小黒 20年前と言えば『人狼 JIN-ROH』(劇場・2000年)が世に出たわけですけども、作画史的にはどんな位置づけになるんですか。
沓名 『人狼』は、うつのみやさんや磯さんから始まった「リアル作画」の集大成と思われがちですが、実はそうではないんですよね。リアルな描き方にも色々な流派がありますが、『人狼』は綺麗に動かすタイプのリアルですね。うつのみやさんや大平さん、橋本晋治さんがやっていた方向とはまた違っている。『人狼』以前の作品だと、押井守さんの『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(劇場・1995年)が該当するのかな。リアルの追求という意味では、『攻殻』には詰めきれていない部分がありましたが、『人狼』では一片の隙もないぐらいちゃんとやりきっていた。
それと、シワの描き方ですよね。コテコテと線を入れるのではなく、シルエットを全体で捉えていく。服のシワの盛り上がりを描く時に、服の中に線を入れないでポコッポコッとシルエットを描くやり方ですが、現代では一般化していると言えるぐらい普及していますね。『人狼』のスタイルが、服と布類の描き方に関して与えた影響は、うつのみやさんが首の下に影を落としたのと同じぐらい大きい気がしますね。
小黒 『人狼』は手描き作画の最高峰のひとつですね?
沓名 完全に最高峰です。作画監督が西尾鉄也さんですが、『人狼』以前は「トリッキーな天才アクションアニメーター」と言えるようなスタイルでした。西尾さんの作風が『人狼』から変わったのも、作画史的には面白いポイントですね。