腹巻猫です。1977年放送のTVアニメ『超合体魔術ロボ ギンガイザー』のサウンドトラックが2月14日に発売されます。音楽は『宇宙海賊キャプテンハーロック』『聖闘士星矢』等で知られる横山菁児。横山先生初のSFアクションアニメ作品でした。2枚組で主題歌とカラオケ、BGMを完全収録。BGMは全曲初商品化! 構成・解説を腹巻猫が担当しています。横山菁児ファン、ロボットアニメファンの方、ぜひお聴きください!
超合体魔術ロボ ギンガイザー オリジナル・サウンドトラック
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今回取り上げるのは『るろうに剣心 —明治剣客浪漫譚— 追憶編』。タイトルが長いので、以下、『るろうに剣心 追憶編』もしくは『追憶編』と表記する。
原作は和月伸宏が1994年から1999年まで週刊少年ジャンプに連載したマンガ「るろうに剣心 —明治剣客浪漫譚—」。1996年にTVアニメ化され、1998年まで全94話が放映された。放映中に劇場アニメ1本が、放映終了後にOVA3タイトルが制作されている。2012年と2014年には佐藤健主演の実写劇場作品が公開された。映像だけでなくミュージカル、ゲーム、小説等、幅広くメディア展開される人気作品である。
『るろうに剣心 追憶編』はTVアニメ版の放送が終了したあと、1999年に全4巻(第一幕〜第四幕)が発売されたOVA作品。アニメーション制作はTVアニメ版後期と同じスタジオディーンが担当し、監督の古橋一浩以下、脚本、作画監督、美術監督、撮影監督ら主なスタッフと剣心役の涼風真世がTVアニメ版から引き続き参加している。しかし、キャラクターデザインと音楽が変わり、作品の雰囲気は大きく変化した。
『追憶編』はTVアニメ版の前日譚。剣心が人斬りとして生きていた時代を描いた作品である。原作では「人誅編」の中で回想として語られる物語を独立したエピソードとして描いている。
幕末。幕府の要人暗殺を請け負って暗躍する「人斬り抜刀斎」こと緋村剣心の前に巴と名乗る女が現れる。彼女は剣心に斬られた武士・清里の許嫁だった。素性を隠して剣心に近づいた巴と剣心の間に、いつしか情愛が芽生え始める。
TVアニメでは「不殺」を誓い、人を斬ることのできない逆刃の刀を持って現れる剣心が、なぜ人斬りの過去を封印したのかが全4幕の中で語られる。
少年マンガの趣を残していたTVアニメ版と異なり、キャラクターは大人びて、演出もシリアスになった。それを象徴しているのが、たびたび登場する斬り合いのシーン。刀が肉を裂き、血が飛び散る映像が登場する。その容赦ない描写が、剣心と巴の物語の切なさを際立たせている。
音楽はTV版には参加していない岩崎琢が担当した。
アニメ音楽、映像音楽という枠を超えて心をゆさぶる、凄みのある音楽を提供している。
高校生時代から作曲の勉強を始めた岩崎琢は、東京藝術大学作曲科に進学。在学中に日本現代音楽協会作曲新人賞を受賞し、卒業後、本格的に作・編曲家として活動を始めた。
プロフィールには「幼少時より作曲の手ほどきを受け、高校生のときに神奈川芸術祭合唱曲作曲コンクール第1位に入賞したことがきっかけで作曲家を志す」とよく書かれているが、これは昔所属していた事務所が宣伝用に書いたことで、正確ではないそうだ(1位入賞したのは事実)。作曲科には進んだが職業作曲家をめざしていたわけではない。クセナキスやジョージ・クラム、ジャック・ルノなど現代の作曲家と作品に関心があり、現代音楽の作曲がしたかった。映像音楽の作家になるとはまったく考えていなかったという。
しかし、仕事を続けていくうちに映像音楽の面白さに目覚めていく。こういう世界が意外と好きな自分を認めざるをえなくなってしまった。
最初期のアニメ音楽の仕事は、1995年放送のTVアニメ『ロミオの青い空』のオープニング&エンディングテーマの作曲。劇中音楽を手がけるようになったのは今回取り上げた『るろうに剣心 追憶編』(1999)の頃から。以降、『今、そこにいる僕』(1999)、『R.O.D -READ OR DIE-』(2001)、『Witch Hunter ROBIN』(2001)、『焼きたて!! ジャぱん』(2004)、『天元突破グレンラガン』(2007)、『黒執事』(2008)、『刀語』(2010)、『ベン・トー』(2011)、『ヨルムンガンド』(2012)、『ジョジョの奇妙な冒険(第2部)』(2012)、『ガッチャマン クラウズ』(2013)、『魔法科高校の劣等生』(2014)、『文豪ストレイドッグス』(2016)などのアニメ作品の音楽を担当している。
ありきたりなアニメ音楽に挑戦状をたたきつけるような先鋭的なサウンド。現代音楽はもとより、ラップ、ヒップホップ、EDMなど、幅広い音楽ジャンルを取り入れ、ミックスする斬新なスタイル。これまで聴いたことのないカッコよさを持つアニメ音楽を作り続けて、目が(耳が)離せない。『天元突破グレンラガン』や『ガッチャマン クラウズ』の音楽を鮮烈に記憶するアニメファンも多いだろう。
岩崎琢は抗う作曲家である。アニメ音楽とはこういうもの、映像音楽とはこういうものという常識や枠組みに抗い、無神経な音楽の使われ方に抗い、大衆性やパターンに流されがちな音楽作りに抗う。
かといって、独自の芸術性を追求することにこだわっているわけでもない。アニメ音楽が商業音楽であることを意識しつつ、その枠を壊すこと、枠からはみ出すことに挑戦しているのだ。
そんなせめぎあいの中で作られる音楽は、どう展開するのか、どんな音が聴こえてくるのか、先が読めない緊張感に富んでいる。
『るろうに剣心 追憶編』の音楽には、すでに岩崎琢の作風が色濃く表れている。サウンドトラック盤のライナーノーツで岩崎はこう書いている。
「画とストーリーが要求するであろう力学的な一点を強力に意識しながら、表面の心地よさに回帰することを拒み続け、映像と物語の間に想像力の糸を紡いでいった。それは、同心円状に弧を描く、と言うようなものではなく、むしろ抗いの記録とも言うべき乱雑さ、いい加減さを呈している」
「乱雑さ、いい加減さ」というのは岩崎らしい韜晦もしくは照れだろう。本作の音楽は美しく、激しく、剣心や巴らの心の襞を描き出す。まぎれもなく『るろうに剣心』の世界でありながら、映像に隷属する音楽ではなく自立している。本作に続いて制作されたOVA『るろうに剣心 —明治剣客浪漫譚— 星霜編』(2001-2002)で岩崎が作り出した音楽も同様だ。
サウンドトラック・アルバムは1999年3月にSPEビジュアルワークス(現・アニプレックス)から発売された。OVAの発売は第一幕が1999年2月、第二幕が4月、第三幕が6月、第四幕が8月。サントラは第一幕と第二幕の間に発売されたわけだ。
収録曲は以下のとおり。
- In Memories “A Boy Meets The Man”
- One of These Nights
- Alone Again
- Blood
- Day After Day
- In The Rain
- Quiet Life -pf solo version-
- The Will -pf solo version-
- The Wars of The Last Wolves
- The Will
- Testament
- Talk to The Moon
- Sound of Snow Falling
- Shades of Revolution
- In Memories “KO・TO・WA・RI”
- Quiet Life
トラック1から5までは第一幕のコンテに合わせて作曲された曲。トラック6以降は第二幕から第四幕のために用意された楽曲だ。
1曲目「In Memories “A Boy Meets The Man”」は第一幕の導入部に流れる音楽。6分を超える長い曲である。野盗に襲われた少年・心太が通りすがりの剣客・比古清十郎に命を助けられる一連のシークエンスに使われている。
静かな序奏部分は野盗が旅人を斬り殺す凄絶なシーンに流れている。画に合わせるなら緊迫感をあおる曲や悲しい曲をつけるところだが、あえて静かな曲をつけることで悲劇性が際立つ。伊福部昭が「効用音楽四原則」で語ったカウンタープンクトの手法だ。曲と映像との間になれあいを拒む緊張感がただよう。いや、むしろここでは、清十郎の「病んでいる、時代も人の心も——」という冒頭のモノローグを受けての、物語の背景となる時代全体を表す音楽ととらえるべきかもしれない。
中間部に登場するのは2曲目「One of These Nights」や6曲目「In The Rain」にも含まれるフルートによるやさしいモチーフ。旅の女が心太を助けようと犠牲になる場面に流れている。本作における愛のテーマとも呼ぶべきモチーフで、心太の心に刻まれる人の想いを象徴している。
清十郎が野盗を斬り捨て心太を救う場面では15曲目「In Memories “KO・TO・WA・RI”」のモチーフが現れる。清十郎のテーマであると同時に、本作のメインテーマとなっているメロディだ。清十郎は心太を剣客として育て上げようと決意し、心太に「剣心」の名を与える。心太は剣心の少年時代の姿だったのだ。そう観客が気づいたところでメインタイトルとなり、曲は終わる。
状況説明の音楽ではなく、『るろうに剣心 追憶編』の世界とドラマを象徴するみごとな序曲になっている。大きなうねりを持ち、静かに心をゆさぶる曲想は本作全体の印象と呼応している。
2曲目「One of These Nights」は巴の物語の発端となる暗殺シーンに流れる曲。武士・清里が巴と会話する場面に短く愛のモチーフが流れる。すぐに不穏な曲調になり、剣心が京都所司代・重倉十兵衛を暗殺しようとする場面の緊迫した曲に展開。護衛役の清里が斬られ、巴の面影を胸にこと切れる場面でふたたび愛のモチーフが聴こえてくる。
フィルムスコアリング的な作り方だが、曲は清里にフォーカスし、幕末に生きた男の愛と死を描き出す。これも状況説明にとどまらない深みのある曲である。
3曲目「Alone Again」は剣心の回想シーンの曲。清十郎のもとで剣の修行をしていた剣心が清十郎とたもとを分かって山を下りる決心をする場面に流れる。メインとなるのは清十郎のテーマ。若き剣心の激情よりも、すべてを見通したような清十郎のやりきれない想いが伝わる曲調だ。
頬の刀傷が消えないことに心を乱す剣心の場面につけられた4曲目「Blood」、暗殺者「人斬り抜刀斎」となり心荒んでいく剣心を描く5曲目「Day After Day」。情感に流れない突き放したような曲調が剣心の心に広がる空虚な闇をイメージさせる。
9曲目「The Wars of The Last Wolves」は本作のバトルテーマである。これも6分を超える長い曲だが、第二幕の池田屋事件のエピソードにほぼフルサイズ選曲されている。
剣心が巴と人を斬ることについて会話する場面から流れ始め、新選組の池田屋襲撃場面を経て、剣心と巴が京を去るラストシーンまで流れ続ける。曲は不穏な序奏から剣戟を想起させる激しい曲想の中間部に展開。最後はホルンとトランペットが奏でるレクイエム的なテーマとなって終結する。
長い曲をバックに騒乱の京から剣心と巴が脱出するまでが描かれる。映像の情感と曲の展開が並走し、音楽が画に合わせたのか、画を音楽に合わせたのか、もはや判別しがたいし、判別するのも意味がない。バトルテーマでありながら、戦いの虚しさと悲哀も内包した、本作のテーマを象徴する楽曲である。
10曲目「The Will」は桂小五郎を中心にした維新志士のテーマ。弦合奏とオーボエによる静かな決意をたたえた曲想だ。彼らを待つ運命はけして安楽なものではない。曲は哀切の想いがにじむ旋律で終わる。
本編では第三幕で剣心が幸せの意味をようやく知ったと巴に語る場面、第四幕での巴の最期の場面など、重要なシーンで選曲された。時代に翻弄されながらも想いを貫こうとした人間の心情を象徴する曲として使われている。
13曲目「Sound of Snow Falling」は巴のテーマである。弦と木管が奏でる穏やかな曲だ。曲の途中に愛のテーマが顔を出す。5分を超えるこの曲も、第三幕のクライマックス、剣心が巴への想いを口にし、二人が愛を確認する場面でフルサイズ使われている。音響演出・はたしょうじ(はたしょう二)の長い曲を生かしきる演出が光る。
14曲目「Shades of Revolution」は人斬り抜刀斎のテーマ。明確なメロディを持たない現代音楽的な導入部は心に虚無を抱えた人斬りとしての剣心を表現しているようだ。曲はリズムをともなったバトルテーマに展開するが、30秒ほどで静かになり、ホルンと弦合奏による夜明けの情景を思わせる希望を宿したテーマが現れる。やがて躍動的なリズムをバックにしたトランペット、トロンボーンによる雄々しいモチーフへと展開していく。
演奏時間7分以上。アルバムの中でも一番の長さを持つこの曲は、1曲の中で剣心が人斬り抜刀斎から不殺の誓いを立てた新しい剣心へと生まれ変わっていくさまを表現していると筆者は考えた。劇中では通して使われることはなかったが、『追憶編』の世界を構成する重要なピースとなる曲である。
15曲目「In Memories “KO・TO・WA・RI”」は剣心の師匠となる剣客・比古清十郎のテーマ。すでに書いたように、本作のメインテーマでもある。
本作の音楽で重要な役割を果たしている楽器がホルンだ。この曲ではホルンが中心になって主題が奏される。核となるメロディは、強さを秘めた諦観とでも言おうか、勇壮さともやさしさとも悲しみともつかぬ複雑な情感を感じさせる。清十郎個人のテーマというよりも、清十郎に仮託された歴史の目撃者の視点から本作を見渡す音楽に聴こえる。叙事詩的な趣を感じさせる名曲である。
第四幕では、終盤、巴を失った剣心が京へと向かい剣をふるう場面から、動乱の時代を経た登場人物たちのその後が示唆されるエピローグまで、6分近い曲をまるごと使って物語の締めくくりとしている。
アルバムのラストに置かれた「Quiet Life」は第一幕、第二幕のエンドクレジットに流れた曲。弦合奏による穏やかな曲調は、「静かな人生(生活)」というタイトルどおり、剣心と巴が過ごした束の間のやすらぎの日々を思い出させる。
『るろうに剣心 追憶編』は、映像作品における音楽の役割、音楽の力を考えずにはいられなくなる作品である。
岩崎琢の音楽は物語と映像に従属することなく、しかし、遊離することもなく、作品のテーマを軸に『るろうに剣心』の世界をときに包みこみ、ときにその世界に深く切り込んでいく。いくつかのモチーフが重層的に組み合わされた楽曲は、安易な解釈を拒む多面的な顔を持っている。
岩崎琢は抗う作曲家である。剣心も巴も志士たちも、時代と運命に抗って自らの生き方を貫いた。岩崎琢の音楽がそんな物語と人物への共感から生まれたと言ってはありきたりすぎて無粋になるだろうが、共振して生まれたと言ってもよいのではないか。そんな解釈は不要と作曲者は言うかもしれないが、音楽を聴く者の自由として赦していただきたい。
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