腹巻猫です。フランス・イタリア合作の劇場アニメ『シチリアを征服したクマ王国の物語』を観ました。原作はイタリアの作家ディーノ・ブッツァーティが書いた児童文学。寓話のような物語といい、絵本がそのまま動いたような映像といい、実に筆者好みの作品。吹替もよかった。『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』などの海外アニメが好きな方にお奨めします。
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アニメと音楽の関係を考えるとき、いつも思い出すのが『マクロス7』のことである。
ディズニーの劇場短編『蒸気船ウィリー』(1928)の頃からアニメと音楽は密接な関係があった。音楽は映像にテンポ感や躍動感を与え、絵で表現しきれない雰囲気や感情を伝える。もちろん、絵に十分な表現力と魅力があれば、絵だけで感動させることもできるだろう。しかし、予算やスケジュールが限られた商業作品でそれをやりきることはなかなか難しい。特にTVアニメでは、音楽が絵を補っていると感じるケースがしばしばある。
ところが、『マクロス7』は「劇伴を使わない」という大胆な挑戦をしたTVアニメなのである。
『マクロス7』は1994年10月から1995年9月まで放送されたTVアニメ作品。『超時空要塞マクロス』(1982)に始まるマクロスシリーズの1本だ。
舞台は『超時空要塞マクロス』の時代から35年が経過した2045年。かつて敵同士であった異星人ゼントラーディと地球人は共存の道を歩み、人類の移住先を探すために移民船団を組んで、長年にわたり宇宙を旅しているという設定だ。
その移民船団のひとつが宇宙都市マクロス7を中心とする第37次移民船団。しかし、マクロス7船団は正体不明の敵から攻撃を受ける。船団を守る防衛隊(統合軍)が出撃して宇宙戦をくり広げる中、戦闘機ファイヤーバルキリーで戦場に踊り出て敵機にスピーカーポッドを打ち込み、自分の歌を聴かせる男がいた。ロックバンド「Fire Bomber」のボーカル・熱気バサラである。バサラは歌で戦争を終わらせることができると信じ、敵の攻撃を受けても一切反撃せずに歌い続けるのである。
「俺の歌を聴け!」と叫んで戦場で歌うバサラがインパクト抜群。が、それ以外にも、本作には音楽的に面白い点がいくつもある。
その第一が「劇伴を使わない」演出である。これは本作の監督・アミノテツローの発案であったという。音響監督の鶴岡陽太はこの提案を聞いて、「むしろやりやすい」と思ったそうだ。歌を聴かせることがメインになるはずだから、歌と劇伴が混在すれば音楽の配分が難しくなる。でも歌だけであれば、そこにフォーカスを合わせた演出ができる。音楽プロデューサーの佐々木史朗は「そうはいっても、きっと使うことになるだろう」とインストを5〜6曲作っておいたが、結局ひとつも使わなかったとふり返っている。『マクロス7』は「音楽」のクレジット表記がない稀有なTVアニメになったのである。
では『マクロス7』の世界に音楽が聴こえないかというと、そんなことはない。Fire Bomberの演奏と歌、街に流れる音楽やテレビやラジオから聴こえてくる音楽など、いわゆる「現実音」としての音楽がそこそこに流れている。
初期のエピソードでは本編冒頭に宇宙移民の歴史を語るプロローグが挿入されている。そのバックに雄大な曲調の音楽が流れていて、これは本作唯一の劇伴(BGM)ではないかと思うのだが、このプロローグも『マクロス7』の世界で作られた記録映像だという解釈もできる。少なくとも、ドラマを盛り上げるためのサスペンス音楽やアクション音楽、心理描写音楽のたぐいは一切使われていない。それを意識しながら映像を観ると、なかなか興味深い。
宇宙から敵の戦闘機が襲来し、移民船団が攻撃を受ける。防衛隊が出動し、ドッグファイトをくり広げる。一般のアニメなら緊迫した音楽や高揚感をあおる音楽が流れるところだが、それがない。そもそもドラマの背景に音楽が流れること自体がフィクションであるし、宇宙には現実音としての音楽も聴こえないのだから、これはとてもリアルな表現と言える。
そこにエレキギターの音が割り込み、熱気バサラの歌が聴こえてくる。「来たか!」という感じである。バサラの歌が映像に魂を吹き込む声のように聴こえる。
『マクロス7』は、なぜアニメに音楽があるのか、なぜ人が音楽を必要とするのかを考えさせてくれる、そんな作品である。
歌を聴かせることがメインの作品だが、音楽演出は実に緻密だ。Fire Bomberの演奏を、ボーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムスなどの楽器ごとの音源に分け、場面に応じてそれらを組み合わせて使っている。たとえばボーカルが先に聴こえてきて、あとから演奏が加わるとか、ときにはエレキギターだけ、ドラムスだけの演奏が流れてBGMの役割を果たすといった具合である。
物語が進むとバサラの歌の力が統合軍に認められ、Fire Bomberは「サウンドフォース」として出撃するようになる。SFメカアニメらしい戦闘機発進シーンや合体シーンが描かれるが、そんなシーンではFire Bomberの歌のイントロ部分が長く使われ、効果を上げている。現実音としての演奏をうまく劇伴として使っているのだ。
こんな作品だから、本作にはいわゆるサウンドトラック・アルバムはない。代わりに歌のアルバムが何種類も発売された。Fire Bomberのアルバムだけでも、スタジオ録音のロック・アルバム、アコースティック・アレンジ盤、ライブ盤、英語盤などがあるし、同じ歌でも、バサラがソロで歌うもの、Fire Bomberの女性ボーカル・ミレーヌが歌うもの、ふたりがデュエットするものなど、さまざまなバージョン違いがある。そのバリエーションを楽しむのも、本作の醍醐味のひとつだ。
面白いのが、これらのアルバムが『マクロス7』の世界でリリースされたアルバムという設定で作られていることである。ライナーノーツではFire Bomberのメンバーは劇中の役名で表記され、いわゆる「中のひと」は表記されていない。当初はバサラとミレーヌの歌を担当する歌手(福山芳樹とチエ・カジウラ)が秘密になっていたこともあるだろうが、それが明らかになったあとも、この趣向は一貫している。あくまで作品世界内のバンド、Fire Bomberとして扱われているのだ。
本作の代表曲を聴こうと思ったら、基本となるのはFire Bomberのアルバム「LET’S FIRE!!」と「SECOND FIRE!!」である。放送終了後にはベストアルバム「ULTRA FIRE!!」が発売されたので、これだけでも主要曲は集められる。
しかし、サントラファンとして面白いのは、最初に発売されたアルバム「マクロス7 MUSIC SELECTION FROM GALAXY NETWORK CHART」だ。これは『マクロス7』の世界のヒットチャートから選曲されたという設定のアルバム。ライナーノーツには選曲を担当した(という設定の)音楽プロデューサー・北条秋子(『マクロス7』に登場するキャラクター)のコメントが掲載されている。また、2046年1月21日付けのウィークリー・トップ10にランクインしたヒット曲のタイトルも掲載されている。そのトップ10には、懐かしいリン・ミンメイの「天使の絵の具」など、このアルバムには収録されていない曲も入っている。アルバムを手にしたファンは、『マクロス7』の世界の一員になった気分になれるのである。
「マクロス7 MUSIC SELECTION FROM GALAXY NETWORK CHART」は1995年1月にビクターエンタテインメントから発売された(のちにフライングドッグから再発)。収録曲は以下のとおり。
- PLANET DANCE(Fire Bomber)
- 突撃ラブハート(Fire Bomber)
- CHECK MATE(Bamboo-road Express)※インストゥルメンタル
- Galaxy(Alice Holiday)
- SEVENTH MOON(Fire Bomber)
- そこにあるのが未来だから(FLASCHAKAYA)
- Bitches Blue(FASCINATE MILES)※インストゥルメンタル
- Groove Along(POWER OF TOWER)
- MY FRIENDS(Fire Bomber)
- MY SOUL FOR YOU(Fire Bomber)
※()内はアーティスト名
番組のオープニング主題歌「SEVENTH MOON」が5曲目に入っているのが、あたりまえのアニメのソングアルバムとは違うところ。主題歌もFire Bomberの歌として作られているのだ。
「PLANET DANCE」と「突撃ラブハート」はバサラが戦場で歌う、おなじみのロックナンバー。Fire Bomberがステージで演奏する曲でもある。10曲目の「MY SOUL FOR YOU」はバサラがギターの弾き語りで歌ったりするバラード曲である。
6曲目の「そこにあるのは未来だから」は『超時空要塞マクロスII -LOVERS AGAIN-』(1992)の挿入歌(イメージソング)で、まさに時空を超えての再収録になった。作編曲は鷺巣詩郎。ここでは『マクロス7』の劇中の歌手・フラスチャカヤが歌っているという設定だ。歌自体はオリジナルの佐藤有香(現・YUKA)のもの。本編ではTVモニターの中でフラスチャカヤが歌っている場面がある。
4曲目の「Galaxy」は劇中の人気シンガー、アリス・ホリディが歌う曲。しっとりした雰囲気のロックバラードだ。『マクロス7』第9話は、そのアリス・ホリディがメインゲストで登場するエピソードである。
8曲目の「Groove Along」は、第10話で北条秋子が運転する車のカーラジオから流れていた。ブラスやハモンドオルガン、エレキギターなどがグルービーな演奏を聴かせるファンキーなナンバーである。
どの曲も完成度の高い楽曲に作り込まれている。アニメのキャラクターソングアルバムなら、こうした作りにはならなかっただろう。劇中のアーティストが演奏し、歌う曲という設定だからこそである。本編未使用曲もあるので「劇中で流れなかった曲はいらないなあ」と思う人もいるかもしれないけれど、『マクロス7』の世界のどこかで流れていた曲だと思うと楽しいではないか。
劇中のアーティストが歌う曲のコンピレーション・アルバムというコンセプトは、のちの『キャロル&チューズデイ』(2020)に受け継がれているし、劇中の音楽アルバムが現実のアイテムとしてファンに届けられるという趣向も、『サイダーのように言葉が湧き上がる』(2021)の劇中に登場したLPアルバムがブルーレイ特装版(ビクターオンラインストア限定版)の特典ピクチャーレコードとして再現される形で引き継がれている。いずれも音楽制作はフライングドッグ。『マクロス7』はアニメ音楽アイテムの新しい可能性を示した作品とも言えるだろう。
ところで、『マクロス7』の世界の音楽アルバムはどんな形でリリースされたのだろう。資源が貴重だから、やはり配信だけのデジタルアルバムなのだろうか(本作が放映された1994〜95年当時、そんなものはなかったけど)。劇中のレコードショップのシーンでは、LPレコードみたいな大きなジャケットのディスクが売られていた。2045年の宇宙都市では、案外、アナログレコードが現役で聴かれているのかもしれない。
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