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【情報局】第1回新潟国際アニメーション映画祭レポート
集まった注目、課題は継続性

 去る3月17日から22日にかけて新潟市にて第1回新潟国際アニメーション映画祭が開催された。アニメーション関連の映画祭としては、東京アニメアワードフェスティバルや新千歳国際アニメーション映画祭が着実に実績を重ねているほか、昨年はひろしまアニメーションシーズンがスタート。加えて、東京国際映画祭も2019年からジャパニーズ・アニメーション部門を立ち上げている。ある意味、乱立とも言える状況だ。そんな中で、新たなアニメーション映画祭がどのようなものになるのか、注目が集まった。映画祭の花形であるコンペティションを中心に簡単にレポートしよう。

●コンペインした作品たち
 この映画祭の特徴は長編中心を掲げたことだ。これは、アニメーションの長編化という近年の世界的な潮流と、劇場アニメの空前の活況という日本のここ最近の状況を両にらみしたものだろう。長編中心というくくりで、アートとエンタテインメントの両方に目配せしたと言えそうだ。
 会場は、市役所の入ったビルの6階に入ったホールである新潟市民プラザをメインとして使用。サブ会場として市営学習センターやミニシアターなどを利用している。
 コンペに選ばれたのは10作品。日本の商業セルルックスタイルから、伝統的なストップモーション、北アフリカのCG作品まで、幅広い地域から多彩な表現が集まった。



 栄えある第1回のグランプリ受賞作はピエール・フォルデ監督の『めくらやなぎと眠る女』。フォルデ監督は音楽家、映像作家として活躍してきたが、長編アニメーションは本作が初めて。村上春樹の6作の短編小説を長編へと巧みに編み直して、ファンタジーとも現実ともつかない独特の世界を紡いでいる。クレジットを信じるならば、役者を使って撮影した実写を参考にしているらしく、ポーズや動きに独特の生々しさが生じていた。フランス他の合作だ。



 傾奇賞はヴィノム監督の『カムサ 忘却の井戸』。アルジェリアの3DCG作品。監督は押井守監督のファンで、中でも『天使のたまご』には勇気づけられたという。謎の遺跡で目覚めた少年が自身の記憶を取り戻すために放浪するという本作のストーリーは、どこか『天使のたまご』を思わせる。



 境界賞はロスト監督の『四つの悪夢』。オランダ他の合作。実験映像的にいくつもの表現スタイルを重ねたミュージッククリップ風味の中編だ。



 奨励賞に選ばれたのが牧原亮太郎監督の『劇場版ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン』。コンペインした唯一の日本の商業作品で、脚本・シリーズ構成も牧原が担当したオリジナル。Netflixで配信中の全5話のシリーズをまとめたものだ。ヴァンパイアと人間が抗争を続ける終末的世界を舞台に、人間側の司令官の娘とヴァンパイアの女王が組織を抜け、新天地を求めて放浪するロードムービースタイル。ヒロイン2人の思春期感に満ちた「理由なき反抗」ぶりが見どころだ。



 ほかに印象的だったのが、アマンディーヌ・フルドンとバンジャマン・マスブル監督の『プチ・二コラ パリがくれた幸せ』。フランスで人気の児童書「プチ・二コラ」を生み出した原作者2人の人生を追いながら、劇中作として「プチ・二コラ」を映像化。監督たちによれば、背景の白を活かし、キャラクターの描線を閉じないスタイルは、『ホーホケキョ となりの山田くん』を参考にしたという。昨年のアヌシー国際アニメーション映画祭でクリスタル賞を得ており、日本でも6月に公開が予定されている。
 もう1作、アラン・ビダール監督の『オパール』も話題を集めた。監督はカリブ海のフランス海外領であるマルティニークの出身。3DCG描写はさすがにぎこちないが、魔法の王国を舞台にした大人に虐げられている王女の脱出を描く物語には、植民地に対する圧政への憤りがにじみ出ていた。

●りんたろう待望の新作
 コンペ以外の作品にも触れておこう。
 注目されたのが、りんたろう監督久々の新作『山中貞雄に捧げる漫画映画「鼠小僧次郎吉」』だ。山中貞雄は戦前日本映画を代表する監督のひとりとされるが、現存作品は少ない。そこで、本作は山中が残した脚本を映像化。山中脚本をもとにしたサイレントスタイルパートと、それを撮影せんとする山中監督パートの入れ子構造になっている。山中パートのキャラクター原案は大友克洋が手がけ、劇中劇パートのキャラクターデザインは兼森義則が担当。サイレントパートの弁士を小山茉美が務めるなど、りん監督お馴染みのスタッフが集結するにぎやかな短編となっていた。



 もうひとつが、パイロット作品の『HIDARI』の上映とメイキングだ。こちらに関してはアニメスタイルでも情報局でお伝えしたように、ストップモーションらしからぬ大胆なアクションを狙っている。まだ資金集めの段階だが、完成を祈りたい。

●いかに継続するか
 初回ということを考えれば、満足度の高い、充実した映画祭だった。
 コンペインした作品は国も表現技法もバラエティに富み、エンタテインメントからアーティスティックなものまで幅広かった。初めてにもかかわらず、これだけの作品を集めたのは立派だ。コンペインした制作者の口からは、押井守の名前があったことが応募理由のひとつに挙げられた。押井監督は、インディペンデントとエンタテインメントの橋渡しを体現する、貴重なアイコンなのだ。押井監督を担ぎ出した実行委員会の慧眼に敬意を表したい。
 もちろん、問題点も少なくない。特に東京アニメアワードフェスティバルと日程が1週間しか違わない点は一考を要するだろう。映画祭に関心の高い熱心なファンにとって、この日程は厳しすぎる。
 各会場が離れているのも気になった。メイン会場は他に小ホールや会議室もない。各会場間のアクセスは決して悪くないが、映画祭としての凝集性に欠けてしまう点は否めない。メイン会場では、映画祭の主要関係者や審査員を見かけることがほとんどなかった。関係者からもトークなどの時間に追われ、プログラムに参加する時間がとれないとの嘆きを聞いた。来場者が制作者と気軽に交流できるのも映画祭の魅力のひとつである。このあたり知恵を絞ってもらいたい。
 もうひとつ、動員も気になった。そもそもの始まりは、ユーロスペース代表であり開志専門職大学でアニメ・マンガ学部学部長を務める堀越謙三と、ジェンコ代表の真木太郎との会話からだったという。開志専門職大学は2020年に開校したばかりの新しい大学だ。新潟県はもともと若年人口の県外流出率の高い地域で、地元への人材環流が長年の課題となっている。開校の背景にもそうした事情がある。今回の映画祭も地元への人集めという狙いがあったはずだ。コンペ会場はまだまだ動員が寂しかったのは、今後を考えても問題だろう。
 動員にからむが、日本の商業アニメをいかに取り込んでいくかも課題だろう。特にコンペは未公開が前提だ。この条件を満たし、わざわざ出品しようという日本の長編がどれだけあるか。プレミア上映作品をいかに呼び込めるかが今後の鍵になる。
 最大の課題は継続性だ。来年、再来年と続けていけるのか。文化庁メディア芸術祭、広島国際アニメーションフェスティバルなどが突然終了したことは記憶に新しい。出品者の意欲と来場者の信頼、そして地元の協力は、続けていくことでしか得られない。次回以降のさらなる充実を期待したい(B)。

●公式サイト
新潟国際アニメーション映画祭
https://niigata-iaff.net/