今回が2014年最初の更新となる。今年もWEBアニメスタイルと「アニメ音楽丸かじり」をよろしく!
昨年を振り返ってみると、個人的に大きなトピックがふたつあった。
まずは北川勝利、宮川弾、中塚武、ミト、沖井礼二、矢野博康、片岡知子ら渋谷系第2世代以降の作家たちがアニメ業界での存在感を増し、アニメ音楽と渋谷系の融合がより一層進んだことだ。
アニメ音楽と渋谷系との接点は1990年代から散発的に存在していたが、明確に主題歌・サントラとも渋谷系サウンドを旗印に掲げたのは、2002年の『ちょびっツ』がパイオニアであったように思う。BGMの作曲には元ピチカート・ファイブの高浪敬太郎が起用され、OP主題歌「Let Me Be With You」でデビューしたのが北川勝利率いるROUND TABLE featuring Ninoだった。
そのROUND TABLE featuring Ninoが、2012年末で10年にわたる活動を終えた事実は興味深い。この10年間における北川勝利らの活動は、アニメ音楽と渋谷系との接触の歴史であり、その融合が最終段階へと進んだのが2013年だったのではないか。2月リリースの花澤香菜のアルバム「claire」を中心とした一連の楽曲や、4月リリースの『たまこまーけっと』のOP主題歌「ドラマチックマーケットライド」およびサントラは、その成果として代表的なものと言えるだろう。特にサントラは、ラウンジ・ミュージックを基調としながらも、まるで渋谷系ポップスのインスト版のようにカラフルでオシャレな楽曲も含んでおり、実に耳に心地よい1枚だった。
たまこまーけっと オリジナル・サウンドトラック
Snappy Music Around of Tamako(音楽:片岡知子、マニュアル・オブ・エラーズ)
PCCG-01329/3,150円/ポニーキャニオン
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もうひとつは、劇伴作家の新世代台頭である。
2013年を代表する作品を振り返ってみると、『進撃の巨人』『キルラキル』の澤野弘之(33歳)、『PSYCHO-PASS』(放映開始は2012年)の菅野祐悟(36歳)、『はたらく魔王さま!』の中西亮輔(37歳)、『〈物語〉シリーズ セカンドシーズン』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』の神前暁(39歳)と、30代の作曲家の活躍が目立つ。もちろん、川井憲次、中川幸太郎、高梨康治、岩崎琢といった売れっ子たちは相変わらず多くの仕事を抱えており、2013年もバリバリの活躍だったのだが、30代の躍進もまた目覚ましかった。特に澤野弘之にとっては、『ガンダムUC』『ギルティクラウン』ですでに高まっていた評価を『進撃の巨人』で一段階押し上げ、より幅広い層に知られる1年となった。『進撃の巨人』サントラは6万枚を超えるヒットとなり、主題歌を歌ったLinked Horizonは、第64回NHK紅白歌合戦に出場するに至った。2013年のアニメ界は『進撃の巨人』の年だったとも言えるだろう。
進撃の巨人 オリジナルサウンドトラック(音楽:澤野弘之)
PCCG-1351/3,150円/ポニーキャニオン
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『たまこまーけっと』『進撃の巨人』以外にも、2013年には素晴らしいサントラ盤がいくつもリリースされている。その中から僕が気に入ったものを紹介しておこう。
まずは5月にリリースされた『PSYCHO-PASS』のサントラ。限定盤に最終話の画コンテ本が同梱されるという商品性でも話題となった1枚だ。実写で刑事ドラマを多く手がけてきた菅野祐悟が、アニメということで刑事ものにSF色を含んだ設定をどう消化するのかに注目していた。彼はそれに対し、得意のオーケストラサウンドに加えて、巧みにシンセを用いることで応えてくれたのだ。サントラの1曲目「PSYCHO-PASS」は、そのあたりのノウハウが結実した2013年を代表する劇伴のひとつだと思う。
PSYCHO-PASS サイコパス Complete Original Soundtrack(音楽:菅野祐悟)
完全生産限定盤:SRCL-8291〜94/4,980円/ソニー・ミュージックレコーズ
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PSYCHO-PASS サイコパス Complete Original Soundtrack(音楽:菅野祐悟)
通常盤:SRCL-8295〜96/3,059円/ソニー・ミュージックレコーズ
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それから同じく5月リリースの『THE UNLIMITED 兵部京介』サントラ。音楽の中川幸太郎は管楽器奏者の一家の出だけあって、金管を巧みに使うことは知っていたが、オーケストラの扱いでも異能の才がある事を証明した1枚だ。
6月の紹介記事でも書いたのだが、このサントラの1曲目「THE UNLIMITED」ほど、「超能力」というものを音楽で完璧に表現した例を他に知らない。合唱隊による声の力、そしてオーケストラの生楽器が持つ力を見せつけられるような、凄まじい音響効果の数々をぜひ味わっていただきたい。改めてアニメ第1話を見てみるだけでも、その片鱗は感じ取れるはずだ。
THE UNLIMITED 兵部京介 Original Soundtrack(音楽:中川幸太郎)
GNCA-1368/3,360円/ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
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最後は8月リリースの『GATCHAMAN CROWDS』サントラ。音楽の岩崎琢と言えば、常に新たなジャンルとのクロスオーバーを模索していく、雑食性の作曲家だ。そしてこの『GATCHAMAN CROWDS』では、大胆にも1970年代風のディスコサウンドへの接近を見せた。近年彼が得意としているクラブ系サウンドやヒップホップの要素も織り交ぜながら、かなり「黒っぽい」1枚に仕上げている。それでいて、彼本来の壮大なオーケストラサウンドや、スタジアムロックを思わせるギターサウンドは健在。2013年、最もヒップなアニメサントラはこれで決まりだろう。
ガッチャマンクラウズ オリジナル・サウンドトラック(音楽:岩崎琢)
VPCG-84945/2,500円/バップ
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というわけで僕からの5選は、
- 『たまこまーけっと』
- 『進撃の巨人』
- 『PSYCHO-PASS』
- 『THE UNLIMITED 兵部京介』
- 『GATCHAMAN CROWDS』
という5作のサントラとなった。皆さんのベストはどうだっただろうか。(和田穣)