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夏のコミケで頒布される『機甲界ガリアン』リスペクトCD(by不気味社)に解説で参加させていただいた。久しぶりに冬木透の音楽を聴いたら、乾いた喉に冷たい水がしみこむような(from『新巨人の星II』主題歌)ほっとする思い。このぬくもりのある音楽について書いてみたい。
『機甲界ガリアン』は高橋良輔監督のロボットアニメ作品。1984年10月から半年間にわたって放映された。異世界ファンタジー風の世界を舞台に甲冑型のロボットが活躍する物語。ファンタジーに見えて実はSFという凝った設定の作品だ。
音楽の冬木透と高橋監督とは『太陽の牙ダグラム』(1981)でもタッグを組んでいる。『ダグラム』では戦争映画を思わせる重厚で緊迫感に満ちた音楽が物語にリアリティを与えていた。いっぽうの『ガリアン』は中世ヨーロッパに似たファンタジー風の世界。同じ冬木透による音楽だが、音楽の方向性は異なっている。
冬木透の名前にピンとくる人の多くは特撮ファンだろう。『ウルトラセブン』(1967)に始まり、『帰ってきたウルトラマン』(1971)、『ウルトラマンA』(1972)、『ミラーマン』(1972)、『ウルトラマンレオ』(1974)等々、円谷プロの特撮ヒーロー作品を数多く手がけた作曲家だ。『帰ってきたウルトラマン』の防衛チーム出動場面に流れる“ワンダバダバダバ”という勇壮なコーラスの曲は、特撮・アニメ番組のメカニック発進シーンが「ワンダバ」と総称されるようになるほど大きなインパクトを与えた(このワンダバ・コーラスは『宇宙戦艦ヤマト2199』の音楽に取り入れられている)。
冬木透は1950年代後半からTVドラマ・劇場作品の音楽家として活躍。日本の映像音楽を支えた大ベテランの1人だが、アニメ作品は1970年代末まで縁がなかった。円谷プロ制作による『ザ☆ウルトラマン』(1979)が初のアニメ作品だ。ただ、これはウルトラシリーズの延長であり、『ウルトラマン』の作曲家・宮内國郎との共作でもあった。1981年に手がけた『太陽の牙ダグラム』が初めての本格的なアニメ作品といってよいだろう。『機甲界ガリアン』に参加した1984年には世界名作劇場『牧場の少女カトリ』の音楽も担当している。
特撮番組に親しんだファンなら、冬木透の音楽と聞いてすぐ思い浮かぶのはヒーローの活躍シーンに流れるバトル音楽やメカニックの活躍シーンに流れる高揚感のある曲(ワンダバ曲)だろう。けれど、冬木音楽の根底には慈愛に満ちたやさしいサウンドが流れている。『機甲界ガリアン』の音楽は、そんな冬木透の大らかな音楽性が存分に発揮された作品である。
本作のサウンドトラック・アルバムは1984年12月に「音楽集Vol.1」が、1985年3月に「音楽集Vol.2」がLPレコードの形でワーナー・パイオニアから発売された。1985年6月には2枚ともCD化されたが、早い時期に廃盤となり、長らく手軽に聴けない状態が続いた。2008年にディスクユニオンの企画で2枚の音楽集のCD復刻が実現。現在も入手することができる。
「機甲界ガリアン 音楽集Vol.1」の収録曲は以下のとおり。
- 伝説(プロローグ)〜オープニング・テーマ ガリアン・ワールド〜
- ボーダー王国
- 危機
- 勇戦ガリアン
- 安住の地
- 老戦士アズベス
- 神秘の扉
- ジョジョとチュルル
- 戦慄
- ロロップルの襲撃
- 救世主
- ほのかな想い
- 戯れ
- エンディング・テーマ 星の1秒
主題歌は井上大輔が作曲。『銀河漂流バイファム』の主題歌「HELLO, VIFAM」を歌ったロック・バンドTAOの流れを汲むEUROXが歌と演奏を担当している。80年代アニメソングの中でも燦然と輝く名曲のひとつだ。
冬木透はこの主題歌のメロディをBGMにも取り入れている。主題歌とBGMの分業が進んだ80年代後半以降のアニメ音楽ではなかなか聴かれない音楽設計だ。劇中音楽に主題歌のさまざまな変奏が散りばめられているので主題歌と本編がしっくりとなじんでいる。井上大輔のメロディがまた、どんなアレンジでも栄えるすばらしい旋律なのだ。
音楽集の1曲目は冬木透によるBGM「伝説」から主題歌のフルコーラスにつながる構成。「伝説」は本編第1話の冒頭に流れた曲だが、そこから主題歌に続く演出はアルバムだけのもので本編にはない。クラシカルな冬木透の音楽と主題歌のロック・サウンド。これが意外に違和感なくつながっていて、プログレ色の強いロック・アルバムの導入部を聴くようである。
2曲目の「ボーダー王国」では歴史ドラマのような雄大かつ格調高い曲調を聴くことができる。エンディング主題歌「星の1秒」のメロディがチェレスタ、フルート、ストリングスのやさしい音色で演奏される。冬木透が『ガリアン』をSFやファンタジーというよりも熱い血が通う人間のドラマとしてとらえていることがうかがわれるトラックだ。
3曲目「危機」はウルトラシリーズでもおなじみの緊迫感あふれる曲調。単に危機感をあおるだけでなく、ワーグナーの歌劇にも似たダイナミズムとロマンティシズムが感じられる冬木透らしい楽曲だ。この曲調は9曲目「戦慄」、10曲目「ロロップルの襲撃」でも聴くことができる。同じ戦いの曲でもミリタリー色の強い『ダグラム』と比べ、「肉弾相打つ!」という印象のサウンドになっている。
4曲目「勇戦ガリアン」はウルトラシリーズで冬木透ファンになったという人にもお奨めのトラック。若き王子ジョルジュが操る主役ロボット=ガリアンの登場、戦いのテーマである。ファンファーレ風の英雄のモチーフが緊迫感を含んで演奏される。ガリアンの威容を表現する重厚な序奏から曲はアップテンポに転じ、ガリアンの戦闘テーマになる。
ここでウルトラシリーズなら爽快なヒーロー活躍の曲になるところだが、冬木透はそこをぐっとこらえて、緊迫感を維持したままシリアスな戦いの音楽を展開。ヒーロー対怪獣ではなく、人間同士の戦いを描く作品だから、主役がむやみに英雄っぽく見えてはいけないという配慮だろう。これは『ダグラム』にも共通する音楽設計である。
冬木透音楽のやさしさ、大らかさがよく出ているのが5曲目「安住の地」、8曲目「ジョルジュとチュルル」、12曲目「ほのかな想い」、13曲目「戯れ」だ。木管とストリングスのアンサンブルの美しさはクラシックを学んだ冬木透ならでは。聴いていると、人間同士のふれあいや情愛を表現する曲をとても大切に作っていることが伝わってくる。
6曲目の「老騎士アズベス」も味わい深い曲だ。若き王子を守る騎士アズベス(声は小林修!)の剛毅にして義侠に富んだ人物像が弦の響きで表現される。シリアスな人間ドラマ風の音楽であり、ウルトラシリーズではなかなか聴けない曲調だ。
本作の音楽は生楽器によるオーケストラで演奏され、シンセサイザーはおろか、エレキギターやエレキベースすらもほとんど使用されてない。これもまた、冬木透のこだわりだろう。
11曲目「救世主」では重厚なオーケストラの響きで若き王子ジョルジュの運命と決意が描写される。エンディング主題歌のモチーフが聴こえてくると「またたく星の1秒」という歌詞の一節が脳裏をよぎり、思わず惑星アーストに幾星霜の時が流れる映像が見えるような気がする。主題歌のメロディをBGMに取り入れているからこその効果だ。
国を追われた若き王子が王国の再興を期して伝説の力を手に入れ、邪悪な征服王に立ち向かう。この原型的な物語に冬木透はロマンに満ちた歴史冒険活劇の香りをかぎとっていたに違いない。だから音楽もそれにふさわしい風格とスケール、そして人間的なぬくもりを持ったものになった。
筆者は、もし冬木透がNHKの大型時代劇(大河ドラマ)を担当していたらこんな音楽だったのではないか……とつい想像してしまう。壮大な合戦シーンに、母と子の情愛のシーンに、豪快なつわものたちが暴れまわるシーンに、きっとこういう音楽が流れていただろうと思うのだ。『ウルトラセブン』の冬木透しか知らないという人にこそ、本作をぜひ聴いてもらいたい。特撮ヒーロー作品とはまた違った冬木透音楽の魅力を堪能できる作品である。
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