―― 『鋼』の25、26話はエドとリンがエンヴィーと戦ってるところですか。
亀田 25、26話はセットでやってました。25話は田中宏紀さんの波がすごくかっこよくてねえ。田中さんの後は嫌だって言いながらやってましたね(笑)。
―― 26話の冒頭では中村(豊)さんみたいな作画をされてて。
亀田 そのときは金田系もいいけど、中村さんみたいな空間表現とかカメラワークをつけたものも描いてみたいな、と模索してましたね。中村さんの付けPANの感じがすごくよくて。どうしたらあれができるんだろうと思って、25話ぐらいからかな、付けPANというものを意識して、空間を出そうとやってたような気がしますね。『ストレンヂア』を意識したのかなあ? こんなふうに自分で説明するのも、恥ずかしいですけどね(笑)。38話はキメラに変身するところを8カットですね。
―― 38話はBL影がすごく入ってましたね。
亀田 あれも筆ペンを使って(笑)。
―― あ、筆ペンなんですね。ちょっとマイク・ミニョーラっぽいな、と思ったんですけど、意識されてたんですか。
亀田 あのときはアメコミのBL影とか参考にしてみましたね。
―― 変身する前の2人が手前に歩いてくるカットは?
亀田 そこは違います。そこは大城さんがこてこてに描いてましたね。大城さんの画もどんどん濃くなっていて。大城さん自身、割と濃い画が好きなんですよ。
―― あ、そうなんですか。名作劇場の人という印象が強いんですけど。
亀田 そう思ってたんですけど、『鋼』をやってるとどんどん濃くなって、最後の方になるとキャラの輪郭線をぶっとくしてましたね。41話は何やったんだろう。
―― キンブリーが列車で戦っているあたりですよね。
亀田 それが41話ですか。じゃあ池畠さんの回か。その頃だと、「(月刊少年)ガンガン」の『鋼』のCMもやっているんですよ。
―― それは新作してるんですか。
亀田 そうです、まるまるやりましたね。時期的には45話に入る前あたりかな。45話でブラッドレイとリンが部屋で戦っている場面を描いたのが年末ぐらいの仕事なんですよ。40話はアイキャッチだけで。41話と45話が年末で、この時期に『アスラクライン2』と大晦日の『ドラえもん』(「45年後… ~未来のぼくがやって来た~」)もやってたんですよ。これが全部同じ時期で、すごくしんどかった。
―― 『アスラクライン2』では藤井さんの後をやられてますね。
亀田 そうです、まあ1カットだけですけどね。藤井君のカメラワークがよかったです。
―― 「45年後…」は野球シーンですか。
亀田 そうそう、野球シーンのところですね。『ドラえもん』は大城さんの伝手で参加させてもらったんですけど、『ドラえもん』は描いてて楽しかったです。
―― 「あの窓にさようなら」は冒頭の方ですか。
亀田 そうですね。のび太が怪我していて部屋で寝っ転がって、だらだらとドラえもんとお喋りするようなところですね。
―― 椅子に座っていて伸びをしたあたりから?
亀田 その辺ですね。ドラえもんが部屋に入ってからなので。初めての『ドラえもん』だったので、ドラえもんとのび太が描きたくて、2人が描けるところをやらせてもらいました。「45年後…」になると、スネ夫とジャイアンを描かせてもらって。
―― 『鋼』に話を戻しますね。53話と54話では、ロイがエンヴィーを燃やす、すごい熱量のあるところをやってますね。
亀田 プロデューサーが、19話と対になるんだみたいな感じで、テンションが上がってたんですよ。それに触発されて、53話が結構カット数が多くてしんどかったのに、54話も取りましたね。54話はエンヴィーを燃やすだけだったのでやりやすかったんですけど。この頃から自分が描いたものがそのまま通してもらえるようになってきてて、まあ、(修正を入れてもらう)スケジュールがなくなってきただけなんですが、そういう意味でもやりやすかった気がしますね。
―― 最初の頃は通らなかったんですか。
亀田 そんなことはないんですけど、この頃から修正があまり入らなくなってきて。たぶん、慣れてきたでしょみたいな感じで、のびのびと描かせてくれてたんじゃないかな、と。
―― 『鋼』は珍しく総作監制を敷いてなかったですね。それもあって自由だった?
亀田 それもあると思います。色々試したかった自分に合ってたような気がしますね。同じボンズでも他のスタジオだと、もうちょっとがちがちなところもありますし。
―― 61話ではスカーとブラッドレイが戦うところを。
亀田 61話が自分としては結構好きなんです。それまで意外と動いてるところをやってないんですよ。どちらかが立ち止まってばーんと何かをやるってところが多くて。
―― ああ、言われてみればそうですね。
亀田 61話は縦横無尽に飛び回ってる感じで。このときは付けPANにしていかに大きいレイアウトを描くか、ということに挑戦してましたね(笑)。
―― それは中村さんを意識して?
亀田 もちろん! 中村さんがやったオープニングで大きい付けPANのカットがあって、なんでこんなにでかいんだろう、と思いながらレイアウトを見てたんです。
―― 2本目のオープニングですね。
亀田 でも、画面で見ると確かにそのぶんのスケール感があるから。なるほど、スケール感を出すにはそのぶんの距離がいるんだな、と。
―― 続く、62話ではお父様をぶん殴るところをやられてますね。
亀田 少ないカットでしたけど、いいところをもらえました。5カットぐらいかな。自分としては、お父様を殺す! という勢いで頑張りました。コンテだとパンチが1発なんですよ。お父様を吹っ飛ばすために錬成したパンチがどばっと地面から出てきてお父様が倒れるだけだったんですけど。
―― ぼこぼこにしてましたね。
亀田 そうそう。これじゃエドの気が済まないぞ、アルが犠牲になってるんだから、と思ってね。
―― 顔もすごいことになってましたね。
亀田 うん、あれはもう『はじめの一歩』のデンプシー・ロールだ! と思って。
―― 64話はキメラの2人の食事シーンですか。
亀田 慣れない日常芝居をやってみたんですが、もう見るに堪えないですね(笑)。止めときゃよかった。
―― シリーズ通して参加してみてどうでしたか。かなり手応えがあったんじゃないですか。
亀田 『鋼』は相当ありましたね。雑誌でも特集してくれたり、名指しで版権を頼んでいただいたり嬉しかったです。版権も描くと楽しいですね。一枚画なんだけど、レイアウトに凝ったり、ポーズに凝ったり。
―― 何枚か描かれてるんですか。
亀田 3枚ぐらい描いたかな。「テレビマガジン」と「アニメージュ」と「Newtype」。
―― カードゲームのものも描かれてますよね。
亀田 そうですね、2枚ぐらい。あれはTVが終わった後でしたね。ホークアイなんて描いたことないのになあ、と思いつつ。『鋼』は自分の中では、作品の中心で働かせてもらった、という印象が大きいですね。このときは26歳ぐらいですかね。若いのに頑張ってるねー、ってみんなが言ってくれてた時期です(笑)。
―― この後は合間にいくつか仕事をはさんで『ミロス(鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星)』に移る感じですか。
亀田 『ミロス』に入る前に『四畳半(神話大系)』を2カットだけですがやりましたね。
―― どこをやったのかわからなかったんですよ。
亀田 京都タワーに向かってただ歩いてるところ(笑)。これは絶対わからないでしょう。あ、この間に『NARUTO』のエンディングもやってるのか。
―― ナルトとリーが戦うカットですよね。この仕事がきたのは山下(宏幸)さんがAICにいたから?
亀田 同い年なんですけどアニメーターとしては2年先輩になるんですよ。山下さんは若いときから巧くて手も早くてねえ。AICを辞めて試験を受けて自力でぴえろに行ったんですよ。その山下さんが「エンディングをやるから、手伝って」と言ってくれて。
―― リアルめな殺陣が続いた後の派手なアクションでしたね。
亀田 そうそう(笑)。僕の前がヤマ(山下清悟)さんで、縦横無尽のアクションがくるんだろうな、ヤマさんだったらエフェクトを入れてきそうだな、とか思って、びくびくしながらやってましたね。
―― 動きはコンテで割と決め込まれてたんですか。
亀田 いや、全然。決まっているのは始めと終わりの画だけ。前のカットのテンテンがはける画があって、リーがインする画の次は、最後のナルトとリーが顔を近づけてるところの画があるだけだったかな。まかせますみたいな感じで。尺が長くてしんどいなあと思いながらやってました(笑)。
―― 修正は入らなかったんですか。
亀田 顔だけいっぱい入れてもらってます。いやあもう、全然似なくて。一応マンガを見て描いてたんですけどね。『NARUTO』の本編ではやらないようなアクションになったんじゃないかな、と思ったら、大城(勉)さんが素敵な感じでやってますね。
―― 大城さんも金田系の人ですね。
亀田 そうですね、『NARUTO』の中ではいちばん攻めてる感じがありますね。……ああ、そうか、『生徒会(役員共)』もあったんだ。
―― どのあたりを。
亀田 これは(津田や畑たちが)真っ白になって、タッチになって消えるところだけをやりました。『伝説の勇者の勇者』もありましたね。
―― これはすごい金田系な感じのカットですね。
亀田 そうですね。2カットだけだったと思うんですけど。
―― 横位置で魔法が打たれて。
亀田 そうそう、エフェクトがピカピカドカーンってなる、いかにもなところを池畠さんが選んでくれましたね。この間に結構あるんですね、『スタドラ(STAR DRIVER 輝きのタクト)』も『そらのおとしもの(f)』も。『スタドラ』はあんまりテンションが上がらないな、と思ってたんですけど、3話で新井(淳)さんが参加されてて「うわー、すげえかっこいい!」と思って。6話でも僕の後を新井さんがやってて。
―― キャラのところで、なんていうか、「コレモン」が続いてましたね(笑)。
亀田 そうですね(笑)。僕のところはちょっと、雑な仕事しちゃったな、って感じになっちゃいましたけどね。
―― 『リングにかけろ(1 世界大会編)』はオープニングもやってるんですか。
亀田 オープニングは1話のバンクかな。必殺技のブーメラン・スクエアーを描きました。僕がやってるのはレイアウトだけですね。『ミロス』で忙しくて。
―― では『ミロス』の話を。
亀田 最初『ミロス』はやる気がなかったんですよ。僕の中ではTVシリーズとマンガで『鋼』のビジュアルのイメージができあがってたんです。濃い画というか、スタイリッシュとまではいかないけど、かっこいい路線のものだと思ってて。ところが『ミロス』は柔らかくて丸っこい感じの画で。小西(賢一)さんの画は繊細な感じがあってよかったんですけど、押山さん描いたものを見て「ジブリしたいだけやん、これ」みたいに思ってしまって(笑)。でもね、それはちょっと思い込みが強すぎたというか、押山さんはやっぱり巧かったです。ごめんなさい。
―― 押山さんは『ミロス』では、アニメーションディレクターでしたね。それまで押山さんのことは知らなかったんですか。
亀田 僕はあんまり知らなかったですね。『電脳コイル』をやってるというのは知ってたんですけど、みんなが押山さんを高く評価してるのがよくわかんなくて。『電脳コイル』では僕は板津(匡覧)さんが、本田(雄)さんのフォルムに近いものを描いていて、いいなと思っていたんです。それが今や押山さんに関してはもう、トップクラスに憧れてますよ。
―― あ、憧れなんですか。
亀田 憧れてますねー。『スペース☆ダンディ』で押山さんの1人原画回(18話)があるんですけど、超いいですよ。こんなの俺には到底できないな、と思ってます。
―― 自分とは別の方向性ではあるんだけど、いいな、という感じですか。
亀田 できることなら押山さんみたいにあれこれやりたいですけど、それができる人間ではないので。どちらかというと僕は、今石さんや金田さんに憧れてスタートしてるような人間で、模倣というか、その延長線上のことをやるだけで満足している感じですけど(笑)、押山さんはアニメじゃなくてアニメーションを作ってる感じですね。基礎能力が高すぎです。
―― 『ミロス』ではどのシーンから原画をやられたんですか。
亀田 最初はキメラが電撃を受けるところからやりましたね。みんなが丸っこい画を描いてる中、TVと同じように作画をしていました。電撃の描き方とかも押山さんの設定があったんですけど、丸無視して。「僕は『鋼』をやってたんだ、TVをやってた本物だ」とか思って、勝手にやってました(笑)。
―― 監督の村田(和也)さん、押山さんは自由にやらせてくれたんですか。
亀田 そうなんです。それは小西さんがいたおかげだと思うんですけど。小西さんはアニメーター目線で見てくれるので、亀田君だったら通した方がいい、といったふうに村田さんたちに言ってくれたんじゃないかと思うんですよ。だから、押山さんも自分の画に合わせて修正を乗せてくれてました。勝手にコンテも変えたんですけど。
―― 確かカットを増やしたとか?
亀田 勝手に増やしたりしましたね。尺が長いと、一枚画じゃ持たないな、と思って。アクションしてても結構ずっと喋ってるんですよ。これならもうちょっとカット割りがほしいな、と思って足したりしてました。
―― 例えばどういうカットを?
亀田 アシュレイが仁王立ちでマントをなびかせながら腕を広げているカットを勝手に描いたんです。エドが訴えているとき、アシュレイがそれに対してどういうふうに見てるかというのを、自分の中で考えて。アシュレイが絶対的な力を手に入れてミロスを押さえ込もうとしてるから、その雰囲気を出すために腕を広げて。
―― アクションを膨らませたとかではないんですね。
亀田 そこはシーンとして膨らませようと考えてますから。動かした方がいいとかじゃなくて、表情を見せた方がいいとか、そういうところでやってます。快くかはわからないですけど、村田さんは通してくれてたんで、ありがたいな、と思いました。『ミロス』は参加してほんとによかったですね。ものすごく影響を受けました。それまで硬い画が好きだったんですけども、『ミロス』の小西さんや押山さんの画がすごく柔らかくて。丸っこい感じがボリューミーというか、存在感を表現してるんだと思うんですけど、それが自分の性に合ってたんでしょうね。元々、手癖で描く画が丸いので、そっちの絵柄もすぐ好きになりました。
―― 自分の中で発見があった感じですか。
亀田 ありましたね。僕は『ミロス』をやって描き方が変わったな、と思います。アニメーターとして画を描くという作業において、すごくしっくりくるものを得た感じがしますね。
―― それは他の人の仕事ぶりを見て?
亀田 そうです。押山さんの他の人への修正を見たりとか。あと小田剛生さんの画がとにかく柔らかいんですよ。すごく躍動感がある。ディズニー的な躍動感というか。ああいうのを見てからですね。それまで自分の周りにはあんなふうに柔らかく動かせる人がいなかった。むしろ「ジブリの作画なんて」みたいに僕自身は思っていたところもあったので。『ミロス』をやったことでジブリのよさも再認識できたというか。かなり(ジブリ作品を)観返した気がします。
―― すごく細かい話なんですけど、エドが氷の塊になって吹っ飛ぶところって、宮沢(康紀)さんを意識してるんですか。ランダム塗りがありますよね(編注:ランダム塗りとは、セルの同一ヵ所の色をランダムに変えることで効果をだす手法。『ミロス』では宮沢が担当したメルビンの氷の攻撃から逃げるアルのシーンで使われている。宮沢は『映画ドラえもん のび太の恐竜 2006』、『宇宙ショーへようこそ』、「ASURA’S WRATH」でも同様の手法を使っている)。
亀田 意図してやりました。予告の先行シーンで宮沢さんのカットの氷がランダムに塗られているのを見た後に作業したと思います。
―― これはいい、と。
亀田 そうそう(笑)。氷はランダム塗りしてくれるんだと思って描いたんですけど、期待したほどはランダムにしてくれなかったですね(笑)。
―― 指示は書かなかったんですか。
亀田 「氷、ランダム塗り」って書いたと思うんですけど、時間がなかったんでしょうね。宮沢さんのカットは割といろんな色で塗られてるんですよね、ピンクとか黄色とか水色とか。めちゃくちゃかっこいいじゃないですか、あの色は。あんな感じで塗ってほしいな、と思ったんですけど、全然普通の影つけの色でしたね。氷の描き方そのものには押山さんの参考があったと思います。台形がいっぱいちらちら描いてあるような。修正はざっくり影とハイライトが塗ってあっただけなんですけど、自分で描いた後に、どうせならこれはランダム塗りがいいな、と。
―― 勝手にコンテからカットを増やすようなことは、以前からやられてたんですか。
亀田 『鋼』の45話が最初かもしれないですね。ブラッドレイとリンが戦うところで結構勝手にカットを入れたり抜いたりしてました。
―― 『鋼』では演出に踏み込んだようなこともやるようになったと。
亀田 演出にまで踏み込んでるつもりはなくて、こっちの方がいいだろうと思って勝手に。
―― キャラの感情を考えて、ということですか?
亀田 そうです。そこでいかに盛り上がるかとか、わかりやすいか、っていうところでやってました。個人的には表情だったり動きだったりとか、視聴者にわかりやすいものを描こうと思ってるんで。ド直球が好きなだけですが。
―― 表情とかも誇張する感じで?
亀田 そうですね。重心移動とかはそんなに描かないので。表情とあとはどう動くかぐらいしか考えてないですね。
―― 今の若手の流行りとは別のラインですよね。うつのみや系というか竹内(哲也)さんなんかの流れとは。
亀田 ああ、そうですね。もちろん作品にもよるし、重心移動がいい時もあると思うのですが、僕の好みとしてはいい画を作って、止めや見得を切ったりしてテンポを作るアニメが好きですよね。
―― 出﨑(統)さんみたいな?
亀田 そうそう! 出﨑さんの見せ方は、今観てもかっこいいですよね! 絵を動かしすぎると話が入ってこないことが多くて、アニメーターとしてどうしたらいいんだと悩むことも多いですね(笑)。バランスを考え出すと、作業がとまってしまいますし、難しいですね。
第4回へ続く