以下日付はすべて2014年のもの。
●8月15日(金)作画打合せ、1カット。
●8月27日(水)作画打合せ、7カット。
●8月30日(水)作画打合せ、8カット、1カット(2件)。
こんなペースで進行中。中身は平凡な生活のシーンもあれば、軍艦のカットもある。
6月1日に行ったイベント「ここまで調べた『この世界の片隅に』3」で、松原秀典さんは「当時の割烹着のデザインには基本的なところで何パターンかバリエーションがある」と述べていたのだが、それは当時実際に着られていたものの写真を見つつ発見していったことなのであって、今はこうの史代さんが原作の中で描いている割烹着をキャラ表に移し替えつつ、さらにバリエーションが多かったことに気づいている。
実際、こうのさんはその何形式かの割烹着を描き分けていて、TPOに応じて登場人物に着せている。それらを読み解きつつ、われわれはすずさんが何着の割烹着を着分けていたのか理解して行かなくてはならない。そのために松原さんが目を皿にして原作を見つめている。
割烹着なんてどうせ白色なんだから、などといっていたら大間違いで、現実には普段使いではほとんどが柄物だったじゃないかと思う。当時は、白い割烹着には特別な目的もあったのだし、そこは明確に描き分けるようにしたい。
ただ、柄については、原作にないものまでつけようという気力がない。原作に描かれている着物の柄ひとつとっても、いちいちアニメーションとして作画してゆくと気が遠くなるような感じなのだ。松原さんは、ひとつ着物の設定を描くたびにため息をついているような気がする。
広島平和記念館で行っていただいていたレイアウト展(「『この世界の片隅に』アニメーション版複製原画展」)は、本来ならば8月31日までを会期としていたのだが、あらかじめ施設改修工事が展示場所周辺に迫ってきた場合には短縮するかも、といわれていた。案の定、会期の始まる前に、やっぱり工事が始まってしまうとのことで会期は8月17日までになってしまった。
ところが、今回のレイアウト展を企画してくださった同館啓発課の菊楽忍さんからメールをいただいて、菊楽さんをはじめとするみなさんのご尽力によって、8月18日以降も場所を変えて展示を続けていただいていた、ということを知らされた。
そのほか、こうのさんの故郷でもある広島市西区の古田公民館でもレイアウト展を開きたい、という連絡をいただいた。こちらの会期は9月1日(月)から14日(日)(ただし、期間中に何回か閉館日がありますので、ご来館の方はあらかじめご確認ください)。
古田というと、すずさんの草津のおばあちゃんが嫁に来る前に住んでいたところ。作中に登場する草津のすぐおとなりだ。これまで、広島市でのレイアウト展では広島市内のカットのレイアウト、呉でのレイアウト展では呉市内のカットのレイアウトというふうに、展示物を作り分けていたのだが、今回はせっかくなので、草津の場面のレイアウトを少しだけだが追加してみた。
こんなふうに立て続けにレイアウトの展示をしていただけるようになってきたのはほんとうにありがたい。ただその土地を絵にしたというだけでなく、当時をなるべくそのままに再現しようと傾けてきたことが受け入れてもらえているのかもしれないと思うと、単純によかったと思えてくる。
ただし、この夏の広島の土砂災害を受けて、急遽、古田公民館でも災害に備える注意を促す展示をしなければならなくなったとのことで、こちらから送ったパネル全部の展示は難しくなった、ともいわれている。それはもちろん、災害への危険啓発の方が大事なことなので、どんどん優先していただきたいし、こんなとき東京にいて何もできない自分たちがもどかしくって仕方がない。どうしても自分が今いる場所と広島や呉との距離を感じてしまうのはこういうときだ。
日常がある瞬間に終わって、とんでもない事態が押し寄せてくる。
それは戦争によるものであることもあるし、純然たる災害である場合もある。そうしたことになってしまったとき、人は「ごく普通の日常のくらし」の意味の重さを思い知る。
●2014年8月23日(土)
伝手があったので、自衛隊の総合火力演習の夜間演習の見物に紛れ込ませてもらう。
昭和20年(1945年)7月1日から2日にかけての夜間空襲では、呉に照明弾が投下されたことは、多くの回想に残されているし、ついこのあいだもヤマトギャラリー零の方から実見談としてうかがってきたばかりだ。「夜空に提灯のようにぶら下がってました」。
実際に目の前の空に照明弾が降るのを見て、戦車砲や野砲の砲声が鳴り響くのを聞いて、総火演には今までもいろいろと作画の参考用にということで訪れていてこれがはじめてではないのだが、今回ばかりは日常に生活感からの隔たりに、くらくらするものを感じた。
そうしたものを見終えて、またすずさんの割烹着の設定や、料理の場面の原画が待つ仕事場に戻っていった。
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