── 作品のトーンを作る上で、何か参考にした作品とかはあるんですか。
竹清 ケース・バイ・ケースで、いろんなものを参考にしているんですけどね。今回は、マンガ家のメビウス(ジャン・ジロー)の作品をかなり参考にしています。
── おお、意外ですね。
竹清 というのも、僕らがこの作品を作る上で、最初に捨てたのは「質感」なんです。ちょっとでもリアルなところに踏み込むと、お客さんはそれを全体的に要求するようになる。そうなると際限なく大変になるから、その方向はやめようと。
── つまり、質感のディテールにこだわるという選択肢を捨てたということですね。
竹清 そうです。それから「ライティング」も捨てました。ちょっと例外的に演出した部分もありますけど、基本的には3Dでライティングを作り込むことはやめました。その代わり、色の設計とキャラクターの芝居にリソースを注ぎ込むという作戦を立てたんです。
── なるほど。
竹清 色に関しては、中間色を使って意外と上手くまとめられたと思っています。それはかなり、メビウスの作品の色遣いを参考にしているんです。中身は全然違いますけど、指針という意味で。
── 色彩はとても綺麗でしたね。陰影の演出はそれほどしていない?
竹清 一応ライティングの設計はしているんですけど、キャラクターの立体感がギリギリ出る程度に留めています。キャラクターの地面影も一切作ってないですし。
── あ、言われてみれば確かに。
竹清 朝の場面で一瞬、影が出るだけですね。その代わり、反射を使ったりはしています。廊下とか、ガラス窓とか、プールのタイルとか。そのあたりも初期段階でテストを重ねて、映像全体のトーンを掴んでいった感じですね。
── かなり試行錯誤されたわけですね。
竹清 ええ。これぐらいの濃度、これぐらいの色という適正レベルを、カラーマトリクスとして数値化して調整したりしていました。
── 他に、何か影響を受けている作品とかはありますか。
竹清 いっぱいあります(笑)。僕は今、45歳なんですけど、学生の頃に観ていた80年代の映画がいまだに大好きなんです。「ゴースト・バスターズ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「グレムリン」「グーニーズ」とか、その辺ですね。
── いわゆるルーカス/スピルバーグ全盛期に作られた、エンタメ度の高い作品ですね。
竹清 そうです。あとは「ブルース・ブラザーズ」みたいに理屈抜きで面白い作品。ああいうカラッと明るい、あっけらかんと楽しめるエンタテインメントが作りたいと思っていたんです。だから、今回の長編もそういう感じにはなっているかもしれませんね。ちなみに、キュンストレーキは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の大ファンという裏設定があるんですよ。
── そうなんですか(笑)。
竹清 だから、いつまでも科学にロマンを感じていて、時計塔から雷で電気を集めたりしてるんです。
── あー、そういうことだったんですね。
竹清 キュンストレーキが空を飛ぶところは、言うまでもなく「E.T.」ですしね。音楽もそれっぽくなっていると思います。あと、デジタルルームの場面に出てくるダンケルハイト&リュミエールは、「スター・ウォーズ」の皇帝ですね。青いホログラフ映像で登場するという。
── 僕は「ロスト・チルドレン」に出てくる双子のおばさんを思い出したりしました。
竹清 あーそうそう、それも入ってます! だから、いろんなものの組み合わせなんです。クライマックスの時計塔のくだりは『(ルパン三世)カリオストロの城』っぽいと言われることが多いんですが、僕としてはコーエン兄弟の「未来は今」のイメージなんです。そこに「バック・トゥ・ザ・フューチャー」も入ってる。
── 確かに、あのアップダウンのアクションは「未来は今」っぽいですね。
竹清 だから、アニメというよりは実写作品に影響されてるところが大きいと思います。この業界に入ったきっかけも「スター・ウォーズ」にどっぷりハマッたせいなので(笑)。僕はかれこれ十数年ほど映像の仕事をしているんですけど、アニメも作るし、実写の監督もやるし、CG作品の演出もやる。どれも等しくやってきたので、その経験を全部活かせるものを作ろうと思っていたんです。僕としては、半分は実写のつもりで作っているんです。
── 制作拠点はずっと博多のスタジオだそうですが、そこで作り続けることのメリットは?
竹清 まず、僕自身のメリットに関して言うと、大学卒業後に東映の社員だった時期があったんですよ。
── あ、そうなんですか。
竹清 イベントの仕事でショッカーとかやったりしてました(笑)。毎日、大泉にある社員寮から銀座の本社まで通っていたんですが、通勤に大体1時間ぐらいかかるわけです。田舎者の僕にとっては、それが信じられない労力だったんですよ。もう行き帰りだけでヘトヘトになっちゃって。
── (笑)。
竹清 あと、東京にいると膨大な量の情報が飛び交っているじゃないですか。いろんな人と会う機会も多いし、そこで「あの人は今、こんなことやってるんだ」とか考えると、焦るんですよね。うわー、オレ全然できてない! とかって。
── なるほど。
竹清 でも、博多にいると基本的にそういう情報は入ってこない。欲しい情報があれば、好きな時に取りに行ける。自分で情報量をコントロールできるというのは、クリエイターとしての自分にとってはすごく理想的なんですよね。あとはやっぱり、生活のストレスが極端に少ない。メシも美味いし、お姉さんも綺麗だし、すごく住みやすい。その上、人件費も家賃も安く収まるので、トータルで考えていくと作品の制作費も抑えられるということにつながると思います。
── 総合的に考えて、ベストの環境で作れると。
竹清 当然デメリットもあって、例えば東京にいる優秀なスタッフとすぐに会うことはできない。ただ、一度しっかり会っておけば、あとはSkypeでのやりとりですむ。そんなこんなでメリットの方が断然多いので、地方でやっているんです。
── 制作に5年かかった主な原因はなんなんですか?
竹清 主な原因は、お金が集まらなかったからですね(苦笑)。
── 制作上の理由ではなく?
竹清 うん。ただ、普段の仕事をしながら少しずつ進めたりする余裕ができたのは、結果としてはすごくよかったですけどね。
── 今回の長編は、監督が元々所属されていたKOO-KIという会社で制作がスタートして、途中でモンブラン・ピクチャーズという会社を新たに立ち上げられましたよね。何かきっかけがあったんですか。
竹清 それはですねえ……まず、日本の手描きアニメの制作環境って、パイプラインが洗練されまくっているじゃないですか。これ以上は安くできないという試算がハッキリ出るくらい、良くも悪くも整っている。アニメーターの層も厚いですし。
── そうですね。
竹清 で、この作品を作り始めて分かったんですけど、3Dのアニメーターって本当に少ないんですよ。少なくとも日本には。で、長編を作るためには、優秀な役者さんが必要になる。だけど現実にはいない。となると、もう自分たちで育てるしかない。そう腹をくくったんです。
── なるほど。
竹清 KOO-KIでは、地元だけでなく、東京や海外からの仕事の発注が8〜9割を占めているんです。それができているのは優秀なディレクターが何人も揃っているからなんですが、山登りでいうと、そこそこ高い山でも1人で登っちゃうような人たちの集まりなんです。だけど、劇場長編という巨大なプロジェクトに挑むとなると、登山専門のパーティを組まないと作り続けられない。そうなると、個人作家の集まりである会社の中ではバランスが悪くなるし、リスクも大きくなる。だったら、いっそのこと分けてしまおうかということで、『放課後ミッドナイターズ』の制作途中に新しく別会社を立ち上げたんです。
── 今回の作品以外にも、何か企画はあるんですか。
竹清 モンブランでは、今後10年間で3本の長編作品を作るというビジョンを掲げてるんです。一応、それは目安としての「長編3本」ということなので、もしかしたら、そのうちの1本が新しいデバイス用のシリーズ企画になるかもしれない。あるいは、ライブと組んだ新しいエンタテインメントになるかもしれない。そういった長期的プロジェクトに取り組みたいということ、そして、できれば時代を超えて末永く愛されるものを作りたい、というビジョンがあります。
── 今回の作品の話に戻ります。キャスティングはどんなふうに決まったんですか。
竹清 さっきも言ったように、僕としては半分実写のつもりで作った映画なので、いわゆるアニメっぽい芝居にならないようにしたかったんです。いちばん近いイメージは、洋画の吹き替えですね。「まずは予算とか度外視して、好きな人を挙げてみてよ」とプロデューサーにも言われたので、洋画のDVDをたくさん観て、役に合いそうな声の人をピックアップしていったんです。で、キュンストレーキ役の候補も、いろいろな芝居のパターンを想定しつつメモしていった。みんな違う声優さんだと思ってたんですけど、調べてみたら全部、山ちゃん(山寺宏一)だったんです。
一同 (笑)。
竹清 じゃあ、山寺さんにお願いするしかないじゃん! と。でもきっとダメだろうなー、と思いながらダメもとでお願いしたら、すごくノってくださって。嬉しかったですね。
── ゴス役の田口浩正さんも素晴らしかったです。
竹清 ゴスは全編、博多弁で台詞を喋るので、実際に博多出身の人に演ってほしいと決めていたんです。ネイティブじゃない人が方言で喋ったりする嘘くささがイヤだったもので。アニメの声優さんではなかなかいい人が見つからなかったんですけど、「博多よかばい食品物語」(NHKのコメディ番組「サラリーマンNEO」の一コーナー)に出ていた田口さんが素晴らしくて。最近は『毎日かあさん』のとうさん役で声優もされているということだったので、またダメもとでお願いしたんです。そしたら、快く引き受けてくださった。お2人とも、7年前に作った最初の短編を観てもらったら、ぜひやりたいと言ってくれて。
── キュンストレーキとのゴスの掛け合いは、ずっと聞いていたいくらい楽しいですね。
竹清 うん、本当に素晴らしかったです。僕の方からは、ほとんど演出はしていませんから。ずっとブースで笑ってました(笑)。
── アドリブは多かったんですか?
竹清 台詞に関しては、わりと台本に忠実に演っていただきました。「ああっ!」とか「う〜」とか「はぁ〜あ」とか、そういうノリのアドリブは多かったんですけど、その場で台詞を足すようなアドリブは、ほとんどなかったです。山寺さんはしっかり役作りをしてきてくださる方で、一方の田口さんはあまり作らずに現場へ来て、山寺さんの芝居を受けて即興で返してもらうという感じで演じていただきました。それで、いいグルーヴ感が表現できているんだと思います。
── その他の配役も見事にハマってましたね。
竹清 ミーコ役の雨蘭(咲木子)さんは、なんといっても「ダーマ&グレッグ」のダーマ役ですよね。もう大ファンだったので、絶対にミーコはダーマじゃなきゃダメだ! と。そんな感じで好きに選ばせてもらったので、わりと豪華なキャスティングになったと思います。
── 渋めのベテラン声優さんも多いですよね。飯塚昭三さん、大塚芳忠さん、屋良有作さん……。
竹清 皆さん素晴らしかったです。だから、もし僕に声優さんの知識があったら、逆に気を遣ってオファーしていないと思うんですよ。あんまりよく知らないから、びっくりするような大御所さんに脇役を演じてもらうというムチャができたんだと思います(笑)。
── ピニア役の小杉十郎太さんも面白かったですね。
竹清 僕、「メリーに首ったけ」でマット・ディロンの声をあてていた小杉さんが大好きで(笑)。ピニアのイメージは、僕にとってあんな感じなんです。
── ソニー役の黒田勇樹さんはどういう経緯で参加されたんですか。
竹清 ラビッツ3兄弟はもちろん「ゴッドファーザー」のコルレオーネ3兄弟が元ネタで、兄2人はキレキレなんですけど、末っ子はちょっと頼りない感じのボケキャラがいいなと思っていて。そしたら、ティ・ジョイの映画館でポップコーン売りのバイトをしている黒田さんに会う機会があったんですよ(笑)。「すごく面白い人だから会ってみてよ」と言われて、会ってみたらホントに面白くて頭のいい方だった。それで、一緒に飲みに行った席で「こんな役があるんですけど……」とお願いしたら「ああ、ぜひぜひ」と。サラッと決まりましたね。
── じゃあ、映画館のロビーで出演が決まったようなものですね(笑)。
── 竹清監督の今後のご予定は?
竹清 とにかく今は『放課後ミッドナイターズ』のプロモーションで頭がいっぱいですね。これが成功してもらわないと次がないもんですから(笑)。でも、次回作のアイデアは練っています。
── それは劇場作品ですか?
竹清 そうです。願わくば、世界中の観客に受け入れられるような作品にしたい。なおかつ、ピクサーやドリームワークスの作品とは、ちゃんと違うものになるはずです。
── 最後に、アニメスタイル読者に向けてメッセージをお願いします。
竹清 いわゆる2Dアニメファンの方々にとっては、ちょっと違和感のあるものになってるかもしれません。でも、一個のエンタテインメント作品としては、お客さんを選ばないものを目指したつもりです。見た目は悪いかもしれませんが(笑)、ちょっと口に入れていただければ、意外とイケるんじゃない? となると思います。ぜひ劇場で観てもらいたいですね。
●『放課後ミッドナイターズ』公式サイト
http://afterschool-midnighters.com/