小黒さんから、私のインタビューがやや淡白だと指摘がありましたので、こんなエピソードを。
◯芝山さんの近くにいてなんでも聞いていた頃、「芝山さんは宮崎作品は観ないんですか」と聞いたら「観ないねー」と言われていたのですが、ある時、芝山さんが変わった夢を見たと話していて「どんな夢だったんですか」と聞いたら「宮崎さんの絵コンテが置いてあったんで、手に取ったら、絵コンテの画が動いていたんだ……」。それを聞いて、内心「やっぱり意識はしていたんだ」と思った本郷でした。
◯私が在籍していた頃の亜細亜堂は毎年社員旅行があり、大分お酒が入った芝山さんが「みんなで寄ってたかってオレの絵コンテをダメにしやがって!」と言っているのを聞いて、「やっぱりな……」と思った本郷でした。このふたつのエピソードは面白いので言って回っていたら、周囲の人はいつの間にか自分が芝山さんから直接聞いた話だと思い込んでいたようです。直接聞いたと記憶するくらいに腑に落ちるエピソードなのです。私が直接聞いたんですよ!
◯亜細亜堂を辞めた後、芝山さんの凄さにようやく気付いた私は「師匠を囲む会」を何度か開いたのですが、一度芝山さんに「本郷君の芸風はオレに似てるよ」(仕事ではなく、色んなものに対するスタンスの事だと思いますが)と言われて、ちょっと幸せになった本郷でした。
◯芝山努さんがアニメーションの現場から離れて、もう10年以上経ちました。気付くと、私も演出歴42年で所謂老境に入りました。そうなると日本のアニメーション史の中で芝山さんのやった功績について、実際に知っている人はもうすぐ現場には誰もいなくなってしまうのです。怖い怖い怖い怖い(笑)。他に誰も見当たらないので僭越ながら私がちょっと出しゃばってみました。多分、芝山さんは「また本郷君が余計な事をして」と言っていると思います。芝山さん、ごめんなさい。
◯亜細亜堂の社員旅行で余興のジェスチャーゲームがあり、芝山さんが作ったお題が「ノラネコを会社に連れ込んでエサをあげる本郷君」でした(汗)。
●プロフィール
本郷 みつる(ほんごう みつる)。アニメーション演出者。監督として『チンプイ』『クレヨンしんちゃん』『星方武侠アウトロースター』『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』『柚木さんちの四兄弟。』等、数多くの作品を手掛ける。