3月10日に、キース・エマーソンが亡くなった。エマーソン・レイク・アンド・パーマーのメンバーとして、プログレッシブ・ロック界の第一人者とも言えるキーボーディストだ。アニメファンの中には、『幻魔大戦』の劇伴と主題歌「光の天使」を覚えている方もいるだろう。彼は作曲と演奏の両面に秀でていただけでなく、シンセサイザーの導入に関しても先駆的だった。モーグ・シンセサイザーを試作機の段階から導入し、楽曲の中で効果的に使う方法を次々と編み出した。世界中のキーボード奏者へ与えた影響は計り知れない。僕もシンセ愛好者の1人として、彼には感謝の気持ちしかない。冥福を祈る。
さて、今回は前回に引き続き過去の連載で紹介したサントラの中から、年間ベストを決めてみたい。
2010年、2011年、2013年、2015年については前回取り上げたので、今回は残りの2009年、2012年、2014年を見ていきたいと思う。
2009年
まずこの年に印象的だったのは、井内舞子の出世作『とある魔術の禁書目録』サントラだ。現在でこそテクノやハウスの要素を取り入れた劇伴は珍しくないが、2009年の時点ではなかなかに先鋭的だった。またトランスの要素がたっぷりと含まれているあたり、I’veの作曲家らしさがよく出ている。
それから、中川幸太郎による『絶対可憐チルドレン』サントラ第2弾も忘れがたい。中川お得意のブラスを生かしたビッグバンドジャズで、往年のスパイ映画を思わせるレトロかつゴージャスな音作りが作品によくマッチしていた。
そして『ソウルイーター』のサントラ第2弾が出たのもこの年。岩崎琢がその雑食性をいよいよ発揮してきた時期の作品で、マーラーの「亡き子をしのぶ歌」の歌詞を使ったかと思えば、リコーダーでユーモラスな音楽を鳴らしてみせたりもする。彼はアニメBGMの幅をどんどん広げてきた革新者だと思うが、その真価を発揮したCDのひとつだろう。
岩崎琢は同年に、劇場版『天元突破 グレンラガン 螺巌篇』も手がけている。『グレンラガン』は岩崎がラップとオーケストラとの融合という手法を確立した作品であり、劇場版でもその路線は健在だった。この年に同作からの3曲入りミニアルバムをリリースしている。
またこの年は、菅野よう子の「超時空七夕ソニック」と、富士急ハイランドでの「ランティス祭り」という大型イベントが開催された年でもあった。Animelo Summer Liveは前年からさいたまスーパーアリーナでの開催となっており、アニソンイベントの巨大化が加速した年と言えるかもしれない。
『とある魔術の禁書目録』OST1(音楽:I’ve sound/井内舞子)
GNCA-1202/3,150円/ジェネオンエンタテインメント
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『絶対可憐チルドレン』OST2(音楽:中川幸太郎)
GNCA-1175/2,940円/ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
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『ソウルイーター』OST2(音楽:岩崎琢)
SVWC-7620/3,150円/アニプレックス
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『天元突破グレンラガン 螺巌篇』サウンドトラック・プラス(音楽:岩崎琢)
SVWC-7626/1,115円/アニプレックス
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2012年
2012年のサントラでまず思い出すのは、菅野よう子がコンボジャズに挑んだ『坂道のアポロン』。かつては「ジャズは苦手」と語っていた菅野よう子が、コンボ編成による自作曲とジャズのスタンダードナンバーにがっぷり四つで取り組んでいる。
同じく菅野による『アクエリオンEVOL』は、物語のハイライトを飾った「アクエリア舞う空」の壮大さや、「ユノハノモリ」の虚無感、「聖天使学園効果」の宗教曲的な響きなど、歌ものの充実が印象的だった。
『輪廻のラグランジェ』のサントラは、原田節によるオンド・マルトノの叙情的な響きと、鴨川市を描写したビジュアルとの相乗効果が楽しめる1枚。
『もやしもんリターンズ』のサントラも思い出深い。カントリーやブルーグラスのサウンドによって農大の雰囲気を活写し、アコーディオンの調べでパリ編の華やかさを演出する手法は、オーセンティックながらとても効果的なものだ。
高梨康治が壮大な音楽を書き下ろしたのが『織田信奈の野望』 のサントラ。オーケストラと男声コーラスの勇壮な響きに和楽器まで加わり、まるでNHK大河ドラマのようなスケール感だった。
また2012年は、日本コロムビアが「YAMATO SOUND ALMANAC」のリリースを開始した年だ。その後長きに渡って、初CDを含む多数の作品をリリースして我々を楽しませてくれた。リマスターによって『ヤマト』の音楽を、現代のリスニング環境に耐える音質にまで引き上げた功績も大きい。
『坂道のアポロン』オリジナル・サウンドトラック(音楽:菅野よう子)
ESCL-3874/3,059円/EPICレコードジャパン
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『アクエリオンEVOL』オリジナル・サウンドトラック「イヴの詩篇」(音楽:菅野よう子)
VTCL-60298/3,045円/フライングドッグ
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『輪廻のラグランジェ』オリジナルサウンドトラック(音楽:鈴木さえ子、TOMISIRO)
VTCL-60296/3,045円/フライングドッグ
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『もやしもんリターンズ』オリジナルサウンドトラック(音楽:羽毛田丈史)
SVWC-7888/3,045円/アニプレックス
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『織田信奈の野望』—劇伴集— ORIGINAL SOUND TRACK(音楽:高梨康治)
PCCG-01300/2,940円/ポニーキャニオン
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2014年
2014年のベストサントラとして、まず『ノラガミ』は外せない。岩崎琢の新機軸とも言うべき、EDM調のシンセを楽しめる1枚であり、スロバキアの民族楽器フヤラが全編に渡ってフィーチャーされている点も印象的だ。
林ゆうきの多様性を存分に示した『ガンダムビルドファイターズ』も忘れてはならないだろう。フラメンコあり、ドラムンベースあり、タンゴあり、和風ロックありの無国籍風サウンド。それが番組内容にもよくマッチしていた。
『四月は君の嘘』コンピレーション盤は、新作BGMではないものの2014年を代表するアニメ音楽CDのひとつだろう。クラシックの名曲を深く掘り下げ、演奏する奏者の精神状態や、指先の細やかなタッチまで再現する映像表現は、音楽アニメの極北のひとつと言える。
『トリニティセブン』サントラは、僕のお気に入りの1枚。声優によるボイスをテクノサウンドと融合させた独特の曲調はハイセンスで、サントラの枠に留まらない訴求力を持つのではないか。近年、アニメサントラの世界ではテクノやハウス寄りのサウンドが増えているが、その流れを象徴するようなCDだ。
12月に発売された『結城友奈は勇者である』サントラも強く印象に残っている。絢爛豪華で劇的なサウンドは、バトルシーンの華麗なビジュアルとも相まって効果満点。BGMに多用される女性ボーカルの響きが、物語の過酷さと悲劇性をより一層浮き立たせていた。今後何年も聞いていきたいと思わせるだけの、美しい音楽が詰まった1枚だ。
『ノラガミ』オリジナルサウンドトラック〜野良神の音〜(音楽:岩崎琢)
AVCA-74236/3,150円/エイベックス・エンタテインメント
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ガンダムビルドファイターズ オリジナルサウンドトラック(音楽:林ゆうき)
AVCD-38914〜5/3,675円/エイベックス
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TVアニメ『四月は君の嘘』コンピレーションCD「四月は君の嘘 僕と君との音楽帳」
ESCL-4302/2,980円/エピックレコードジャパン
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TVアニメ『トリニティセブン』オリジナル・サウンド・トラック
TRINITY SEVEN : MAGUS MUSIC ARCHIVE(音楽:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND)
EYCA-10093〜4/3,564円/エピックレコードジャパン
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TVアニメ『結城友奈は勇者である』オリジナル・サウンド・トラック (音楽:岡部啓一・MONACA)
PCCG-1438/3,240円/ポニーキャニオン
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この文章を読んで「そういえばあのサントラ、買いそびれていたな」と気づき、改めてチェックしてみるきっかけになれば幸いだ。ここに取り上げたサントラは、決して安くはないCD代金をつぎ込むだけの価値があると思う。
本連載も残すところあと1回だ。最後も過去の振り返り企画となるが、内容については更新を楽しみに待っていただきたい。(和田穣)