腹巻猫です。早川優さん企画の労作「ウルトラ・マエストロ 冬木透 音楽選集」が5月15日に日本コロムビアから発売されました。「ウルトラセブン」で知られる作曲家・冬木透の作品を集大成したCD10枚組セット。アニメ作品パートの選曲・構成・解説を腹巻猫が担当しました。注目は世界名作劇場『牧場の少女カトリ』の音楽の初CD化! 放送当時発売された音楽編アルバムから主題歌と交響詩「フィンランディア」を除く全曲を収録しました。高額商品ですが、名作アニメファンの方はぜひ!
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5月31日にアニメ『LUPIN THE IIIRD 峰不二子の嘘』が一部劇場で公開される。小池健監督がこだわりの作画と演出で『ルパン三世』をアニメ化した「LUPIN THE IIIRD」シリーズの3作目。音楽は前2作に続いて、ジェイムス下地が担当している。
『次元大介の墓標』『血煙の石川五ェ門』と、独特のルパン音楽を構築してきたジェイムス下地が今度はどんな音楽をつけてくるか。映像ともども大きな楽しみだ。
今回は「LUPIN THE IIIRD」シリーズの前にジェイムス下地が小池健監督と組んだ劇場アニメ『REDLINE』(2010)を取り上げよう。
ジェイムス下地は1965年、北海道出身。「ペプシマン」(ペプシコーラ)、「カーキン音頭」(フロム・エー)などのヒットCM音楽を手がけた作曲家・音楽プロデューサーである。音楽は少年時代から好きだったが音楽家になるつもりはなく、CMディレクター志望だった。しかし、学生時代にCM制作現場を見学させてもらって、とても下積みには堪えられないと痛感。CM音楽の制作に関心が移っていった。CM音楽制作会社で年間1000本近い現場を経験。やがて作曲もまかせられるようになり、作曲家として活躍を始める。
映画音楽の仕事は「ウルトラマンゼアス」(1996)から。2000年に石井克人監督の「PARTY7」の音楽を担当し、当時としては斬新なサウンドが注目される。「PARTY7」にはアニメーションディレクターとして小池健も参加していた。その縁が「LUPIN THE IIIRD」シリーズにつながることになる。
『REDLINE』は2010年10月に公開された劇場アニメ。原作・脚本・音響監督を石井克人、絵コンテ・演出・作画監督を小池健が担当している。手描きにとことんこだわり、作画に4年もかかったという映像が圧巻である。主役2人の声が木村拓哉と蒼井優。これがすばらしいハマリ具合で驚く。
未来の宇宙を舞台に、銀河最速を決めるルール無用のカーレース「REDLINE」に参加するレーサーたちの友情と恋とデッドヒートを描く。見どころは武器使用もOKのレースシーンの迫力と個性的なレーサーたちのキャラクター。「絵と音がすごい『チキチキマシン猛レース』」みたいな劇場作品だ。
音楽は、映像が完成したあと全面的にジェイムス下地のフィーリングにまかせて作ってもらったという。ここでも聴きどころとなるのは、レースシーンの音楽とレーサーたちに付けられた曲。映像に負けないパワフルなサントラだ。
サウンドトラック・アルバムは2010年10月にジェイムス下地の独立レーベル good-beat.com から発売された。「PARTY7」のサントラも「LUPIN THE IIIRD」シリーズのサントラもこのレーベルから発売されている。
収録曲は以下のとおり。
- Yellow Line
- Inuki
- REDLINE Title
- Boy’s Memory
- Winner March
- ROBOWORLD TV
- TV Show
- ROBOWORLD
- EUROPASS
- Mogura Oyaji
- OASIS
- And it’s so beautiful(feat.Kitty Brown)
- Shinkai
- MachineHead
- Capture Operation
- Let me love you(feat.Veronica Torraca-Bragdon)
- Get The Stones(feat.Andrew O.Jones)
- Crab Sonoshee
- 彼のシフトはブンブンブン(feat.SUPER BOINS)
- LynchMan & JohnnyBoya
- Redline News
- Gori-Rider
- Miki & Todoroki
- Put-up Guy
- Red Angels
- Three-point decomposition cannon
- Tension
- Chatter Void
- Volton Unit
- Vertical Drop
- Moniter Room
- Sand Biker
- Spinning Car
- Trouble
- Semimaru
- Gangstar
- Flying Finger
- Funky Boy
- REDLINE
- Exceed Limit
- Dead Heat
- REDLINE DAY(feat.Rob Laufer)
収録時間約79分とボリュームたっぷり。楽曲は基本的に映像に合わせて作曲されている。サントラでは作中で使用されなかった部分も聴くことができる。
1曲目の「Yellow Line」は冒頭のREDLINE出場者を決めるレースシーンの曲。7分近い長さでくり返されるリズムとリフ。いやが上にもテンションが上がる。
メインタイトルの「REDLINE Title」は50秒程度の短い曲。打ち込みのリズムからコーラスが入り、短いジングルで終わる。CM音楽のようなキャッチーな作りである。
レーサーが登場するときに流れる曲がどれも秀逸だ。マシンヘッド登場場面の「MachineHead」は「♪マシンヘッド」と歌うコーラス入り。美女2人組のスーパーボインズ登場場面の「彼のシフトはブンブンブン」は2人が歌うキャラソン。リンチマン&ジョニーボーヤ登場場面の「LynchMan & JohnnyBoya」ではコーラスだけでなく、2人のセリフまで入る。
同じ曲をくり返し使うTVアニメではキャラクターごとに「○○のテーマ」を設定することはよくあるが、映画音楽でここまでやるのは珍しい。ぜいたくな作り方である。マシンヘッドの曲とスーパーボインズの曲はのちのレースシーンでも流れて、キャラクターを印象づけている。
独裁国家ロボワールドの大統領とボルトン大佐がレースの開催を阻止しようとする場面に流れるオルガンの曲「ROBOROWLD」「Three-point decomposition cannon」「Funky Boy」などは、わかりやすい「悪のテーマ」風。これもTVアニメ的だ。短い登場シーンでキャラクターの立ち位置を伝える工夫だろう。
また、いちいちそれらしく作曲された劇中のニュース番組のジングルやBGMも耳に残る。細かいところまでこだわった音楽作りは「ここまでやるか……」と呆れるほどだ。
短い尺で観客を集中させ、心に何かを残す音楽はとてもCM音楽的。メロディやサウンドがということではなく、音楽のコンセプトがそうなのだ。『REDLINE』はジェイムス下地がCM音楽制作で培った技術やノウハウがフルに生かされた作品なのである。
本作の音楽でもう一つ印象的なのがボーカル曲である。
ヒロインのソノシーが登場する場面に流れる「And it’s so beautiful」、主人公JPの回想場面に流れる「Let me love you」、ロボワールドの街で聴こえる「Get The Stones」、スーパーボインズのテーマ曲「彼のシフトはブンブンブン」。
どれもキャッチーでスタイリッシュ。劇中では一部しか流れないが、ちゃんとフルサイズの楽曲が作られている。まるでタイアップ曲のように。これもまた別の意味でCM音楽的だ。
トラック30からが劇中のクライマックス。ゴールを目指すレーサーたちとレースを阻止しようとするロボワールド軍、レースに熱狂し応援する人々らが入り乱れる、レース&バトルシーンになる。ボロボロになったレーサーたちが立ち上がって走り始める場面のタイトルチューン「REDLINE」では、冒頭シーンの曲「Yellow Line」のモチーフがくり返される。最後の壮絶な競り合いのあとに、美しいエンディング曲「REDLINE DAY」が流れる演出も素敵だ。
CMディレクター志望から音楽制作の道に入ったジェイムス下地の音楽の作り方は、音楽家というよりディレクター、プロデューサーに近い。映像で何を伝えたいのか? どんな世界を見せたいのか? そこから音楽のコンセプトを決め、曲作りに入る。音楽面での演出家の役割を担っているのだ。小池監督が音楽についてほとんど注文をつけないというのも、氏のディレクターとしての資質に信頼を寄せているからだろう。
この『REDLINE』のサントラ、試写会に来た人の75%が買って帰ったという(ジェイムス下地氏談)。それもうなずける。作品を観たらサントラを買わずにいられない。そのくらい勢いとパワーのあるサウンドトラックである。ヘッドフォンでなくスピーカーで、大音量で聴きたい1枚だ。
REDLINE オリジナルサウンドトラック
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