7月8日の発売日に_秋葉原へ『響け! ユーフォニアム』のサントラを買いに行った。ところが主要な家電量販店、アニメショップなどでことごとく売り切れ。歩き回り、電話をかけても見つからない。アニメサントラでこういう事態はなかなかに珍しく、完全に想定外だった。京都アニメーションによる人気作品、しかも音楽ものということでサントラ人気は当然なのかもしれない。事前に予約を入れておかなかった自分の迂闊さに反省しきりである。
幸いなことに発売日にiTunesなどで配信、e-onkyo music、moraでハイレゾ配信が開始されたので、そちらで入手することができた。CD形態での所有にこだわらない方ならば、配信を利用するのもいいだろう。なお、CDの再入荷時期は各店とも未定としている。
ということで今回は「響け! ユーフォニアム オリジナルサウンドトラック おもいでミュージック」を紹介する。全57曲・合計142分の大ボリュームで、CDでは2枚組の構成だ。
ディスク1は主にBGMを、ディスク2は劇中で使用された吹奏楽の演奏を収録。アニメの音楽制作協力・演奏協力にクレジットされた、洗足学園音楽大学のフレッシュマン・ウィンド・アンサンブルが演奏を担当している。オープニング主題歌「DREAM SOLISTER」およびエンディング主題歌「トゥッティ!」はTVサイズで収録しているほか、両曲の吹奏楽バージョンも収録している。
音楽は虹音あらため松田彬人。『中二病でも恋がしたい!』で京都アニメーション作品ではすでにお馴染みの作曲家だ。キャラクターソング→主題歌→BGMという、近年のアニメ音楽作家としてスタンダードなコースを歩んでおり、『のうりん』『僕らはみんな河合荘』『グラスリップ』など、着実にBGM担当作品を増やしている。
ディスク1の1曲目「はじまりの旋律」は文字どおり第1話の冒頭、中学生時代の主人公・黄前久美子や高坂麗奈が、吹奏楽コンクールで不本意な「ダメ金」を獲得してしまうシーンで流れた音楽だ。ピアノとストリングによるしっとりしたサウンドで、物語の始まりを感じさせるに充分。どことなくカーペンターズの「I Need To Be In Love」を思わせる、ノスタルジックな旋律が魅力的だ。劇中では部分的にしか使われていないが、フルサイズでは3分以上の尺がある。
ディスク1の2曲目「朧げな現在」はギターのアルペジオを中心とした楽曲で、主人公・黄前久美子が北宇治高校に入学するシーンに使用された楽曲。ディスク2の2曲目「暴れん坊将軍のテーマ (指導前Ver.)」は、その入学シーンで新入生歓迎のため、吹奏楽部が演奏を披露したシーンのもの。狂った音程、濁ったハーモニー、雑なリズムなど、学生の吹奏楽でよくある未熟な演奏を忠実に再現しているところが傑作だ。僕もかつて吹奏楽の盛んな小学校に在籍していたので、こういう「吹奏楽あるある」にはニヤリとさせられる。
ディスク2の4曲目「地獄のオルフェ」は久美子が中学校時代に「ダメ金」を獲得してしまった因縁の楽曲。「天国と地獄」「運動会の曲」と言った方が通りがいいだろう。オッフェンバックの同名オペレッタ第3幕の楽曲であり、元々はフレンチカンカンを踊るシーンに使用されたもの。現在では吹奏楽の定番曲ともなっている。
第5話はシリーズ中盤の見せ場となるサンライズフェスティバルがあった回。ここでライバル校の立華高校によって演奏されたのがディスク2の9曲目「FUNICULI FUNICULA」。カンツォーネの定番曲としてもよく知られたナンバーだ。一方で久美子ら北宇治高校が演奏したのは、ディスク2の10曲目に収録されたYMOの代表曲「RYDEEN」の吹奏楽バージョン。高校野球のヒッティングマーチとして、このバージョンを耳にしたことのある方も多いだろう。サビで半音階を上がっていくベースラインが特徴なので、久美子のように低音パートを受け持つ奏者が目立てる楽曲だ。
最終話のクライマックスとなった京都府吹奏楽コンクールで、北宇治高校が演奏したのが「プロヴァンスの風」だ。日本人作曲家・田坂直樹による吹奏楽ナンバーであり、実際に今年の全日本吹奏楽コンクールの課題曲にもなっている。劇中で聞けるのは1分半ほどだが、サントラにはフルサイズである3分半のバージョンが収録されている。最終話で続けて演奏されるのが、ディスク2に収録されている「三日月の舞」だ。15曲目が香織トランペットVer.で16曲目が麗奈トランペットソロVer.となっているので、聴き比べてみよう。この曲は第6話から最終話にかけてコンクール用楽曲として何度も登場しており、いわば番組全体の顔とでも言うべき位置づけ。トランペットの華やかなファンファーレから始まる、吹奏楽らしい活力に満ち溢れたナンバーだ。トランペットの麗奈、ユーフォニアムの久美子を始め、各パートにほどよくスポットが当たるよう配慮されている。サントラで6分44秒の全曲をたっぷりと楽しんでほしい。
以上のように、シリーズの要所を飾った吹奏楽の演奏がたっぷりと詰まっているのが本盤の特徴。アニメ本編中では一部しか流れなかった楽曲が、いずれもフルサイズで聴けるのが最大の魅力だろう。たとえば最終話で使用された「交響組曲シェエラザードより-Highlights-」は10分半もの尺があり、本編中で聞くことができたのはそのほんの一部だ。本作では、このように贅沢な楽曲の使われ方が随所でなされている。
ところで、我が国は世界有数の吹奏楽大国である。全日本吹奏楽連盟に登録された団体数は1万4千を超え、現役の吹奏楽人口が100万人を超えると言われるほどだ。しかし残念ながら、コンクールなどで日頃その演奏を聴いているのは、親族や吹奏楽の関係者に限られる。どれだけ素晴らしいアンサンブルを練り上げても、それが一般聴衆の耳に届くことは少ないのが現状なのだ。『響け! ユーフォニアム』によって、吹奏楽の道に進む若者が増えることは当然期待されるのだが、願わくばそれだけに留まらず、リスナー層・愛好者層が形成されてほしい。このサントラを聴けば、吹奏楽には魅力的なレパートリーがたくさんあること、そして日本の演奏団体のレベルが高いことは充分に伝わるだろうから。(和田穣)
響け! ユーフォニアム オリジナルサウンドトラック おもいでミュージック(音楽:松田彬人)
LACA-9410/3,780円/ランティス
発売中
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