COLUMN

045 【質問に答えます】絵コンテの読み方について(2014年10月17日)

 『ルパン三世』の新シリーズの制作が発表された。アニメーション制作はテレコム・アニメーションで、総監督が友永和秀、監督が矢野雄一郎。舞台はイタリアだそうだ。監督が友永さんで、制作がテレコムとくれば『ルパン三世』ファンとしては期待しないわけにはいかない。同シリーズの公式サイトにあがっているキービジュアルもかなりイケている。これは楽しみだ。
 映像ソフト関連でも、せひとも伝えたい話題がある。Amazonで『うる星やつら2 ★ビューティフル・ドリーマー★』Blu-rayの予約がスタートした。『ビューティフル・ドリーマー』は押井守監督の代表作であり、多くのファンに愛され続けている傑作だ。数年前に一度、告知されたものの中止になったという経緯もあり、ファンにとっては思いもひとしおだろう。

 さて、ここからが今日の本題だ。前回に続いて ask.fm で頂戴した質問に答えることにしよう。お題は「絵コンテ集を何冊も手がけられていますが、絵コンテの読み方(楽しみ方)を教えてください」というものだ。
 この質問は「アイドルの水着グラビアってどのように楽しめばいいのですか」という問いに近いのではないか。つまり、楽しみ方なんて人それぞれ。買った人が好きなように楽しめばいいのだ。しかし、絵コンテ本を企画編集し、販売している立場としては、もっときちんと答えるべきだろう。
 無理は承知で、一般読者にとっての絵コンテの読み方をパターンで分けてみた。「(1)メイキングについてチェックする」「(2)フィルムコミックのような読み物として読む」「(3)それ自体をクリエイターの作品として楽しむ」「(4)ト書きなどの細部を読み込む」「(5)頭の中で完成作品をイメージする」である。
 ひとつひとつ説明していこう。絵コンテとは、アニメーションの設計図だ。だから、演出家がどのように設計し、指示をしているのかを読み込む。つまり「(1)メイキングについてチェックする」という楽しみ方が考えられる。
 構図や芝居について絵コンテ段階でどのように描かれているのか、ト書きでどのように指示されているのかを確認する。完成作品ではわからなかった作り手の狙いについて、絵コンテを読むことで初めて気づくこともあるだろう。絵コンテのかたちで映像の流れを俯瞰することで、構図、カット割りの狙いが明確になるということもあるはずだ。
 絵コンテと完成作品との間に違いがある場合は、その理由を考えてみる。演出家自身が絵コンテよりも、さらによい表現を思いついたために変えたのかもしれないし、作画の段階でアニメーターが表情や芝居を膨らませたのかもしれない。そういったことを想像するのも楽しいだろう。
 TVシリーズでは、各話の演出家が描いた絵コンテに監督が手を入れることもある。文字や絵柄の違いから、どこからが監督の修正かチェックしてみるのも面白いはずだ。
 僕の場合は、完成作品を観て、凝った画作りやトリッキーなカット割りについて、どのように指示されているのかが気になり、絵コンテを見てみたいと思う場合が多い。たとえば、押井守監督の劇場版『機動警察パトレイバー』1&2、細田守監督の『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』、新房昭之監督のシャフトでの諸作品などは、絵コンテが読みたくなるタイトルだ。

 こうした読み方は、アニメのメイキングに関心のある人の楽しみ方であり、どちらと言えばマニアックな読み方だ。一般的な楽しみ方としては「(2)フィルムコミックのような読み物として読む」がある。つまり、マンガを読むように、画と文字で構成された読み物として、アニメの絵コンテを楽しむ。本来の絵コンテの役割ではないが、書籍化されている絵コンテは、丁寧に描かれているものが多く、読み物として楽しめるはずだ。

 (1)よりもマニアックであるが、「(3)それ自体をクリエイターの作品として楽しむ」というものもある。絵コンテはあくまで設計図であって、作品そのものではない。しかし、演出家が第三者(スタッフ)に読んでもらうために書いたものであるのは間違いない。内容の濃い絵コンテには、演出家のクリエイティビティが集約されている。それは描き手が思いを込めて描いたものであり、描き手の個性が反映されたものである。
 絵コンテに反映されたクリエイターの個性、込められた想いと創意工夫を読み取り、それを楽しむ。どんな形式で描かれているのか。画は緻密なのか、ラフなのか。キャラクターは似せているのか、自分の絵柄なのか。どんな文字を描いているのか。そういったことを含めて楽しむ。
 説明するまでもないことだが、宮崎駿監督は、絵コンテのすべての画と文字を本人が描いている。僕は宮崎監督の画のファンでもあるので、彼の手書きの画と文字で紙面が埋めつくされているというだけで嬉しくなってしまう。今 敏監督の緻密に描かれた画に感動し、押井守監督の決して上手ではないが味わい深い画を楽しむのもいい。りんたろう監督の絵コンテは、独特の筆致で描かれており、まさしく「ひとつの作品のような絵コンテ」になっている。劇場版『銀河鉄道999』や『幻魔大戦』のムックなどに掲載された、りん監督のコンテを見て、憧れたファンは少なくなかったはずだ。
 出崎統監督の絵コンテはラフに描かれていることで知られるが、小林七郎や故・荒木伸吾によれば、想像力をかき立てられ、描く意欲が湧き出るものであるそうだ。確かに、出崎監督の絵コンテは、キャラクターの感情や場面の情感が十全に表現されている。読み慣れれば、ファンが読んでも感動できるのではないか。ほとんど書籍化されていないのが残念だ。

 「(4)ト書きなどの細部を読み込む」というのもある。(1)や(3)と重複する部分も大きいが、ここでは別のこととして考えたい。演出家がどんなふうに感情や芝居を指示しているのかを楽しむわけだ。
 たとえば、細田守監督の『時をかける少女』の絵コンテ。バットを持った真琴が夕陽を見ているカット(scene37-cut6)のト書きに「その夕焼けをじっと見詰める(真)。世界の広さ、美しさを実感し、充実したその表情」とある。単に真琴の感情を表現しているだけではない。細田監督の価値感や人生観をうかがうことができるト書きだ。
 宮崎駿監督の『風立ちぬ』の絵コンテも見てみよう。帰ってきた二郎の背中に、菜穂子が丹前をかけるカット(Cut1318)のト書きに「古い日本映画を参考に見て下さい。三四郎の笠智衆と八千草かおるの着がえシーンとか(原文ママ)」とある。このカットを担当するアニメーターへの指示だが、どんな芝居を要求しているかだけでなく、宮崎監督が描きたい人物像や時代感覚までもが伝わってくる。絵コンテを読んでいて、こういったト書きに出逢うとワクワクする。

 上級者向けの読み方として「(5)頭の中で完成作品をイメージする」がある。コンテに描かれた画、セリフ、音響、カットごとの秒数などの情報を読み込んで、頭の中で完成作品を再生する。つまり、カット割りのリズムや、映像の流れ、音響までイメージしながら読むということだ。マニアックなアニメファンが「絵コンテを読む」という言葉からイメージするのは、これかもしれない。難易度が高いし、ファンの読み方としては必ずしも一般的ではないはずだが、興味がある人はやってみるといいだろう。
 そうして頭の中でイメージしたものが、完成作品と違うものになったとしても気にする必要はない。アニメーション制作において、作画、撮影、編集、音響などの段階を経ることで、作品は変化していく。絵コンテはあくまで設計図であり、完成品ではない。つまり、同じコンテを元に映像を制作したとしても、まるで違ったものができあがる可能性があるのだ。絵コンテから仕上がりをイメージするということは、一種のクリエイティブな行為であり(その意味では、想像を膨らませながら小説を読むのもクリエイティブな行為である)、たったひとつの正解があるわけではないのだ。

 いろいろと書いたが、結論としては、やっばり「好きなように読めばいい」にたどりつく。マンガのように読んでもいいし、メイキングをチェックしてもいい。好きな作家の絵コンテなら、画も、文字も、そこに込められた創意工夫や想いまでも、しゃぶりつくすように読めばいいのだ。


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