腹巻猫です。磯光雄監督の最新作『地球外少年少女』前編・後編を劇場で観ました。『電脳コイル』の先にある未来を思わせる、SFマインドあふれる映像とストーリーにしびれました。Netflixで全話公開されているので、劇場で観られなかった方はぜひご覧ください。石塚玲依さんの音楽もすごくいいです。
2月22日は「にゃんにゃんにゃん」で猫の日なのだそうである。今年は西暦2022年なのでさらに2が3つそろうことになる。こんな機会はあと100年ない。当コラムでも猫アニメの音楽を取り上げてみよう。
筆者にとっての最高の猫アニメは『長靴をはいた猫』(1969)。猫が主役だし、文句なしの傑作だ。猫のキャラクターを使った『銀河鉄道の夜』(1985)もいい。とはいえ、どちらもすでに当コラムで取り上げてしまった。
そこで今回は『東京ミュウミュウ』の音楽を聴いてみよう。
『東京ミュウミュウ』は2002年4月から2003年3月まで放映された、ぴえろ制作のTVアニメ。地球征服をねらうエイリアンのたくらみをくい止めるため、レッド・データ・アニマル(絶滅危惧動物)のパワーを身につけた5人の少女が、正義の味方ミュウミュウに変身して戦う変身ヒロインものである。
中学1年生の桃宮いちごは、なぞの青年・白金と赤坂によってイリオモテヤマネコの遺伝子を注入され、ミュウイチゴに変身できるようになった。でも、それ以来、ふだんでもドキドキすると猫耳としっぽが生え、話すと語尾に「にゃん」がつくなど、突然猫化するようになってしまう。あこがれの青山くんと話すだけでも大変だ。ミュウミュウのアジトでもあるカフェミュウミュウでは、ウエイトレスとしてこき使われる毎日。それでもいちごは、戦いを終わらせて元の体に戻るため、仲間のミュウミント、ミュウレタス、ミュウプリン、ミュウザクロとともに、エイリアンに立ち向かう。
変身ヒロインは数あれど、猫耳としっぽが生えた主人公はインパクト抜群。決め台詞は「地球の未来にご奉仕するにゃん!」。サブタイトルにもやたら「にゃん」がつくなど、猫成分多めの作品なのである。2022年には同じ原作を再アニメ化する『東京ミュウミュウ にゅ〜』が放映される予定だ。
音楽は『カードキャプターさくら』『カードファイト!! ヴァンガード』などの根岸貴幸が担当。根岸にとっては魔法少女ものである『カードキャプターさくら』を1998年から2年間担当したあとの作品なので、その経験が生かせる反面、違いを出すのに苦心したことが想像できる。
根岸貴幸の音楽は独特の浮遊感が印象的だ。シンセの音色、メロディの展開にふしぎなふわふわ感があり、聴いていると身体が浮き上がるような気分になる。ファンタジー系の作品や少女ものでは、そのふわふわしたサウンドがとても効果的だ。本作でも、少女の気持ちや妄想が浮遊感のある音楽で表現されている。
いっぽうで、本作はバトルSFものの一面もあり、輪郭のくっきりしたサウンドも使われている。『カードキャプターさくら』ではあまり聴けなかった、リズムを強調した曲やエレキギターを使ったロック寄りの曲が聴けるのが特徴だ。
特に、それぞれのキャラクターにあわせて書かれた5人のミュウミュウのテーマ曲は、本作の音楽の聴きどころである。
本作のサウンドトラック・アルバムは「東京ミュウミュウ オリジナルサウンドトラック」のタイトルで2002年9月にNECインターチャネルから発売された。2003年1月には「オリジナルサウンドトラックvol.2」が発売されている。どちらもCDは現在入手困難だが、音楽配信(ストリーミング&ダウンロード)で聴くことができる。
1枚目の「オリジナルサウンドトラック」を聴いてみよう。収録曲は以下のとおり。
- my sweet heart(TV Version)(歌:小松里賀)
- サブタイトルにゃん
- さわやかな朝
- みんな おはよう!
- うわぁ〜、遅刻するぅー
- みんなでお喋り
- あ〜、つかれた
- カフェミュウミュウへようこそ!
- 麗しのバレリーナ
- あこがれの青山くん
- 青山くん…大好き
- アイキャッチにゃん
- キッシュのたくらみ
- 不安な予感
- エイリアンが現れた!
- 敵からの攻撃
- ミュウイチゴのテーマ
- ミュウミントのテーマ
- ミュウレタスのテーマ
- ミュウプリンのテーマ
- ミュウザクロのテーマ
- 5人そろって、東京ミュウミュウ!
- 地球の未来にご奉仕するにゃん
- ストロベリーチェック!!
- 回収!
- 今日も一日ごくろうさま
- また明日ね
- 次回予告にゃん
- 恋はア・ラ・モード(TV Version)(歌:東京ミュウミュウ)
オープニング主題歌とエンディング主題歌のTVサイズを最初と最後に収録したオーソドックスな構成。でも、なかなかよく考えられた、味のあるアルバムである。
総演奏時間は38分。CDの容量の半分くらいしか使ってないことに驚く。そして、12曲目のアイキャッチをはさんで、大きく前半と後半に分かれる構成。まるでアナログレコードでのリリースを想定したみたいだ。
「サブタイトルにゃん」「アイキャッチにゃん」など、曲名に「にゃん」をつけてしまうのは、なかなかずるいアイデア。これは2度と使えない。CDの歌詞カードにはキャストとスタッフのクレジットが「メインキャストにゃん」「TVアニメーションスタッフにゃん」といった見出しで掲載されていて、楽しんで作っている雰囲気が伝わってくる。
アルバムの前半は、いちごたちの日常をイメージした内容。トラック3の「さわやかな朝」は第12話以降のアバンタイトルのバックに使われていた、キラキラしたサウンドが踊るフュージョン風の曲である。軽快な「みんな、おはよう!」、コミカルな「うわぁ〜、遅刻するぅー」「みんなでお喋り」「あ〜、つかれた」などは毎回のように使われたおなじみの曲だ。いちごのキャラクターがうまく表現されている。
トラック8「カフェミュウミュウへようこそ!」はタイトルとおり、カフェミュウミュウの店内シーンに流れていたクラシカルな曲。優雅でロマンティック。舞踏会に招かれたみたいで気分が高揚する。
次の「麗しのバレリーナ」は、ミュウミントに変身する藍沢みんとが得意のバレエを踊る場面に流れる曲。みんとは財閥のお嬢様なので、こういう曲がぴったりくる。みんとのテーマとしても使われており、みんとが主役になる第9話ではくり返し流れていた。
続く2曲「あこがれの青山くん」「青山くん…大好き」は、日常系のハイライトとも呼ぶべき曲。いちごのあこがれの人・青山くんへの想いを表現する曲である。
ビブラフォン風の音色を使った「あこがれの青山くん」は、ちょっと切なく、夢見るようなイメージ。いちごが青山くんを想う場面や青山くんと話す場面によく使われている。「青山くん…大好き」はストリングスがゆったりと奏でる、やさしく、しみじみとした曲。途中からピアノのリズムが入り、急展開を予感させる。ミュウミュウの仲間の絆を表現する曲でもあり、第3話でミュウレタス=碧川れたすが仲間に加わる場面にこの曲が流れていた。
アイキャッチをはさんで、アルバムの後半はミュウミュウとエイリアンとの戦いをイメージした内容になる。
トラック13から、妖しいシンセサウンドを使った「キッシュのたくらみ」、木管楽器やベースの演奏でミステリアスな雰囲気をかもしだす「不安な予感」、低音を強調したサスペンス曲「エイリアンが現れた!」と続き、じわじわと危機がせまるようすが音楽で表現される。
トラック16「敵からの攻撃」はスピード感のあるバトル曲。エイリアンの手先であるキメラアニマの襲撃やミュウミュウとキメラアニマの戦いの場面によく使われていた。シンセとバンドサウンドが合体したロック風の楽曲だ。
トラック17からはミュウミュウ登場〜活躍場面に流れる音楽を収録。アルバム全体のクライマックスである。
「ミュウイチゴのテーマ」はいちごの変身BGM。弦の駆けあがりに続いて華やかなファンファーレが鳴り響き、ファンタジックで力強い主題へと展開する。1分足らずの短い曲だが、変身ヒロインの魅力がぎっしりと詰まっている。『東京ミュウミュウ』を代表する1曲といえば、これだろう。
続く「ミュウミントのテーマ」「ミュウレタスのテーマ」「ミュウプリンのテーマ」「ミュウザクロのテーマ」の4曲は、それぞれの変身シーンや戦闘シーンに使われた。
ミュウミントのテーマはピアノの音色を使った現代音楽的なスタイルの曲。同じくピアノを主体にした「麗しのバレリーナ」のサウンドを引継ぎつつ、よりモダンで戦闘的な楽曲に仕上げている。
ミュウレタスのテーマはフラメンコギターを使ったスパニッシュ風の曲。おっとりしたキャラクターからすると意外な曲調だ。これはミュウレタスが武器としてカスタネット(レタスタネット)を使っていることからの発想だろう。
ミュウプリンのテーマは中国風。変身する黄歩鈴(フォンプリン)は中国人の女の子という設定だから、ストレートな音楽化である。
ミュウザクロのテーマはエレキギターが激しくうなるロック。本アルバムの中でも極めつけのワイルドでカッコいい曲である。ミュウザクロはハイイロオオカミのDNAと合体したミュウミュウで、登場時はクールな一匹狼だった。そのとがったキャラクターを表現するにはロック以外にない。
トラック22「5人そろって、東京ミュウミュウ!」はミュウミュウの名乗りのシーンに流れる短い曲。続いて、ミュウミュウの活躍テーマ「地球の未来にご奉仕するにゃん」が登場。空中を軽やかに舞うようなシンセサウンドが心地よい。スピード感、かわいさ、華麗さをあわせもった、まさに「戦うヒロイン!」というイメージの曲である。根岸貴幸がアレンジしたゲーム主題歌「檄!帝国華撃団」のイントロを思わせる部分があるのも楽しいところだ。
キメラアニマを倒すミュウイチゴの必殺技の曲「ストロベリーチェック!!」と「回収!」で戦いは終わりを告げる。この2曲はくっつけて使われることが多かった。
トラック26からの2曲は戦いのあとのエピローグの曲。取り戻した平和な日常を、明るく軽快な「今日も一日ごくろうさま」としっとりした「また明日ね」で描写する王道の構成だ。
「また明日ね」は第13話のラストで青山くんがいちごの首に鈴をつける場面に流れていた。木管楽器やストリングスのやさしい音色とともに、シンセの浮遊感のある音、キラキラした音がふんだんに使われて、夢の中にいるような気分になる。このシンセサウンドが、やはり本作の音楽の持ち味なのである。
次回予告音楽とエンディング主題歌でアルバムは幕を閉じる。2枚目のアルバム「サウンドトラックvol.2」には2クール目以降に登場するキャラクターの曲や繊細な心理描写曲などが収録されている。2枚目でも特徴的なシンセサウンドは健在だ。1枚目とセットで聴いてもらいたい。
ふわふわしたサウンドをまとい、脱力したり、せわしなく走ったり、夢見たり、踊ったり、勇ましく飛びかかったりと、豊かな表情を見せる本作の音楽。音楽そのものがなんとなく猫っぽいと思いませんか。というのは、ちょっとこじつけだけど、猫の日だから許してにゃん。
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