●2014年2月1日(土曜日)
絵コンテの見直し+後半の尺入れ作業、Dパートまで進行したところで、この連載の前回分原稿を書いて送った。くたびれ気味の気持ちで書いたものになってしまったのだが、そのあとで、作業がEパートに差し掛かって、このあたりのシーンの中身に尺を入れる中でコンティニュイティ(連続性)が頭の中で通ってくると、またちょっと心境の風向きが変わってきた。
こういう映画は……これは是が非にも作られなくちゃ駄目だろう!
まったくもって、今の時点でこの映画を観ることができてるのは自分1人だけで、そういう意味では自分自身は満喫ずみなので、ここでやめても1人勝ちできてしまう。それならそれでもいいのだけれど、それじゃもったいないよなあ、という気持ちが、完成までの半地獄の蓋を開けてしまうことになる。
●2014年2月3日(月曜日)
合間を見て大学で授業をしているその今学期の最終日。本当は月曜にはコンテ尺を出しておきたかったのだけれど、これで中断。授業のネタとして、次の「アニメスタイル」(紙の本の方)用に書いた内容と同じものを喋ってみた。
というようなことで午前中半日潰れたので、午後はあまりコンテをいじらないで別のことをやって過ごす。尺を入れて中身を通す作業って、あまり小刻みに分断してやるべきではないと思うので。
●2014年2月4日(火曜日)
Fパート。2012年秋の時点で、内容が多すぎるよなあと思いつつ、とりあえず突っ込んでおいたシーンが、あまり長くなることを恐れてじゅうぶん膨らまされもしないままになってたので、そういうところは切り落とした。もし別にあとで延長版を作れるのなら復活させてみたくもあるけれど、そのときにはもっとちゃんとしたコンテにする必要がある。 Fパートまで尺が入り切って、全カット数と総秒数が出る。
●2014年2月5日(水曜日)
ひと晩経って思い直した結果として、数ヶ所絵コンテをやり直す。
白飯さんにいって、絵コンテをPDFにまとめてもらう。なんだかそういうこともできるようになったというか、求められる時代になっている。そうやって簡易版を作ったあと、白飯さんには今後の製本用に絵コンテの画像データの画像上の掃除を始めてもらう。
というところで少し時間が遡るのだけれど、5日午前2時にふとパソコンをのぞいたら、『マイマイ新子』の英語圏版DVD/ブルーレイディスクの製作発売資金を募るクラウドファウンディングがキックスターターで始まっていた。
https://www.kickstarter.com/projects/alltheanime/mai-mai-miracle
2013年8月27日朝、スコットランドからのお客さんがあった。アンドリューという名のその人は、『マイマイ新子と千年の魔法』をDVDやBDにして、英語圏、特にアメリカ・カナダの北米で発売したいのだ、といった。ちょっと特殊な趣味に傾いたただのファンの人かと思ったら、英語圏での配給権をすでに取得ずみだという。
「えっ、お金払っちゃったの? 大丈夫かなあ」
というと、アンドリューはすごく理路整然としたことをいった。
「自分だけがあなたの映画をよいと思ってるのではなくて、『マイマイ新子』とか『アリーテ姫』のようなもの、いわゆるハリウッドライクでないアニメ映画には、実は潜在的な需要が存在しているのだと思っている、といった。『マイマイ新子』のDVD/BDの製作資金をキックスターターで募るのは、今ははっきり目に見えていないそうした需要を応援者の数として集めて、可視化することが目的なのだ」
はあ。
それは……ありがたいのだけれど、応援する人がいなかったらどうなっちゃうのだろう。
クラウドファンディングが蓋を開けた直後の2月5日午前2時17分にはすでに支援者120人、6000ドルを超える支援が表明されていて、しかもその数字が見る間にどんどん動くので驚いた。キックスターターのこのページはしばらく前から用意されていたのだけれど、ただ「準備中」と表示されていて、スタートがちょっと遅れているようだった。ちょっと時間をおいてのぞき直してみたら、いきなりもう動き出していたのだった。
- 午前3時10分 177人 9284ドル
- 午前3時18分 195人 10140ドル
- 午前4時40分 280人 14411ドル
- 午前7時5分 345人 18609ドル
- 午前7時50分 355人 19514ドル
- 午前8時20分 360人 20059ドル
目標金額は3万ドル。開始から6時間でその3分の2に届いてしまっている。
午後10時20分 522人 30002ドル
出資募集の締め切りまではあとまだ29日もある。アンドリューは、18時間で目標額を集めきることで、「可視化」に成功してしまったのだった。
たぶん、この先海外で『マイマイ・ミラクル』(英語題名)の試写が行われるようになるのだろうし、キックスターター応募者特典のアートブックも作られてゆくのだろう。
アートブックなるものは、「特典にはどういうものを出すのがいいですか?」と問われて、自分の一番欲しいものを答えたのだった。まさか、硬い表紙の200ページもある本として実現されてしまうとは。
それにしても、キックスターターのページには「片渕須直自身がキュレーションするアートブック」みたいなことが書かれていて、あ、自分の一番欲しいものはやっぱり自分で作らなくちゃ駄目なのか。
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