腹巻猫です。90年代に放送された特撮TVドラマ「電光超人グリッドマン」を原作とするアニメ『SSSS.GRIDMAN』が10月からTV放映されるというニュースが入ってきました。『アニメ(ーター)見本市』で発表された短編アニメ『電光超人グリッドマン boys invent great hero』がパイロット版になった形でしょうか。音楽は鷺巣詩郎が担当するというから期待が高まります。
今回は短編アニメ版でも主題歌が引用されていたオリジナル版「電光超人グリッドマン」の音楽を紹介しよう。久しぶりに特撮作品の音楽がテーマだ。
「電光超人グリッドマン」は1993年4月から1994年1月まで放映された円谷プロ制作の特撮TVドラマ。コンピュータ・ワールド(今でいう電脳世界=サイバースペース)を舞台に、異次元の魔王カーンデジファーと戦う電光超人グリッドマンの活躍を描く特撮ヒーローものだ。パソコンやインターネットが広く普及していない時代に電脳世界の戦いを描いた先駆的な作品である。CG技術が成熟していなかったこともあり、コンピュータ・ワールドの描写はほとんどミニチュア(と言っていいのか……?)特撮を利用して行われている。今観てもなかなか新鮮だ。
グリッドマンと協力しあって電脳世界の危機を救うのは、直人、ゆか、一平の3人の少年少女。いっぽう、カーンデジファーに誘惑されて電脳世界を破壊する怪獣を作り出すのも、人付き合いの苦手な少年・武史。いずれも14歳、中学2年の少年少女たちが物語の中心となるのが本作の大きな特徴である。少年ドラマ的な味わいがある特撮ドラマだった。
音楽は戸塚修が担当している。
戸塚修は1952年生まれ。ご本人のサイトに掲載されたプロフィールによれば、慶應義塾大学在学中にポップス理論を林雅彦に、ジャズ理論を北川祐と渡辺貞夫に師事。また、ジャズピアノを藤井貞泰に、アンサンブルを大森明に師事した。70年代からキーボード奏者、作・編曲家として活動を始め、八神純子「思い出は美しすぎて」(1978)、近藤真彦「愚か者」(1987)など、数々のポップスの編曲を手がける。
アニメ音楽(BGM)の仕事では、『星銃士ビスマルク』(1984)を皮切りに、『超獣機神ダンクーガ』(1985/いけたけしと共作)、『鎧伝サムライトルーパー』(1988)、『魔法のエンジェル スイートミント』(1990)、『あしたへフリーキック』(1992)、『十二戦支 爆烈エトレンジャー』(1995/池毅と共作)などを手がけている。現在は“トッツィー戸塚”、“悠木大”の名でも活躍中。
戸塚修がアレンジしたアニメ・特撮ソング——「風のノー・リプライ」(『重戦機エルガイム』1984)、「不思議CALL ME」(『星銃士ビスマルク』)、「City Hunter 〜愛よ消えないで〜」(『CITY HUNTER』1987)、「ジライヤ」(「世界忍者戦ジライヤ」1988)、「サムライハート」(『鎧伝サムライトルーパー』)など——を聴けば、その作風がなんとなくわかる。バンド編成をベースにロックのリズムとシンセをブレンドしたサウンド、楽曲を特徴づける巧みなコーラス、キラキラしたポップス風味。80年代の戸塚修アレンジはそんなイメージだった。
「電光超人グリッドマン」の音楽にもそのサウンドが継承されている。作品内容からすればシンセをふんだんに使ったテクノポップ風であってもおかしくないし、そういう曲もあるのだが、基本はロックサウンドを基調にした王道のヒーロー音楽だ。
サウンドトラック・アルバムは1993年9月にビクターエンタテインメントから発売された。収録内容は以下のとおり。
- 夢のヒーロー(歌:坂井紀雄)
- 平和な街角
- ふたつの勇気(インストゥルメンタル)
- 小さな悪意
- 怪獣出現!
- 僕たちの秘密基地
- ジャンク
- 魔王カーンデジファー
- ハートブレイク
- パサルートを駆け抜けろ!
- バグッた!
- ふたつの勇気(歌:コンポイドスリー)
- 怪獣のダンス
- ああ、大失敗
- グリッドマン危うし
- 敗北
- アクセスコードはGRIDMAN
- 決意
- 負けるなジャンク
- ともだち
- がんばれ! 3人組
- 侵略
- アシスト・ウェポン発進せよ!
- 破壊
- 超神合体! サンダーグリッドマン
- 電光雷撃剣グリッドマンソード
- もっと君を知れば(歌:坂井紀雄)
1曲目がオープニング主題歌、ラストの27曲目がエンディング主題歌。ともにフルコーラスで収録されている。
12曲目は少年3人組が歌う挿入歌だ。
オープニングは鈴木キサブローの作曲。キャッチーな歌い出しから、いつまでも続くようなサビまで、鈴木キサブローらしいメロディの曲だ。戸塚修のアレンジはシンセを強調したテクノロックの趣。歌い出しのボーカルとコーラスのかけあいが強烈に印象に残る。ハードな曲調の中にふっと哀愁が漂う中間部のコーラスの入れ方もうまい。90年代特撮ソングの名曲のひとつである。
トラック2「平和な街角」は直人たちの平和なひとときを描写する曲。軽快なリズムの上でサックスとストリングスがメロディを奏でる。物語の開幕にふさわしい明るい曲だ。
トラック3は戸塚修作・編曲の挿入歌「ふたつの勇気」のストレートなインストゥルメンタル。ゆかと一平がグリッドマンを助ける支援プログラムをコンピュータ・ワールドに送り込む場面などに流れていた。戸塚修が設定した「主役トリオのテーマ」である。
トラック4「小さな悪意」は武史のテーマとも呼ぶべき曲。直人たちの同級生・武史は、魔王カーンデジファーに心の弱さを突かれて電脳怪獣を創り出し、さまざまな事件を引き起こす。今でいうブラックハッカー(クラッカー)のような少年だ。シンセのミステリアスな音色と妖しいメロディが不穏な雰囲気をかもしだす。心の闇を描写する曲だ。
トラック5はコンピュータ・ワールドを破壊する怪獣を描写する「怪獣出現!」。くり返されるエレキギターのリフにシンセの緊迫したフレーズが絡み、危機感を盛り上げる。挿入されるピアノの高音が効果を上げている。怪獣好きとしてはついつい気持ちが高ぶってしまう曲。
トラック6「僕たちの秘密基地」は「もっと君を知れば」のメロディによる主役トリオのテーマ。直人たちは、一平の両親が経営するインテリアスペースの地下に、自作のパソコンを組み立てる秘密の作業場を持っているのだ。ウエスタン的なリズムにブラスのメロディと弦の流麗な対旋律。高揚感のある爽やかな曲である。グリッドマンの戦闘場面にもたびたび選曲されている。
次のトラック7「ジャンク」は3人が組み立てたパソコン「ジャンク」のテーマ。ジャンクはグリッドマンにエネルギーを供給する生命線である。デジタルなリズムの上でリコーダー風のシンセのメロディが踊る。後半にアドリブっぽいソロが登場するから、メロディは打ち込みではなく手弾きのようだ。
トラック8は「魔王カーンデジファー」。悪の親玉の登場である。カーンデジファーはハイパーワールドからこの世界にやってきて武史のパソコンに棲みついた魔王。対するグリッドマンはハイパーワールドからカーンデジファーを追ってきたエージェントという設定。彼らはプログラムではなく、異次元からやってきた生命体なのだ。そのため、怪獣やカーンデジファーがコンピュータ・ワールドから現実世界へ出てこようとする描写もある。本作が他の電脳SFものと異なるユニークなところである。曲の冒頭はカーンデジファー登場を表現するショック音楽。続いてエレキギターとエレピが奏でる重いリズムにストリングスのメロディがうねり、カーンデジファーの恐ろしさを描写する。
トラック9「ハートブレイク」はサックスとアコースティックギター、エレピなどが奏でる「ふたつの勇気」のバラードアレンジ。メロウな演奏は大人っぽすぎる気もするが、少年少女らしい悩みや寂しさを描写する曲として、とてもいい雰囲気に仕上がっている。
トラック10「パサルートを駆け抜けろ!」のパサルートとはコンピュータ・ワールドへつながる通路のこと。グリッドマンはパサルートを通って事件が起きたシステムへ急行するのだ。映像では光り輝くトンネルの形状で描写されていた。エレキギターの緊迫したフレーズからシンセによる「ふたつの勇気」のメロディへと展開する疾走感たっぷりの曲。
次のトラック11「バグッた!」は4リズムとファンキーなシンセが奏でるコミカル曲。トラック13「怪獣のダンス」、トラック14「ああ、大失敗」とともに、直人たちのほのぼのするシーンを彩る曲である。
トラック12「ふたつの勇気」は戸塚修が設定した主役トリオのテーマに歌詞をつけて歌にしたもの。少年ドラマっぽい歌詞がなかなか泣ける。歌っているコンポイドスリーは正体不明だが、主人公たちと同世代の少年を集めたグループだそうだ。本作のドラマの肝は、グリッドマンと直人たちの間に友情が芽生えること。その友情をテーマにした曲だ。
トラック15「グリッドマン危うし」は冒頭から緊迫感あふれる危機描写曲。エレキギターが刻むリズムにブラスとストリングスの切迫したフレーズがくり返される。中間部のエレキギターのアドリブが聴きどころ。手弾き楽器ならではの生々しい緊張感がいい。第25話のラスト、グリッドマンが倒され、世界はカーンデジファーに支配されてしまうのか? という危機感に満ちた場面に流れていた。
トラック16「敗北」はオープニング主題歌のメロディをピアノソロでしっとりと演奏した悲しみの曲。第26話でグリッドマンとともに倒れた直人をゆかが介抱する場面に流れている。トラック15からこの曲を経てトラック18に至るまでの構成が実にうまい。
トラック17「アクセスコードはGRIDMAN」は敗北ムードを吹きとばパワーみなぎる曲だ。戸塚修が設定したグリッドマンの主題、本作のメインテーマとなるメロディが登場する。エレキギターとブラスのかけあいで展開する軽快なロックナンバーである。
ドラムロールからスタートするトラック18「決意」はブラスとストリングスを主体にしたオープニング主題歌の勇壮なアレンジ。グリッドマン勝利のイメージの曲だ。マカロニウエスタン風のリズムが燃える。ヒーローものの音楽はこうでなくては! と思わずひざをたたきたくなるような胸躍る曲。
次から3曲はひと休みの雰囲気。トラック19「負けるなジャンク」はシンセ主体のテクノポップ風の曲。本作ではこういうシンセ主体の音楽は意外に少ない。
トラック20「ともだち」はピアノソロが奏でる友情のテーマ。エンディング主題歌のスローアレンジである。第2話でグリッドマンが自分の使命を語り、直人、一平、ゆかの3人がグリッドマンとともに戦う決意を固める場面に流れていた。
トラック21「がんばれ! 3人組」は「ふたつの勇気」のエレキギターメロによるアップテンポアレンジ。青春ドラマ音楽のような明るくポジティブなナンバーだ。
トラック22から最終決戦の雰囲気になる。「グリッドマン危うし」の変奏である「侵略」は、焦燥感をあおるエレキギターのリズムをバックに、ブラス、エレキギター、ストリングスがスリリングなセッションをくり広げる曲。グリッドマン絶体絶命! といったシーンに流れる危機描写曲だ。
トラック23「アシスト・ウェポン発進せよ!」はゆかと一平がジャンクを通して送り込むグリッドマン支援プログラム=アシスト・ウエポンのテーマ。少年少女たちがヒーローを助けてともに戦う構図が本作のドラマの燃えるところである。ブラスのイントロに続いて、オープニング主題歌のメロディを引用したストリングスのリフがくり返される。心をかき立てるトランペットソロ、ストリングスのリフを挟んでサックスのアドリブが続き、再びトランペットソロ、サックスのアドリブという構成。熱気あふれるセッションを聴くような、本アルバムの中でもいちばんの聴きどころのひとつ。
ワイルドな曲調のトラック24「破壊」はコンピュータ・ワールドを蹂躙する怪獣を描写する曲。エレキギターとオルガンが暴れまくるロックナンバーだ。電脳世界が破壊され、現実世界が大混乱に陥る場面などに流れた。
トラック25「超神合体! サンダーグリッドマン」はグリッドマンのテーマを変形した重厚な曲。ミディアムテンポの重いリズムに低音のシンセとエレキギター、ピアノが絡む。合体というより、反撃のチャンスを待つグリッドマンという雰囲気。
最後のBGMはグリッドマンのテーマをブラス主体に演奏した「電光雷撃剣グリッドマンソード」。グリッドマンの出動シーンや戦闘シーンを盛り上げた本作のメインテーマである。エレキギターのアドリブから、たたみかけるようなブラスのリフに展開する間奏がエキサイティング。アルバムの構成としては、この曲ですぱっと終わるのが特撮サントラらしくて好印象だ。
ラストはエンディング主題歌「もっと君を知れば」。オープニングと同じ鈴木キサブロー作曲による、明るく爽やかな青春ポップスである。
全27トラックのうち、歌が3曲。BGMは23曲が収録されている。曲の流れは、平和⇒主人公たち⇒悪のたくらみ⇒事件発生⇒出動⇒初戦の勝利⇒束の間の平和⇒大ピンチ⇒逆転勝利というヒーローものサントラのオーソドックスな構成。カタルシスのある、何度も聴きかえしたくなるサントラだ。
「電光超人グリッドマン」の音楽はおよそ100曲が録音された。本アルバムと2005年発売のDVD+CD BOXに同梱された「モア・サウンドトラック」でその楽曲はほぼ網羅されている。が、どちらも現在は入手困難。アニメ版放映を機会に、完全版での復刻を期待したい。この際、配信オンリーでもいいから。アクセスコードはもちろん「GRIDMAN」で!
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