SPECIAL

『怪盗グルーのミニオン危機一発!』
クリス・ルノー監督インタビュー

 大ヒット作『怪盗グルーの月泥棒』のスタッフ・キャストが再び集結した続編『怪盗グルーのミニオン危機一発!』が、9月21日から全国公開された。プロデューサーを務めるのは、CGアニメスタジオ「イルミネーション」の設立者・CEOであるクリス・メレダンドリ。監督は前作同様、クリス・ルノーとピエール・コフィンが共同で手がけている。
 前作でみなしご3姉妹マーゴ、イディス、アグネスと出会った怪盗グルーは、悪党業から足を洗うことを決意。今では3姉妹を養子に迎え、ミニオンズやネファリオ博士らとともに平穏な日々を送っていた。そこに突然、反悪党同盟のエージェントを名乗る美女ルーシーが現れ、グルーを強引に本部へ連行。元悪党としての知性と勘をフル活用し、極秘研究所から新薬「PX41」を盗んだ犯人を捕まえてほしいと依頼される。渋々任務を引き受けるグルーだったが、その先には思いもよらない展開が待ち受けていた……。
 今回もまた全編これでもかとばかりにギャグが散りばめられ、もちろん黄色いボディの謎の生物ミニオンも大活躍。突然変異を促す新薬によってモンスター化した「イーブル・ミニオン」も登場し、ハチャメチャな展開で笑わせてくれる。様々なガジェットを駆使したスケール豊かなアクションシーン、前作よりもワンステップ先に進んだ「家族」のドラマも見どころだ。本国アメリカでは封切5日間で約1億4千万ドルの興収を上げ、オープニング記録としては劇場アニメ史上1位となる大ヒットを樹立。成功作の続編というプレッシャーをはねのけ、見事に前作を凌ぐ快作を作り上げたクリス・ルノー監督に、いろいろと質問してみた。

PROFILE

クリス・ルノー Chris Renaud

劇場アニメ作品のストーリー・アーティストとして『ロボッツ』『アイス・エイジ2』『ホートン ふしぎな世界のダレダーレ』などに参加。2007年に『アイス・エイジ』のスピンオフ短編『熱血どんぐりハンター!』を監督し、アカデミー短編アニメ賞にノミネート。イルミネーションの第1回長編作品『怪盗グルーの月泥棒』をピエール・コフィンと共同で監督。『ロラックスおじさんの秘密の種』ではカイル・バルダとともに監督を務めた。

文・構成/岡本敦史

── 『怪盗グルーのミニオン危機一発!』は、本国アメリカでは1作目を凌ぐ大ヒットとなりました。その要因はなんだと思いますか。

クリス 僕たちが作っている映画は、とにかく楽しくて、荒唐無稽かつ現代的なユーモアセンスを備えた、アクセル全開のカートゥーンだ。ヘンに真面目ぶった作品なんて作ろうとはしていない。そこにお客さんも反応してくれたんじゃないかな。それに、子供たちに笑ってもらうのと同じくらい、大人にも楽しんでもらえるコメディを作ろうと心がけているからね。

── 今回「スパイムービー」と「ラブストーリー」という新たな要素が加わっていますね。それも監督のお2人にとってはチャレンジでしたか。

クリス グルーと3姉妹のために、足りない家族を完成させてあげたかったから、最初から「ラブストーリーにしよう」というアイデアは出ていたんだ。それに、グルーには悪党を引退したあとも面白い仕事をさせたかった。たとえば「ターミネーター2」みたいに、前作では悪者だった主人公が2作目では正反対の立場で登場する──つまり、善玉側の人間として活躍するわけだね。そこから自然と「スパイムービー」的な筋立てに発展していったんだ。今回登場する秘密組織「反悪党同盟」は、グルーにとっても観客にとっても楽しい発見だったはずだ。グルーはこんな組織が存在し、自分と自分のこれまでの活動が逐一監視されていたなんて、夢にも思っていない。この設定のおかげで、グルーにとって気になる存在となるヒロインのルーシーを登場させることができたし、エージェントが使うオモシロ・ガジェットの数々も発明できた。潜水艦内部に建造された巨大な本部施設から、ルーシーが携帯しているリップスティック銃までね。

── ルーシーのキャラクターは秀逸でしたね。クリステン・ウィグの演技がとても素晴らしかったですが、どうやってあんなのびのびとした芝居を引き出したんですか。

クリス クリステンは女優としてもコメディエンヌとしても、天賦の才能を持っている。僕らがシナリオを渡しただけで、彼女自身があの素晴らしいパフォーマンスをやってのけたのさ。ルーシーみたいにおかしなキャラクターを演じさせたら、クリステンは最高だね。彼女のひょうきんで愛らしい声の魅力にきちんと見合うよう、作画にはかなり神経を使ったよ。

── 前作に続いて、ピエール・コフィンさんと2人で監督されていますが、どんなふうに作業を進められているのでしょうか。はっきりした役割分担はあるんですか。

クリス 僕はまず、編集者と一緒にストーリー・リールを作ることに専念した。ストーリー・リールとは、仮の画(編註:手描きのストーリーボード=絵コンテ)と、仮の音声、仮の音楽をつなぎ合わせた、映画のラフ・バージョンのことだ。そのあとに行われた、俳優や作曲家との録音作業も僕が担当した。片や、ピエールはアニメーション制作と、キャラクターアニメーションのパフォーマンス監修に専念していた。フランス語吹替版の制作と録音演出も、彼の担当だったね。それ以外のレイアウトやデザインなどの作業は、2人で一緒にやっているよ。監督が2人いることで、クリエイティブなコラボレーションが活発にできるし、常に話し合うことで、よりよい映画作りができるんだ。

── プロデューサーのクリス・メレダンドリさんは、作品内容についてかなり意見するのでしょうか。

クリス クリス・メレダンドリは、初期のストーリー開発から最終段階の音声ミックスまで、全工程に関わっている。彼はいつも僕たちに最高のクリエイティブな刺激を与えてくれる存在だ。特に重点的に関わっているのは、スクリプトとキャラクター造りの部分だね。

── 今回、技術的に最もチャレンジだった場面はどこですか。

クリス いちばん難しかったのは映画の終盤、イーブル・ミニオンの大群がそこら中に蠢いているシーンだね。実は「ワールド・ウォーZ」の初期段階の映像を見る機会があって、そこでゾンビの大群が出てくるシーンを観たとき、あのクライマックスのヒントを得たんだ。僕らは手描きアニメの質感が好きだから、あそこまでの迫力や複雑さは表現できなかったけどね。あと、同じくクライマックスの戦闘シーンで登場するゼリーの表現も大変だった。精巧さと難易度の高さが要求されたよ。

── イーブル・ミニオンがグルー家の庭を駆け回るPOVショットは、地味ながら結構スゴイと思ったんですが。

クリス あの場面はビデオゲームからヒントを得たんだ(編註:おそらく「コール オブ デューティ」のような一人称視点シューティング・ゲームのこと)。イーブル・ミニオンの視点が3Dで描かれたら面白いだろうな、と思ってね。ああいう尺の長いショットの難しいところは、レンダリングにものすごく時間がかかるところだ。フレーム数が何しろ膨大だからね。

── ミニオンたちの声は監督のお2人が演じているそうですが、あのテキトーな台詞も自分たちで考えているんですか。

クリス 2人で一緒にやっているけど、いちばんの功労者はピエールだよ。当初の話では、ミニオンは一切喋らないか、もしくは一言二言しか理解可能な言葉が喋れない、という設定で考えていたんだ。だけど、キャラクターやストーリーがどんどん進化し、複雑になっていくにしたがって、ミニオンの台詞も凝ったものになっていった。ミニオンが喋っているデタラメな言葉は、日本語も含めた世界中の言語からできているんだ。それらを全部ごちゃ混ぜにしているんだけど、なんとなく意味が伝わってくれてると嬉しいな(笑)。

── ミニオンズ関係のギャグについては、どなたが主にアイデアを出しているんですか。

クリス 前作『怪盗グルーの月泥棒』では、ミニオン絡みのギャグは、ほとんど僕とピエールが作っていた。シナリオの本筋とは関係ないところで、勝手にキャラクターを膨らませて、元々ミニオンが登場しない場面にも試しに突っ込んでみたりしていたんだ。そうやって僕らがストーリーボードや初期の動画で描いていたミニオンのキャラクターを、1作目の内容が固まっていくにつれて、脚本家のシンコ・ポールとケン・ドーリオの2人がシナリオにも取り入れていった。2作目を作る頃には、ポールもドーリオも、ミニオンたちの繰り出すギャグをすらすら書ける「ミニオン・マスター」になっていたよ。

── 今回、イーブル・ミニオンの造形が本当に狂っていて最高でしたね。

クリス イーブル・ミニオンは、僕らの愛する黄色いアイツらとはひと味違う存在にしたかった。少し間抜けで、少し恐くて、少しクレイジーで……いい意味でおかしな感じにね。彼らはノーマル・ミニオンと違って言葉が喋れず、短い間で奇声を上げたり、叫んだりしかできない。参考にしたのは「超人ハルク」「狼男」「ジキル博士とハイド氏」、あとは『ルーニー・テューンズ』に出てくるタズマニアンデビルとかだね。そして外見的にも差異を出すため、世界でいちばん邪悪な色である紫色にしたんだ(笑)。

── 日本のCGアニメは、アメリカの劇場作品に比べると「生命感」「表情の豊かさ」「誇張のバランス」などの点で、まだまだ未発達です(せっかく築き上げてきた手描きアニメの技術を応用しきれていないのです)。CGアニメに生命感や愛らしさを吹き込むために、お2人が大事にしていること、秘訣などはあるでしょうか。

クリス 僕らはいつも、キャラクターに人間らしさを与え、さらに「予期しない」要素をパフォーマンスに取り入れようと努めている。キャラクターの見せるしぐさが、台詞なんてなくても理解できたり、身近に感じられたりすると、見ていてすごく楽しいよね。そうした魅力を視覚的に判断できるレベルのアニメーションを、僕らは常に求めているんだ。加えて、エネルギッシュな声のパフォーマンスも必要不可欠だと考えている。活き活きとした表情のアニメーションをさらによくしてくれる、大切な要素だからね。

■関連サイト
『怪盗グルーのミニオン危機一発!』オフィシャルサイト
http://minions.jp/