腹巻猫です。音楽ライターの不破了三さんと共同で主催しているサントラDJイベント〈Soundtrack Pub〉を2月15日(日)15時〜東京・蒲田のstudio80(オッタンタ)で開催します。特集は最近のサントラ動向を紹介する「サントラ最前線!」と昨年11月に亡くなった越部信義の仕事を振り返る「追悼・越部信義」の2本立て。お時間あれば、ぜひおいでください! 詳細は下記参照。
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前回に続き、1月21日に日本コロムビアから発売されたAIMEX1200シリーズの中からの1枚。今回は「ファイティング ブラス オブ キン肉マン」を紹介したい。
このアルバムの正式タイトルは「キン肉マン キン肉星王位争奪編 オリジナル音楽集 ファイティング ブラス オブ キン肉マン」。TVアニメ『キン肉マン キン肉星王位争奪編』の音楽集として発売されたアルバムだ。
『キン肉マン キン肉星王位争奪編』は『キン肉マン』(1983-86)の続編として1991年10月から1年間放映された東映アニメーション制作のTVアニメ作品。超人オリンピックと宇宙超人タッグトーナメントを制してキン肉星の王位を継承することになったキン肉マンの前に、王位継承者を名乗る5人の王子が出現。キン肉マンが王位を賭けて最後の戦いを繰り広げる物語だ。
旧作の『キン肉マン』の音楽は『じゃりン子チエ』『未来警察ウラシマン』などを手がけた風戸慎介が担当したが、本作は吉田明彦が担当している。
吉田明彦は横浜市出身のトランペット奏者・作曲家。映像音楽では東映スーパー戦隊シリーズの音楽を「高速戦隊ターボレンジャー」(1989)、「地球戦隊ファイブマン」(1990)、「恐竜戦隊ジュウレンジャー」(1992)と3年連続して担当したことで特撮ファンに記憶されている。ほかにはTVアニメ『もーれつア太郎』(1990)、OVA『仮面ライダーSD』(1993)、TVドラマ「ひとりっ子同志」(1996)などの作品がある。
本アルバム「ファイティング ブラス オブ キン肉マン」には歌は収録されておらず、全編インスト曲だけで構成されている。オリジナル盤の解説書によれば、TVアニメのために作曲されたBGM87曲から当初からCD化を意図して録音された40曲を各4曲ずつ10ブロックに分けて収録したという。70年代のコロムビアのアニメサントラによく見られた組曲形式のアルバムなのだ。
収録トラックは以下のとおり。
- シャイニング マッスル
- アナザー ブラッド
- ターミネーション
- フェイス フラッシュ
- デンジャー ロード
- コミカル チャンプ
- プレッシャー マインド
- ハングリー ファイト
- ダーティ チャレンジャー
- サンライズ ヴィクトリー
特徴的なのは楽器編成だ。トランペット3本にトロンボーン1本、サックスが2本。それにドラムス、ベース、ギター2本、ピアノ、ラテンパーカッション、シンセサイザーが加わったブラスロックバンド編成である。参加メンバーがトランペット・数原晋、林研一郎、西村浩二、トロンボーン・松本治、サックス・平原まこと、金城寛文、ドラムスが渡嘉敷祐一、ベースは渡辺直樹、ギター・古川望と梶原順、ピアノに深町純、ラテンパーカッションが梯郁夫、シンセサイザーは吉田明彦自身。ソロミュージシャンとしても活躍するプレーヤーがそろった豪華メンバーだ。演奏の名義は吉田明彦&SHAKE’Sとなっている。
曲が熱い。ブラスセクションが吼えまくるファンクテイスト満載の音楽である。各トラックは通しで演奏されており、バラバラのBGMをつなぎあわせた印象はない。1トラックの中に起伏に富んだ展開があり、当初から組曲として構想されていることがうかがえる。
1曲目「シャイニング マッスル」は雄大なファンファーレから始まるキン肉マンのテーマ。主題歌「ズダダン!キン肉マン」のアレンジでキン肉マンの雄姿を歌い上げる。シンセとピアノが友情のメロディを奏でる中間部からエレキギターのアドリブをブリッジにふたたび主題歌アレンジ。リングを駆けまわるキン肉マンが眼に浮かぶようなテンションの高い曲だ。
2曲目「アナザー ブラッド」はキン肉マンのライバルである5人の王子のテーマ。ファンキーなリズムに導かれてブラスセクションとシンセサイザーが5人の王子の登場を描写する。陽性な1曲目とは対照的にちょっとダークなヒール(悪役)のカッコよさを表現した曲だ。
3曲目「ターミネーション」は緊迫感や悲壮感を表現する心理描写曲。エレキギターの泣きが入る中間部がいい。新たな決意を表すブラスとエレキギターの力強いフレーズで曲は終わる。
抒情的な4曲目「フェイス フラッシュ」、ファンキーな5曲目「デンジャー ロード」、楽しい曲調の6曲目「コミカル チャンプ」と多彩なトラックをはさんで、7曲目「プレッシャー マインド」はキン肉マンのピンチを描写する曲。エレキギターとブラスのかけあいが劣勢の戦いを描写。ソプラノサックスが哀愁たっぷりに歌う中間部を経て、曲は残虐な戦いを描写する全合奏で盛り上がる!
8曲目「ハングリー ファイト」は敗北から立ち上がる超人の心情を描写する曲。とりわけ終盤に入ってからのサンバのリズムに乗ったブラスとエレキギター、ピアノのアンサンブルによる反撃のテーマが燃える。
9曲目「ダーティ チャレンジャー」は5人の王子を操る邪悪の神のテーマ。シンセの怪しい音色をバックにギター、ベース、ブラスが悪のテーマを奏でる。明快なメロディはないが、セッションの緊張感で聴かせる曲。映像音楽の役割を果たしながら、音楽としても聴きごたえのある1曲だ。
アルバムのラストを飾る10曲目「サンライズ ヴィクトリー」は勝利のテーマ。歯切れのよいブラスのフレーズにエレキギターのアドリブがからむ前奏部に続いて、栄光のパレードを表現する爽快なフュージョン風のテーマ。後半は力強いブラスとエレキギターのメロディによる決意のテーマになる。締めくくりはファンキーな火事場のクソ力のテーマだ。
80年代末から90年代にかけて、アニメ・特撮サントラは大編成オーケストラによるゴージャスな音楽、もしくは、シンセサイザーと小編成の生楽器によるポップな音楽が目立っていた。
そこに現れた本作。ホーン隊を前面に出した編成とアレンジ、ミュージシャンの熱気が伝わる熱い演奏。ちょっと時代の流行からはずれた異色のサウンドである。
が、『キン肉マン』という作品には、このくらいの過剰な熱さと勇ましさがふさわしい。アニメ本編を観ていなくても、アルバム単体で楽しめる充実の内容だ。発売当時はスルーしたという人にも聴いてもらいたい1枚である。
なお、今回のANIMEX1200シリーズに入った「仮面ライダーSD 音楽集」も吉田明彦の作・編曲、演奏が吉田明彦&SHAKE’Sによるアルバム。ちょっとしたレア盤なので、この機会にぜひ一緒にどうぞ。
ファイティング ブラス オブ キン肉マン
COCC-72270/1200円/日本コロムビア
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仮面ライダーSD 音楽集
COCC-72264/1200円/日本コロムビア
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