COLUMN

第191回『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その18

新しくなったWEBアニメスタイル。ある日小黒さんから「このコラムに扉絵つけたいんですが」とお話が。「う〜む、他の執筆陣みたいに絵とか描くか? あ〜、でもなんか違うよね、僕は(笑)」。で、ちょっと考えまして、「こんな感じでどうでしょうか?」と原案を出させていただきました。それをデザイナーの方が上手くまとめてくださったのがあの扉絵であります。
バックに使っているカラーチャート風なデザインは、実はホントにカラーチャートです(笑)。彩色の指定にはすべてカラーモデルを作ってというワケにはなかなかいかないので(例えば土煙の色指定とか、ちょっとした小道具の色指定とか)、色指定の打ち込み用にこういうカラーチャートも使うのです。このチャート、僕が自分で作ったもので、自分が設計を担当している作品では、ほぼすべてでこれを使ってます。作品の内容、使う色味の傾向に合わせて、毎回修正を加えていきます。
カラーチャート作るのって結構楽しいモンなのですが、いったん始めちゃうとスッゲエ時間かかっちゃいます。楽しくて時間が経つのを忘れて没頭しちゃって、他の作業に支障が出ちゃうくらい(笑)。そんな感じで、時折現実逃避気味にカラーチャートと戯れたくなるので困ります(笑)。

さてさて。

第15話 世界を救う者 絵コンテ/幾原邦彦・柴田勝紀 演出/柴田勝紀 色指定/水野多恵子

ゆりの罠にはまり、あんなことやこんなこと、ましてやそんなことまでもされそうになってる苹果。が、そこへ、なんとまさかの晶馬登場。颯爽と、とはいかず、転んで頭打って気絶な晶馬。呆れ気味のゆりであったが、幼い日、桃果との出会い、そして過ごした日々へと思いを巡らす。そしてそんなゆりが持っているもう半分の日記をねらって、真砂子が旅館に潜入していたのだった。そんな15話。

実はこの15話こそ、桃果の謎の核心を語る重要な話でありました。父親の歪んだ愛情に支配されてきたゆりの幼少時代に現れた桃果。そして桃果の持つ「能力」によって解放されていくゆりの回想話。そんな15話の、まず最初のビックリは「ダビデ像タワー」であります(笑)。
このダビデ像タワー、元は3DCGで作っています。これもありもののダビデ像の3Dモデルを買いまして、それをレイアウトにあわせて背景原図へかき出して、まんま3Dモデルでは画面の中で浮きまくるので、美術でレタッチを加え撮影で馴染ませてます。が、当初これがなかなか上手くいかず大変だったのです。何が大変だったのかというと、その大きさの表現と建物な感じの表現であります。この「ダビデ像タワー」劇中での大きさは東京タワーくらいの高さなのですが、ただ普通に背景に置いて馴染ませても、いまいち巨大な建物感が伝わらないのです。
まあ、そもそもダビデ像ですからねえ。これがロボットものみたいに動き回るんだったら大きさの表現も楽なのですが、これタワーであり建物なので動かないし、動かしちゃダメだし(笑)。その建物らしさが自然に出てこないと画面に説得力が出てこないのです。一応タワーの奥〜手前をヘリコプター飛ばしたりしてみてはいるんですが、何か今ひとつ上手くいきませんでした。
例えばカットをたくさん使って、寄りサイズでその像の表面の描写を細かくやるとか、あおりのレイアウトで足元から見上げるとか、何かとの対比をしっかり見せるとか、そういうカットをいくつか積めば確かに高さ大きさ、建物的質感は表現できるとは思うのですが、でもこのタワーを抜き出してわざわざそんなふうにカットを重ねて見せていく必要はないのです。風景の中でサラッと何気なく違和感なく(笑)、そこに普通にあってほしいだけなのです。
で、何度目かの打ち合わせでふと思いついて「これ、展望台とかの『窓』つけたらどうですか?」と提案。やはり建物は窓ですね。これでタワーの中に人がいる空間の大きさが伝わるので、大きさも建物感もバッチリ。人口建造物であるタワーとしての質感が成り立っていったのでした。
ちなみに「運命の乗りかえ」でもたらされた新しいタワー(東京タワー)も3Dモデルを使ってます。

そんな冒頭からダビデ像タワーでビックリな過去回想でありますが、もうひとつのビックリは、まあ、あのお父さんですね(笑)。アトリエでのシーンはすべて若干の非現実感を作ろうと考えて、撮影でキャラクターにデフュージョンを強めに加えてもらって、色のにじんだ感じを強く作ってもらっています。とりわけ回想冒頭の夕景のアトリエのシーンでは、黄色系の西日調の背景に対して、キャラクターにはピンク〜ムラサキ系のカゲ色を施して、狂気なフンイキを作っています。この父親の狂気感をちゃんとここで印象づけておこうと思い、それを上手く作れたかなと思います。
一方、桃果とのシーンはむしろ淡々と空間の明るさに合わせた静かな色使いを組み上げています。特に日没後の残照の下、日記と「運命の乗りかえ」を語るシーンは、あの静かな繰り返しの戦慄の音楽と相まって、自分的にも地味にお気に入りのシーンだったりしています。
あ、そうそう、ダビデ像タワーのある世界、回想のシーンでは、街中にピングマークがないんですよ。この話の回想に限らず、登場人物の遠い過去の回想ではそういうことになってます。気がついてました?

さて、現実の時間軸では病院と温泉旅館です。
温泉旅館、ゆりと苹果の部屋の暗がりの色味、シーンの内容で分けて3種類作ってます。前半はやっぱり妖しいフンイキ狙いでムラサキな感じの色味で組んで、晶馬が踏み込んでからは現実感が強くなるようにノーマルっぽい色味で作っています。仲居さん姿の真砂子とのシーンでは、ふすまのカゲでじっと真砂子の話を聞いている表情に合わせる感じで青みを感じる色でフンイキを作り、すべてが終わって晶馬が目を覚ますシーンでは、ワザと明るめに、そしてノーマルな色味を感じるようなバランスで一段落したホッとした感じを作ってます。最初の妖しいフンイキのシーン以外は基本背景美術の明るさと色味は同じなのですが、キャラクターの色味の違いでこのような印象を作っています。色作ってて、こういうのが楽しいですね(笑)。
前回書き忘れちゃったんですが、旅館の客室の金庫前のカットにさりげなくコンビニ袋が置いてあります。演出の山崎さんに「これって何?」と訊いたところ「あ、『お泊まりセット』ですよ。苹果が買ってきたんですよ!」と。ああ〜、なるほど! この辺はさすが女性の演出さんだなあと思ったのでありますよ!

さて今回ハッキリとした桃果の日記のヒミツですが、ここでもうひとつヒミツを公開! この桃果の日記の書かれているページ、実は制作進行の加賀谷さんの担当でありました。幾原監督と山崎助監督で作られたページの文面に従って加賀谷さんが手書きで書いていきました。イラストもみんな加賀谷さんの手描きです(笑)。忙しい合間にササッと書き上げてもらったものを、そのまま撮影で貼り込んでいってもらいました。
で、この日記、本編シーンで必要なページ分だけその都度内容を考えてその都度加賀谷さんに書いてもらっておりました。時折想定外にその他のページが画面に必要なコトが勃発すると、あたふたと文面考えて加賀谷さんに発注と、そんなコトが何回も(笑)。そんなふうにいわば場当たり的(!)に作ってた日記だったので、日記1冊分の文章&イラストがあったわけではなかったのでした。ああ、今思えば1冊分ちゃんと作ってあったなら、商品として売り出せたかも、とか(笑)。きっと欲しいと思った人は少なくないはず!

それにしても、謎なのは山下くん。なぜ晶馬を温泉に誘ったんでしょうかね? 謎ですよね? 怪しいですよね?