腹巻猫です。5月3日(日)に東京・中野で開催されるまんだらけ主催の資料系同人誌即売イベント「資料性博覧会08」に「劇伴倶楽部」で参加します。個人誌の既刊在庫分やCDを頒布する予定です。詳細は下記リンクを参照ください!
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今年の東映スーパー戦隊シリーズは「手裏剣戦隊ニンニンジャー」。巷では『ニンジャスレイヤー フロムアニメイション』が話題になったり、「スケバン刑事III 少女忍法帖伝奇」の主役・風間三姉妹の「最初で最後の」コンサートが7月に開催されることが決まったりと、今年は「忍者イヤー」到来の雰囲気なのである。
忍者を題材にした少年少女向け番組といえば、実写作品では古くから「隠密剣士」(1962)、「忍者部隊月光」(1964)、「仮面の忍者赤影」(1967)などがあり、70年代以降も「変身忍者嵐」(1972)、「快傑ライオン丸」(1972)、「忍者キャプター」(1976)、「猿飛佐助」(1980)、「世界忍者戦ジライヤ」(1988)、「忍者戦隊カクレンジャー」(1994)、「忍風戦隊ハリケンジャー」(2002)等々と枚挙にいとまがない。ではアニメはというと、こちらも『少年忍者 風のフジ丸』(1964)に始まり、『サスケ』(1968)、『忍風カムイ外伝』(1969)、『科学忍者隊ガッチャマン』(1972)、『忍者ハットリくん』(1981)、『伊賀のカバ丸』(1983)、『忍たま乱太郎』(1993)、『NINKU』(1995)、『NARUTO』(2002)など、すぐに7つや8つはタイトルが挙がるだろう。もちろん大人向けの時代劇でも多くの作品が作られている。日本のエンタテインメントにおいて「忍者」はかくも人気ある伝統的テーマのひとつなのだ。
今回は、そんな忍者を題材にしたアニメ作品の中から1985年に放送されたTVアニメ『忍者戦士飛影』を取り上げよう。製作はスタジオぴえろ(現・ぴえろ)。原案とシリーズ構成が渡邊由自、キャラクターデザインには平野俊弘が参加している。海外では「Ninja Robots」のタイトルで放送されたこともある作品だ。昨年(2014年)12月にBlu-ray BOXが発売されて、今年の忍者イヤーを盛り上げるのに一役買っている。
舞台は西暦2200年。宇宙制覇をもくろむザブーム皇帝軍に対抗するため、伝説の戦士「忍者」を探して太陽系にやってきたラドリオ星人と火星で育った地球人の若者が共闘する物語である。タイトルの「飛影」は忍者の能力をモデルに作られた人型ロボットの名だ。
実は筆者は放送当時本作をほとんど観たことがない。でもサントラは買っていた(正確に言うと発売後しばらくして中古盤で買った)。理由は音楽を川村栄二が担当していたからである。
川村栄二は北海道小樽市出身の作・編曲家。北海道大学在学中より音楽活動を始め、大学を中退してそのままバンドのギタリストとして札幌で活動するようになった。その頃からバンド・アレンジを手がけていたという。その後上京し、劇場作品「小説吉田学校」(1983)で初めて映像音楽を担当。以降、歌謡曲の編曲の仕事と並行して、劇場作品・TVドラマ・アニメ等の音楽を数多く手がけるようになる。代表作はTVドラマ「銭形平次[風間杜夫版]」(1987)、「仮面ライダーBLACK」(1987)、「仮面ライダーBLACK RX」(1988)、「五星戦隊ダイレンジャー」(1993)、「忍者戦隊カクレンジャー」(1994)、「重甲ビーファイター」(1995)、火曜サスペンス劇場「警視庁鑑識班」(1996-2005)、劇場作品「あずみ2 Death of Love」(2005)など。アニメでは『光の伝説』(1986)、OVA『冥王計画ゼオライマー』(1988)、『ブラック・ジャック』(OVA版6話以降、および劇場版第1作)等の作品がある。
川村栄二の音楽は、一聴しただけで、「あ、川村栄二!」とわかる特徴のあるサウンドを持っている。メロディやアレンジ(オーケストレーション)も特徴的だが、それ以上に音楽を構成する「音」がほかにはない「川村栄二の音」なのだ。音を聴いただけで「川村栄二の曲」とわかる。こういう作家はあまりいない。
『忍者戦士飛影』は川村栄二の映像音楽のキャリアの中でも初期の作品のひとつである。しかし、川村栄二独特の音使いをすでに聴くことができる。
サントラ盤は1985年12月5日にキャニオン・レコードよりLPレコードとCDで同時発売された。LPとCDの収録内容は同じである。
- LOVEサバイバー(歌:HIT BOY)
- やすらぎの日々
- 出逢いは期待あふれて
- 美しきロミナ
- 獣魔 黒獅子
- ザブーム星の侵略
- 宇宙のララバイ
- 海魔 爆竜
- 飛影 見参!
- ラドリオ星の悲劇
- 空魔 鳳雷鷹
- エルシャンクの大飛行
- 熱き友情
- この胸の痛み
- バギーカーチェイス
- キュートなレニーアイ
- 苦しき火星開拓
- 勇者の進軍
- ふたつの絆
- 一世紀めのエンジェル(歌:HIT BOY)
1曲目と最後の曲がオープニング&エンディング主題歌。作曲が「CAT’S EYE」の小田裕一郎で作詞が『プリキュア』シリーズなどで活躍する青木久美子。これが青木久美子の初のアニメソングの仕事だった。歌うHIT BOYはキャニオン・レコードよりデビューした5人組のバンド。本作以外ではTVドラマ「気になるあいつ」(1985)の主題歌「青春あっぱれ節」を歌っている。
サントラ・パートはゆったりとした「やすらぎの日々」からスタート。次の「出遭いは期待あふれて」は力強いファンファーレから始まる希望を感じさせる楽曲。続いてバイオリンとシンセのメロディによる異星人ロミナのさみしげなテーマ「美しきロミナ」につながる流れだ。
平和ムードから始まる構成だが、番組の雰囲気からすると、緊迫感のある「ザブーム星の侵略」(トラック6)あたりを頭に置いて、サスペンス曲やアクション曲を続けて聴かせた構成のほうがよかったと思う。
川村栄二の本領発揮! と感じるのはやはりアクション曲である。
トラック5「獣魔 黒獅子」は主人公の少年ジョウが乗るロボット・黒獅子のテーマ。「獣魔黒獅子」は飛影と合体してライオン型になったときの呼び名だが、本曲は合体前の黒獅子活躍シーンにも使用されている。
弦の上昇音階がサスペンスを盛り上げる導入部に続いて、獅子の咆哮を思わせるブラスのフレーズが戦いの開始を知らせ、シンセの細かいリズムをバックにした緊迫感あふれるアクション曲パートになだれ込む。弦の静かなメロディが登場する間奏部をはさんで、ふたたびシンセの細かいリズムとブラスによるアクション曲〜弦の静かなメロディ〜アクション曲と目まぐるしく曲想が変わっていく。
次の展開が予想できない意表をついた構成の楽曲である。このアカデミックな音楽の常識をはずれた「破格」の感じが川村栄二の音楽の魅力のひとつ。そして、アクション曲パートのバックで鳴っているシンセのリズム。これこそ「川村栄二の音」だ。
トラック8「海魔 爆竜」はジョウの弟分である少年マイクが操縦するロボット・爆竜のテーマ。こちらも飛影と合体して竜型ロボット「海魔爆竜」となる設定だ。
曲はシンセのリズムから始まり、鋭いブラスとティンパニ、シンセドラム等が加わって厚みを増していく構成。ミディアムテンポのアクション曲である。ここでもリズムを刻むシンセやSEのようにも聴こえる「ジュワーッ」というシンセの音が印象的だ。
次のトラック9「飛影 見参!」は本作の音楽の中でも耳に残る曲のひとつ。ジョウたちを助ける忍者ロボット・飛影の登場シーンによく使われた楽曲である。「謎の戦士登場!」という雰囲気のホルンによるイントロから始まり、中間部はリズムが入って、たたみかけるブラスのフレーズが緊迫感を盛り上げる。後半は雰囲気が一転して、ピアノと弦がユニゾンで奏でるエンディングテーマ「一世紀めのエンジェル」の変奏になる構成。危機感たっぷりの前半とヒロイックな後半との対比が効果的だ。「次の展開が予想できない」川村栄二ならではの楽曲の魅力が炸裂している。
トラック11「空魔 鳳雷鷹」はヒロイン・レニーが操縦するロボット・鳳雷鷹(ほうらいおう)の曲。「空魔鳳雷鷹」は飛影と合体して鷹型になった姿の呼び名である。
長い不安なイントロが1分近く続く。ハーモニーが変わり、高音のシンセのフレーズが空に舞い上がるような飛翔感を描写、ブラスが入ってアクション曲パートに突入する構成。鳥型メカのテーマということで高音の鋭いサウンドが強調されている。終盤に入る前のピアノのリズムとブラス、シンセのかけあいなど、まさに川村栄二サウンドである。
川村栄二のシンセを多用したサウンドは現代の打ち込み中心の音楽にまっすぐつながっていると思う人も多いかもしれない。
しかし、川村栄二の音楽は、打ち込みによる音楽とは別ものである。たとえば「獣魔 黒獅子」などで聴かれる印象的な細かいシンセのリズム。これはプログラミングによるものではなく、手弾きされたものなのだ。筆者が川村栄二から聞いた話では、キーボードを3人ぐらい入れてほかの楽器と同時に録音したのだという。その作り方は本作以後の「仮面ライダーBLACK」等でも変わっていない。電子楽器の音をふんだんに使いながらも演奏にはミュージシャンの息遣いやセッションの熱さがこもっている。この「電子サウンドと生演奏のグルーブ感が合体した感じ」が聴いていてなんともいえない高揚感・酩酊感を誘う川村栄二サウンドの秘密だと思う。
本アルバムには、アクション曲以外にも、シンセのアルペジオにフルートのやさしいメロディが乗る「宇宙のララバイ」、ふわっとした浮遊感をシンセの音と流麗な弦の旋律で表現した「エルシャンクの大飛行」、リズムがはずむさわやかなヒロイン・レニーのテーマ「キュートなレニーアイ」など魅力的な楽曲が収録されている。
とはいえ、川村栄二アクション音楽のファンとしては、劇中ふんだんに使われていた危機描写曲やアクション曲をもっと入れてほしかったなあというのが素直な印象。サントラとしてはちょっと物足りない。だけど、川村栄二のアクション・サウンドの原点を聴くことができる貴重なアルバムである。
本作のあと、川村栄二は「仮面ライダーBLACK」(1987)で特撮ヒーロー番組に進出。『飛影』以上にエッジの立った、凄みのあるサウンドで特撮ファンに衝撃を与えた。以降の活躍は冒頭でも紹介したとおり。特撮に比べるとアニメの担当作が少ないのが不思議に思えるが、川村栄二の「音」は実写の空気感に合っていたのだろう。
今回紹介した『忍者戦士飛影』のサントラCDは残念ながら現在入手困難になっている。しかし、特撮作品のほうは比較的容易に入手できるものが多いので、「川村栄二サウンド」を未体験の方はぜひ聴いていただきたい。
4月22日には新編集による「仮面ライダーBLACK」「仮面ライダーBLACK RX」の「SONG & BGM COLLECTION」が日本コロムビアより発売される。80年代映像音楽シーンに衝撃を与えた川村栄二サウンド、いまこそ再評価のときが来たかもしれない。