腹巻猫です。いよいよ今週末になりました。「渡辺宙明トークライブ Part13〜『スーパーアニソン作曲家 渡辺宙明大全』出版記念!〜」、9月22日(日)13時より阿佐ヶ谷ロフトAにて開催です。会場では、書籍『スーパーアニソン作曲家 渡辺宙明大全』(辰巳出版)のほか、渡辺宙明の新曲を収録したミニアルバム「SFX巨人伝説ライン 30th Anniversary Song」と映画音楽デビュー作を収録したアルバム「渡辺宙明 新東宝映画作品集」も販売します。前売り券はe+にて発売中。ぜひ、ご来場ください!
渡辺宙明トークライブ Part13
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/126944
サンリオのYouTubeチャンネルで、6月からTVアニメ「ジュエルペット」シリーズ全話が順次公開されている。シリーズ放映開始から10周年を迎えたことを記念したものだ。6月にTVアニメ第1作『ジュエルペット』(2009)が、7月末に第2作『ジュエルペット てぃんくる☆』(2010)が、9月からは第3作『ジュエルペット サンシャイン』(2011)が、配信を始めた。
TVアニメ「ジュエルペット」シリーズは、サンリオの動物キャラクター・ジュエルペットを主人公にした作品である。ジュエルペットは瞳にルビー、サファイア、ガーネットなどの宝石を持つふしぎな動物。魔法の国ジュエルランドに住み、魔法学校で魔法を学んでいるという設定だ。
1年間放映されるTVアニメ「ジュエルペット」シリーズには、毎年、同じジュエルペットたちが登場する。デザインも声優も基本的に同じ。しかし、ストーリーや設定はシリーズごとに異なり、シリーズ間のつながりはない。ジュエルペットの性格も、少しずつ異なっている。そのおかげで、各シリーズの個性がはっきりしているのが特徴だ。
筆者はサウンドトラック・アルバムの仕事をしたので、『ジュエルペット てぃんくる☆』と『ジュエルペット サンシャイン』はリアルタイムに全話視聴した。土曜日の朝放映されている、子ども向けの愛らしいキャラクターのアニメである。仕事でなければ、観なかったかもしれない。しかし、キッズ向けアニメとあなどっていたら、『ジュエルペット てぃんくる☆』では、夢を追う少年少女たちの熱いドラマに感動させられた(シリーズ構成とメイン脚本は島田満)。続いて始まったのが、『ジュエルペット サンシャイン』だ。これにはぶっ飛んだ。
『ジュエルペット サンシャイン』はとんでもないアニメだった。前作の感動ストーリーから一転、パロディやブラックなギャグが満載の破天荒な作品になって、「こんなに変わっていいのか?」ととまどったものである。それは音楽演出においても同様だった。
YouTubeで『ジュエルペット サンシャイン』が全話公開されて、筆者が真っ先にチェックしたのが、第25話「雨にうたえばイェイッ!」。劇中でジュエルペットの女の子ガーネットとアイドル・ディアンが手をつないで街中を走る場面にザ・ビートルズ「ハード・デイズ・ナイト」が流れる(実写劇場作品「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」のパロディ)。女優志望のガーネットがオーディションに臨む場面は実写劇場作品「フラッシュダンス」の名場面の完コピで、流れる音楽はもちろんアイリーン・キャラの「ホワット・ア・フィーリング」。……というのは放映版で、DVD版では似た感じの別の音楽に差し替えられている。放映とパッケージでは音楽使用料の扱いが異なることによる措置である。配信版はどちらか……? と思いながら観たが、残念ながら音楽が差し替わったパッケージ版だった。予想はしていたが、ちょっとがっかり。
第25話に限らず、本作には既成のヒット曲を使ったパロディシーンがたくさんある。第7話の「アルマゲドン」のパロディ(エアロスミス「ミス・ア・シング」)、第35話の「卒業」のパロディ(サイモン&ガーファンクル「サウンド・オブ・サイレンス」)などのほか、日本のTV番組のテーマ曲や寺尾聰のヒット曲「ルビーの指環」を使ったシーンも登場する。いずれもパッケージ版では差し替えられていて、放映版の面白さが伝わらないのが惜しい(CS放送等では差し替えなしで放送されている)。
しかし、そんなことを抜きにしても、本作には音楽込みで笑える名シーンが多い。音楽がからむギャグというと、名曲を使ったパロディ以外にも、シリアスなシーンにコミカルな音楽を流し(あるいはその逆の組み合わせで)異化効果をねらったものや、悲しい場面や怖い場面に大げさな曲を流して一種のパロディにしてしまうものなど、さまざまな手法がある。変わった音色の楽器やコミカルなリズムを使って音楽自体をユーモラスに仕上げるケースもある。
『ジュエルペット サンシャイン』の場合、音楽にも多少コミカルな要素はあるが、シーン自体が突拍子もないところに音楽が追い打ちをかけるケースが多い印象である。不条理ギャグ回とも呼べる第7話「サンクスジュエルデーにイェイッ!」や第36話の前半「ジュゲムペットでウヒョイッ!」などはその典型だ。また、全編が劇中ミュージカルになった第34話「ミュージカルだよ!イェイッ!」は、歌あり踊りありギャグありの、本作の魅力が詰まったエピソード。どの回を観ても、面白くするためには音楽ひとつにも手を抜かないスタッフのこだわりが伝わってくる。
本作の音楽を手がけたのは『ガールズ&パンツァー』『ああっ女神さまっ』などで知られる浜口史郎。『ジュエルペット』『ジュエルペット てぃんくる☆』『ジュエルペット サンシャイン』の音楽を続けて担当している。
浜口史郎といえば、オーケストラを巧みに使ったスケール感豊かな音楽やポップで品のよい楽曲が持ち味の作曲家。けれど、「ジュエルペット」シリーズの音楽はひと味違う。生音は控えめで、打ち込み中心のキラキラしたサウンドで統一されている。宝石を瞳に宿すジュエルペットらしい音楽だ。女の子を中心にしたキッズ向けアニメとしても、カラフルで鮮やかな音色はぐっと心をつかむ要素になったはずである。
アニメ「ジュエルペット」がシリーズごとに違った設定と物語を持っているのに合わせて、音楽もそれぞれ異なっている。たとえば、どのシリーズにも舞台となるジュエルランドのテーマや主人公のジュエルペット・ルビーのテーマなど同じ主題の曲があるのだが、浜口史郎はシリーズごとに違う曲を書いている。名前は同じでも違う世界、違うキャラクターという認識なのだ。他のシリーズものとは異なるユニークな点である。並べて聴いてみるのも面白い。
内容はそうとう型破りな『ジュエルペット サンシャイン』であるが、音楽は比較的オーソドックスである。音楽発注時には、ここまで振り切れたアニメになるとは誰も予想していなかったのではないか。
本作の音楽は、「ジュエルペット サンシャイン はっぴぃ×3ミュージック」のタイトルで2011年7月に日本コロムビアから発売された。タイトルの「はっぴぃ×3」は「はっぴぃ はっぴぃ はっぴぃ」と読む。これは、1作目、2作目のサントラ盤のタイトルがそれぞれ、「ジュエルペット はっぴぃ♪ミュージック」「ジュエルペット てぃんくる☆ はっぴぃ☆はっぴぃミュージック」であったのに倣ったもの。次作『ジュエルペット きら☆デコッ!』(2012)からは音楽担当が浜口史郎でなくなり、サントラ盤も発売されなくなったので、この趣向は継承されなかった。
サントラ盤収録曲は以下のとおり。
- ジュエルペットサンシャインのテーマ
- GO! GO! サンシャイン(TVサイズ)(歌:五條真由美)
- 宝石の国ジュエルランド
- サブタイトル
- サンシャイン学園
- ルビーと仲間たち
- 花音のテーマ
- イルカ先生がやってきた
- ミラクルチャーム☆ジュエルフラッシュ!
- 3年ウメ組おちこぼれ組
- お気楽で行こうイェイッ!
- 花音の恋心
- たゆたう想い
- ルビーのやさしさ
- ラブラとエンジェラ
- ハイテンションでイェイッ!
- ペリドットとひなた
- ペリドット☆ジュエルフラッシュ!
- 青空のメッセージ
- 学園生活
- おしゃれなガーネット
- あこがれのダイアナ
- あの子は人気者
- ガーネット☆ジュエルフラッシュ!
- ジュエルランドの休日
- のんびり脱力系
- ゆかいな仲間
- イケメン組登場
- ほのかな恋
- ワニ山のテーマ
- ネジ川のテーマ
- 謎を追うルビー
- 晶子のテーマ
- スピード勝負!
- 友情のジュエル
- 夕日に向かってイェイッ!
- 星空のジュエリーナ
- 困ったルームメイト
- ヤバイ展開!?
- 大ピンチ
- 力を合わせて
- ピュアなハートで
- 恋は魔法
- サンシャインな日々
- 花音のキモチ
- 夢を追いかけて
- 明日もドキドキだよイェイッ!
- イマドキ乙女(TVサイズ)(歌:増山加弥乃&望月美寿々)
TVサイズのオープニング&エンディングテーマを含む全48トラック。
構成は筆者が担当した。
チャンスがあれば、もう一度作りたいサントラである。というのも、サントラを制作したのは5月末から6月初旬にかけて。番組はようやく7話か8話が放送された頃だった。そのときは、ここまでぶっ飛んだ作品になるとは予想してなかったのだ(7話まででも、十分とんでもないエピソードがあるのだが)。前作『ジュエルペット てぃんくる☆』の余韻が残っていたこともあり、前作よりも元気でコミカルな作品……でも、最後はいい話で終わる……というイメージで選曲・構成したことを覚えている。
本作の音楽は第1回録音で約80曲が作られていた。選曲段階で落とした曲が30曲近くある。シリーズが半分くらい進んだ時期に取りかかっていたら、もう少しコミカルな曲や不穏な曲、ハイテンションの曲を入れたのになあ……。曲順と曲タイトルも、もうひと工夫していただろう。
しかし、これはこれで、ジュエルペットらしい曲が詰まったアルバムである。
1曲目の「ジュエルペットサンシャインのテーマ」はタイトルどおりメインテーマとして書かれた曲で(MナンバーはM1)、ジュエルペットの世界のキラキラしたイメージ、わくわく感を伝えるナンバーだ。
オープニング主題歌「GO! GO! サンシャイン」を挟んで、「宝石の国ジュエルランド」はファンタスティックで穏やかなジュエルランドのテーマ。番組の冒頭によく流れていた曲で、皆口裕子のナレーションが聞こえてくるようだ。
「ルビーと仲間たち」「花音のテーマ」は本作らしい楽曲で、可愛らしさを残しつつ、ちょっとずれたコミカルさをかもし出している。
トラック8の「イルカ先生がやってきた」は第1話のイルカ先生登場場面に流れた曲。オルガンとエレキギターをメインにしたロックンロール調で、スラップスティックなギャグシーンを彩った。
筆者が(今にして)気に入ってるのは、トラック30の「ワニ山のテーマ」。パーカッションを多用したエスニック風味の曲で、コミカルさと不穏なイメージが共存する。後半に入ってサックスのソロが登場するところが笑える。本作のイメージを伝えるユニークな曲である。その次の「ネジ川のテーマ」も一風変わった曲調で面白い。こういう、「おかしいんだか不思議なんだかわからないが、なんとなく変」という曲が『ジュエルペット サンシャイン』に一番合っている気がする。
アルバム終盤は、大事件発生〜力を合わせて解決〜エピローグ、というイメージで構成したのだが、今なら、もうひとひねりした締めくくり方を考えると思う。でも、最終話はけっこう感動的な終わり方なので、あながちはずれてもいなかった。
前作の『ジュエルペット てぃんくる☆』は、2013年にBD-BOXが発売されたときに、同梱の「完全版サウンドトラック」(全BGMを収録したCD2枚組)を構成させていただく機会があった。しかし、『ジュエルペット サンシャイン』は放送当時サントラCD1枚が発売されたのみで、多数の未収録曲が残っている。番組後半に登場する怪盗M-Kageの曲など、追加BGMとおぼしき曲もある。
今回の全話配信を機に、完全版サウンドトラックを出してもらいたいなあ。既成のヒット曲の収録は無理としても、パッケージ版で代わりに使われたBGMやミュージカル回の曲、最終話の合唱版主題歌も網羅して。筆者の中で、本作は「21世紀以降の面白かったアニメ」上位にランクインする思い出深い作品。音楽ともども、埋もれさせておくには惜しい名作である。
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