」と『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

―― 『ミロス』の後『NO.6』がありますね。6話はどこをやられてるんですか。

亀田 沙布って女の子がただ歩いてるところを。『ミロス』が終わった後で、精神的にも疲れが残っていましたね。オープニングは六角形みたいなのがぽんぽんぽんと出て、それがわーっと手前に抜けていくところを。

―― 10話はネズミの戦闘シーンという派手なところを担当してますね。金田系も入ってはいるんだけど、リアルめな感じで。

亀田 10話ぐらいのラインがいちばん自分には向いているような気がしました。いかにも金田系というふうにやると、どこか自分に嘘をついてる感じがしてるので。真似してるって意識がちゃんとあるんです。自分の考えで描いたものに、エフェクトやポージングで金田さんとか今石さんの要素をちょっと入れるぐらいのバランスがしっくりきますね(笑)。

―― 今石さんとか金田さんの作画は、好きではあるけれど描きたいものとは違う、ということですか。

亀田 描きたいですけど、描けないんですよ。あのラインを頑張って追っかけてるんです(笑)。金田さんとか今石さんの画がいくら好きで真似して描いても、全然それらしくならなくて、もうどうしようと思ってるぐらい。いい加減自分の画を探れよと思いつつも、学生の頃から人の画を真似ることから入ってきてるので、なかなかその楽しさからは離れられないです(笑)。でも、好きにやっていいよって言われてあれをやると、嘘をついてる感じがする。自由にやっていいよとか、面白いのやってとか言われて、金田さんや今石さんのパロディをやる人がいるんですけど、ああいうのを見ていると、なんでこれがギャグ扱いなんだろうと思っちゃうわけですよ。はっちゃけた画を描くイコール今石さん、金田さん、ってイメージで、そういう作画をする人が多いんですけど、どこでも金田さんをやればいいってもんでもないと思うんです。でもみんな金田さん好きだからやりたくなるんですよね(笑)。その気持ちはわかります。

―― 『トワノクオン』はどうだったんですか。

亀田 中村さんのレイアウトがすでにあって。

―― あ、修正ではなくて、最初から。

亀田 (中村さんが)大きい動きだけラフで描いてるようなものを作ってました。

―― ああ、4分の1のサイズで描いてあるようなものですね。

亀田 そうそう。細かく動きをつけたりはしましたが、実質、二原みたいなものですね。完成したのものは、僕が原画で描いたものより、さらにグレードが上がってる感じなので、ばっちり修正を入れてくれたみたいです。

―― 『Persona(4 the ANIMATION)』のオープニングもよかったですね。

亀田 ほんとですか?(笑) コンテが『そらのおとしもの』をやっていたときの演出さんで、若いんですよ。田口智久君って人なんですがAICの後輩で、今や『Persona4 the Golden(ANIMATION)』の監督をしてます。サビの部分をもらって、無駄に動かさずにワンアクションだけでやってみようと思ってやったんですよ。剣を振り下ろすだけ、手裏剣を投げるだけ、羽を広げるだけとか。自分的にはちょっと動きが単調になりすぎて、もうちょっと派手さがほしかったかなあ、と。

―― 『Persona』の8話はどこをやられてるんですか。

亀田 滝に落とされるところですね。波を描くのが楽しかったなあ。

―― 『UN-GO』の最終回では空中でのアクションシーンですね。

亀田 そうですね。空中戦を10カットちょっとで、時間がすごく少なかった仕事でしたがあれも楽しかった。

―― ゲーム「ASURA’S RATH」のムービーにも参加されていますよね。大平晋也さんとの仕事はどうでしたか。

亀田 4℃から電話がきて、大平さんがやってほしいと言ってるんですけど、という話だったと記憶してます。「あの大平さんとやれんの!?」と思って、びくびくして打ち合わせに行ったんですが、ニコニコと笑いながら話してくれる方でしたね。いつものように描いたんですけど、要求されている動きと違ったのか、リテイクがきました。そのときに面白かったのが、修正用紙に4コママンガみたいなのが描いてあって、この画とこの画とこの画でこういう感じの流れがほしいな、と描いてあったんですよ。それに合わせてちょっと描き直して、もう1回出したら通してくれました。ガシガシと力の入った画を描いたからですからね、それから大平さんのスタイルを意識してグニャグニャと動かしたりして、頑張ってやったからかもしれません。二原というか、他の人ができなかったぶんもやってくれないかな、と言ってもらいました。

―― 描き方とか画の密度は評価された、と。

亀田 だと思うんですけどね。大平さんの画って密度があるじゃないですか。大平さんは割と濃い画の方が好きなのかな、と思って描いていました。『BLEACH』も並行でしてました。

―― 341話ですね。やっているのは緑髪のキャラ(因幡影狼佐)が斬られるあたりですよね。

亀田 そうです。同じ話数で田中宏紀と栗田新一という同期最強の2人が原画をやっているんですよ。僕の中で勝手にライバル視してるんですけど、この2人と自分のやりたい方向が違うことがわかったのがよかったですね。それまで同じアクションアニメーターというか、あっちの方が巧いとか、そういう考えしかなかったんですけど。あの2人と自分の描くものが違うというのがわかって、すごく気が楽になりました。栗田さんとも動かし方が違うし、田中さんとも作り方が違うと。

―― え、最初から明らかに違うような気がしますけど。

亀田 あ、そうですか(笑)。

―― まあ、実感できたと。

亀田 そうそう。2人とも目立つなあと思ってたんで。

―― 亀田さんも相当目立ってると思いますよ。

亀田 うーん、そうかなあ。画的には断然2人の方がいいな、とずっと思ってます。その2人と仕事する機会があってほんとによかったですね。

―― 341話では自分からあのシーンをやりたいと立候補されたんですか。

亀田 僕の場合、基本的には「そこをやって」と指名されることが多いんです。このときは、最初は断ってたんですけど、結構な面子が参加していて、自分探しもいいかな、田中さんも栗田さんもやるというからちょっと参加してみよう、と思い直したんです。トリをもらったというのも大きかったんですけどね。

―― 田中さんとは、どこが違うと思ったんですか。

亀田 田中さんは、341話ではエフェクトをばんばん描いてたんですけど、動かしたい気持ちを優先させているように見えたんです。『紅』なんかすごくいいと思うんですけどね。『NEEDLESS』もすごく好きだし。指の仕草とか繊細な芝居がすごく巧くて、そういうのがいいんです。田中さんの中で多分、動かし方に結構な変動があって、341話をやるときには、彼の描き方がそういう芝居の路線から外れ始めていた。そういうのもあって、田中さんはこっちにいくんだ、と感じたんです。栗田さんは、自分とはもう動かし方から違って、巧いんですけど違いが見えた。それまでは自分と同じ括りで見てたんですけど。

―― 自分と比較して、という話ですね。

亀田 そうですね。それまでは巧いか下手かでしか見えてなかったんですけど、巧い中でも、それぞれ向かうものというか表現の仕方が違うというのがわかったんです。

―― 自分がどういうものが描きたいのか把握したということですか。

亀田 描きたいものが違うな、っていうのがわかっただけですね。自分が何をしたいのかというのは、まだわかってないですが(笑)。そういえば今まで、日常的な芝居ってほとんど描いたことがなかったんですが、『パロルのみらい島』でいっぱい描いたんです。それがめちゃくちゃ楽しかった。アクションじゃなくても楽しいな、と。『ドラえもん』が好きだというのもあって、今は子供向けの方が興味がありますね。『パロル』をやっているときは、作品の方向が性に合ってる感じがしました。こればっかりやってると飽きるだろうな、って感じもしましたけど。

―― ゲーム「レイトン教授VS逆転裁判」ではムービーのアクション作画監督を担当されていましたよね。これは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』と並行して?

亀田 「レイトン」はその前ですね。2012年の頭から6月までやってました。作画が終わって半年後ぐらいに発売されたんです。

―― 亀田さんの代表作のひとつだと思うんですけど。

亀田 どうかな、代表作までいくのかな。まあ、アクション作監としてまとまった仕事ではあります。

―― 原画でどこを描いているのかよくわからないぐらいでしたよ。どのシーンも動くところがあったら、あれ、亀田さんみたいな動きだな、と。

亀田 (笑)。でも僕はアクション作監としてはレイアウトまでしか見てないんですよ。後は自分の原画で精一杯でした。

―― 原画ではどこをやられてるんですか。

亀田 冒頭のカーチェイスみたいなところと、後はちょこちょこと。女の子が火事になってる町を見てたら、そこから龍が出てくるところとか。

―― ああ、火炎龍みたいなのが出てるところがありますね。

亀田 あの辺は原画でやってます。

―― 魔女が現れるところで『(さよなら銀河鉄道)999』のプロメシュームみたいなエフェクトがありますよね。

亀田 あ、描きました描きました!(笑) あれは修正です。煙の中から普通にモワーンと出てくるのでもよかったんですけど、これだったらプロメシュームにしなきゃ嘘だろ、と思って(笑)、無理矢理プロメシュームみたいにして。

―― レンガの壁が開くみたいなところでも光り方が金田系な感じに。

亀田 あれも修正で入れてますね。

―― レイアウト段階でかなり手を入れてるんですね。

亀田 入れてますね。アクション作監を担当するからには、そういう要素を入れ込むんだ、みたいに張り切ってましたね。

―― メーカーのチェックが入ってレイトン教授のアクションが丸くなったところがあるそうですが、それは亀田さんが作画したところなんですか。

亀田 そうではなくて、やってもらった原画マンさんの癖といいますか、レイトンらしからぬポーズのところがあって、英国紳士らしくしてほしいということで直したところがありましたね。

―― その後『ヱヴァ:Q』に参加するわけですね。

亀田 『ヱヴァ』に参加できたのは、『ミロス』をやってたおかげですね。押山さんに「次にカラーの人に会ったら僕のことを宣伝しといてください」とお願いしていたんです(笑)。すでに参加することが決まっていた伊藤秀次さんも「亀田君『エヴァ』が好きなんでしょ、伝えておいてあげるよ」と言ってくれてて。伊藤秀次さんと押山さんの力で上手いこともぐりこめた感じですね(笑)。
 カラーから電話がかかってきて、『ヱヴァ:Q』かと思ったら、最初は「ジャパコンTV」の話でした。しかも他のメンバーが「俺でいいんですか?」みたいな面子で。平松(禎史)さん、本田(雄)さん、西尾(鉄也)さん、橋本敬史さん、伊藤秀次さん、中村章子さん、庵野さんともう錚々たる人達が。『レイトン教授』で結構忙しかったのもあって、最初は断ってたんですけど、せっかく誘ってくれてるんだから、と思って、電話をかけ直して無理矢理2日くらいでコソコソやったのかな。荒仕事で申し訳なかったです。

―― 『ヱヴァ:Q』は2号機が上から斬りかかってくるあたりですか。

亀田 そこですね。

―― 何カットくらい担当されてるんですか。

亀田 30カットぐらいですね。僕の前の13号機と改2号機の戦闘で爆発してて派手なところが秀次さんで、僕はその後始末みたいな感じです。

―― でも亀田さんのところも結構派手でしたよ。

亀田 いやー、レイアウトではもっと派手にやってたんですけどね(笑)。『ミロス』と同様に。鶴巻さんのコンテから、アングルとか変えてしまってました。もちろんリテイクです。鶴巻さんが僕のカットをいっぱい持ってきて、リテイクの説明をしてくれて。申し訳なかったですね。鶴巻さんのコンテってワンアクションでカットを重ねていくタイプの作り方で、跳び上がるのなら跳び上がるだけ、着地するなら着地する足下だけとか、そういう見せ方が多くて、自分としては物足りなくて、もうちょっと画面を盛り上げたいなあ、と思ったんです。秀次さんのところに負けないように、改2号機が13号機に剣で襲ってきた時に下にある骸骨がはじけ飛んだりした方がかっこいいんじゃないか、煙をまき散らしたりした方が派手に見えるんじゃないか、と思ってあれこれ入れてみたら、ことごとく外してしまいました(笑)。

―― でも完成した画面でも骸骨が作画ではじけ飛ぶのは残ってますね。

亀田 そうですね。僕の描く骸骨はドクロベエ様ってよく言われましたね(笑)。ほんとはもっとリアルな骸骨を描かないといけないんでしょうけど、ドクロベエ様みたいに骸骨の歯が3つ割れてるようなのを描いてたら、なぜかそこは通してくれて。不思議ですよね(笑)。『ヱヴァ』は僕の原点なのでやってて楽しかったです。参加できてよかったですね、ほんとに。

―― 作画で自分を出すことはできなかったけど、参加できてよかったと。

亀田 これはもう、参加できただけで感無量ですよ! いくら直されようが、何されようが。名前がテロップに載ってるってだけでもう……。やってるときは、俺『ヱヴァ』なんかやってるけど大丈夫かな、ほんとに『ヱヴァ』やってんのかな、みたいな感じでしたよ(笑)。

―― この後の大きな仕事は『(翠星の)ガルガンティア』ですね。これは村田さんに呼ばれての参加ですか。

亀田 キャラデの田代(雅子)さんかな。『ミロス』のときに仲良くなって「亀田君に参加してほしいな」と言ってくれてたんで。

―― 『ガルガンティア』ではエンディングで衝撃を受けたんですよ。亀田さんってこんなのも描けるんだ、って。

亀田 ほんとですよね、僕こういうのも描くんだ、と思いました(笑)。オープニングの作業は、結構先行してやってたんですよ。女の子3人が手前に飛んでくる1カットを描いて。そうしたら、エンディングもやりませんか、と声がかかったんです。またオープニングのようなカットがくるのかと思ってたら、長尺の1カットで、それを1人で担当することになって。

―― ワンパターンの繰り返しでもなくて、結構細かく動かしてましたね。

亀田 それがちょっと苦労しました。コンテにこのタイミングでこういうことをしてくれって指示があったんで、ちゃんとそのとおりに。動きはできるだけリズムに合うように細かくタイミングを計ったりした気がします。今時の作り方なら拡大作画で描くんでしょうけど、それが嫌だったので、普通の100フレームでちまちま描いてましたね。『ガルガンティア』は面白かったですねえ。短い期間でしたけどすごくやりがいがありましたね。

―― 6話も今までとはちょっと違った傾向の作画をやられてましたね。

亀田 そうですね、ベリーダンスのところを。オープニングやエンディングを見たプロデューサーから、重たいところ任せばいいんじゃないか、という話が出て(笑)。

―― 9話ではイカみたいなのがでてくるあたりですね。

亀田 そうです。9話は結構直されてますが、レドの表情は気に入ってます。

―― 12、13話は3D絡みのアクションシーンをたくさんやられてますね。

亀田 12話は、演出がエンディングもやられた井端義秀さんで、ぜひにと言われたんです。50カットぐらいやったのかな。13話は「僕のところがかっこよくない!?」って思っちゃうくらい時間がほんとにない中上手くいった気がします(笑)。中田(栄治)さんが後半の盛り上がってるところをやると聞いて、『エウレカ(交響詩篇エウレカセブン)』みたいなものになるのかな、とすごく期待して、そんなものがきても負けないようにと思って、無理矢理サーカスっぽいことをして盛り上げてみたんですが、サーカスするには尺が短かったですね。

第5回へ続く