―― でも動画2年目で『(天元突破)グレンラガン』をやられてますね。
亀田 これはたまたまですね。AICが当時、AIC宝塚というスタジオを作って、アニメアールとタッグを組んでいたんですよ。
―― 『グレンラガン』のAIC宝塚の担当回には、作画にアールの人達が入ってましたね。
亀田 そう、吉田徹さんが演出をやったり、中澤勇一さんが作監をやったり。『グレンラガン』25話はAICでグロス受けするって聞いてすぐ、「動検がしたいです」ってプロデューサーに言いにいったんですよ。そしたら参加できることになった。
―― 亀田さんの仕事歴としては『瀬戸の花嫁』の最初の方で動検をやられて、その後『グレンラガン』に入るという感じですか。
亀田 ほとんど同時期ですね。それが初めて参加した今石さんの作品です。動画のチェックでガイナックスに行くことになったので、そのとき出ていた『グレンラガン』のムック本を持っていったんですよ。会ったらこれにサインをもらうんだ、と思って。用意された席が今石さんの近くだったので、ちらちら見ながら作業して、今石さんが1人になるのを狙ってサインをもらいにいきましたね(笑)。
―― その後、『瀬戸の花嫁』24話で、TV画面にオノダイガーが一瞬出てくるという劇中劇をやられてますよね。あれが初原画になるんですか。
亀田 あれは原画っていうのかなあ。先輩が劇中劇のカットを担当していて「何かネタない?」って聞いてきてくれて、いろいろアイデアを出してたら「じゃあ亀田君がやってよ」と言ってくれて、それでやることになりました。原画というかパラパラマンガみたいなものですけどね。
―― では『バンブーブレード』が初原画になるんですか。
亀田 それは二原ですね。吉田(徹)さんか誰かが描いたざっくりとしたレイアウトの画をなぞるという仕事でした。
―― 第9話のスーパーの中を走り回るみたいなところですよね。
亀田 そうそう。でも僕はその1カットしかやってないんですよ。手前にグワーっと走ってくるカットだったんですけど、スケジュールもなかったのでどうせ修正も入らないだろうと思って自分なりにやりました。元のレイアウトがすごくラフだったのもあって割と楽しかったような気がします。
―― ではレイアウトから担当したのは『女神さまっ(ああっ女神さまっ 闘う翼)』が初めてですか。
亀田 いや、それも二原ですね。AICは二原をやっても原画とクレジットされるんですよ。『S・A』の5話が初原画です。
―― ああー、5話はすごかったですね! くす玉が割れて中からキャラが出てくるところからですよね。
亀田 そうそう(笑)。あの回は合田(浩章)さんが作監で、動検もさせてもらえたんですよ。合田さんのレイアウトがいっぱい見られて勉強になりました。
―― あの回は合田さんの端正な画が続く中で突然、こう……。
亀田 (笑)。合田さんには紙の上では結構怒られました(笑)。古くさいポーズはやめろとか、ちゃんと描けてもいないのにこういうことばっかりするな、みたいなふうに。
―― じゃああれは結構直されてるんですか。
亀田 いや、合田さんが結構残して下さったんだと思います。
―― そうですよね。あのシーンだけ自由にやってるような印象がありました。
亀田 動きにはあまり手を入れずにポーズを直してもらった感じで、(完成したものでも)やりたかったことがぶれてはなかったので、最初は厳しいなと思いつつ、同時にありがたいなとも思う感じの初原画でした。
―― 『S・A』ではシリーズを通して原画を担当してますね。
亀田 そうですね。(リストを見ながら)こうやって見ると結構やってますね。
―― しかも亀田さんが作画しているとわかる原画ばかりですよね。10話だと殴りかかってきたのを避けたりだとか、拳を顎の下で寸止めしたりするところとか。
亀田 ああ、そういうのやった気がしますね(笑)。
―― 砂山好世(さざんすきよ)さんのことは話していいんですか。
亀田 構いませんよ(笑)。
―― この名前を使い始めたのは『S・A』の途中ぐらいですか。
亀田 その頃ですね。もう時効だと思うんですけど、あれはアルバイト用のペンネームです。AICで同期の藤井(慎吾)君と、その友達の﨑山(北斗)君が『薬師寺涼子(の怪奇事件簿)』に参加するというので、お誘いがかかって。原画を始めたばかりの頃で『S・A』だけでも精一杯だったんですけど、せっかく誘ってくれたしやろうかな、と。目立つところが﨑山君と藤井君で、僕はその合間の車内のシーンをやりました。
―― でも亀田さんとわかるようなカットになってましたよ。
亀田 ほんとですか(笑)。
―― シートに押しつけられたときに目のハイライトがちょっとお化けみたいに伸びたりとか。
亀田 よく見てますねえ(笑)。
―― 『瀬戸の花嫁 OVA 仁』では、火事が起きてビルから飛び降りてくるあたりですか。
亀田 その辺もやってますね。エフェクトを描く人がいないというので、虫食いであちこちやってるんですよ。動かしたい人間と思われてたんでしょうね、大変なところを振ってもらってました。「ダイ・ハード」のパロディみたいなシーンもやってるんですよ。合わせて30カットくらいかな。
―― ビルから飛び出て、空中でゆっくりぬるーっと回転するカットとかターザンみたいにロープにぶら下がっているカットも亀田さんなんですか。
亀田 僕です。そこはフルにされて嫌だったところですね(編注:ここでいうフルとは、1コマ打ち・2コマ打ちのこと)。監督の岸(誠二)さんに中割を足されて。当時、文句をグチグチ言いましたよ(笑)。フルは気持ち悪いから止めてほしいって。
―― でも印象的なシーンでしたよ。
亀田 はい(笑)。今思うとフルにしたから印象的になっていて、あれでよかったですね(岸さんごめんなさい)。
―― 亀田さんが初めて注目されたのが『絶対可憐チルドレン』じゃないかと思うんですけど。
亀田 いろんな人に感想を言ってもらいました。砂山好世の名前で先に覚えてもらった感じですね。
―― 「なんかよくわかんない巧い奴がいる!」みたいな感じで話題になってましたね。「これは偽名だ」とか。27話は電線を切るカットですか。
亀田 そこです。ああいうカットはAICにいたらできなかったんで楽しかったですね。
―― 『ソウルイーター』では雪崩のシーンをやってますね。
亀田 やりましたねえ。バイトは基本池畠(博史)回しかやってないですね。
―― 池畠さんが演出する回で数カットだけ、しかも重いカットばかり担当してますね。
亀田 いやいや、自分で重くするんですよ。巧い人がたくさん参加する中で、原画をやり始めたばかりの自分が何ができるのかと考えたら、頑張って重くして描くしかない(笑)。
―― 「幻想水滸伝(ティアクライス)」はPVを観たんですが、如意棒みたいなものを振り回してるカットは亀田さんですか。
亀田 そうそう! あれは当時の自分にとってのベストワークスで「これは結構決まったぞ!」と思ってました。でも(ゲームムービーであるため、アニメ業界の人などに)人に映像を観てもらえる機会がなくて(笑)。僕の前のシーンを吉田徹さんが原画をやってるんですけど、それが超かっこいいんですよ。「これに負けないようにしなきゃ」と思った記憶があります。
―― あのキャラクターが出てくるところをまとめて担当しているんですか。
亀田 そうです。ゲームの合間にアニメが挟み込まれる感じで。「幻想水滸伝」は如意棒みたいなものを持ってるキャラも描きましたけど、他にもいろんなシーンをやってますね。村田(峻治)さんが修正にいいことを書いてくれてたんですよ(編注:村田は「幻想水滸伝ティアクライス」ではアニメパートのキャラクターデザイン・作画監督を担当)。鎧を描くときは『(風の谷の)ナウシカ』のマンガを見て、宮崎(駿)さんの鎧の描き方、あのボリューム感を参考にするといい、って。手元にあったので、すぐに確かめたんですけど、当時はあのボリューム感は掴めなかったですね。ただ丸っこい画になっちゃうだけでした。『パンプキン・シザーズ』で動検をやった2本が村田さんの作監回で勉強になりましたね。村田さんってメカもエフェクトも芝居もキャラも描ける人で、いろんなシチュエーションを描いてくれるから、動検をしてるときはものすごく楽しかったですね。よく話してくれたのも、ありがたかったです。
―― 『ジャスティーン』はいつ頃やられてたんですか。
亀田 2009年ですね。『鋼(の錬金術師[新])』と同時期にやってました。僕の中では、申し訳ない仕事をしたという感じです。キャラデ・作監が渡部(圭祐)さんで、すごくデザインがかっこよかったので、自分なりにかっこいいものを、と思ってやらせていただいたんですが、僕が未熟者でして、迷惑をかけることになってしまいました。同じような作品では、『(合体ロボット)アトランジャー』というのもやりましたね。
―― 僕はまだ『アトランジャー』は観ていないんですよ。編集長の小黒が、全体的にメカアクションがすごくよかったと言ってました。
亀田 鴨川(浩)さんがやってるところが超かっこいい。僕は板野サーカスっぽいところを描きました。尺が長くて、やってるときはもう、むちゃくちゃな感じでしたけどね。
―― 亀田さんにとって『鋼の錬金術師』は大きな仕事ですよね。
亀田 そうですね、びっくりでした。AICで原画を1年やった頃、『鋼』の5話の池畠さんの回をバイトで原画をやったんですよ。そのときにボンズから声をかけてもらえて。プロデューサーがたまたま僕の上がりを見て、楽しそうに動かしてるから、この人に入ってほしいと言ってくれたみたいです。
―― アームストロングが石を殴って飛ばして、それをスカーが避けるところですよね。
亀田 そうです。大したことはしてないんですけどね。『鋼』のスタジオに入ったら、作監陣は集まっていたけれど、原画の人はあんまりいなかった。そこにタイミングよく呼んでもらえたんですよ。『鋼』は好きな作品だったので、嬉しかったですね。ここから拘束ではないけど、会社がちゃんと囲ってくれるようにもなって。
―― 半拘束ということですか。
亀田 そうそう。それまではずっと単価での仕事だったんですよ。
―― じっくり時間をかけて仕事に取り組める環境になったわけですね。
亀田 そこまでの金額は出なかったけど(笑)。やっぱりね、原画2年目ぐらいのペーペーが、そんなにたくさんお金をもらえるわけないですからね。
―― ペーペーなんてご謙遜を。相当いいシーンばかりやられてるじゃないですか。
亀田 おかげさまでいいシーンを担当させてもらいました。それまでは、目立つシーンをもらえたことがあまりなかったので。
―― 『鋼』まではカット単位で仕事をされていましたね。
亀田 そうそう。それが『鋼』になるとシーン単位で任せてくれる。10話だとヒューズが死ぬところとかね。
―― 担当された部分が1分以上ありましたよね。電話ボックスのところは全部ですか。
亀田 全部ですね。あんまり動いてないこともあって、担当カット数は多かったです。10話は作画監督の石野(聡)さんが描くヒューズがシャープでかっこよかったですね。
―― 14話は大総統とグリードが戦い始めるぐらいのところですよね。
亀田 そうですね。14話は池畠回でいつもどおり、(見せ場と見せ場の)合間のカットをもらいましたけどね。
―― 斬られた腕の断面に出るエフェクトが1カット、デジタルっぽい作画になってるんですけど、あれは撮影で足されてるんですか。
亀田 いや、自分で描いてますね。
―― あ、そうなんですね。亀田さんの仕事ではあまり見ないような、1コマで電撃を描くカットもあって。
亀田 1カットだけですけどあんまり自分ではやらないタイプの動かし方ですね。まあ当時はそこまでスタイルを固めてるわけではなかったので。
―― 金田系の作画をやるぞ、という意識はなかったんですか。
亀田 もちろんそういう意識もありましたけど、やっぱりなんかふらつくんですよね。WEB系とかも気になってた時期だったので、ああやってにゅるにゅるさせた電撃を描くのもかっこいいな、とかね。
―― それは藤井さんからの影響も?
亀田 もちろん藤井君からの影響もありますし、栗田(新一)さんのことも意識していました。栗田さんが『鋼』の5話でラストの方のいい芝居を描いてるんですよ。
―― ああ、エドの横顔のアップを描いてましたね。
亀田 そんな感じのところですね。栗田さんは同期なんですけど、僕がまだ動検をやってるときに、彼はすでに原画やモンスターデザインをやってたんですよ。5話で初めてボンズに入ったときに、ちょうど後ろに栗田さんが座ってて、初めて栗田さんの画を見たんですけど、もうすごくいい画を描いていて、こりゃモンスターデザインもするわな、と思いましたね。そんなふうに、いろんな刺激があった結果でしょうね。ふわふわといろいろやってる時期ですよ。
―― で、19話で見せ場のラストのシーンをやられるわけですね。
亀田 19話はコンテを見たときからテンションが上がっちゃって。あと作監の大城(勝)さんがすごくいい人で「楽しみにしてるよ」みたいなことを言ってくれるから、かなり気張ってやりましたね。
―― 19話では動画もやられてましたよね。
亀田 動画でもクレジットしてもらってましたけど、あれは筆ペンで描いたものを動画不要としていたからだと思います。
―― 他の回で筆ペンで描かれていてもクレジットはないですけど、これは量が相当あったからってことなんですか。
亀田 かなり量を描いてますね。エフェクト関係も原画を、動画として使ってもらったんじゃないかな。タッチを入れるのは『瀬戸の花嫁』のときに覚えました。『瀬戸の花嫁』ってパロディが多い作品で、「北斗の拳」とか「ジョジョ(の奇妙な冒険)」とかの画を真似して描くときは、タッチを別の作画用紙に描いてたんですよ。それを見て、あのやり方なら自分の線の感じがそのまま出そうだと思って、19話ではいっぱいタッチを描きました。
―― 筆ペンを使うようになったことについて聞きたいんですけど、あれは『瀬戸の花嫁』の森田(和明)さんの影響でしょうか。
亀田 かなり影響がありますね。
―― 森田さんがDVDジャケットなどで筆ペンを使った画を描かれてますよね。
亀田 ええ。あれが超かっこいいんです。現物を見るとものすごい迫力ですよ。ほんとにこれ人が手で描いてるんですか、みたいな。あれを見てから、筆ペンでキャラを描いてみたいな、と思うようになりました。森田さんは綺麗に描いていて、僕が描いてもあんなふうにはならないですけどね。僕の場合は画面を汚したいときに使う感じです。デジタルの画面って整っていて、なんか圧迫感が出ない。線が細いというか。セルのときみたいな極太なものがほしいな、と思ったのもきっかけだったと思います。特に『鋼』の19話は必死でもがいているような表情というか、狂気に満ちた顔を描きたかったので。線だけで表現できればいいんですけど、僕にはその技術がないから、筆ペンとかでごりっと描いて。ここからですよね、えらく筆ペンを使い出した感じが(笑)。
―― そうですね、毎回のように使ってますね。
亀田 今回はどこで使おうかって(毎回)思ってましたからね(笑)。
第3回へ続く