腹巻猫です。2月8日(土)より東京・杉並アニメーションミュージアムでミニ展示会「アニメソング創世記 ソノシートで見るアニソンの歴史」が開催されます。貴重なソノシート70点以上を展示。筆者も少しお手伝いしています。2月15日(土)には元朝日ソノラマの橋本一郎氏をゲストにTVマンガソノシート制作秘話を語るトークイベントも開催。詳細は公式サイトをご覧ください。
ミニ展示会 「アニメソング創世記 ~ソノシートで見るアニソンの歴史」
http://www.sam.or.jp/event.php#405
キッズステーションで再放送されていた『おジャ魔女どれみ』が1月末で最終回を迎えた。「魔女になりたい!」と無邪気に願う少女たちの物語は、『魔法少女まどか☆マギカ』を経験したアニメファンの目には牧歌的に映るかもしれないけれど、本作の内容はけして古びていない。久しぶりに通して観て、やはり面白かったし、感動した。
『おジャ魔女どれみ』は1999年に放映された東映アニメーション制作のTVアニメーション作品。見習い魔女となったどれみ、はづき、あいこの3人(+途中から登場するおんぷ)が一人前の魔女になるために奮闘する物語だ。主人公たちが全員小学3年生でクラスメイトという設定が生かされ、同級生1人ひとりに焦点をあてたエピソードが丁寧に描かれている。人気シリーズとなり、『おジャ魔女どれみ♯』(2000)、『も〜っと! おジャ魔女どれみ』(2001)、『おジャ魔女どれみ ドッカ〜ン!』(2002)が続けて放映され、2004年にはOVAシリーズ『おジャ魔女どれみ ナ・イ・ショ』も制作された。
シリーズを通して音楽を担当したのは奥慶一。
奥慶一は1955年生まれ。東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。幼少時から音楽に親しみ、大学で現代的な音楽理論を学ぶいっぽう、在学中よりキーボード奏者として活動していた。1979年から1981年まで、キレのいいサウンドで人気を博したブラスロック・バンド「スペクトラム」に参加。80年代半ばから劇場作品やドラマ、アニメの音楽を手がけ始めた。アニメ・特撮の仕事では『夢戦士ウイングマン』(1984)、『魔法のスター マジカルエミ』(1985)、『ママレ〜ド・ボ〜イ』(1994)、「電磁戦隊 メガレンジャー」(1997)、『夢喰いメリー』(2011)といった作品がある。
『おジャ魔女どれみ』の音楽をあらためて聴いてみて、記憶していた以上にクラシカルなサウンドが使われていることに驚いた。「クラシックを知っている作家の音楽だなあ」と思う部分が随所にある。いっぽうで、ポピュラーミュージックの最前線で活躍してきた音楽家ならではのセンスを感じるところも多い。ポップではじけているけれど知的で繊細。『おジャ魔女どれみ』の音楽はそんなサウンドである。
サウンドトラック・アルバムはバンダイミュージックより『おジャ魔女CDくらぶ その2 おジャ魔女BGMコレクション!!』のタイトルで発売された。
収録曲は以下のとおり。
- オープニング〜「おジャ魔女カーニバル!!」(TVサイズ)
- 今日も元気にいってみよう!
- プリチー・ウィッチー・どれみッチー
- おジャ魔に大活躍!
- プリチー・ウィッチー・はづきッチー
- ステキなMAHO堂
- プリチー・ウィッチー・あいこッチー
- 3年2組の仲間たち
- あやしい予感
- ワクワク好奇心 ドキドキ大冒険
- ささいな口ゲンカ
- 夢みる女の子
- 世界いち不幸な美少女?
- 神秘の魔女界
- 力をあわせて!
- ハッピー ラッキー みんなにと〜どけ!
- 「きっと明日は」(TVサイズ)
1トラックにBGM3〜4曲を編集収録するスタイル。本作は80曲以上のBGMが作られているが、印象深い曲はこの1枚にほぼ収録されている。本アルバムに未収録の主要曲は、放映終了後に発売された「おジャ魔女どれみ MEMORIAL CD-BOX」でフォローされた。
トラック1ではオープニング主題歌の前にアバンタイトルの曲を収録。毎回使われたのんびりした笛の曲だ。「さあ、『おジャ魔女どれみ』が始まる!」という雰囲気が盛り上がる。サントラ構成の「わかっている」感がうれしい。
トラック2「今日も元気にいってみよう!」は、オープニング主題歌のアレンジ曲からスタート。どれみが初めて魔女見習いの衣装を着た場面に流れた曲だ。楽しいマーチ風のサウンドで魔法に対する期待とあこがれを表現している。2曲目はユーモラスな曲想のサブタイトル曲。3曲目はどれみたちのおしゃべりのシーンなどに使われた打ち込みによる陽気な曲だ。
本作の打ち込みの音は生楽器に似せた音ではなく、あえて「生とは違うぞ」と主張しているような耳に残る音に作られている。オーケストラの自然な響きと好対照をなすシンセサウンドは、本作の音楽の特徴のひとつである。
トラック3「プリチー・ウィッチー・どれみッチー」はどれみをイメージしたトラック。1曲目は第1話のどれみ登場シーンから使用された“どれみのテーマ”。主役3人のテーマはあらかじめデモを作ってスタッフに聴かせたそうだが、いずれも一発OKだったという。2曲目は魔法を使っても失敗ばかりのどれみの「やっちゃった」というイメージの曲。3曲目も「トホホ」感のただよう曲調だが、木管と弦のアンサンブルがどこかおしゃれなヨーロッパ風のサウンドに聴こえるところが奥慶一らしい。
そしてトラック4「おジャ魔に大活躍!」でいよいよおジャ魔女登場〜活躍! となる。1曲目はおなじみの「お着替え」の曲。続く3つの短い曲はどれみたちが魔法を使うときの曲(どれみ用、はづき用、あいこ用と3種作られている)。最後に魔法の活躍場面を想定したかわいくカッコいい曲。打ち込みによるキラキラ感と浮遊感が非日常性を表現しているようだ。
はづきのテーマ集であるトラック5、どれみたちが集まるMAHO堂をイメージしたトラック6、あいこのテーマ集であるトラック7と続いたあと、トラック8はどれみの学校生活をイメージにした「3年2組の仲間たち」。アルバムの前半はどれみをめぐる仲間たちの曲を中心に構成されている。
アイキャッチ曲をはさんだ後半は、事件発生!〜冒険〜ゆれる心〜魔法発動! と物語の展開にあわせたイメージで構成。
筆者のお気に入りはトラック12の「夢みる女の子」。1曲目はチェレスタの音色が印象的なドリーミーな曲。途中から木管と弦の旋律が聴こえてきて、暖かい気持ちに包まれる。2曲目はエンディング主題歌の室内楽風のアレンジ。ちょっと切なげなオーボエの響きがぐっとくる。3曲目はどれみたちの寂しい気持ちやメランコリックな心情を彩った曲。いかにも「さびしい」「もの憂い」という曲調ではなく、繊細さと美しさが絶妙に織り込まれたいい曲だ。
トラック14「神秘の魔女界」は本作の「魔法少女もの」の側面をよく表したブロック。1曲目は幻想的かつ不気味な魔女界のテーマ。2曲目は一転して3拍子で奏でられるのんびり魔女コンビ・モタ&モタモタのテーマ。優雅なワルツにも聴こえる小粋な曲に仕上がっている。3曲目は魔女界の女王のテーマ。謎と神秘に満ちた女王様の荘厳な曲である。
トラック15「力を合わせて!」ではどれみたちおジャ魔女トリオの活躍が描かれる。1曲目は魔女に寄り添う小さな妖精のテーマ。2曲目はワーグナーを思わせる力強い団結の曲。3曲目はどれみ、はづき、あいこの3人が力を合わせて魔法を発動させるマジカルステージのテーマだ。マジカルステージの曲は数パターン作られているが、もっともゴージャスなタイプが収録された。
BGMトラックのラスト「ハッピーラッキー みんなにと〜どけ!」はコミカルなエンディング曲と感動的な大団円の曲、次回予告の曲の3曲で構成。大団円の余韻で終わらず、にぎやかな次回予告で終わるのも『おジャ魔女どれみ』らしくていい。
さて、本作の音楽を語る上で欠かせないもう一つの要素が「歌」だ。
ワクワク感にあふれたオープニング主題歌「おジャ魔女カーニバル!!」は、『DRAGON BALL』(1986)、「忍風戦隊ハリケンジャー」(2002)などの主題歌を手がけた池毅の作曲。キャッチ—で覚えやすく番組のイメージにぴったりのアニメ主題歌のお手本のような名曲だ。エンディング主題歌「きっと明日は」はオープニングと対照的にしっとりと胸にしみる曲。短編アニメのようなエンディング映像とともに味わい深い。作詞はどちらも、のちに『けいおん!』(2009)の主題歌・挿入歌を手がける大森祥子が担当している。
そして、主題歌、BGMとともに印象に残ったのが第1話から劇中に流れた挿入歌だった。
魔法を使うシーンでよく使われたのは、言葉あそびのような歌詞と不思議なメロディが耳に残る「魔法でチョイ2(チョイチョイ)」。『ふたりはプリキュア』(2004)の主題歌でブレイクする歌手・五條真由美のデビュー曲である。ほかにも第4話で3人がMAHO堂を改装する場面では「ピリカピリ・ラッキー!」、第11話の花好きの少女まりなのエピソードでは「小鳥の気持ち」、第12話、15話、19話などでアップテンポの爽快な「10秒かぞえて」、クリスマスのエピソード(第45話)ではどれみたちが歌うクリスマスソングが流れるなど、ほぼすべてのエピソードで挿入歌が効果的に使われている。
本作の挿入歌は「番組が軌道に乗ってきたから、そろそろ歌ものを作ろう」という作り方ではなく、BGMの発注と同じ感覚でスタッフから「こんな挿入歌を作ってほしい」と発注が行われたのだという。結果、作品の雰囲気と物語にマッチした曲が生まれ、名場面を彩ることになった。挿入歌はCD「おジャ魔女ヴォーカルコレクション!!」にまとめられたほか、どれみ、はづき、あいこ、それぞれのミニアルバムも発売された。年末にはクリスマスアルバム「MAHO堂のおジャ魔女クリスマスカーニバル!!」もリリースされている。音楽的にもにぎやかな作品だったのだ。
元気で躍動的な打ち込みの曲、古典的で豊かな響きのオーケストラ曲、そして、ここぞという場面に流れてシーンを盛り上げる挿入歌。『おジャ魔女ドレミ』では、この3種類の音楽が協力して映像を支えている。どのひとつが欠けても成り立たない。3人が力を合わせるマジカルステージのように、3種類の個性の異なる音楽が力を合わせるマジカルサウンド。それが『おジャ魔女どれみ』の音楽なのだ。
『おジャ魔女ドレミ』放映開始から15年。当時発売されたアルバムの多くは新品では手に入らなくなっている。「BGMコレクション」はコロムビアの〈ANIMEX1200〉シリーズで復刻されたが、主題歌・挿入歌が再収録の機会に恵まれていないのが惜しい。そろそろ『おジャ魔女』シリーズの歌をまとめてコンパイルという企画が実現しないかなあ……と数年前から思っているのでした。そうだ、こんなときこそ、マジカルステージで!!
おジャ魔女BGMコレクション!!
※〈ANIMEX1200 Special〉での復刻盤。
COCC-72200/1260円/コロムビアミュージックエンタテインメント
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おジャ魔女ヴォーカルコレクション!!
APCM-5127/3000円/バンダイ・ミュージックエンタテインメント
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五條真由美 Trilogy
※アニメソング・ベストアルバム。「魔法でチョイ^2」を収録。
COCX-36962/2500円/日本コロムビア
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