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【情報局】第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル・レポート
新映画祭の可能性に期待

 去る12月12日から17日まで、第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル(ANIAFF)が開催された。新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)を運営していたメンバーの一部が中心となり、愛知県、名古屋市の共催を得て、新たに立ち上げた映画祭だ。名古屋駅前の複合施設ミッドランドスクエア内の映画館を中心に5つの会場を使用。長編コンペティションや招待上映はもちろん、研究者を交えたカンファレンスや、出資を募るピッチマーケットなど多くのプログラムを用意した。日本有数の大都市という好立地を得て、アニメーション界のハブになることを目指す意欲に満ちた船出となった。映画祭の中心をなすコンペティションを中心に簡単にレポートしよう。
 コンペティションは40分以上の長編が応募条件。29ヶ国から45作品のエントリーがあったという。選ばれたのは11作品。聞くところによると、募集期間が今年の6月中旬から9月下旬と短いこともあり、当初は応募作の質がかなり危ぶまれたようだ。しかしながら、選ばれた11作品はいずれも力作揃い。結果的に応募作に救われたと言えよう。国内からは岩井澤健治『ひゃくえむ。』、鈴木竜也『無名の人生』、木下麦『ホウセンカ』がエントリーしているがいずれも公開ずみなので、ここでは残る海外作品にふれていこう。



 『エンドレス・クッキー』はカナダの作品。セス・スクライヴァーとピーター・スクライヴァーの兄弟が監督で、白人として育った弟・セスが先住民をルーツにもつ兄・ピーターの語りを映像化したアニメーション・ドキュメンタリーだ。登場する人物を個性的なビジュアルのキャラクターに仕立てて、カナダの先住民の生活をユーモラスに表現しているのが特徴。行きつ戻りつする語りのなかで、先住民が置かれている過酷な状況も自然と浮かんでくる。今年のアヌシー国際アニメーション映画祭や新千歳アニメーション映画祭など、各種映画祭で高い評価を得ており、ANIAFFでも最高賞である金鯱賞に選ばれた。



 『燃比娃 —炎の物語—』は中国のウェンユー・リー監督作品。かつて水墨画アニメーションで知られた上海美術映画製作所の製作。上海美術映画製作所といえば、今年公開の『中国奇譚』でアーティスティックなスタイルの健在ぶりを示したのも記憶に新しい。中国大陸の少数民族の伝承をベースに、サルとオオカミのコンビが人里に火をもたらすまでを描く。タッチを活かした勢いのある線が魅力的で、随所に様々な技法が挟まれるのも面白い。本コンペでは銀鯱賞に選ばれた。



 『ダンデライオンズ・オデッセイ』はフランス・ベルギーの作品。監督の瀬戸桃子はフランス国立科学研究センターに所属し、実験的な映像で知られ、今回が初長編。とある惑星に降り立ったタンポポの綿毛たちが出会う驚くべき光景が見物だ。綿毛こそ3DCGだが、それ以外はすべて実景という点が興味深い。カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞、アヌシー国際アニメーション映画祭でポール・グリモー賞を得ており、日本での公開も予定されている。



 『ニムエンダジュ』はブラジルの作品で ペルーの支援も受けているという。監督はタニア・アナヤ。ドイツ系の先住民研究者でクルト・ウンケルの半生を追った作品で、ニムエンダジュとは先住民から彼に与えられた名前。緊張感のあるレイアウトと大胆なカラースクリプトが素晴らしい。公式サイトによると、資料調査にはじまり、実写参考や3DCGレイアウトなどを重ねて、綿密な映像を作り上げたようだ。



 『タイトルつけてよ、マヤ』はフランスの作品。「エターナル・サンシャイン」などで知られるミシェル・ゴンドリー初のアニメーション長編。実娘のリクエストに応じて、いくつもペーパークラフト・アニメーションが作られていく。



 『オリビアとゆれる心』はスペイン他の作品。イレネ・イボラ監督によるストップモーション。貧困に苦しむ子どもたちを描き、エールを送る内容だ。



 『スペースタイム・クロニクルズ』はイタリアのステファノ・ベルテッリ監督。ペーパークラフトのストップモーションがメイン。手作り感のある映像が味わい深い。



 『死は存在しない』はカナダ・フランス作品。日本公開もされた『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』で知られるフェリックス・デフュール=ラペリエールの最新作。富裕層へのテロに失敗、仲間を見捨て森へと逃げ込んだエレーヌだったが……。主人公の懊悩が、大胆な色使いで描かれる。
 選考委員によれば、地域性や技法のバラエティも加味して選んだという。その言葉のとおり、大作から小品まで、映画祭でなければ見られないような商業性の薄い作品から、エンタテイメント性の高い作品まで、バラエティ豊かなラインナップがそろっていた。第1回でこれだけの作品がそろったのは僥倖だろう。

 メイン会場となったミッドランドスクエアシネマは駅前の一等地にあり、スクリーンの状況も良好、椅子もゆったりしており抜群の鑑賞環境。また別会場のウインクあいち、ミッドランドスクエアシネマ2とは地下街で直結しており、回遊性も高い。ただ、トークのメイン会場となった名古屋コンベンションホールとは距離があり、交通の便もよいとは言えない。バス網が発達していた新潟や徒歩圏に多数の会場が点在する東京と比べて、その点は課題だろう。
 もうひとつ、プログラムがなかなか判明しなかったことも残念だ。前売りチケットの販売開始と同時に日程が明らかになるのは、いくらなんでも厳しい。公的な支援は得られたのかもしれないが、これでは観客の支持が得られまい。インバウンドで宿泊代が高騰、予約も取りづらくなっている現状を考えれば、少しでもはやく全日程のプログラムを提示すべきだ。年末の稼ぎどきにスクリーンを提供してくれた映画館に対しても失礼だろう。全日通し券や一日パスなど映画祭らしいチケットも用意してほしい。
 とはいえ、短い期間のなかでこれだけのプログラムを揃えられたのは立派。アニメーション関係の映画祭はいま「乱立」状態にあるが、そのなかで一定の可能性を示したと思う。コンペをみても、いま国内外のアニメーション作品が充実しているのは明らかだ。NIAFFがそれを的確に捉え、ハブとして機能していけるかは、ひとえに継続性にかかっている。今後を見守りつつ、応援していきたい。(B)

●公式サイト
あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル
https://aniaff.com/