ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(177)(終)
連載終了記念:振り返り企画その(3) 作曲家別ランキング

 3月21日に放送されたNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」第290回はご覧になっただろうか。作曲家・佐藤直紀に密着取材を行い、その劇伴制作の裏側に踏み込むという興味深い内容だった。自宅スタジオの20台ほどのモニタに多種多用な音楽ソフトを立ち上げ、オーケストラから民族楽器まで様々なサウンドをたった1人で操るシーンは、いかにも現代の音楽制作らしいものだ。
 ひとつひとつ地道に音を重ねていく姿、なかなか求めるイメージに到達できず苦悩する姿、途中まで作った曲に自らダメ出しをする姿、ジムで運動して気分転換する姿、監督との打ち合わせでリテイクを出される姿など、格好悪い部分までを含めた音楽稼業の生々しい姿が記録されていた。作曲家は特殊な人種というわけではなく、迷いも苦しみもするいち職業人であるということが、視聴者にも伝わったのではないだろうか。
 作曲中のスタジオにカメラが入ったり、制作途中の未完成な楽曲を聴かれるのは、おそらくすべての作曲家にとって嫌なこと。それでも佐藤直紀が取材を許可したのは、子供たちに父の仕事する姿を見てほしかったからではないかと、ふと思った。

 さて、今回でいよいよこの連載も最終回。7年と3ヶ月、計177回にわたった記事の中では、膨大な数のサントラを紹介してきている。連載終了にあたって個人的に気になったのが、自分がどんな作曲家の作品を多く取り上げたのか、という点だ。そこで過去の記事を掘り起こし、作曲家別のサントラCDレビュー数を調べ、カウントしてみた。サントラCD1枚の紹介につき1ポイントとし、合計値で作曲家ベスト5を選出する。なお、旧譜の再発やCD-BOXなど、既発音源の再商品化は含めておらず、新譜でリリースされたものだけを対象とした。

第5位 菅野祐悟(4ポイント)

 まず第5位にランクインしたのは菅野祐悟。『鉄腕バーディー DECODE:02』『図書館戦争』『PSYCHO-PASS』『PSYCHO-PASS 2』という4作品のサントラを紹介している。2003年のアニメ劇伴デビューから、13年間で手がけたアニメは14作品とそれほど多くはないのだが、その作品数以上のインパクトを感じるのは僕だけではないはず。紹介した4作品の他にも『ガンダム Gのレコンギスタ』や_、4月から放映開始予定の『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』など、話題作・人気作を多く手がけている。そして何よりこの人は実写分野でも大人気で、ドラマや劇場作品の担当本数はアニメよりも多い。
 また、自作自演によるコンサートにも積極的であり、毎年のようにステージでピアノを弾き、タクトを振り、ファンにその姿を見せてくれる。この点でも劇伴作家としては希少な存在であり、評価すべきところだろう。まだ38歳という若さであり、近年では画家としても活動するなどバイタリティに満ち溢れている。疑いなく、今後も10年単位で劇伴業界を引っ張っていってくれる存在だろう。

『鉄腕バーディー DECODE:02』オリジナル・サウンドトラック
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劇場版『図書館戦争』オリジナル・サウンドトラック
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PSYCHO-PASS Complete Original Soundtrack
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劇場版『図書館戦争』オリジナル・サウンドトラック
通常盤:SRCL-8295〜96/3,059円/ソニー・ミュージックレコーズ
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PSYCHO-PASS Complete Original Soundtrack 2
【完全生産限定盤】SRCL-8753〜8756/4,980円/ソニー・ミュージックレコーズ
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第5位(同点) 黒石ひとみ(4ポイント)

 こう言っては失礼かもしれないが、僕自身集計していて最も意外な結果だったのがこの人だ。本連載では『シャングリ・ラ』のサントラ2枚、『LASTEXILE 銀翼のファム』のサントラ2枚を紹介している。アニメ業界との関わりは長いが、もともとは歌手出身であり、『ΠΛΑΝΗΤΕΣ[プラネテス]』『LASTEXILE』『ガン×ソード』などの劇中歌で、その美しく澄んだ歌声を耳にした方も多いはず。転機が訪れたのは2006年の『コードギアス 反逆のルルーシュ』で、中川幸太郎とともに音楽担当にクレジットされ、歌ものを中心に多数の楽曲を提供したことで劇伴作家への道を歩み始めた。
 菅野祐悟とは対照的にライブ機会は少なく、2013年の『八犬伝 —東方八犬異聞—』を最後にアニメ劇伴からは遠ざかっている。ボーカルの多重録音を駆使した作風ゆえに、楽曲の量産やライブ演奏には不向きなのだろう。似た作風のエンヤ、アディエマスのように、ヒーリング系のソロアルバム制作に軸足を移す可能性もありそうだ。

『シャングリ・ラ』オリジナルサウンドトラック
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『シャングリ・ラ』オリジナルサウンドトラック2
VTCL-60145/2,940円/フライングドッグ
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『ラストエグザイル 銀翼のファム』オリジナルサウンドトラック
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『ラストエグザイル 銀翼のファム』オリジナルサウンドトラック2
VTCL-60287/2,940円/フライングドッグ
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第3位 高梨康治(6ポイント)

 いまや人気作曲家というレベルを超えて、大家と呼ばれる域に達しつつあるのではないか。2002年の『NARUTO』TVシリーズ開始から人気を博し、10年以上にわたって業界に君臨し続けているトップランナーだ。本連載では『FAIRYTAIL』のサントラ3枚のほか、『スイートプリキュア♪』 『劇場版NARUTO ブラッド・プリズン』『織田信奈の野望』と紹介してきている。
 劇伴作家の常として、作品の求めに応じて様々な楽曲を提供してきているが、その中でも高梨サウンドの核となっているのがロック。バンドマン出身という出自を活かした、「ハードロック+オーケストラ」の作風が高梨の得意とするところだ。サントラ3枚を取り上げた『FAIRYTAIL』ではケルト風の旋律をロック編成に落とし込み、オーケストラがそれを盛り上げるという血湧き肉躍る曲調で、僕は一時期これらのサントラばかりを聴きまくるほどにハマった。
 『プリキュア』シリーズも代表作のひとつで、コーラスを取り入れた明るく華麗なメタルサウンドは「キュアメタル」と呼ばれて人気を博した。高梨はライブでこれらの楽曲をライブで何度か披露しているのだが、8月27日にはいよいよその最終公演と思われる「高梨康治 -CureMetalNite 2016- The Last」が開催される。すでにチケットぴあで先行受付が行われているので、高梨ファンは必ずチェックすべし。

『FAIRYTAIL』ORIGINAL SOUNDTRACK VOL.1
PCCG-1016/3,150円/ポニーキャニオン
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『FAIRYTAIL』ORIGINAL SOUNDTRACK VOL.2
PCCG-01057/3,150円/ポニーキャニオン
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『FAIRYTAIL』ORIGINAL SOUNDTRACK VOL.3
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『スイートプリキュア♪』 オリジナル・サウンドトラック1
MJSA-1007/3,150円/マーベラスエンターテイメント
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『劇場版NARUTO ブラッド・プリズン』オリジナルサウンドトラック
SVWC-7784/3,150円/アニプレックス
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『織田信奈の野望』—劇伴集— ORIGINAL SOUND TRACK
PCCG-01300/2,940円/ポニーキャニオン
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第2位 澤野弘之(7ポイント)

 第2位は近年大人気の作曲家、澤野弘之がランクイン。本連載では『機動戦士ガンダムUC』のサントラ3枚、『進撃の巨人』『青の祓魔師』『キルラキル』『七つの大罪』を紹介している。「ヒット作の影に澤野あり」というのは言い過ぎかもしれないが、人気アニメを多く手がけており、『機動戦士ガンダムUC』『進撃の巨人』など、彼の手がけるサントラはヒットチャートの常連だ。オーケストラ曲のスケールの大きさ、そしてボーカル曲の洋楽ロックっぽい格好よさを兼ね備えており、ド派手なアクションシーンに映える音楽を書ける作曲家として、そのニーズはとどまるところをしらない。
 昨年放送された「連続テレビ小説 まれ」を始め、実写分野でも引っ張りだこであり、TVから彼の音楽が流れない日はないのではないか、と感じるほど。歌もののシングル・アルバムも多数発表しており、今後はプロデューサーとしての活動も増えていくのだろう。まだ35歳と若いこともあり、2010年代を代表する劇判作曲家になっていくはずだ。

『機動戦士ガンダムUC』オリジナルサウンドトラック
SMCL-20004/3,100円/ミュージックレイン
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『機動戦士ガンダムUC』オリジナルサウンドトラック2
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『機動戦士ガンダムUC』オリジナルサウンドトラック3
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進撃の巨人 オリジナルサウンドトラック
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青の祓魔師 Plugless
初回生産限定盤:SVWC7941〜2/3,675円/アニプレックス
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青の祓魔師 Plugless
通常盤:SVWC7943/3,150円/アニプレックス
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キルラキル オリジナルサウンドトラック
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七つの大罪 オリジナル・サウンドトラック
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第1位 岩崎琢(9ポイント)

 そしていよいよ第1位の発表だ。『SOUL EATER』『刀語』『GATCHAMAN CROWDS』『ノラガミ』『魔法科高校の劣等生』『アカメが斬る!』と紹介作品を並べればもうお分かりだろう。岩崎琢が本連載におけるダントツの1位となった。
 1990年代から活躍するベテランでありながら、その作風は老成やマンネリズムとは無縁。常に最新のサウンドを貪欲に取り込み、ミクスチャーを重ねながら新たな方向性を模索し続けている姿は、まさに独立独歩のパイオニアと言える。実写作品の音楽担当は少なく、その作曲家人生のほとんどをアニメBGMに捧げ続けている劇伴マイスター。それゆえ担当作品の本数はすでに40本を超えているのだが、その需要が尽きることはない。2014年には4本ものTVアニメを手がけたように、いま現在もひたすら第一線を走り続けている。
 高梨康治の項では「大家」という言葉を使ったが、おそらく岩崎琢はそういう呼ばれ方を嫌うのではないか。機能性ありきの平凡な劇伴を避け、鋭角的な音を求め続ける姿はある意味で「非・劇伴的」であり、主流派とは言いがたい。それゆえ彼のBGMは劇中で小さめにミックスされてしまうことも多いのだが、安易な予定調和を嫌い、監督や音響監督と丁々発止のやり取りをするようなその音楽は、視聴者に「この人のサントラを買いたい!」と思わせるだけの強いアピールがあるように思う。

『SOUL EATER』オリジナル・サウンドトラック2
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『刀語』劇中楽曲集 其ノ壱
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『GATCHAMAN CROWDS』オリジナル・サウンドトラック
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『GATCHAMAN CROWDS』オリジナル・サウンドトラック -GALAX-
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『ノラガミ』オリジナルサウンドトラック〜野良神の音〜
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『魔法科高校の劣等生』オリジナルサウンドトラック
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アカメが斬る! オリジナルサウンドトラック1
THCA-60046/3,564円/東宝
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アカメが斬る! オリジナルサウンドトラック2
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 なお、次点はいずれも3ポイントで、橋本由香利、井内舞子、梶浦由記、菅野よう子、松田彬人(虹音)という面々が並んだ。菅野や梶浦がベスト5に入らなかった点に、時代の流れというものを感じてしまう。
 ここに紹介した作曲家とサントラは、いずれも僕が自信を持っておすすめできるものばかり。もしこの記事から興味がわき、新たな音楽への扉が開かれるとしたら、これ以上の喜びはない。
 この連載は終了するが、WEBアニメスタイルは今後も続いていくし、優れたサントラもまた作られ続けていくはずだ。これからはいちサントラファンとしてそれを見守り、気楽な立場で楽しませてもらいたいと思っている。
 長らくのご愛読、本当にありがとうございました!(和田穣)