COLUMN

第193回 2012年の夏休み

2012年の夏休み

この原稿が更新される頃は、たぶん皆さんのお盆休みも終わりの頃かと思います。故郷に帰省された方とか、いやはやおつかれさまです! 休み明け、いよいよ今年の後半戦、って感じでしょうかね?
先週に引き続き今週も夏休み特番。「『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき」はお休みです(笑)。

さてさて。
東京・上野にある旧岩崎邸ってご存じですか?
明治後期にあの「三菱」の創設者である岩崎家の本邸宅とてして建てられた歴史的建造物であります。洋館と和館からなり、洋館は岩城家の迎賓館として、和館は日々の日常生活の場として使い分けられていたそうです。で、この旧岩崎邸、いわゆる「洋館」のモデルとして、実は数多くのマンガやアニメ作品で使われまくっていて、いま僕が参加しています、来年放送開始予定の某新作TVシリーズにもズバリ登場しております(笑)。
この旧岩崎邸のコトはずいぶん前から知っていたのですが、見に行こうと思いつつもなかなかそのきっかけがなかったのですね。毎度(そして今回も)資料用の写真を山のようにもらっていて、それを見てちょっと分かった風な感じになりつつあったんでありますが、いやいや、それじゃダメだ! ダメだ! ホンモノが実際に見られるのなら、やはりちゃんと見ておかなくちゃ。そして実際に見に行ってその空気感に触れれば、それにまつわるイメージもど〜んと膨らむはず!
というわけで、先だっての日曜日、暑い中を奧さん誘って見に行ってきたのであります。

地下鉄の湯島駅から徒歩3分。都会のビルに囲まれた一角に突如として鬱蒼と木々が生い茂る空間が出現しました。それが「旧岩崎邸庭園」でありました。建物を求めて蝉時雨の林の中を奥へ奥へ。歩いて行くといきなり眼前に白い洋館がどど〜ん! と出現です。ここは東京都が管理する「都立公園」となっているので、受付で入館料を払います。そして正面玄関から洋館へ突入。あ、もちろん重要文化財、もちろん土足厳禁。入り口でもらったビニール袋に履いてきた靴を入れ、見学中は持ち歩きです。ちなみに、館内は残念ながら写真撮影禁止でした(建物の外観の撮影は自由です)。
洋館の中へ一歩足を踏み入れると、いやあ、見事にそこは別世界! なんとも上手く言い表せなくて歯がゆいですが、微に入り細に入り、細やかな装飾デザインに圧倒されます。単に「金持ち!」とか言うんじゃなくて、なんかもう身分というか、価値の根本的ベースラインがすべてにおいて別次元。そして、華やかでありながら優しい空気感。この建物が実際に使われていた華やかなりし往時を想いしばしタイムトリップです。
職業柄、僕が気になるのは、やはり「光」と「明るさ(暗さ)」でありました。今の日本の建物のようにあらゆる場所に照明を配して煌々と明るい作りにはせず、自然光に任せた明るさ作りが気になりました。灯りの取り方によって変わってくる空間の表情、そんな場でキャラクターをどんな風に見せる色の演出ができるのか、とか。個々の装飾や部屋全体の空間の色彩の設計も見事でありますが、そんな色彩の設計も、この自然な光と人工の灯りのハーモニーっていうか、そんなバランスがあって成り立ってるんだなあ、と、1人納得することしきり(笑)。
いやあ、やっぱり、こういうところは資料写真じゃなかなか膨らまないイメージであります!
そして順路は洋館から和館へ。ひとつながりになっている洋館と和館は、その境目からフンイキが一変して日本でありました。「お屋敷」という言葉はここのためにあったというくらいの「お屋敷」感であります。そんな和風空間感を抜けて館内見学は終了。外へ出るとそこは広大な裏庭であります。そもそも江戸時代は大名屋敷の庭園だったということです。往時と比べてだいぶ地所が小さくなってしまったということですが、いやいや、それでも大した広さ。周囲を木立に囲まれた広大な芝生は、洋館2階のテラスから見下ろすと、ホント見事に洋風和風混合の近代的別世界でありました。

いやあ、素晴らしい。素晴らしいモノを体験できました。楽しかったです! ああ、もっと早く来ればよかったな!
そんなことを想いつつ、風が渡っていく芝庭の感触を堪能して、束の間、僕の夏休みは終了です(笑)。
TVシリーズのスケジュールの中にドップリと浸かっていると、お盆だろうがナンだろうが、正直、まとめてお休みなんか取れるわけがありません。だって放送は毎週あって、毎週1本納品していくワケですから。各話のスタッフさんは自分の担当を終わらせられれば休めるかと思いますが、作品の制作現場の中心にいて、すべての話数に眼を通さなければならない役割に就いていると、まあなかなかムリなのでありますね。お盆の時期を休めるようにスケジュールを前倒しに……なんて、そんな状況はもう数年前に崩壊しちゃってる我がアニメ業界です(苦笑)。なので、去年、今年と夏休み、お盆休みは実質ゼロな僕なのであります。
なのでこうしてちょっとの気分転換、新しい知識体験は、僕にとって気持ちを柔らかくできる素晴らしい夏休みなのです。

ちなみに入館料は大人たったの400円です! たったの400円で、こんな体験ができちゃうんですよ! 皆さんも興味ありましたら、ぜひぜひ!
でね、こんな「別世界」、東京にはまだまだ至る所に残ってたりしてるんですよね。これからもドンドン出かけていって、いろんな場所に立ってみたい、そんな気持ちでいっぱいな僕であります!