COLUMN

第287回 つながるメロディ 〜響け!ユーフォニアム3〜

 腹巻猫です。8月28日にSOUNDTRACK PUBレーベルからCD「渡辺岳夫 ドラマ音楽メモリアル」を発売します。渡辺岳夫が1978年から1989年までに手がけたTVドラマ8作品の音楽を収録した2枚組です。『機動戦士ガンダム』の音楽にも影響を与えた「白い巨塔」をはじめ、これまで商品化の機会に恵まれなかった貴重なTVドラマ音楽を集めました。詳細は下記を参照ください。
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 8月26日には、上記CDの発売記念を兼ねたイベント「レッツゴー!サントラさんVI」を明大前のCafe Bar LIVREで開催します。先行販売も行いますので、内容を聴いてから購入したいという方はぜひどうぞ。イベント詳細は下記を参照。
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 今回取り上げる作品は、2024年4月から6月まで放映されたTVアニメ『響け!ユーフォニアム3』。2015年から放映されたTVアニメ『響け!ユーフォニアム』の第3期、最終章となる作品である。
 TVアニメ『響け!ユーフォニアム』は、京都府立北宇治高校の吹奏楽部に入部した黄前久美子を主人公に、吹奏楽に打ち込む少年少女たちの青春や人間模様を描いた作品。武田綾乃の同名小説を原作に、2015年に第1期、2016年に第2期が放映された。ほかにTVシリーズの劇場用総集編2本と劇場用新作2本、スピンオフの劇場アニメ『リズと青い鳥』が公開されている。
 『響け!ユーフォニアム3』では、黄前久美子は3年生に進級し、吹奏楽部の部長として部員を率いる立場になっている。本編では、久美子が全国大会に向けて部員たちをまとめていく苦心とともに、新たに入部した転校生・黒江真由との葛藤が描かれた。原作とは異なる展開となった久美子と真由の最終オーディションと、そのあとの久美子と親友・高坂麗奈との語らいのシーンは、アニメ版を観てきたファンに「こうきたか!」と思わせるインパクトがあった。それも含めて、最終章にふさわしいシリーズだった。

 音楽はアニメ版の音楽を一貫して手がけている松田彬人が担当。このシリーズでは、吹奏楽が題材になっていることから、劇伴は基本的に管楽器(金管・木管楽器)を使用しない方針がとられている。現実音として吹奏楽や管楽器の音が流れているシーンが多く、劇伴の音との衝突を避けるためだろう。
 しかし、管楽器を使用しないとすると、使えるのはピアノなどの鍵盤楽器と弦楽器、打楽器くらい。さまざまなシーンにあった音楽が求められる劇伴作りには大きな制約である。過去シリーズでは、その制約を補うためにギターやアコーディオン、チェレスタ、シンセなどを使って音色に変化をつけていた。
 『響け!ユーフォニアム3』の音楽で驚くのは、ほぼ全曲がピアノと弦楽器だけで作曲されていること。そのため、全体に落ち着いた、上品な印象を受ける。曲調も、喜怒哀楽を表現するわかりやすい曲ではなく、特定の感情を想起させない中間色の曲が多くなった。視聴者は音楽の印象に左右されずに、久美子たちの気持ちを想像することになる。すぐに答えが出せない複雑な心情を描いた今回の物語にふさわしい音楽だと思う。
 本作の音楽演出で重要な役割を補っているのが、現実音として作られた吹奏楽の曲である。吹奏楽部員が聴いたり演奏したりする曲として、既成曲とオリジナル曲の演奏が用意された。今回、北宇治高校吹奏楽部が全国大会の自由曲として演奏する曲が「一年の詩」。松田彬人が書き下ろしたオリジナル曲で、本作のメインテーマとも呼べる。松田自身が「自分にとっての集大成」になったと語る力作だ。最終回のクライマックスは、北宇治高校吹奏楽部が全国大会でこの曲を演奏するシーンである。
 ほかにも、吹奏楽部員が個人練習で鳴らしている楽器の音、音楽になっていないくらいの短いさまざまなフレーズも、一種の背景音楽として機能している。吹奏楽と劇伴のアンサンブルが本作の音楽の聴きどころだ。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「TVアニメ『響け!ユーフォニアム3』オリジナルサウンドトラック『つながるメロディ』」のタイトルで、2024年7月31日にバンダイナムコミュージックライブ/ランティスレーベルから発売された。CD2枚組で、ディスク1には劇伴音楽が、ディスク2には吹奏楽曲が収録されている。通常盤と初回限定盤の2種類があり、初回限定盤は「一年の詩」のスコアを掲載した冊子つき。
 劇伴を収録したディスク1を中心に紹介しよう。収録曲は以下のとおり。

  01.ReCoda(TV Size)
  02.移りゆく季節
  03.はじまる日常
  04.また新たな始まり
  05.試行錯誤
  06.夕暮れの葛藤
  07.通底する気持ち
  08.特別でありたい
  09.変わらないもの
  10.私の存在
  11.意識の境地
  12.波紋
  13.青春の行く先
  14.お互いの価値観
  15.信念の継承
  16.不和
  17.そこに在る日々
  18.栄光への道
  19.たゆたう思い
  20.荘重な瞬間
  21.重なる心
  22.運命の流れ
  23.伝えたい想い
  24.願いを胸に、心をひとつに
  25.繋いだ想いが花開く
  26.音色の彼方(TV Size)
  27〜39.アイキャッチ第一回〜最終回

 オープニング主題歌「ReCoda」とエンディング主題歌「音色の彼方」のTVサイズに挟まれる形で、劇伴24曲を収録。トラック27以降はボーナストラック的に第1話〜第13話で使用されたアイキャッチ音楽が収録されている。アイキャッチ音楽は吹奏楽曲「一年の詩」のイントロのフレーズを各話用に異なる楽器で演奏したもの。吹奏楽で使われる楽器と吹奏楽部員の紹介にもなっている趣向だ。
 本作で使用されている劇伴はここに収録されたものがすべて。アイキャッチをのぞくと全24曲しかない。吹奏楽曲が別にあるとはいえ、1クールのアニメの音楽としては少ない曲数である。音楽を使うシーンも限られていて、1話当たりに使用される劇伴は6〜8曲程度。その代わり、音楽を短く切って使用せず、シーンをまたいで長く使う演出が行われている。音楽がとても大切にされていると感じるのがこの作品らしいところだ。
 トラック2「移りゆく季節」からトラック5「試行錯誤」までは、新年度を迎えた吹奏楽部の日常を描写する曲。「移りゆく季節」は落ち着いたやさしい雰囲気の曲で、久美子と友人たちとの語らいの場面などによく流れた。トラック3からの3曲「はじまる日常」「また新たな始まり」「試行錯誤」は吹奏楽部の情景をリズミカルに表現する曲。「また新たな始まり」と「試行錯誤」では、劇場版『響け!ユーフォニアム〜アンサンブルコンテスト〜』の劇伴でも試みられていたポリリズム的表現が使われていて、シリーズを通じての音楽の進化を感じる。
 トラック6「夕暮れの葛藤」は、もの憂いピアノの演奏による心情曲。葛藤や悩みを表現する曲だが、使われたのは第5話と第9話の2回だけだった。ストレートに心情を描写する曲なので、かえって使いにくかったのかもしれない、と筆者は考えている。
 代わりによく使われたのが、心情を限定しない中間色の音楽である。
 たとえばトラック8の「特別でありたい」。アルペジオ風のピアノに弦の旋律が重なる曲で、久美子が麗奈と語らう場面によく使われている。久美子は心にもやもやを抱えているが、自分でもその感情の正体がわからない。だから麗奈と話してもすっきりしない。そんな答えの出ない感情を表現する曲である。
 同じような方向性の曲が、トラック14「お互いの価値観」。異なる価値観や考え方の出会いから生じる心のざわめきをピアノと弦楽器で表現した曲だ。久美子が真由に違和感を覚える場面や部内の意見の対立に悩む場面などに使用されている。
 こうした中間色の感情が葛藤や対立の方向に傾いた曲が、トラック12「波紋」、トラック16「不和」、トラック19「たゆたう思い」など。「たゆたう思い」は第8話と第9話でソリストに選ばれなかった久美子が呆然とする場面に流れていた。
 また、中間色の感情が希望的な方向に傾いた曲が、トラック9「変わらないもの」、トラック11「意識の境地」、トラック15「信念の継承」など。「信念の継承」は弦合奏によるしみじみとした雰囲気の曲で、第11話で久美子が吹奏楽部を指導する滝先生と語らう場面や第12話で久美子が真由の気持ちを理解する場面などに使われたのが印象深い。
 しかし、中間色の感情から葛藤・対立、または希望へと振れる振れ幅は微妙なものだ。ピアノと弦楽器のみの編成で、微細な心情の違いを表現する松田彬人の手腕に唸ってしまう。

 さて、本アルバムの構成は、トラック5「試行錯誤」までが導入部、トラック6「夕暮れの葛藤」からトラック19「たゆたう思い」までが久美子と吹奏楽部が迷いながらも全国大会に向けて前進していく日々、トラック20「荘重な瞬間」以降が第12話と第13話の展開に合わせたクライマックス、という流れになっているようである。
 そのクライマックスの音楽を聴いてみよう。
 トラック20「荘重な瞬間」は、キラキラしたピアノのフレーズから始まり、中盤から弦合奏によるエモーショナルな曲想に展開する。曲名どおり、シリアスな決断や事態の変化を表現する曲である。第1話で吹奏楽部が全国大会金賞をめざす方針を全員で決めた場面、第12話で最後のオーディションの結果が発表され、久美子と真由の2人が決選オーディションとなる場面の2回、使用されている。
 トラック21「重なる心」は緊張感を表すピアノと弦のフレーズからピアノのリリカルな旋律に転じる曲。第12話で麗奈が久美子と真由の決選オーディションに最後の1票を投じる場面に流れた。
 トラック22「運命の流れ」は第12話のラストシーン、久美子と麗奈が大吉山の見晴らし台で語らう場面に使われた曲。ピアノのやさしく美しい旋律が2人の心情を映し出す。全編を通して心に残る名シーンのひとつである。
 穏やかな弦合奏によるトラック23「伝えたい想い」は、最終話(第13話)、全国大会当日に会場に集まった吹奏楽部員たちが緊張をほぐすように談笑する場面に流れている。
 実はトラック21〜23の3曲はTVアニメ第1期のBGMの流用である。『響け!ユーフォニアム3』では、過去のシリーズからの音楽の流用はこの3曲だけ。いずれも上に紹介した場面でしか使われていない。その3曲がしっかりサントラ盤に収録されているのがうれしい。
 トラック24「願いを胸に、心をひとつに」は、最終話で、全国大会の本番を前に久美子と麗奈が吹奏楽部員たちに話をする場面に流れた曲だ。この曲では、ボレロ風のリズムに乗って、部員たちの気持ちが高揚するさまが音楽で表現される。画面では吹奏楽部員1人ひとりの顔がテロップともに紹介され、「いよいよ大詰めだ」と思わせる。この曲に至って、これまで劇伴では封印されていた金管楽器や木管楽器が演奏に参加してくる。部員の心がひとつにまとまっていくように。なんとも感動的な音楽設計である。
 続いて、場面は全国大会の演奏風景に。北宇治高校吹奏楽部が演奏する「一年の詩」が6分余り、ノーカットで使われた。演奏する久美子たちの脳裏に高校生活の想い出がよみがえるさまが、映像で描写される。過去のシリーズの映像も使用されており、ずっとシリーズを観てきたファンには感涙必至の場面だ。吹奏楽「一年の詩」は現実音楽であると同時に、シリーズ全体をふり返る音楽の役割も担っているのである。
 演奏が終わり、コンクールの結果発表を聞く久美子たちの場面に流れたのがトラック25「繋いだ想いが花開く」。この曲も管楽器を含むオーケストラ編成で書かれている。曲の前半に第1期のBGM「はじまりの旋律」や劇場アニメ『リズと青い鳥』用に書かれた吹奏楽「リズと青い鳥」のフレーズが現れるのがニクいところ。久美子たちの胸に去来する想いの表現なのだろう。後半は演奏したばかりの「一年の詩」のフレーズが再現され、曲の最後に、本作を通してのテーマ曲と呼べる「響け!ユーフォニアム」の一節が短く奏される。最終章のラストを飾るにふさわしい巧みな構成の曲である。
 最終回のエンディングに流れたのは、「響け!ユーフォニアム」の吹奏楽バージョン(ディスク2に収録)。エンディングのあとの、久美子のその後を描くエピローグには、吹奏楽「ディスコ・キッド」が現実音として流れる。まるでアンコールのようなこの曲もディスク2に収録されている。

 『響け!ユーフォニアム3』のサウンドトラック・アルバムには「つながるメロディ」の副題がつけられている。そのタイトルどおり、久美子たちの3年間を彩ってきた音楽と新しい音楽が共演し、次の世代につないでいくような構成になっているのがすばらしい。そのことを意識しながら聴いていると、胸が熱くなる。過去のシリーズのサントラを持っている方は、このアルバムを聴いたあと、あらためて聴き返してみるのもいいだろう。いや、きっと聴き返したくなるに違いない。

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