ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(156)
『ユリ熊嵐』サントラの幻想的なサウンドに耽溺せよ!

 4月22日リリースの花澤香菜3rdアルバム「Blue Avenue」は、声優ファンのみならずAORファンからも熱い視線を注がれているのではないか。というのも、収録曲のうち「I ♥ NEW DAY!」と「Nobody Knows」の2曲はニューヨークで録音されており、ウィル・リー(ベース)、スティーヴ・ジョーダン(ドラムス)といった名うてのセッションプレーヤーたちが多数参加しているからだ。今回のアルバムテーマはその「ニューヨーク」なのだが、現代ニューヨークの音楽シーンというよりも、1980年代に一世を風靡したAORサウンドを思わせる楽曲が多い。本盤のプロデュースと作・編曲を担当した北川勝利は1971年生まれだが、彼が思春期の頃に聴いたサウンドの源流を辿っていくような、幸せな制作期間だったのではないか。1989年生まれの花澤香菜は、当然ながらリアルタイムでその時代のサウンドに触れてはいないはずだが、彼女が歌うことで20代の声優ファンにもこういう音楽があるのだ、と伝わっていくならAORファンの僕としても嬉しいことだ。

Blue Avenue/花澤香菜

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Blue Avenue/花澤香菜

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 今回紹介するのは、4月24日にリリースされた『ユリ熊嵐』のサントラだ。77分に全42曲を収録し、OP主題歌「あの森で待ってる」とED主題歌「TERRITORY」をTVサイズで収録している。幾原邦彦監督と言えば、音楽へのこだわりはよく知られるところ。今回の『ユリ熊嵐』も、一筋縄ではいかない音楽の数々で我々を楽しませてくれる。音楽は監督の前作『輪るピングドラム』に引き続き橋本由香利が担当。彼女については、連載第31回『おまもりひまり』の記事にて紹介しているので、そちらも参考にしてほしい。「百合+熊」という個性的な世界観には一体どんな音楽が合うのか、放映前にはなかなか想像がつかなかったが、実際に視聴してみると、特定のジャンルに縛られずに様々なサウンドを駆使して作られているのが分かる。その中でも、女声スキャットとピアノはサウンドの軸として機能しているようだ。
 twitterで橋本由香利が各楽曲についてコメントしているが、見ていくとやはり幾原監督からはかなり緻密なオーダーがあったようだ。「プログレ」「エレクトロニカ」「モンド」など具体的に音楽スタイルにまで踏み込んだ指示は、監督の豊富な音楽知識を物語っている。それでは収録曲の一部について紹介していこう。
1曲目「断絶の壁」は劇中で何度も使用された、いわば作品全体のテーマ曲とも言える楽曲だ。冒頭のテルミンサウンドが一昔前のホラー映画やSF映画を思わせ、懐かしい感覚に襲われる。3拍子のリズムにコーラス、ピアノ、グロッケンなどで紡ぎ出す音色はクラシック色やゴシック色を漂わせながらも重すぎず、耳あたりはあくまで軽やかだ。
 2曲目「月の娘と森の娘」も多用された楽曲。第1話の銀子とるるの転校シーンが初出だ。こちらも3拍子の舞曲調で、ピアノとストリングスが生み出すドリアンモードのメロディが幻想的。そこに五阿弥瑠奈のソフトなスキャットが絡み、甘く柔らかい雰囲気を作り出している。
 6曲目「対決のプログレッシブ」は第1話でクマが襲ってくるシーンなどに使用。タイトルどおりプログレの要素を取り入れた楽曲で、静かなイントロからの激しい楽曲展開が聴きものだ。劇伴の方向性のひとつとしてプログレを用いることは、幾原監督からの提案だという。
 8曲目「ユリ、承認!」は変身シーンに使用された楽曲で、4つ打ちのリズムとストリングスのトリルに導かれて登場するのが、グノー「アヴェ・マリア」のメロディ。この大胆な使用法は、第1話から視聴者の度肝を抜いたのではないだろうか。「アヴェ・マリア」は本作におけるシグネチャーのひとつで、様々な場面でアレンジを変えて使われている。近藤名奈の澄んだ歌声も聴きものだ。
 29曲目「クマリア」は最終話のクライマックスで、紅羽がクマリアに願いを届けるシーンに使用された。「アヴェ・マリア」のアカペラ独唱から始まり、パイプオルガンが響き渡る展開は荘厳で最終話にふさわしい。30曲目「約束のキス」はその続きのキスシーンの音楽で、この2曲によって作品が締めくくられている。
 様々なタイプの音楽が使用されたサントラだが、要所では女声スキャットとピアノを中心に幻想的な音楽が紡がれている。土着性や生臭さのない、美しくも箱庭的な雰囲気は幾原監督の作風にぴったり。静かな夜にヘッドフォンで、耽溺するように聴きたくなるようなタイプのサントラだ。(和田穣)

TVアニメ『ユリ熊嵐』オリジナルサウンドトラック (音楽:橋本由香利)

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