腹巻猫です。新年あけましておめでとうございます。この連載も2年目に突入しました。本年もよろしくお願いします!
1月5日から始まったNHK大河ドラマ「軍師 官兵衛」の音楽は菅野祐悟。映像音楽の世界でもっとも勢いに乗っている若手作曲家だ。
1977年生まれ。東京音楽大学作曲指揮専攻・映画放送音楽コース卒業。在学中からアーティストへの楽曲提供などを始め、卒業後の2004年にTVドラマ「ラストクリスマス」の音楽を担当して映像音楽に本格的にデビューした。以来、TVドラマ「ハケンの品格」(2007)、「ガリレオ」(2007)、「SP 警視庁警備部警護課第四係」(2007)、「新参者」(2010)、「謎解きはディナーのあとで」(2011)、「安堂ロイド〜A.I. knows LOVE?〜」(2013)、劇場作品「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」(2012)など、話題作、人気作を次々と手がける人気作家として活躍している。映像音楽作家としてのキャリアは10年ほどだが、手がけたTVドラマ、劇場作品の数はすでに70本以上。今、最高の売れっ子といってよいだろう。
筆者が菅野祐悟の名前をはじめて意識したのは2006年に放映されたTVドラマ「アテンションプリーズ」だった。タイトルバックにかかるメインテーマが躍動感満点、華があり、才気にあふれていた。「イキのいい音楽を書く人が出てきたなあ」と思い、サントラ盤が出るなり買って聴いた。その後も、「SP」「図書館戦争」「新参者」など快作を連発。あっという間に人気作家になっていた。
菅野祐悟は「うまい」作家だ。メロディ作りもアレンジも巧みで、とりわけ、メインテーマはどの作品も一度聴いただけで耳に残る。単に印象に残るだけでなく、どの作品にも「今回はこう来るか!?」という意外性を含んだ工夫が凝らされている。
たとえば人気シリーズとなった東野圭吾原作のドラマ「新参者」のメインテーマ。イントロから耳を奪われる。まるでニーノ・ロータの映画音楽のような小粋でヨーロッパ風、日本の刑事ドラマ、ミステリードラマの常道をはずれた音楽である。それでいて、作品にこの上なくはまっている。「この作品ならこんな音楽」と一直線に答えを出すのではなく、そこをもうひとひねり、さらにレベルを上げてひとひねり、と推敲を重ねた過程が想像される。
TVドラマでは大活躍の菅野祐悟だが、アニメ作品は意外と少ない。代表作として挙げられるのは『働きマン』(2006)、『図書館戦争』(2008)、『鉄腕バーディー DECODE』(2008)、『PSYCHO-PASS』(2012)などだろう。
数は少ないが、アニメ音楽の分野でも菅野祐悟の個性と才能は存分に発揮されている。今回は特にスケールの大きい『鉄腕バーディー DECODE』を紹介したい。
『鉄腕バーディー DECODE』は2008年に放映されたTVアニメ作品。ゆうきまさみのマンガ『鉄腕バーディー』を原作に、オリジナルの設定・ストーリーで映像化したSFアクションアニメだ。
第1話冒頭、主人公・バーディーが宇宙船で犯罪者を追うシーン。ここで流れる音楽から、もうぐいぐい引き込まれる。本放映当時、「すごいものが始まったなあ」と感動したのを覚えている。
この場面で流れていたのが「メインテーマ -SIDE BIRDY-」という曲。打ち込みのリズムに生のヴァイオリン、ピアノ、サックスがからまる、スリリングでスピード感たっぷりの本作のメインテーマだ。
サントラ盤はアニプレックスから2枚組で発売された。全42トラック収録。収録曲は下記リンク先を参照いただきたい。
「鉄腕バーディー DECODE ORIGINAL SOUNDTRACK」
http://www.amazon.co.jp/dp/B001DNF7OW/
サントラ盤の構成が凝っている。
『鉄腕バーディー DECODE』は、宇宙人の捜査官・バーディーと地球人の高校生・つとむが、ひとつの体にふたつの心を宿す「二心同体」となって活躍する物語。その設定を反映して、DISC1を「SIDE BIRDY」、DISC2を「SIDE TSUTOMU」として構成している。
DISC1「SIDE BIRDY」はバーディーの活躍を彩る曲を中心とした内容。先に挙げた「メインテーマ -SIDE BIRDY-」をはじめ、アクション曲やサスペンス曲、宇宙犯罪者のテーマなどが収録された。ノイズ・ミュージック風のミステリー曲「ノイズ」やエスニックな「友達にならないか?」、ハウス・ミュージック風のアクション曲「Attack!」「かかってきなさい!」などバラエティに富んだ曲調で聴かせる。
小編成のバンド・セッションでのどかに演奏される「しおん」と「生き抜くであります、芸能界」はDISC1の中でも異色な日常曲。地球に滞在中のバーディーがグラビアアイドル「有田しおん」として芸能界で働いているという設定から生まれた曲だ。
スペーシーなサウンドで叙情的なメロディを歌わせた「彼女の故郷」が本作同様に宇宙からの来訪者を描いたSF劇場作品「スターマン」(1984/1985日本公開)をほうふつさせていい(曲が似ているということではない)。
「オリオテーラ」は宇宙連邦の首都の名前をタイトルにした曲。オーケストラで奏でられる雄大な曲想は宇宙SFものになくてはならないもので、聴いていると異星の都市やメカニックの威容が目に浮かんでくる。
バーディーの活躍をイメージした「連邦捜査官の戦闘」、メインテーマのアレンジ曲「wonder woman」、6分を超える力作「another stage」はいずれもオーケストラ主体のアクション曲。どれもオケの鳴らし方や楽曲構成の巧みさを味わえる、本アルバムの聴きどころである。ちなみにオーケストラは約50人の編成で録音されたという。
DISC2「SIDE TSUTOMU」はつとむの視点に寄り添った曲を中心にした内容。
こちらではメインテーマの別タイプ「メインテーマ -SIDE TSUTOMU-」を開幕に、つとむの日常を描く平和曲や情感曲をメインに収録している。DISC1とはまた雰囲気が変わり、アコースティック・ギターを生かした「一日の始まり」「バディ -guitar ver.-」や、テクノ風のとぼけた曲「お気の毒さま」「巻き込まれ型」、しっとりとした「記憶の底」「宿主の悲しみ」、秘めた激情を感じさせる「シャマラン」など、ほっとする曲、じっくり聴かせる曲が並ぶ。ハウス風の「二心同体の捜査模様」が遊び心たっぷりで楽しい。
DISC1を「動」とすればDISC2は「静」。もしくはDISC1が「外」でDISC2が「内」。2枚のDISCの対比がバーディーとつとむのキャラクターとも重なる、うまい構成になっている。
DISC2のラスト前に置かれた「バディ」はタイトルどおり、バーディーとつとむの関係を表現した曲。シンセの音色を控えて生楽器主体で奏でられる、本作の「友情のテーマ」とも呼べる曲だ。感傷に流れない品のよい旋律は菅野祐悟の持ち味のひとつ。宇宙人と地球人との友情をテーマにした本作品にぴったりの、アルバムの終幕を飾るにふさわしい、いい曲だ。
DISC2のラストに収録された「マリオネットの子守唄」は本編で流れる劇中歌。実は本作品のもうひとつのメインテーマともいうべき重要なメロディである。
このサントラ盤の発売直前、筆者は菅野祐悟にインタビューする機会があった。そのとき、この曲にまつわる面白い話を聞いた。
劇中重要な役割をする「リュンカ」のテーマとこの「マリオネットの子守唄」は密接に関連している。「マリオネットの子守唄」のメロディはつとむが想いを寄せる美少女・小夜香のテーマとして、DISC2の「SAYAKA」、そのピアノ版「SAYAKA -piano ver.-」でやさしく奏でられる。そして、同じメロディがDISC1の「少しずつ深みに」では不安げに奏でられ、さらに「リュンカ」では現代音楽の無調の技法を使って不気味に演奏される。ひとつの旋律をさまざまに色を変えて変奏することで、キャラクターがしだいに変貌していくさまを音楽的に表現したのだという。物語を内包した音楽的しかけ。こんなところにも菅野祐悟の「ひとひねり」——才気の冴えが感じられる。
2枚のDISCでひとつの物語、ひとつのアルバムでふたつの顔。『鉄腕バーディー DECODE』のサントラ盤は、なにげなく聴いても楽しいが、聴きこむとさらに発見があるアルバムだ。本編同様、いくつもの視点で楽しめる作品である。
若い頃からフランスの作曲家・ミシェル・ルグランにあこがれていたという菅野祐悟は、そのルグランに倣って、自らピアノを弾き、指揮をするオーケストラ・コンサートを精力的に行っている。2008年に開催された2ndコンサートでは『鉄腕バーディー DECODE』から「メインテーマ -SIDE BIRDY-」が演奏され、会場は大盛り上がりだった。今年は2月8日(土)に渋谷のオーチャードホールで「菅野祐悟バレンタイン・コンサート2014」が開催される。アニメ作品も演奏されるようだから注目だ。
1月29日には「軍師 官兵衛」サントラ盤と菅野祐悟の最新ベストアルバム「thanks!」が発売される。2014年はどんな音楽を聴かせてくれるか? 今年も菅野祐悟の活躍が楽しみであります〜(と『鉄腕バーディー DECODE』の有田しおん調に締め)。
鉄腕バーディー DECODE ORIGINAL SOUNDTRACK
価格/3675円(税込)
レーベル/アニプレックス
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鉄腕バーディー DECODE:02 ORIGINAL SOUNDTRACK
第2シーズン『鉄腕バーディー DECODE:02』の音楽集。
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図書館戦争 オリジナル・サウンドトラック
『鉄腕バーディー』と並ぶ菅野祐悟のアニメの代表作。
価格/3059円(税込)
レーベル/ソニー・ミュージックレコーズ
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GIFT〜菅野祐悟ベストセレクション〜
2008年発売のベストアルバム。初期の代表作がまとめて聴ける。
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レーベル/ユニバーサルシグマ
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thanks!〜菅野祐悟 ベストセレクション〜
最新ベストアルバム。2014年1月29日発売予定。
価格/3225円(税込)
レーベル/ソニーレコーズ インターナショナル
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