2年に1度の祭典、広島国際アニメーションフェスティバルが今年も開かれた。回を重ねること15回……ということは、第1回が開かれたのは30年も前のことなのだ。会場では回顧ポスター展も開かれ、プログラムも、歴代受賞作品特集、歴代審査員長特集など、節目の年らしい企画が組まれていた。
公開審査(コンペティション)では、グランプリに『ザ ビガー ピクチャー』、ヒロシマ賞に『シンフォニー No.42』、デビュー賞に『ボールス』、木下蓮三賞に『クワイア ツアー』が選ばれた。
グランプリに選ばれたイギリスのデイジー・ジェイコブス監督による『ザ ビガー ピクチャー』は、母親との暮らしからその死までを兄弟がいかに迎えたかを描く。壁面への作画アニメーションと立体アニメーションとが有機的に絡み合う技法が見事。
ヒロシマ賞はハンガリーのレーカ・ブチ監督による『シンフォニー No.42』は、どこかとぼけたキャラクターと情景が持ち味。いくつもの断片的な場面が少しずつ関連しながら、ひとつの世界をシンフォニックに形作っていく。
コンペ中、最も観客がわいたのが、子育てに奮闘する父親の姿をシンプルな描線と的確なアニメートで描いたフィンランドの『ノー タイム フォア トウズ』。抜群の観察力で描くスケッチは、多くの観客の笑いと共感を集め、観客賞に選ばれた。カリ・ピエスカ監督は、記者会見の席上で、自身の感情をそのまま描いてよいのか、他の人にどう思われるか不安だったと語っていたが、あくまで個人的な経験に徹したことが、逆に普遍性を生んだといえる。こちらで作品が見られる。
記者会見といえば、記者たちの注目を集めたのが『グレイス アンダー ウォーター』。オーストリアのアンソニー・ローレンス監督による、フォトリアルなパペットを使った作品だ。監督は、キャッチーな宇宙人たちのキャラクターとハードな展開で話題を呼んだクレイアニメ『プラズモ』をかつて手がけており、今作とのギャップに記者席から、意外の声が上がっていた。
今回の映画祭でもうひとつの大きな目玉は、中欧のアニメーション大国・ハンガリー作品の大規模、集中上映だった。ごく初期の作品から最新作まで、長編から個人作家の短編まで、TVシリーズやミュージッククリップなど、多種多様な作品がここまで一挙に会したのは、初めてではないか。ハンガリーの実力をあらためてまざまざと見せつけられた。特にここ数年のハンガリー学生作品の躍進は目覚ましい。これを支えているのが、モホリ=ナジ芸術大学のアニメーション学科、通称MOME ANIMだ。識者によると、英語による教育を率先した結果、欧州中から優秀な教員、学生が集まってきているという。今回ヒロシマ賞をとった『シンフォニー No.42』もMOME ANIMの卒業制作である。
最後に個人的に印象に残った作品を1本挙げておこう。ペーター・バック監督の『ラビット アンド ディアー』だ。ウサギと鹿との共同生活を、かわいらしいキャラクター造形と見事な技術で描き出す。今回グランプリの『ザ ビガー ピクチャー』と同じく、2Dと3Dの混在が見どころ。惜しくも今回コンペインはかなわなかったようだが、すでに各地で多数の賞に輝いている話題作である。予告編だけでも雰囲気が伝わるだろうか。これもまたMOME ANIMの卒業制作なのだ。実にハンガリー恐るべし、ではないか。
ひとつだけ残念だったのは、コンペに日本人作家の作品がひとつも入っていなかったことだ。応募作品のレベルが低かったというのならば納得もするが、若手作家が海外で次々とインコンペしている現状を考えると、どこか腑に落ちない感じは否めない。例えば、オリンピックやワールドカップのように主催国枠を設けるという手はないだろうか。観客の祭典を応援したい気分を削ぐことのないよう、主催者には一考をお願いしたい。
最後に、今回開催直前になって広島は大規模災害に見舞われた。被災者にお悔やみを述べるとともに、大変な状況の中、粛々と運営を進められた広島市関係者に改めて感謝したい(B)。
●公式サイト
広島国際アニメーションフェスティバル
http://hiroanim.org/