腹巻猫です。前回も告知しましたが、3月11日に阿佐ヶ谷ロフトAでイベント「劇伴音楽大進撃」を開催します。樋口真嗣監督と氷川竜介さんと一緒に劇伴音楽の魅力を語ります。ぜひご来場ください! 配信でも観覧できます。詳細・チケットは下記を参照。
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/346677
また、3月14日には蒲田studio80でサントラDJイベント「Soundtrack Pub【Mission#50】2025年劇伴大賞ほか」を開催します。こちらは予約不要。ふらりとご来場ください!
https://www.soundtrackpub.com/event/2026/03/20260314.html
劇場アニメ『超かぐや姫!』の快進撃が話題だ。
もともとはNetflixで1月22日に配信された作品。2月20日から1週間の限定上映としてスタートすると連日満員のヒットとなり、上映延長と全国100館以上での拡大公開が決定した。筆者は最初の1週間が終わる直前に観に行ったが、劇場は若い観客でいっぱい。その熱気も印象的だったが、作品にも引きこまれた。
2時間20分の上映時間に、歌やドラマやアクションがぎゅっと詰まっていて、速いテンポで進む。一度観ただけでは物語の細部や背景はよく理解できない(でも楽しい)。劇場で観たあと、Netflixで観返してしまった。そして、さりげない伏線や隠されたドラマに気づき、こういうことだったのか! と感心してしまった。
今より少しだけ先の未来。ひとり暮らしをしながら進学校に通う女子高生・酒寄彩葉(いろは)は、勉強に推し活にゲームに多忙な日々を送っていた。ある日、彩葉は七色に輝く電柱の中から謎の赤ん坊が現れるのを目撃し、思わず家に連れ帰ってしまう。赤ん坊はあっという間に彩葉と同年代の少女に成長。彩葉は「月からやってきた」と言う彼女を「かぐや」と名づけて同居生活を続ける。わがままでエネルギッシュなかぐやは、仮想空間〈ツクヨミ〉の歌姫・ヤチヨとのコラボライブを賭けて、「ヤチヨカップ」に参戦することを宣言。彩葉を巻き込んでツクヨミのライバー(配信者)となり、人気を獲得していく。しかし、かぐやが月に帰る日が近づいていた。
監督・山下清悟、アニメーション制作・スタジオコロリド、スタジオクロマトのスタッフで制作されたオリジナル作品である。
劇中で流れる歌はネットで活躍するボカロPたちが提供。華麗なライブシーンや迫力満点の合戦シーンが見どころだ。軽快なテンポで描かれる少女たちの会話も楽しい。彩葉がひとり暮らしを始めた背景には家族との確執があるらしいが、作品はそこには深入りしない。心情を押しつけない演出がスマートで、そういうところが若者に支持されているのかなと思った。
劇中音楽(劇伴)はコーニッシュが担当している。コーニッシュはTVアニメ『ポケットモンスター』の新シリーズ(2023〜)や『ヘタリア』『遊☆戯☆王ZEXAL』、WEBアニメ『薄明の翼』などの音楽を手がける作曲家。『超かぐや姫!』の山下清悟監督とは『薄明の翼』以来のタッグだ。
本作の音楽について、コーニッシュはSNS(Instagram)でこう語っている。
「大きく語るより、静かに誠実に。“いま”の流れに耳を澄ませ、必要な音だけを選び取りました。ひとつひとつの旋律が、光の粒のように場面を照らし、聴くたびに、物語の奥がそっとひらいていきますように」
仮想空間が主な舞台となる作品だから、音楽もシンセサウンド中心のテクノ風にする選択もあったと思う。しかし、コーニッシュは落ち着いた曲や吹奏楽曲、オペラなども書く作曲家。意外なほどオーソドックスな音楽(劇伴)を作り上げた。映像にタイミングを合わせたフィルムスコアリングで、シーンに合わせたサウンドを繊細に構築した音楽だ。
雰囲気作りより、ドラマの演出に主眼を置いた音楽である。シンセ主体の曲もあるが、大事な場面ではピアノやストリングスなどの生楽器の音が流れる。単なるBGM(背景音楽)にとどまらない血の通った音楽が、映像で描ききれない、いろはやかぐやの心情を伝える。音楽のねらいはそこにあったのだろう。そのねらいは十分に成功したと思う。
本作のサウンドトラック・アルバムは「アニメーション映画『超かぐや姫!』オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで、2026年2月23日に配信開始された。レーベルはフジパシフィックミュージック/FABTONE。サウンドトラックとは別に主題歌・劇中歌を収録したボーカルアルバム「超かぐや姫!」も配信されている。
サウンドトラック・アルバムの収録曲は以下のとおり。
- OPENING ACT@TSUKUYOMI
- 酒寄彩葉
- かぐや爆誕。おい、ちょ、ま!
- ママみとバブみ
- フリーダムかぐや
- ガールズ☆パーティー
- ボナペティ体操
- TSUKUYOMI
- OnyXXX
- ヤチヨ降臨
- かぐやの布教
- 天才彩葉の即興ジングル
- 私の好きだったもの
- たいせつなひと
- News Tsukuyomi !!
- KASSEN -開幕-
- 試合開始〜!
- MIKADO -孤高の黒鬼-
- チームかぐやの反撃
- ヤチヨのお導き
- IROHA meets KAGUYA
- ヤチヨカップ優勝!
- 月人ナイト
- チルる
- かぐやと彩葉
- 零(あ)ゆる光彩
- モーメント・月
- うつし世の姫
- 月影
- IROHA’S Dancing All Night
- ヤチヨのどじょうすくい
- FUSHI
- ヤチヨ絵巻
- 満ちる月のセレナーデ 〜八千年の旅〜
- 超かぐや姫!
全35曲。曲数は多いが収録時間は約55分。2時間20分の作品だから、劇伴音楽の使用は控え目だ。劇中歌があるという事情もあるが、本当に必要なところに限定して劇伴を使っている。
印象的なのは、仮想空間に流れる和風の音楽。導入部のツクヨミの情景に流れる曲「OPENING ACT@TSUKUYOMI」(トラック1)は雅楽風に始まり、古代と近未来のイメージが融合したユニークなサウンドに展開していく。「ここはどこだろう?」と観客の興味を引く、うまい演出だ。トラック8「TSUKUYOMI」も同じタイプの曲。仮想空間を和風のイメージにしたのは、海外展開を考えてもうまいアイディアだと思う。
昨今は和楽器の音をシンセで代用することも多いが、本作では生の尺八、三味線、箏を入れて録音している。仮想空間に本物の音を流すことで、ツクヨミを薄っぺらでない実在感のある(変な言い方だが)世界に見せている。
和風のサウンドはかぐやのシーンにも使われている。謎の赤ん坊(かぐや)が初めて登場するシーンの「かぐや爆誕。おい、ちょ、ま!」(トラック3)は、雅楽風の音楽が始まっては途切れ、また始まっては途切れ、という具合に続いていく。なぜそうなっているかは映像を観るとわかる。絵と音楽が一体になってコミカルな場面をより面白くしているのだ。フィルムスコアリングでこういうこともできるという例である。
フィルムスコアリングといえば、トラック6「ガールズ☆パーティー」も曲の展開が面白い。彩葉が学校の友人と過ごす場面に流れる曲である。友人たちとの楽しい時間には、ピアノと口笛、パーカッション、木管などによる軽快で弾んだ音楽が流れる。そこに突然かぐやが現れ、曲は雅楽風に変化。すぐにコミカルな調子になり、彩葉の困惑と焦りを強調する。ずっと同じ曲想でも成立しそうな場面だが、音楽を細かく付けることで彩葉とかぐやのキャラクターを印象づけている。
シンセサウンドを生かした曲もある。トラック5「フリーダムかぐや」は成長したかぐやといろはの会話シーンに流れる曲。謎めいたかぐやのキャラクターがふわふわしたサウンドで表現されている。トラック24「チルる」、トラック29「月影」、トラック32「FUSHI」などもシンセサウンド主体の曲だ。
といっても、本作では仮想空間はシンセサウンド、現実世界はアコースティック(生楽器)サウンドと使い分けられているわけではない。場面の性格(演出意図)に合わせて、シンセと生楽器を巧みに使い分けたり、組み合わせたりしている。「このシーンにどんなサウンドが必要か」が第一で、そのために楽器を選ぶ。そんな作り方をしていることがうかがえる。
中盤の見せ場となる合戦(仮想空間での対戦)シーンは、音楽も力が入っている。トラック18〜21が合戦シーンに流れる曲である。
「試合開始〜!」(トラック17)はオーケストラと和楽器、シンセなどを使ったアップテンポの曲。仮想空間のバトルのスピード感、スケール感が表現される。「MIKADO -孤高の黒鬼-」(トラック18)はエレキギターとシンセ、和楽器などによるワイルドで緊迫感に富んだ曲。対戦相手の手ごわさを表現する曲だ。「チームかぐやの反撃」(トラック19)は、オーケストラ主体の勢いのある曲調で、かぐやチームの反撃を描写する。ヤチヨが加勢に現れると和風な「ヤチヨのお導き」(トラック20)が流れてちょっと雅な空気に。合戦のクライマックスを盛り上げる「IROHA meets KAGUYA」(トラック21)では、オーケストラとシンセ、エレキギターなどが共演。激しいアクションを描写すると同時に、かぐやと彩葉の絆までも表現しているのがうまい。
「IROHA meets KAGUYA」の途中から登場するピアノとシンセが奏でるフレーズは、彩葉が赤ん坊のかぐやの世話をする場面の「ママみとバブみ」(トラック4)で奏でられるフレーズと共通している。映画の後半で2人が花火大会を見に行く場面の「かぐやと彩葉」(トラック25)でも同じモチーフが反復される。つまり、かぐやと彩葉のテーマである。
合戦シーンにはけっこうな尺が取られており、長すぎるのでは? とも思ったが、かぐやと彩葉の関係が深まるエピソードであり、ヤチヨカップの決着がつく重要な場面でもある。映像面でも音楽面でも力を入れて描く必要があったのだろう。一連の曲は、サウンドトラック全体の中でも聴きどころである。
本作の音楽で特に注目したいのが、ピアノを主体にした曲だ。
先に紹介した「ママみとバブみ」もピアノソロの曲だった。彩葉はライバーをめざすかぐやのために、キーボード(ピアノの音色)で即興のジングル曲を弾く。トラック12「天才彩葉の即興ジングル」である。次の「私の好きだったもの」(トラック13)は、彩葉が弾く、作りかけのオリジナル曲。彩葉にとって音楽はとても大切なものであったことがこのシーンでわかってくる。
トラック14「たいせつなひと」は、がんばりすぎて寝込んでしまった彩葉をかぐやが看病する場面に流れるピアノソロの曲。さきほど紹介した「かぐやと彩葉のテーマ」がしっとりと演奏される。ピアノは彩葉とかぐやの心情を代弁する楽器なのだ。
彩葉とかぐやが花火を見ながら語らう場面には、ピアノソロで始まり、途中からストリングスがそっと寄り添う曲「零ゆる光彩」(トラック26)が流れる。彩葉もかぐやも自分の心情をストレートには口にしないが、音楽が胸の内を伝える。古風とも言える音楽演出が、ドラマの部分をしっかり支えている。
ちなみにピアノを演奏しているのは、作曲者のコーニッシュである。
アルバムのラストに置かれた「超かぐや姫!」(トラック35)は、終盤の怒涛の展開のあとのエピローグ的なシークエンスに流れる曲。エレキギターとピアノやストリングスが軽快で活気あるメロディを奏でたあと、ピアノで「かぐやと彩葉のテーマ」が変奏され、ハッピーエンドに向かっていく。全編の締めくくりにふさわしい幸福感のある曲だ。
「かぐやと彩葉のテーマ」のモチーフは、本稿で紹介できなかった曲の中にも登場する。サントラを聴きながら、どこに出てくるか探してみるのも一興だろう。
『超かぐや姫!』はとても今風な作品だ。Netflix発という公開形態もそうだし、映像も演出も劇中歌も、現代的なセンスにあふれている。いっぽうで、劇伴の演出はとても正統的。無駄な音を鳴らさず、シーンやドラマに寄り添う。集中して作品を観ているあいだは意識することはないかもしれないが、観客を作品世界に没入させてくれる。そんな音楽だ。作品の快進撃の陰に劇伴の力があることは心に留めておきたい。先に引用したコーニッシュの言葉、「静かに誠実に」が、本作の音楽をよく表している。
アニメーション映画『超かぐや姫!』オリジナル・サウンドトラック
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超かぐや姫!(ボーカルアルバム)
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