腹巻猫です。2024年1月期に放送されたTVアニメ『勇気爆発バーンブレイバーン』のサウンドトラック・アルバムが11月15日に発売されました。放映終了から半年以上経っての発売は、本作の音楽に大きな反響があったことをうかがわせます。筆者もさっそく購入して聴きました。今回は、この異色ロボットアニメの音楽を紹介します。
『勇気爆発バーンブレイバーン』は2024年1月から3月まで放送されたTVアニメ。原作・Cygames、監督・大張正己、アニメーション制作・CygamesPicturesによる、オリジナル・ロボットアニメである。
ハワイで人型機動兵器・ティタノストライドを投入した合同軍事演習が実施された。自衛隊のパイロット、イサミ・アオと米軍のパイロット、ルイス・スミスは演習中に出会い、意気投合する。が、突然、宇宙から飛来した謎の侵略者デスドライヴズの襲撃を受け、ハワイの軍事基地は壊滅の危機に瀕した。絶体絶命のとき、巨大ロボット・ブレイバーンが現れ、イサミたちを救う。イサミをパートナーに選んだブレイバーンは、人類と共にデスドライヴズと戦うことを約束する。
90年代のロボットアニメ「勇者シリーズ」をほうふつさせるタイトルに反して、第1話はシリアスに始まる。が、終盤になって「こうくるか!」と思わせる展開が待っている。タイトルどおりのスーパーロボット・ブレイバーンが登場するのだ。
ブレイバーンは人間の言葉を理解し、話すことができる意思のあるロボットである。このあたりは勇者シリーズと似ている。しかし、なんのために、どこから来たのかは謎に包まれていた。その謎がしだいに明かされていくわけだが、ひねりにひねった設定になっている。単純明快で熱血なロボットアニメへのオマージュにあふれているが、けっこう、クセのある作品である。
音楽は映画やTVドラマ、CM等の音楽で活躍する渡邉崇が担当。渡邉がロボットアニメを手がけるのは本作が初めてである。
サウンドトラック・アルバムの解説書に掲載されたインタビューで、渡邉崇は「自身が大好きな昭和のヒーローものの音楽と、ハリウッド映画のようなテイストの音楽を混在させた世界観の音楽構築」に挑戦したと語っている。ふたつのサウンドはだいぶ異なるが、無理に融合させず、そのまま混在させることを選んだという。
実際、サントラ盤を聴くと、昭和のロボットアニメ風の曲と「アベンジャーズ」のような現代のヒーロー映画風の曲が共存している。突き抜けた爽快感のある曲とシリアスなアクション曲の混在は違和感がないわけではないが、それは『勇気爆発バーンブレイバーン』という作品の特徴でもある。それが作品の味であり、魅力なのだ。あえてサウンドを統一しなかったことは正解だった。
音楽的な聴きどころのひとつは、スーパーロボットアニメ的な「燃える曲」。ブレイバーンの登場場面や活躍場面に流れ、盛り上げる。思い切った曲調が、ときにユーモラスな味わいにもなっている。
人間側の戦闘曲は、比較的シリアスな曲調で作られている。ミリタリー描写はリアル寄りで、音楽も緊迫感に富んでいる。人類の危機がシリアスに描写されるぶん、ブレイバーンの活躍が爽快に感じられるという対比をねらったのだろう。
心情曲では、ピアノと管弦楽が共演する曲が耳に残る。いわゆる「エモい曲」が多く作られ、名場面を彩った。本作の音楽は、生楽器とシンセの打ち込みを併用しているが、心情曲については生楽器の音を大切に作っている印象を受ける。
敵のデスドライヴズにつけられた曲も興味深い。特に、スペルビア、クピリダスといった機械生命体の幹部たちにつけられたテーマが秀逸だ。得体のしれない敵なので、音楽も個性的になっている。本作のもうひとつの聴きどころと言ってよいだろう。
本作のサウンドトラック・アルバムは「オリジナルTVアニメ『勇気爆発バーンブレイバーン』オリジナルサウンドトラック」のタイトルで、11月15日にCygamesから発売された。収録曲は以下のとおり。
- Brave fight!!
- Combat start!
- オペレーション・アップライジング
- ダイダラ中隊
- ルル
- Innocent
- Lana
- ラムファイヤー
- 勇者の帰還
- 勇気合体!バーンブレイバーン!!
- Absolute bravery
- Enemy attack
- Suspicion
- 特訓だッ!
- 高慢の翼
- デスドライヴズ
- 想い
- Island
- 光あれ‥!
- 私の変形を見よ!
- その男、ルイス・スミス
- 鋼の絆
- Let down
- 月夜の出逢い
- ATF
- 虚栄と悲観の輝き
- Mourning
- 宿命
- 波紋
- 凱歌
- 飛翔
- 大混戦
- 祈り
- Mana/マリーンの俺が転生したらスーパーロボットだった件
- 勇者の血脈
- 極鋼!スパルガイザー
- Le’ale’a
- 焦燥
- 淫蕩の閃光
- ティタノストライド
- タイタンの咆哮
- 強欲の炎
- まことの命
- アブソリュートズバッシュ、そして〜
- eyecatch-A
- eyecatch-B
- ババーンと推参!バーンブレイバーン (イサミ・アオVer.)
CD1枚に47曲を収録。最終回にのみ流れたオープニング主題歌のイサミ・アオ・バージョンが収録されているのが目玉のひとつである。
大張監督のインタビューによると、劇伴は50曲以上を発注し、そのすべてを劇中で使用したそうだ。だとすると本アルバムは完全収録ではないが、印象的な曲はほぼ入っている。
構成は、物語を再現するというよりは、作品のイメージと音楽的流れを重視したイメージアルバム的なコンセプトで組まれているようである。
1曲目の「Brave fight!!」はブレイバーン登場シーンに流れる曲。アルバムの序曲的位置づけなのだろう。ちょっと時代劇をほうふつさせるような昭和テイストの曲になっている。残念ながら本編で使われたのは第2話だけだった。
2曲目「Combat start!」はブレイバーン、人間側の区別なしに使われた戦闘曲。高速でうねる弦のフレーズが激しい戦闘をイメージさせる。第6話で使用された日本奪還作戦のテーマ「オペレーション・アップライジング」(トラック3)、ミリタリーマーチ風の「ダイダラ中隊」(トラック4)と軍事活動を連想させる曲が続き、本作の世界観をくっきりさせる。
トラック5で、謎めいたヒロインのテーマ「ルル」が現れるのが面白い。笛やシンセ、人の声などが奏でる、神秘的でエキゾチックな曲だ。第3話の冒頭、月夜の浜辺でスミスがルルと出会うシーンに流れていた。次の「Innocent」もルルにつけられた曲である。
トラック7「Lana」とトラック8「ラムファイヤー」は軽快な日常曲。ハワイが舞台になっていることから、南の島を連想させるトロピカルなサウンドが使われている。
トラック9からはブレイバーンをイメージさせる曲が並ぶ。「勇者の帰還」は勇者のテーマとも呼ぶべき曲。第4話でブレイバーンが侵略者から最初に奪還すべき地として「日本」を選ぶ場面に流れていた。第9話の合体シーンで使用された「勇気合体!バーンブレイバーン!!」(トラック10)、トランペットソロから始まるアクション曲「Absolute bravery」(トラック11)と続いて、ヒーローものの雰囲気が盛り上がる。
「Absolute bravery」は第1話のブレイバーン登場シーンから使われ、以降も勇気や決意を描写する曲としてたびたび使用された名曲である。
ここでようやく、敵の襲来と戦闘を描写する「Enemy attack」(トラック12)が登場。ハリウッド映画音楽を思わせるスケール豊かな曲調が、敵の圧倒的な力を表現する。この曲は第1話のデスドライヴズ襲撃シーンから使われていた。
ここからは、楽曲のタイプ別に紹介しよう。
まず、昭和ロボットアニメ風の燃える曲。
トラック20「私の変形を見よ!」は第2話などで、ブレバーンが飛行形態ブレイサンダーに変形して飛び立つ場面に流れた曲。ブレイサンダーからブレイバーンに戻るときも同じ曲が使われている。
トラック36「極鋼!スパルガイザー」は第5話でルルが観ているヒーロー番組「機攻特警スパルガイザー」のテーマ曲。パンチの効いたブラスサウンドや昭和歌謡風のメロディラインがいかにもそれらしい。
主題歌「ババーンと推参!バーンブレイバーン」の歌入りとカラオケ(本アルバムには未収録)も、ブレイバーンの活躍を盛り上げる楽曲としてたびたび挿入されていた。
次にシリアスな戦闘を描写する曲。
トラック32「大混戦」はデスドライヴズとの死闘を描写する激しい曲。弦楽器の動きがスリリングなトラック38「焦燥」も緊迫した戦闘シーンに使われた。
トラック40「ティタノストライド」と「タイタンの咆哮」は、デスドライヴズに立ち向かう人間たちの闘志を描写する曲。「タイタンの咆哮」は第8話でスミスが敵幹部・クーヌスと刺し違える場面に使われたのが印象深い。
そして、勇気や友情や決意を表現するエモーショナルな曲。本作のドラマ部分を支える重要な楽曲である。
ピアノとオーケストラによるトラック18「Island」は、美しい南の海の情景をイメージさせる希望的な曲。第4話で酒場をおとずれたイサミが兵士たちから「ヒーローの登場だ」と感謝される場面や第8話のブレイブナイツ結成の場面などに使用された。
次のトラック19「光あれ‥!」は弦の律動的な動きから金管を中心にしたオーケストラの力強い演奏に展開する高揚感あふれる曲。第5話のオペレーション・アップライジングの準備に励む兵士たちの場面に流れて、決戦気分を盛り上げた。
トラック22「鋼の絆」はブレイバーンとイサミたちの絆を表現する曲。繊細なピアノの響きから、金管と弦のゆったりしたフレーズに展開、終盤はヒロイックで躍動的なオーケストラの演奏で終わる。この曲は最終話(第12話)でブレイバーンが最終必殺技を放つ場面に使われている。
トラック25「ATF」は、各国の軍隊により結成された多国籍部隊「Allied Task Force」の略称をタイトルにした曲。ピアノと弦の導入から弦の流麗なメロディに展開し、リズムやエレキギターが加わって盛り上がっていく。第3話でキング司令が兵士たちにブレイバーンを紹介する場面、第7話でブレイバーンがイサミと共に戦うよろこびをスペルビアに語る場面など、友情や仲間との絆を描くシーンに選曲されていた。
トラック34「Mana/マリーンの俺が転生したらスーパーロボットだった件」は、タイトルどおり、第9話のスミスの転生シーンに使われた曲。曲の後半は「鋼の絆」と同じモチーフが使われている。静から動への転換が気持ちいい曲だ。
トラック35「勇者の血脈」もピアノとオーケストラによる友情と絆を表現する曲。「勇者の帰還」「宿命」「勇者の血脈」には同じメロディが使われており、本作における勇者のモティーフなのだろうと想像できる。
トラック44「アブソリュートズバッシュ、そして〜」は最終話クライマックスのブレイバーン対ヴェルム・ヴィータの対決シーンに使われた。仲間たちの勇気がひとつに融合していくさまが、リズムと管弦楽とコーラスによって描写される。昭和のロボットアニメ音楽とは違ったスタイルで熱い想いを表現した「燃える曲」である。
最後にデスドライヴズのユニークな音楽。
トラック16はずばり「デスドライヴズ」と名付づられた曲。重厚なオーケストラサウンドに妖しいコーラスとシンセサウンドが重なる。「不気味」や「怖い」というより「奇妙」な音楽である。
幹部の機械生命体に付けられた曲は、スペルビアのテーマ「高慢の翼」(トラック15)、ヴァニタスとペシミズムのテーマ「虚栄と悲観の輝き」(トラック26)、クーヌスのテーマ「淫蕩の閃光」(トラック39)、クピリダスのテーマ「強欲の炎」(トラック42)、ヴェルム・ヴィータのテーマ「まことの命」(トラック43)の5曲。
スペルビアはのちにブレイバーンと共闘するので、「高慢の翼」は和風サウンドを混ぜつつもヒロイックに作られている。しかし、残りの4曲はそれぞれに異質。現代音楽的なサウンドや男声・女声コーラス、エキゾティックなリズム、デジタルサウンドなどが組み合わさって、分類不能の「奇妙な音楽」(誉め言葉)になっている。「ロボットアニメの敵はこういう曲」というパターンを打ち破る、挑戦的で前衛的な音楽だ。前にも書いたが、本作の音楽の大きな聴きどころである。
『勇気爆発バーンブレイバーン』の音楽は、燃えるロボットアニメのオマージュに収まらない、意欲的で現代的な作品になっていると思う。その両極にあるのが、昭和のロボットアニメ風の熱い曲とデスドライヴズの奇妙な曲だ。ふたつの音楽は真逆の方向に振り切っている。タローマン風に「なんだこれは!」と言いたくなる。爆発しているのは勇気だけではない。音楽も爆発しているのだ。
オリジナルTVアニメ「勇気爆発バーンブレイバーン」オリジナルサウンドトラック
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