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アニメ音楽丸かじり(159)
『ヤマト』の世界が現実化した日……『宇宙戦艦ヤマト2199』コンサート実況録音盤がリリース!

 前回の記事で紹介したμ’sのベスト盤「Best Album Best Live! Collection II」は、結局6月8日付けのオリコン週間CDアルバムランキングで晴れて1位となった。アニメキャラクター名義では『けいおん!!』の「放課後ティータイムII」(2010年)以来、5年振りの記録である。実にめでたい。
 購入者の間で話題となっているのが、ベスト盤とシングル盤との音質の違いだ。すでに検証サイトも立ち上がっているが、どうやらシングル盤からの単純な再収録ではなさそうなのだ。波形や聴感から言うと、ベスト盤のサウンドはハイレゾ盤に近く、これをマスターとしてCDフォーマットに落とし込んだのではないか、との推測が成り立つ。ただしメーカー側からの公式発表はないので、確定情報ではないことをお断りしておく。
 僕も何曲かシングル盤とベスト盤を聴き比べてみたが、ドラム音の奥行き、ストリングスの存在感、そして何よりボーカルのナチュラルな空気感が違う。「最初からベスト盤のようなサウンドになってくれていたらなあ」と、思ってしまうほどの差があるように感じられた。もちろんハイレゾ版はさらに精細度が高く、よりナチュラルで美しい音が楽しめるから、興味のある人にはそちらもおすすめだ。個人的には、特に「Snow halation」ハイレゾ版がお気に入りだ。『ラブライブ!』楽曲のハイレゾ配信はe-onkyo musicにて行われている。

μ’s Best Album Best Live! Collection II

【超豪華限定盤】LACA-39393~39395/9,936円/ランティス
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μ’s Best Album Best Live! Collection II

【通常盤】LACA-9393~9395/3,996円/ランティス
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 さて今回は、6月10日に日本コロムビアからリリースされた「宮川彬良 Presents 宇宙戦艦ヤマト2199 Concert 2015」を紹介したい。文字どおり、宮川彬良が自らオーケストラのタクトを振り、『宇宙戦艦ヤマト2199』の音楽を実演したものだ。今年2月28日、3月1日に舞浜アンフィシアターで行われた同名コンサートの実況録音盤となっている。
 パッケージはCD2枚組とBlu-ray Audioの2種類がある。僕は取り回しのよさからCD盤を購入したが、音質にこだわる方はBlu-ray Audio盤を選ぶのもいいだろう。こちらはBlu-ray Discのスペックを活かし、Dolby TrueHDおよびリニアPCMの96kHz/24bit(5.1chサラウンド)に加え、96kHz/24bit(2ch)のハイレゾ音源も収録している。再生にはBlu-ray Discプレイヤーが必要であり、サラウンド環境もあった方がいい。
 CDは2枚組であり、Disc 1は『宇宙戦艦ヤマト2199 追憶の航海』の楽曲を、Disc 2は『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』からの楽曲とアンコールの「真っ赤なスカーフ」「銀河航路」「宇宙戦艦ヤマト」を収録している。分かりやすく作品を追体験できる構成の上に、曲間には森雪役の桑島法子によるナレーションがストーリーを語ってくれるため、『宇宙戦艦ヤマト』シリーズ入門者でもすんなりと作品世界に入り込むことができるだろう。
 このコンサート最大の特徴はと言えば、『宇宙戦艦ヤマト2199』に使用された劇伴を「録音時と同じスコア」「録音時と同じ編成」「録音時と同じミュージシャン」によって実演するという点だ。通常はコンサート用のメンバーが編成され、それに合わせてアレンジも微修正されることが多いため、劇伴そのものの演奏をライブで聴けるチャンスはほとんどない。また、このコンセプトにあわせて招集されたのは、バイオリン(コンサートマスタ-)の篠崎正嗣、ハープの朝川朋之、ドラムの渡嘉敷祐一、ピアノの中西康晴といった面々。著名なスタジオミュージシャンをずらりと揃えた、劇伴ファン垂涎の豪華ラインナップだ。もちろん演奏力の高さは言うまでもなく、Disc 1の13曲目「ブラックタイガー」、Disc 2の11曲目「ガトランティス」のようなスリリングで複雑な楽曲でも、ブレイクやキメで一糸乱れぬアンサンブルを聴かせてくれる。
 次に特筆すべき点としては、オーケストラ主体のコンサートにも関わらず、生音ではなくPAを通した音を前提にしているところだ。先述のとおりスタジオミュージシャン中心の起用ゆえ、弦楽器はクレジットによると8-8-4-4-2という編成。劇伴にはドラムスやエレキギターといったバンドの音も入っているため、音量面で拮抗するには人数が少ない。しかし弦楽器の人数を増やしてしまうと、実際にアニメ本編中で聞こえてくる音とは印象が変わってしまう(ブックレットに掲載された音響監督・吉田知弘の解説にも同様の記述がある)。以上のことから、PAの使用は適切な判断だったと言えるだろう。オーディオ的にも、オーケストラとバンドがほどよい定位で配置されており、違和感を覚えさせない。
 聴きどころは沢山ありすぎて「全部!」と言いたいところだが、特に印象的だったのはDisc 1の2曲目「無限に広がる大宇宙」におけるYuccaの絹のように滑らかなスキャット、7曲目「大河ヤマトのテーマ」におけるオーケストラとバンドの自然な共存、13曲目「ブラックタイガー」の一糸乱れぬアンサンブル、Disc 2の4曲目「ガトランティス襲撃」の複雑なリズムチェンジをたやすく演奏してしまう演奏力などだ。Disc 2最後の「宇宙戦艦ヤマト」では、主旋律を受け持つ東京混声合唱団のコーラスに、観客からも歌声が巻き起こり、感動的な締めくくりとなっている。
 このアルバムの要点を一言で言うなら、「虚構を現実に」ということになるだろうか。予算や手間暇を惜しまず、劇伴と同じ演奏を目指したコンセプトもそうだし、PAの導入も『宇宙戦艦ヤマト2199』の世界をコンサート会場に再現しようとした結果だ。改めて言うまでもなく、『宇宙戦艦ヤマト』シリーズの音楽は素晴らしい。水準以上の演奏で実演してくれれば、それだけで多くの聴衆を満足させることができるはずだ。だがそこから一歩踏み込み、『宇宙戦艦ヤマト2199』の音世界をそのままコンサート会場に現出させることで、あたかも虚構であるアニメーションが現実化したような驚きと感動が味わえるのではないか。このCDからは、そういった作り手たちのチャレンジ精神が感じられるのだ。(和田穣)

宮川彬良 Presents 宇宙戦艦ヤマト2199 Concert 2015

【CD版】COCX-39088~9/4,104円/日本コロムビア
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宮川彬良 Presents 宇宙戦艦ヤマト2199 Concert 2015

【Blu-ray Audio版】COXC-1115/5,184円/日本コロムビア
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