COLUMN

第24回 キュアメタルってなんだ!? 〜ハートキャッチプリキュア!〜

 腹巻猫です。以前この連載でもお伝えした「作曲家・高梨康治トークライブ」、いよいよ12月8日(日)19時〜阿佐ヶ谷ロフトAで開催になります。当日は飛び入りゲストもあるかもしれません。お時間あればぜひどうぞ!

劇伴倶楽部presents《SOUNDTRACK QUEST》
高梨康治トークライブ
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/19528


 その話を聞いたのは2010年の春ごろだった。
 高梨康治の「プリキュア」シリーズの音楽を「キュアメタル」と呼んで楽しんでいるファンがいるというのだ。
 「キュアメタル? キュアメタルってなんだ!?」

 2010年、TVでは『ハートキャッチプリキュア!』を放映していた。
 『ハートキャッチプリキュア!』は『ふたりはプリキュア』から始まる少女向けTVアニメ「プリキュア」シリーズの第7作である。「プリキュア」シリーズの音楽はずっと佐藤直紀が手がけていたが、第6作『フレッシュプリキュア!』(2009)からスタッフが大幅に入れ替わり、音楽も高梨康治に交代していた。
 高梨康治はもともとはロック・キーボーディストとして活躍していたミュージシャンだ。80年代に参加していたバンド「Heallen」は様式美メタル・バンドとしてへビーメタル・ファンに支持されている。90年代末から映像音楽にも手を染めるようになり、本格的にアニメ音楽デビューを果たしたのは2003年放映のTVアニメ『爆転シュート ベイブレードGレボリューション』。以来、TVアニメ『地獄少女』(2005)、『怪』(2006)、『NARUTO 疾風伝』(2007〜)、『地球へ…』(2007)、TV特撮「超星神グランセイザー」(2003)、「幻星神ジャスティライザー」(2004)などの音楽を手がけていた。
 その作風は少しダークでアグレッシブ。『地獄少女』に代表されるようなホラーテイストの曲や激しい戦闘曲を得意とする作家という印象が強かった。およそプリキュアというイメージではない。高梨康治とプリキュアの組み合わせは、アニメ音楽ファンにとっても、プリキュアファンにとっても、ちょっとした事件だった。
 『フレッシュプリキュア!』の音楽は新鮮だった。プリキュアなのにダークで攻撃的なロックサウンドを容赦なくぶつけてくる高梨康治の意気込みが心地よかった。そこには新しいカッコよさと燃える音楽があった。
 特にプリキュアの敵「ラビリンス」を描写する子ども番組とは思えないような怖い音楽や悲壮な覚悟を宿したバトル音楽に耳を奪われる。ラビリンスの女幹部イースの悲劇と再生のエピソードは、高梨康治の音楽によって最高に盛り上がったといってよい。とりわけ記憶に残るのは『フレッシュプリキュア!』のサントラ2枚目に収録されている「燃え上がる闘志」。激しいテンポでリズムを刻むバスドラム、ストリングスとギターが奏でる悲壮な旋律。プリキュアとヘビーメタルの融合が生んだ新生プリキュアサウンドを代表する楽曲だ。
 たとえば、それがキュアメタルである。

 続く『ハートキャッチプリキュア!』は高梨康治なりのプリキュア音楽をいっそう追求した作品である。『フレッシュプリキュア!』ではまだ試行錯誤だったという高梨だが、『ハートキャッチプリキュア!』は迷いなく作れたと語っている。
 その言葉どおり、『ハートキャッチプリキュア!』の音楽はすばらしい。この作品は絵柄的にも『おジャ魔女どれみ』の馬越嘉彦がキャラクターデザイン&作画監督で参加して、歴代プリキュアシリーズの中でも屈指の愛らしいキャラクターが活躍する作品になっている。モチーフは花とファッション。女の子の大好きが詰まっている作品なのだ。それを受けて、音楽にも明るくファンタジックな要素が盛り込まれた。高梨康治のプリキュア・サウンドはこの作品で完成したといってもよいと思う。
 『ハートキャッチプリキュア!』のサウンドトラックは2枚発売されている。構成は2枚とも筆者が担当した。この2枚はぜひセットで聴いてほしい。
 ※曲数が多いため、トラックリストは省略します。下記リンクを参照ください。

「ハートキャッチプリキュア! オリジナル・サウンドトラック1」
http://www.amazon.co.jp/dp/B003CISQBW/
「ハートキャッチプリキュア! オリジナル・サウンドトラック2」
http://www.amazon.co.jp/dp/B0044VKK56/

 1枚目は番組序盤で活躍する2人のプリキュア=キュアブロッサムとキュアマリンの活躍をイメージした構成。
 サントラ1の1曲目に収録されたのは「プリキュア!オープン・マイハート!」、変身BGMである。この斬新な曲順は高梨康治の希望によるものだ。生粋のロック・ミュージシャンである高梨は、アニメサントラといえどもロックアルバムのような雰囲気で聴いてほしいと、1曲目と2曲目に変身BGMとプリキュア活躍BGMを配置する構成を提案した。
 その1曲目と2曲目からぐっと心をつかまれる。「プリキュア!オープン・マイハート!」は激しいリズムをバックにドリーミィな旋律が舞い踊る高揚感抜群の曲。2曲目の「プリキュア颯爽活躍です!」はプリキュアのメイン戦闘曲。こちらもリズムは激しいがメロディやアレンジは華やかでロマンチック。プリキュアのアクションにぴったりの音楽になっている。
 本作では登場する4人のプリキュアそれぞれにテーマ音楽が作られている。「わたし、変わります!」は主人公つぼみが初めて変身を決意する場面に流れたキュアブロッサムのテーマのアレンジ。バスドラムの重量感とキラキラしたアレンジの組み合わせが楽しい。
 「えりか〜キュアマリンのテーマ」は活発なえりかのキャラクターを反映して、ギターサウンドが前面に出た軽快な曲調になっている。前向きで陽気なサウンドは『ハートキャッチプリキュア!』の作品イメージに重なる。
 1枚目のサントラの聴きどころと言えるのが、終盤に収録された「堪忍袋の緒がきれました!」だ。つぼみの怒りがプリキュアのパワーに変わる場面にたびたび使われた名曲。細胞をゆさぶるようなリズムをバックにしだいに盛り上がっていく曲調は、高梨ロックサウンドの真骨頂である。聴くうちに心はいつしかつぼみの気持ちとシンクロして、激しく燃え上がっていく。
 たとえば、それがキュアメタルだ。

 サントラ2枚目は、物語途中から参加するキュアサンシャインとキュアムーンライトの活躍をイメージして構成した。
 2枚目の1、2曲目は「キュアサンシャインのテーマ」と「響け!シャイニータンバリン」。ひまわりをモチーフとし、タンバリンを武器として使うキュアサンシャインのテーマは明るく華のある曲調。キュアサンシャインの戦闘曲である「響け!シャイニータンバリン」にはタンバリンの音がちりばめられている。メタルと呼ぶには明るく軽快すぎるかもしれないが、これもキュアメタルの仲間だ。
 サントラ2枚目の聴きどころはキュアムーンライトをめぐる一連の曲だ。それはアルバム中盤にまとめられている。宿敵ダークプリキュアのテーマともいうべき「暗黒の挑戦者」は高梨康治が得意とするダークな曲想のロック。敵側の曲ながらつい拳をにぎりしめて「カッコええ〜」と言わずにいられないへビメタ・サウンドだ。敵側の曲ながら、これもキュアメタルなのである。
 そして多くの『ハートキャッチプリキュア!』ファンから、「なぜこの曲がサントラ1に入ってないんだ!?」と責められた「宿命の戦士」。第1話のアバンタイトルでキュアムーンライトが敗れる場面に流れた悲壮な曲だ。もともとはこの曲をサントラ1の1曲目に考えていたのだが、前述どおり、作曲者の希望で構成を変更し、2枚目に回した。けれど、おかげでこの上ない曲順での収録になったと思う。
 続いて登場するのが「キュアムーンライトのテーマ」。悲劇的な過去を乗り越えてプリキュアとして復活するキュアムーンライトの活躍を盛り上げる、激しくも美しく、そして決意と闘志に満ちた曲。ああ、自分で構成しておいてなんだが、この展開、なんど聴きなおしても燃えてしまいます。
 『フレッシュプリキュア!』では番組を観ているうちにイース=キュアパッションのキャラクターにほれ込み、『ハートキャッチプリキュア!』ではキュアムーンライトのキャラクターにほれ込んでしまったという高梨康治。「キュアムーンライトのテーマ」には高梨康治のプリキュア愛とメタル愛が凝縮されている。そう、これこそキュアメタルである。
 キュアメタルはプリキュアの世界観とキャラクターが生んだ独特なヘビーメタル・サウンドである。音楽的に厳密な定義があるわけではない。高梨康治が作り出すプリキュアシリーズの熱い音楽を、いつしかファンはそう呼ぶようになっていた。
 キュアメタルはファンが名づけた呼び方だ。作り手が押しつけたキャッチフレーズではなく、ファンの間で自然発生的に生まれた呼び名であるのが面白い。高梨はその呼び方を気に入り、しだいに意識してキュアメタルを書くようになっていく。
 本作のあとに手がけた『スイートプリキュア♪』(2011)では女声コーラスを導入。エレキギターを武器に持つキュアビートの活躍テーマ「プリキュア♪ハートフルビートロック!」をノリにノッて仕上げた。また、発注メニューにはないのに、自主的にバトル曲「心のビートは止められない!」を追加して作っている。もちろん、バリバリのキュアメタル・サウンドの曲だ。
 次の『スマイルプリキュア!』(2012)では作品のテーマに合わせてメルヘンチックな要素とキュアメタルを合体。女声コーラス、エレキギター、ストリングス、金管が歌い上げる「輝け!スマイルプリキュア!」「プリキュア・ロイヤルレインボーバースト!」など、幸福感に満ちた新たなキュアメタルを創造してファンを歓喜させた。
 この頃には、高梨はインタビューに答えてはっきりと「自分の曲を支持してくれたファンに感謝を伝えたくて曲を書いている」と語っている。高梨康治が手がけた4本のプリキュアシリーズの音楽には、キュアメタルの誕生と進化の軌跡が刻まれている。キュアメタルは作曲家とファンの幸福な関係が作り、育てた音楽と言えるかもしれない。

 なぜ、ヘビーメタルとプリキュアの組み合わせがこれほどの熱狂と支持を呼んだのか?
 TVアニメに70〜80年代ロボットアニメのような、燃えるアクション音楽がなくなってきたからかもしれない。
 あるいは、プリキュアが体を張って戦うけなげな姿とそれを応援する音楽にファンが心打たれたからかもしれない。
 でも、それだけではない。と筆者は思う。
 キュアメタルには、高梨康治の出世作「PRIDEのテーマ」の遺伝子が受け継がれている。2000年に発表されたこの曲は、格闘技「PRIDE」のオフィシャルテーマ曲として作られたもので、曲調はのちのキュアメタルにつながるロック。掛け値なしの燃える音楽である。まだ売れない作曲家だった時代の高梨康治は、逆境に負けない気持ち、ぜったい折れないという決意を込めてこの曲を書きあげた。その不屈の生命力がキュアメタルには受け継がれている。
 キュアメタルってなんだ!?
 それは、バスドラムとギターが刻む激しいリズム、悲壮感と哀愁ただようメロディ、なにかこう、心の奥底から勇気がわいてくるような熱い血がたぎる音楽。
 それは、どんな困難にあってもあきらめないプリキュアの精神、命の営みをこよなく愛し守り抜く決意、裏切られても落ち込んでも前に進んでいく気持ち。
 つまるところ、負けずに生きようとする生命力だ。そういう気持ちを込めて高梨康治はキュアメタルを書き、そういう人を応援したいと願って曲を送り出し続けた。その気持ちがファンの胸に届かないわけがない。いつの世にも、音楽には作り手の心が宿り、熱い思いを宿した音楽は聴くものを感動させる。
 キュアメタルとは、そんな音楽である。

フレッシュプリキュア! オリジナルサウンドトラック1
プリキュア・サウンド・サンシャイン!!

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フレッシュプリキュア! オリジナルサウンドトラック2
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ハートキャッチプリキュア! オリジナル・サウンドトラック1
プリキュア・サウンド・フォルテウェイブ!!

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ハートキャッチプリキュア! オリジナル・サウンドトラック2
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スイートプリキュア♪ オリジナル・サウンドトラック1
プリキュア・サウンド・ファンタジア!!

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スイートプリキュア♪ オリジナル・サウンドトラック2
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スマイルプリキュア! オリジナル・サウンドトラック1
プリキュア・サウンド・パレード!!

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スマイルプリキュア! オリジナル・サウンドトラック2
プリキュア・サウンド・レインボー!!

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