9月14日の劇場公開当日に『小鳥遊六花・改〜劇場版 中二病でも恋がしたい!〜』を観てきた。TVシリーズのBDは各巻コンスタントに高い売上げを記録し、オリコンの週間チャート(5月27日付)では1位を記録するなど、京都アニメーション制作による人気作品である。僕が赴いた劇場は新宿ピカデリーで、客入りは満員御礼の盛況ぶり。チケット売り場には長蛇の列ができ、物販コーナーにもわんさと人だかりがあった。客層は見たところ20代がほとんどで、男女比は8:2くらいだろうか。おそらく思春期の頃に『フルメタル・パニック? ふもっふ』『AIR』『涼宮ハルヒの憂鬱』あたりを見た、京アニ直撃世代という事になるだろう。
パンフレットも購入したのだが、面白かったのはメインキャストのコメント。凸守早苗役の上坂すみれだけが、コメントの文章量が多いためフォントが小さくなっているのだ。ラジオ番組での饒舌な彼女を知る声優ファンなら、思わず笑ってしまうところだろう。
劇場版の構成は、TVシリーズの総集編を中心に、一部で映像を加えたもの。公式サイトとYouTubeで公開されていたショートアニメ『中二病でも恋がしたい! Lite』の劇場版が、本編の前に挿入されている。タイトルどおり、メインヒロインである小鳥遊六花の視点から物語を再構築して、彼女と主人公・富樫勇太との恋模様をストーリーの中心に据えている。物語の縦軸がはっきりしているので、総集編と言えども大筋の流れは理解しやすい。この手のファンムービーにありがちな駆け足感や、ツギハギ感が比較的少ないのは好印象だ。もちろん新作カットのスペクタクル感や、派手なエフェクトは劇場作品らしい見どころたっぷり。TVシリーズからの映像にしても、元々京都アニメーションの作画はクオリティが高いので、スクリーンでの映写にも十分に耐えられる。
さて、前置きが長くなったが、その『小鳥遊六花・改〜劇場版 中二病でも恋がしたい!〜』のサウンドトラック盤が、劇場公開に先んじて9月11日にリリースされている。今回はこのCDを取り上げてみたい。
まずはCDの仕様だが、2枚組に56曲を収録し、トータル84分というボリュームがある。主題歌は3曲を収録しており、オープニングに新曲の「−Across the line−」(小鳥遊六花)と、エンディングにこちらも新曲の「Secret Survivor」(Black Raison d’etre)が入る。上記の『Lite 劇場版』にはZAQの歌う「深淵に舞う戦慄謝肉祭」をエンディングとして使用。いずれもサントラにはショートサイズのみが収録されている。
フルサイズ版に関しては、下記の主題歌集に収録されているので、主題歌狙いの方はこちらを購入するのがベストだろう。また、TVシリーズ主題歌からの流用である「INSIDE IDENTITY」も劇場版のエンディングで使用されているが、こちらはサントラ、主題歌集ともに収録されていない。
小鳥遊六花・改〜劇場版 中二病でも恋がしたい!〜 主題歌集〜中二病奥義・三曲の極み〜
LACM-14132/1,400円/ランティス
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話が少々脱線したが、サントラについての話題に戻ろう。今回の劇場版も、TVシリーズと同様に虹音が音楽を担当している。これまで数多くの美少女ゲームの主題歌を手がけ、TVアニメでは『みなみけ』『喰霊 —零—』『CANAAN』『刀語』『夏色キセキ』などで、多数の挿入歌やキャラクターソングを担当してきた音楽家だ。歌ものにおける活躍が目立つが、劇伴でも『そふてにっ』『バカとテストと召喚獣』『夏色キセキ』『ましろ色シンフォニー』などの実績がある。キャラものを手がける事が多く、本人も深夜アニメのファンを自認する若手作曲家である。ちなみに彼は昨年から、本名の松田彬人にアーティスト名義を改めているが、『中二病』関連の仕事は従来の虹音のままで通すようだ。
今回の劇場版で嬉しいところは、新作カットはもとより、総集編パートにもすべて新規の音楽をつけてあること。TVシリーズを何度も視聴したようなコアなファンであっても、新たに楽しめる要素があるわけだ。
それでは収録曲についていくつか見ていきたい。ディスク1の1曲目「中二病のおにいちゃん」は、前述の『Lite 劇場版』に使用された楽曲。文字どおり「中二病」の真っ盛りだった、勇太の痛々しい中学生時代を描写した音楽だ。フルートとピアノを中心としたユーモラスな楽曲だが、上品な室内楽としてまとめているあたりが本作らしいところ。本作はコメディタッチではあるが、基本線はキャラものなので、キャラクターを崩してしまうほどのえげつない描写は避けている。そのあたりの配慮が、BGMにもよく現れている1曲だ。同じく『Lite 劇場版』の主題歌「深淵に舞う戦慄謝肉祭」は、底抜けに明るいサンバの曲調。声優ではないZAQが、目一杯キャラソン寄りのコケティッシュな歌い方をしているのが聴きどころだ。
7曲目「静寂を破る実力者」、9曲目「炎の執行官」、10曲目「闇の炎」は、いずれも劇場版冒頭の新作カットにおけるド派手なバトルシーンにて使用。「これが本当に『中二病』のBGMなのか?」と驚くほどの激しいバトル音楽だが、そういう曲調になった理由については、実際に劇場で観て確かめていただきたい。曲名がちょっと痛々しい事は、気にしてはいけない(笑)。
ちなみに、ここまでの曲順を見ても分かるとおり、サントラの曲順はおおむね映画内での時系列に沿ったかたちとなっている。曲名についても、使用されたシーンの内容をそのままタイトルにしているため、実にわかりやすい。映像パッケージが発売されたら、サントラの曲目リストと照らし合わせながら、楽しんでいただきたいところだ。
同じくディスク1の15曲目「運命の出会いから歴史は始まった」は、文字どおり勇太と六花の出会いのシーンを飾った音楽。妖しげなムードたっぷりのストリングスが、まるで『Fate/stay night』や『SOUL EATER』のBGMにありそうな、ミステリアスで大仰な雰囲気を醸し出している。実際には勇太も六花も、サーヴァントでも死神でもない普通の高校生なわけで、この音楽はあきらかに過剰なのだが、まさにそれこそが作曲者の狙いなのだろう。音楽自体が中二病ならではの過剰さと、ゴシック趣味を強調しているわけだ。実に劇場版らしいスケール感と、大仕掛けを楽しめる楽曲である。
大仕掛けと言えば、終盤のクライマックスとなるシーンも外すわけにはいかない。TVシリーズでも、最終12話における勇太と六花の自転車での逃避行は、『耳をすませば』『ルパン三世 カリオストロの城』との類似性が話題となった。今回の劇場版では、そのシーンにディスク2の15曲目「恋が走り、恋が泣き、恋が笑う」が使用されているのだが、バイオリンが軽快なリズムを刻み、フルートとオーボエがスタッカートの跳躍旋律を散りばめていく爽やかな曲調が、実にスタジオジブリっぽいのである。これも音楽によるオマージュなのだろうか、と個人的に興味をかき立てられたシーンだ。
ディスク2の7曲目「恋に落ちるということ」は、六花が勇太への恋心を意識するシーンで使用。ピアノとストリングスによる美しいメロディを存分に聴かせ、うっとりするほどに甘くロマンティックな楽曲だ。本作が「中二病」というギミックを前面に立てながらも、その本質は「ボーイ・ミーツ・ガール」の甘酸っぱい初恋ものであったということは、この作品に通底するテーマだと思うのだが、この楽曲にはその思いが全て込められているようだ。
そしてすでに各種メディアにて報じられているとおり、映画の最後には、2014年新春からTVシリーズ第2期が放映されることが発表された。勇太と六花の恋模様がどうなっていくのか、「中二病」を貫きとおして生きていく事を決めた2人がどんな騒動に巻き込まれるのか、今後の展開が気になるところだ。
小鳥遊六花・改〜劇場版 中二病でも恋がしたい!〜 オリジナルサウンドトラック(音楽:虹音)
LACA-9305〜6/3,300円/ランティス
発売中
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