西日本がすっぽり高気圧に覆われ、猛暑に見舞われる中、8月18日から22日まで、今年も広島国際アニメーションフェスティバルが開かれた。本誌読者には説明の必要がないかもしれないが、世界4大国際アニメーション映画祭のひとつであり、インディペンデント作品から商業作品まで、文字どおり世界中からアニメーションが集まるイベントである。隔年開催を重ねること16回、国内外にすっかり定着したといっていいだろう。
今年の特徴は日本のアニメーションについての大規模な回顧上映が行われたことだ。現存する最古の作品である大正時代の『なまくら刀』から、今年のTVアニメ『彼女と彼女の猫 ―Everything Flows―』まで、インディペンデント作品から商業長編まで多種多様な映像が集められた。フィルムでの上映を中心にしたせいか、開けてみたら別の作品が入っていたというトラブルもあったようだが、これはご愛敬。まずはスタッフの尽力をねぎらいたい。
大会の目玉であるコンペティションでは、ヨーロッパ勢の勢力図の緩やかな変化を感じさせた。フランス・イギリス作品が有力なのは変わらずだが、中欧の国々の活躍も目立つ。国境を越えて制作された作品も当然のように多く、「制作国」という枠組みが曖昧になりつつある。グランプリにはダヒ・チョンの『空き部屋』(韓国/フランス)が選ばれた。男女の別れの記憶を柔らかいタッチのアニメートで描いた佳品だ。彼女はすでに各映画祭で受賞経験のある若手の実力者。今回、韓国からのコンペへの応募数は日本に次ぐ216本であり、その実力・勢いを反映した結果とも言えるだろう。
『空き部屋』トレイラー
前回は日本勢のコンペ・インがゼロという寂しい状況だったが、今回はベテランから新人まで7作が登場。中でも坂元友介の『ナポリタンの夜』がホラーギャグタッチの奇想で強烈な印象を残した。
『ナポリタンの夜』
総じて、低調と言われた前回がウソのように、今回のコンペは充実しており、突出した作品がない代わりに、どれが賞をとってもおかしくない作品ばかりだった。これは選考審査委員の力によるところも多いのではないか。惜しむらくは、いずれの作品も、観客を楽しませるというより、作家自身の内面を掘り下げる方向に傾いていたことか。何も観客に媚びを売れというのではない。ただ、誰かに見てもらうことで初めて作品として成立するということをもう少し意識した作品があってもいいのではと感じた。
コンペ以外に目を向けると、長編作品が世界的な潮流であることを改めて意識させられた。21世紀に入って、デジタル化と各国の長編の成功が後押ししているのだろう。特に印象的だったのはフランスの『ファントム ボーイ』。日本でも昨年公開された『パリ猫ディノの夜』のアラン・ギャニョル、ジャン=ルー・フェリシオリ両監督による最新作だ。ニューヨークを舞台に、『パリ猫ディノ』の洒落た感じはそのまま、よりエンタテインメント性を高めたクライム・アクションものである。ぜひ日本での公開を望みたい。
『ファントム ボーイ』トレイラー
上映を中心とする広島のプログラム構成はすっかり定着したものとなった。一方で、作家のトークなどは突発的に組まれることが多く、告知もまだまだ行き届いていないように見える。小さなトークでは通訳がおらず、外国人の観客が席を立つこともあった。もう少し開催前から告知はできないものだろうか。作品ばかりでなく、作家や制作会社をいかに遇し、プログラムへと組み込んでいくか、それがいま広島に望まれていることではないか。より一層の充実を願いたい。(B)