COLUMN

第859回 『(劇)ジョー2』の魅力(9)

 まだ続き。あと少々お付き合いを……。

1:20:19~鏡に映るジョーで喋らせるあたり、このシーン一体が今まで以上に“表情を見せる演出”に拘ったことがよく分かります。
1:20:34~DVD発売以降、TVシリーズ画面4:3を上下トリミングした貧乏ビスタ版がこの映画のマスターになったようで、フル画面(上下トリミングなし)を観ることができるのは“4K Blu-ray版の特典映像”のみかと。こういう画面で頭が切れているのは、出﨑監督からすると計算外かも知れませんが、個人的にはここは葉子の顔が切れてるくらいの方が、バッと振り返った際の“スカートの揺れ”がより雄弁に葉子の動揺を表してて好き。
1:20:43~「よしなよ。カーロスのことはよそうや、な……」この哀し気な伏し目、これまた杉野(昭夫)作画監督の真骨頂!
1:20:46~今度は出﨑(統)監督の得意技! 部分ショットの横follow。この控室シーンのラストでふわりと落ちる上着、それが掛けられた腕~手が美しい。こういう場面で顔を撮らないのが出﨑コンテです! 俺もついつい真似しちゃいます。
1:20:47~ここも後ろ姿での会話が長い! でも、表情が見えないのに保つ! ジョーが振り向いてからも続き、~1:21:10まで。
1:21:45~こんな俺の駄文で多くを語る場面じゃありません。最愛の人を廃人への道から守るために、最後の最後に「告白」というカードを切らせるまで、この気高き財閥令嬢・葉子を追い詰める梶原一騎&ちばてつや原作の巧さ! 「あしたのジョー」はジョーの青春物語でありつつ、女性サイドから見れば葉子の悲恋物語でもあるのです! そして、それを見事にアニメ化した出﨑&杉野コンビの手腕! これだけ揃って傑作が生まれない訳がない!!
1:21:53~ジョーの表情が凄く良い!! それまで見せたことがない顔です。
1:22:07~滅茶苦茶パースが付いてド派手に暴れ回るだけがアニメーターの仕事じゃない。こういう“情感”が描けるのもアニメーターの仕事です。ここはもう溢れてますね! 檀ふみの声もリアルに泣いてます。
1:22:12~ここでもうジョーの表情が何かを見据えた男の顔になってるのがまた素晴らしい。実は原作のジョーはここで一旦椅子に腰掛けて、葉子の告白を少々茶化すようなことを言うんですよね。ジョーは茶化しを否定するのですが、アニメを先に知っているとちょっとだけジョーが嫌な奴に見えました。だから、そこをバッサリカットしたアニメ版・出﨑ジャッジの方が本質的に正解だと思います。異性からの真面目な告白を冗談でも茶化してはいけません!
1:22:24~そして、女性からの告白を真摯に受け止めつつも、それを振り切って破滅の待つリングへ。初見の時、本気でヤバい大人の世界を見た気がして、震え泣きました(本当)!
1:22:34~葉子の気持ちをちゃんと受け止めるジョーの口から出る「——ありがとう」。そして、扉の向こうの男の世界へ。「何とかならないのかい……?」と泣く俺。何か観ている自分も逃げられない所に追い詰められた感があったのを、何十年経った今も憶えています。
1:22:44~退室したジョーを追うように手を伸ばすも届かず、無情に閉まる扉。固まる葉子から落ちる上着。今だったら「いや、この上着の色どうよ? 仮に着た場面があったとして似合う?」とか冷静に突っ込んでしまいますが、初見で観た時はそれどころじゃなかったです。『あしたのジョー2』の何もかもが衝撃的で!
1:22:54~飄々と(虚無にすら見える?)リングに向かうジョー。
1:22:56~膝から崩れ落ちる葉子~PAN UP↑して、涙ボロボロの葉子。

 懲りずにまだ続くこと(汗)、そして心から尊敬する方々への度重なる敬称略、すみません。