COLUMN

第291回 愛のロボットアニメオペラ ~グレンダイザーU~

 腹巻猫です。10月9日にTVアニメ『グレンダイザーU』のサウンドトラック・アルバムがリリースされました。音楽は田中公平。構成は筆者(腹巻猫)が担当しました。筆者は旧作の『UFOロボ グレンダイザー』にも並々ならぬ愛着があり、アルバムの構成(曲名・曲順)に「グレンダイザー愛」を注ぎ込んだつもりです。今回は、その聴きどころを紹介したいと思います。


 『グレンダイザーU』は2024年7月から9月まで放映されたTVアニメ。1975~1976年にかけて放映されたTVアニメ『UFOロボ グレンダイザー』のリブート作品である。総監督を『機動戦士ガンダムSEED』シリーズの福田己津央が務め、アニメーション制作はGAINAが担当した。
 フリード星の王子デューク・フリードは、謀略によって殺された両親の仇を討とうとして守護神グレンダイザーを暴走させてしまい、故郷の星を追われるように宇宙へ旅立った。放浪の末に地球にたどりついたデュークは、兜甲児と弓さやかに助けられ、地球人・宇門大介として暮らし始める。しかし、グレンダイザーをねらうベガ星連合軍がデュークの居場所をつきとめ、地球を襲撃してきた。さらに、デュークの恋人ルビーナとその姉テロンナも、反逆者としてデュークを追っていた。デュークを中心に愛と憎しみと陰謀のドラマが幕を開ける。
 オリジナル版『UFOロボ グレンダイザー』の設定を借りつつ、大胆なアレンジをほどこした意欲作である。驚いたのは、『UFOロボ グレンダイザー』のルーツである『宇宙円盤大戦争』の設定も盛り込まれていること。それを象徴するのが『宇宙円盤大戦争』のヒロイン・テロンナの登場だ。テロンナのエピソードは『UFOロボ グレンダイザー』でルビーナのエピソードとしてリメイクされた。つまり、テロンナに代わるキャラクターがルビーナであったのだが、『グレンダイザーU』にはテロンナとルビーナの2人が双子の姉妹として登場する。ルビーナはデュークの恋人で、その姉テロンナはひそかにデュークに想いを寄せているという設定である。このアレンジはなかなかうまいと思った。うまいとは思ったが、テロンナとルビーナの2人が登場することで人間ドラマが複雑になった感は否めない。デューク、ルビーナ、テロンナのあいだに三角関係が生まれ、物語全体の多くの部分を3人のドラマが占めることになった。
 『UFOロボ グレンダイザー』はロボットアニメの枠組の中に悲劇的なヒロインが登場するメロドラマ的な要素を盛り込んだ作品である。放映当時はそのメロドラマ的要素がティーンエイジャーのファンの心を動かし、人気を呼んだ。『グレンダイザーU』ではメロドラマ的要素の比重が旧作より大きくなり、作品全体を貫く主題になっている。ストレートなロボットものを期待したファンは、とまどったのではないだろうか。ネット上ではさまざまな感想が飛び交ったが、筆者はマニアックなファンに向けた、ある意味「二次創作みたいな作品だなあ」と思いながら楽しんだ。

 音楽を担当した田中公平は、本作のオファーがあったとき、近年の日本のアニメになかった直球のロボットものの音楽が書けると思い、意欲がわいたという。放映前に公開された田中公平のコメントの一部を引用しよう。
 「楽曲制作に際して、一番心掛けた事は『正統で本物のロボット音楽を書く事』でした。昨今、少なくなって来て寂しい思いをしておられるだろう『ロボットものファン』の方々が心から満足して頂けるような楽曲を書く!これが使命でした」
 先に書いたとおり、原典の『UFOロボ グレンダイザー』はメロドラマ的要素が強い作品で、菊池俊輔の哀愁を帯びた音楽がみごとにはまっていた。田中公平は、当初、菊池俊輔のオリジナル音楽を取り入れることも考えたそうだが、音響監督の長崎行男から「まったく新しい作品としてイチから作ってほしい」と言われ、前作のことは忘れて新しい音楽を書くことにしたという。
 福田監督から提示された音楽のイメージは「ギリシャ悲劇」。オリジナル版がメロドラマだとしたら、本作はオペラである。ワーグナーの歌劇のような重厚なオーケストラ音楽に、ロックや民族音楽の要素も盛り込まれた、現代的な「ロボットアニメオペラ音楽」だ。田中公平は長崎行男とのインタビュー映像の中で、本作の音楽を「私のロボットもの音楽の集大成」と語っている。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2024年10月9日に「グレンダイザーU Original Sound Track」のタイトルでポニーキャニオンからリリースされた。一部の告知にCD1枚組と書かれているが、正しくは2枚組。主題歌2曲のTVサイズと第4話に流れた挿入歌を含む全58曲。本作のために書かれた曲はすべて収録されている。
 収録曲は下記を参照。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0DBHFVSKZ

 「正統で本物のロボット音楽」にふさわしいアルバムにすべく、筆者も70~80年代の王道のロボットアニメのサントラみたいな雰囲気をめざして構成した。曲名には原典の『UFOロボ グレンダイザー』へのオマージュを盛り込んでいる。「これがロボットアニメのサントラだよなあ」と、旧作のファンにもよろこんでもらえるアルバムを目標にした。
 全体の構成は、全13話の物語を2枚のCDで再現する形にまとめた。全13話を2枚に分けるから、ふつうならディスク1のラストが第6話か第7話にあたるよう構成するところだが、第4話で流れた挿入歌「愛のうた」をディスク1の最後に入れたかったので、少し変則的な構成になった。ディスク1は第1話~第4話、ディスク2は第5話~第13話をイメージした内容である。

 ディスク1から紹介しよう。
 1曲目「グレンダイザーU」は本作のメインテーマ。作品全体を代表するテーマであり、特定の場面を想定した曲ではない。古典的なクラシック音楽のスタイルで書かれており、まさに歌劇の序曲のような、スケールの大きな音楽である。本編では第3話、第5話、第7話のグレンダイザー活躍シーンに選曲されている。
 オープニング主題歌をはさんで、トラック3からトラック11は第1話のイメージで構成した。
 トラック3「宇宙の深淵より」は第1話の冒頭、スペイザーが地球に落下する場面の緊迫した曲。「第二の故郷・地球」(トラック4)と「砂漠の町にて」(トラック5)は宇門大介として生きるデューク・フリードと平和な地球の描写に使われた曲だ。
 続く「襲来!ベガ星連合軍」(トラック6)で雰囲気が一変し、戦闘に突入する。兜甲児が操縦するマジンガーZの出撃場面に流れる「空駆ける魔神」、グレンダイザーの活躍を彩る「明日なき激闘」「荒ぶる守護神」と激しい曲がたたみかける。「王道のロボットアニメ・サントラ」の筆者なりのイメージを形にしてみた。「空駆ける魔神」が軽快なロック調で書かれているのに対し、グレンダイザーの曲はオーケストラにエレキ楽器とリズム楽器を加えたシンフォニックロック的なスタイルで書かれていることに注目したい。マジンガーZとグレンダイザーの強さの違いが音楽で表現されているわけだ。
 トラック10からトラック13は、デューク・フリードの過去を回想するイメージの構成。第2話でデュークが甲児にフリード星の出来事を話す場面に流れたメインテーマの変奏「悲劇の王子デューク・フリード」(トラック10)とデュークが奏でるギターの調べをイメージした「はるかなる故郷(ふるさと)の星」(トラック11)の2曲がデュークの孤独を表現。続く「王女ルビーナの微笑み」(トラック12)と「愛と慟哭の果てに」(トラック13)がルビーナの面影とフリード星での悲劇をよみがえらせる。田中公平が書くメロディーの凛とした美しさと端正なオーケストレーションに耳を傾けてほしい。
 トラック14からトラック23は、ベガ星連合軍との戦いの中で描かれる、デュークとさまざまなキャラクターとのかかわりを音楽で表現してみた。
 神秘的な力を持つ少女・牧場ヒカルのテーマ「宇宙の巫女ヒカル」(トラック15)、デュークを陥れた反逆者・カサドのテーマ「反逆の刃」(トラック16)、デュークと甲児との友情の曲「熱き血潮で結ばれた二つの星」(トラック23)など、主要キャラクターが次々登場するイメージだ。そのあいだに「卑劣な敵を迎え撃て」(トラック19)、「蹂躙される大地」(トラック20)、「紅蓮の怒り」(トラック21)といった戦闘曲、サスペンス曲を織り込んで、ロボットアニメ的躍動感も忘れないようにした。
 不穏な展開を予感させるトラック24「陰謀渦巻く大宇宙」をはさんで、トラック25からトラック29は第4話をイメージした構成。第4話は旧作でも人気の高いナイーダのエピソードのリメイク回である。ナイーダのテーマである「ナイーダ、漂泊のさだめ」(トラック25)、洗脳されたナイーダを描写する「いつわりの心に操られて」(トラック26)、ナイーダの悲痛な想いを表現する「愛ゆえの苦しみ」(トラック27)の3曲は、いずれも第4話の具体的なシーンを想定して書かれた曲。ドラマティックな「愛ゆえの苦しみ」が秀逸で、旧作のメロドラマ要素をオペラ風に再構築するとこうなるという田中公平の解答のような曲だ。洗脳が解けたナイーダの悲壮な決意を描写する「悪夢の再来」(トラック28)に続けて、円盤獣に突っ込むナイーダの場面に流れた挿入歌「愛のうた」(トラック29)を収録して、ディスク1の締めくくりとした。「愛のうた」は田中公平作・編曲、ナイーダ(CV:佐倉綾音)の歌唱による挿入歌で、フルサイズが聴けるのは本アルバムだけである。
 頭から聴いていくとディスク1だけでけっこうお腹いっぱい。本作の音楽の方向性と質の高さ、田中公平の本気度がわかっていただけると思う。この濃厚な感じは、音楽スタイルは異なれど、旧作『UFOロボ グレンダイザー』とたしかに通じるものがあると思う。
 ディスク2はがらっと雰囲気を変えて、ジャズトリオによる小粋な演奏「Flowers in the Night Sky」から始まる。実はこの曲は本編未使用。もともとは第8話でデュークがルビーナと密会するホテルのラウンジのBGMとして録音されたのだが、完成作品では密会場所がホテルではなく浅草の喫茶店になったため、使用されなかった。ここではインターミッション的なイメージで収録している。
 ディスク2のトラック2からトラック7は、第5話から登場するデュークの妹・マリアのシーンで流れた曲で構成した。旧作の人気キャラクターであるグレース・マリア・フリードは、本作でも活発でちょっと生意気な明るいキャラクターとして描かれている。トラック2「じゃじゃ馬娘がやってきた」はマリアのテーマ。初登場シーンのイメージに合わせてややコミカルな雰囲気で書かれている。トラック6「マリアにおまかせ」は同じ曲のバリエーションである。第5話でマリアが地球人と触れ合う場面の「戦火のふれあい」(トラック3)、マリアが敵のコマンダーと戦う場面の「スターカーの閃光」(トラック5)などを挿入して、マリアの多面的な魅力を表現してみた。トラック7「マリアと甲児」はマリアと甲児がはりあう場面に流れた明るくはつらつとした曲で、個人的にはこれがマリアのテーマでもよかったと思う。
 トラック12からトラック16は、デュークとテロンナの確執と愛のもつれをイメージした構成。デュークへの愛を貫こうとするルビーナにいらだつテロンナは、デュークと対決しようとする。その心にはデュークへの怒りと愛という相反するふたつの感情が渦巻いていた。
 テロンナのテーマである「白銀の騎士姫テロンナ」(トラック12)、テロンナとデュークが巨大ロボットを操縦してぶつかり合う場面の「宿命の激突」(トラック13)、テロンナの葛藤を描写する「悲痛なる想い」(トラック14)の3曲は、デューク、ルビーナ、テロンナが地球で邂逅する第6話のイメージで選曲した。闘うヒロインであるテロンナの曲は『ベルサイユのばら』的な華麗さとカッコよさがあり、本作の音楽の聴きどころのひとつである。
 トラック15「朔閏膰の丘」とトラック16「愛の儀式」は、第11話、第12話で描かれたデューク、ルビーナ、テロンナの三角関係の決着をイメージした選曲。
 トラック17からトラック25は、第11話~13話で描かれる地球対ベガ星連合軍の最終決戦をイメージした構成。重厚なサスペンス曲やバトル曲をここに集めて、アルバム全体のクライマックスとした。
 「悪魔の要塞ベガスター」(トラック17)はベガ星連合軍の脅威を描写する曲。次の「地球滅亡の危機」(トラック18)は地球の危機を表現するサスペンス曲だが本編では未使用に終わった。続いて、地球には隠された切り札があった!というロボットアニメの王道的展開を描写する「目覚める旧き遺構」(トラック19)と力強い「地球を守る翼」(トラック20)が地球側の反撃気分を盛り上げる。
 「マジンガー出撃!」(トラック21)は、マジンガーZにフリード星の技術を移植して完成した新ロボット、マジンガーXの出撃場面に流れる曲。ディスク1収録の「空駆ける魔神」とはサウンドが異なり、オーケストラが高らかに奏でる雄大で希望的な楽曲になっている。フリード星の技術と地球の技術の融合が音楽でも表現されているのだろう。
 ピアノのグリッサンドから始まるトラック22「死闘!地球対ベガ星連合軍」は激しい戦闘を描写する曲。男声合唱を加えたデモーニッシュな曲想が迫力満点。オーケストラサウンドとロックサウンドがミックスされたロックオペラ的な1曲だ。次の「この美しい星のために」(トラック23)は混声合唱とオーケストラによる壮大かつ豪快な最終決戦の曲。
 激しい曲の連続のあとに流れるのが、切なくも美しい「宇宙に散った愛の花」(トラック24)である。第12話のラスト、ルビーナの最期のシーンを飾った悲しい愛の曲だ。そして、デュークの怒りを宿したグレンダイザーの突撃を描く「宇宙の守護神グレンダイザー」(トラック25)がベガ星連合軍との決着、勝利を表現する。戦闘の展開と心情のドラマが一体となって盛り上がるクライマックスを、感情をゆさぶる音楽の連続で再現してみた。ロボットアニメのサントラはこうでなくては。
 トラック26からトラック28はエピローグである。
 トラック26「やすらぎをあなたに」は、第13話の終盤、戦いが終わり、病院のベッドの上で弓教授が目覚める場面に一度だけ使われた曲。本編ではわずかしか流れないが、フルートやストリングスが美しく奏でる慈愛に満ちた曲である。
 トラック27「いつか微笑みが還るまで」は上記の場面に続いて、デュークとテロンナがルビーナのなきがらを見送り、別れる場面に流れた繊細な愛の曲。往年のフランス映画音楽のようなロマンティックな曲想に胸がしめつけられる。
 物語を締めくくる曲として、ルビーナの愛のテーマとして書かれた「緑の星より愛をこめて」をトラック28に収録した。音楽メニューでは「愛のテーマ」と副題が付けられている。メインテーマと並ぶ、本作のサブテーマと言ってもよいだろう。独立したコンサートピースとしても鑑賞できそうな、聴きごたえのある1曲である。

 『グレンダイザーU』の音楽で田中公平が特に力を入れたと思われるのは、メインテーマを含むグレンダイザーのテーマと戦いの曲だ。田中公平が「正統で本物のロボット音楽」と語る通り、ロボットのカッコよさ、強さ、戦闘の迫力、緊迫感などがダイナミックかつ壮大なサウンドで表現されている。
 同時に、それと同じくらい力を入れたと思われるのが、ルビーナやテロンナ、ナイーダらに付された愛のテーマである。さまざまな愛の形、愛の試練、愛の悲劇が、クラシカルな曲想で奏でられ、作品に香気を加えている。先に本作の音楽を「ロボットアニメオペラ音楽」と書いたが、その中で大きな比重を占めているのが愛の主題だ。本作ではロボットの活躍(戦い)と愛のドラマが同じくらいの重みで描かれている。大いなる敬意をこめて、本作の音楽を「愛のロボットアニメオペラ音楽」と呼びたい。

グレンダイザーU Original Sound Track
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