COLUMN

第124回 新時代の開拓者 〜DALLOS〜

 腹巻猫です。映像音楽専門バンドG-Sessionライブ、いよいよ今週末1月27日(土)です。麻宮騎亜先生のキービジュアルイラストが公開になりました。特集「80年代ビクターアニメソング」「角川映画」他。ぜひご来場ください! 詳しくは下記を。
http://www.soundtrackpub.com/event/2018/01/20180127.html


 80年代ビクターといえば『超時空要塞マクロス』をはじめとするイキのいいTVアニメ作品を続々リリースしていた印象が強いが、実は80年代後半はOVA作品が多くなる。1985年を境にTVアニメの本数が落ち込んでOVAが激増していたという事情もあるだろう。
 しかし、TVアニメよりも音楽作りの自由度が大きく、高年齢層のユーザーが見込めるOVA作品へと戦略的にシフトしていったという見方もできる。80年代中期以降のOVAでは川井憲次(『COSMOSピンクショック』)や久石譲(『BIRTH』)、鷺巣詩郎(『メガゾーン23』)ら新しい作家が活躍。アニメ音楽の新しいスタイルを確立していった。  今回取り上げるのは、OVAの先駆けとなった作品『DALLOS』。これもビクターからサウンドトラックがリリースされた作品である。

 『DALLOS』は1983年から1984年にかけて全4巻(全4話)がリリースされたOVA作品。制作はスタジオぴえろ(現・ぴえろ)。世界初のOVAと謳われ、アニメ史にその名が刻まれている。
 原作・脚本は『科学忍者隊ガッチャマン』(1972〜1974)等を手がけたベテラン・鳥海永行。監督・脚本は鳥海永行に師事した押井守。とクレジットされているが、実質は鳥海と押井の共同監督作品で、2人の作品に対する考え方や演出スタイルの違いから現場は一時混乱したと後年、押井守は語っている。
 21世紀末、人類は月面開拓を進め、地球は月から得られる鉱物資源に頼って繁栄していた。しかし、月に移住した開拓民は地球側の厳しい管理政策に苦しんでいた。それに反発した一部の開拓民は月の独立をめざしてレジスタンスを組織し、過激な抵抗運動を始める。
 物語は月面都市モノポリスで生まれ育った少年シュンと幼馴染の少女レイチェル、レジスタンス活動のリーダー・マッコイ、レジスタンス制圧をめざす月面都市統括局の軍司令官アレックスとその恋人で国際連合高官の娘メリンダの5人を中心に展開。レジスタンス運動に巻き込まれる中で考え方を変えていくシュンやレイチェル、メリンダらのドラマとスリリングな戦闘シーンが見せ場になっている。
 タイトルの「ダロス」とは、月面で発見された謎の遺跡。人の顔のようにも見える巨大な建造物で、神話的な存在として月面開拓民の心のよりどころとなっているという設定だ。
 本作はもともとTVシリーズとして企画され、その序盤部分がOVAとして制作・発売されることなった。全4話でダロスの謎は明かされることなく、その後の展開に期待を持たせて終わる。物語としてはややスッキリしないが、セールス的には成功を収め、アニメビジネスに新しい道を拓いた記念すべき作品である。

 本作の音楽を手がけたのは、新田一郎と難波弘之。トランペット奏者であり、ブラスをフィーチャーしたフュージョンバンド・スペクトラムを率いて活躍した新田一郎と、シンセサイザー奏者であり、自らのバンド・SENSE OF WONDERでも活躍する難波弘之のタッグという胸躍る布陣だ。
 新田一郎についてはいずれじっくり取り上げたいので、今回は難波弘之を中心に紹介しよう。
 難波弘之は1953年、東京生まれ。3歳の頃からピアノを始め、学習院大学在学中よりプロ・ミュージシャンとして活動を始める。70年代後半から80年代にはさまざまなミュージシャンのレコーディングやステージサポートで活躍する一方、自らのバンド・SENSE OF WONDERを結成して活動の場を広げた。シンセサイザーをフィーチャーしたプログレッシブロックの騎手として、プロデュース、作・編曲、キーボード奏者と多岐にわたって活躍する音楽家である。誰がつけたか「プログレの貴公子」と紹介されることもある
 難波弘之のもう一つの顔が、SFファン、SF作家としてのそれだ。中学生のときにSF同人誌の老舗「宇宙塵」に参加したというから筋金入り。初期のソロアルバム「センス・オブ・ワンダー」「パーティー・トゥナイト」はSFをテーマにしたコンセプトアルバムだし、3rdアルバム「飛行船の上のシンセサイザー弾き」は自身の同名SF短編集を題材にしたアルバムである。
 かく言う筆者が難波弘之の名を知ったのもSFを通じてだった。高校生のとき、早川書房のSFマガジンで紹介されていた「センス・オブ・ワンダー」を発売と同時に購入。続く「パーティー・トゥナイト」も発売時に買って聴いた。だから、難波弘之といえば「SFの人」という印象なのである。
 『DALLOS』は音楽プロデューサー・新田一郎、音楽・新田一郎、難波弘之というクレジット。新田一郎と難波弘之は旧知の仲で、新田一郎が手がけた「パタリロ!」のイメージアルバムやTVアニメ『ななこSOS』のサウンドトラックにも難波弘之はミュージシャンとして参加している。
 難波弘之は自身が熱心なSFファンであるがゆえに、SFアニメの音楽に本格的に参加することに不安があったという。作品の細かいあらさがしをしてしまいそうだったからだ。しかし、『DALLOS』の仕事は親友・新田一郎からの依頼だったので安心して引き受けることができた。
 音楽作りも制約が少なくやりやすかった。コンテだけを頼りに自由に音楽を作ることができ、録音は楽しかった、とサウンドトラック盤のライナーノーツのコメントでふり返っている。
 本作のサウンドトラックは1984年2月21日にビクター音楽産業からLPレコードとして発売された。タイトルは「組曲ダロス」。1994年にビクター・アニメ・ミュージック殿堂シリーズの1枚として初CD化され、1999年にはビクター・アニメ・殿堂ツインシリーズの1タイトルとして『テクノポリス21C』とカップリングの2枚組で再発されている。殿堂ツインではブックレットの紙数の都合でオリジナル盤のライナーノーツに掲載されていた鳥海永行、押井守、難波弘之、新田一郎のコメントが割愛されているのが残念だ。
 収録曲は以下のとおり。

  1. ダロスのテーマ
  2. 緊急脱出
  3. ムーン・ドッグ
  4. シュンとメリンダの愛のテーマ
  5. ドッグ・ファイト
  6. モノポリスのテーマ
  7. 虚ろな心
  8. ムーンライト
  9. 鉄の爪
  10. チェイス
  11. レジスタンスのテーマ
  12. ルナリアンの夢
  13. ダロスのテーマ

※レコードでは1〜6がA面、7〜13がB面。

 難波弘之のコメントにもあるように、本作の音楽はコンテに合わせて書かれているようだが、各曲が独立した音楽としても楽しめるような充実したものになっている。
 アルバムの構成は、サントラというよりも、ロックのコンセプトアルバムのような作り。大きな特徴は歌がないことだ。ビクターとしては売りにくかったのではないかと思うが、「組曲」とタイトルをつけることでロックのインストアルバム的な印象を打ち出している。
 たとえば2曲目〜4曲目はトラック番号は振られているが、曲は切れ目なく続いている。8曲目〜10曲目、12曲目〜13曲目も同様に切れ目のない連続した構成。ロックのコンセプトアルバムなどによくある、アルバムごと聴いてほしいという強い主張を感じる作りである。メモリオーディオなどに取り込んでバラバラに聴くと曲の連続性が失われてしまう。頭から終わりまで、アルバムの世界観を丸ごと楽しみたい作品だ。
 当時のサントラには珍しく、録音日や録音スタジオ、レコーディングメンバーなどの記録が詳細にライナーノーツに記されている。こんなところも「ロックのアルバムみたい」と思わせる点だ。それによれば、録音は1983年11月9日から12月13日にかけて、スターシップスタジオ、ビクター青山スタジオ、アルカディアスタジオで行われた。演奏は新田一郎、兼崎順一らホーン・スペクトラムのメンバーからなるブラスセクションと難波弘之(ピアノ)、土方隆行(エレキギター)、岡沢茂(エレキベース)、菊地丈夫(ドラムス)らのリズムセクション+ストリングスというメンバー。
 作曲・編曲は新田一郎と難波弘之の連名でまとめてクレジットされていて、各曲がどちらの作であるかは明らかでない。しかし、曲ごとにどちらの個性が強いかは聴いているとなんとなくわかる。
 1曲目「ダロスのテーマ」は本作のメインテーマ。同時に謎の遺跡ダロスのテーマでもある。各話のオープニングとエンディングに使用されたほか、ダロス登場シーンにも選曲されている。
 これぞプログレ! という響きの重々しい導入部に続いて、ストリングスがクラシカルなメロディを奏で始める。悠久の時や月面開拓民の悲哀を連想させるメロディである。ドラムスの力強いリズムとブラスセクションの合いの手がSFアニメのスケール感を表現する。本作の音楽の方向性を示す、メインテーマにふさわしい曲だ。
 トラック2「緊急脱出」、トラック3「ムーン・ドッグ」とアップテンポの曲が続く。アルバム冒頭で盛り上がる曲を続けて勢いを出そうという、これもロックアルバム的な構成。
 くり返されるエレキギターのリフにトランペットのアドリブ的なフレーズが絡む「緊急脱出」は、第3話終盤で月面都市の警察軍がレジスタンス総攻撃に向かう場面に使用。劇中では短く使用されるだけなのがもったいない。
 続く「ムーン・ドッグ」は警察軍がレジスタンスを追い詰めるために使うサイボーグ犬ムーン・ドッグのテーマ。細かく刻むリズムの上でシンセとエレキギターが交互にメロディを奏でる。3分を超える長さの中で曲はアドリブをまじえて展開していく。ラストは穏やかなシンセのフレーズとともにフェードアウトしていき、次の「シュンとメリンダの愛のテーマ」につながる。
 トラック4「シュンとメリンダの愛のテーマ」は本作の愛のテーマと呼ぶべき、ロマンティックな曲。ピアノのアルペジオをバックに美しいメロディがストリングスとトランペットで歌い継がれるロックバラードだ。これも3分を超える聴きごたえのある曲。
 曲名は「シュンとメリンダの」となっているが、劇中では2人がそこまで恋仲になることはない。第1話でシュンが宇宙空港でメリンダを初めて見かける場面、第2話でレジスタンスに捕えられたメリンダからシュンが地球の話を聞く場面などに使用。月で生まれたシュンの地球へのあこがれがメリンダに投影され、その気持ちが音楽で表現された印象だ。
 最終話のラスト、シュン、レイチェル、アレックス、メリンダがそれぞれの道を歩き始める場面には、この曲が流れて物語を締めくくっている。
 トラック5「ドッグ・ファイト」は前曲と一転してブラスロック的な派手な曲である。導入部はストリングスのメランコリックなメロディが奏でられるが、30秒を過ぎてブラスのアタックとともにブラスとストリングスが軽快に奏でるアクション曲になる。
 これはどう聴いても新田一郎のスタイル。本作の中でも一番の燃える曲と言ってよいナンバーだ。劇中ではレジスタンスと警察軍との戦闘場面にたびたび選曲されている。本編でも比較的長尺で使われているが、アルバムではさらに長く、たっぷりと4分以上聴くことができる。
 レコードではA面のラストを飾った「モノポリスのテーマ」は、シュンたちが住む月面都市モノポリスのテーマ。モノポリスは地球から見て月の裏側に建造された都市で、開拓民たちが身を寄せ合って暮らしている。シンセの淡々としたリズムで真空の中にたたずむ都市のイメージが描かれる。
 曲の後半は曲調が変わり、キラキラしたシンセが神秘的なムードをかもし出す。この部分は第4話でシュンが祖父タイゾーを連れてモノポリスを離れ、地球を望む「望郷の地」へと向かう場面に選曲された。月から見た地球のイメージだろうか。
 トラック8「虚ろな心」は曲名に反して、シンセの暖かい音色が奏でる明るいワルツの曲。第2話で、レイチェルがモノポリスの公園でアレックスと(彼の正体を知らずに)語らう場面で流れた。本作ではこういう穏やかな情景描写曲は少ないが、緊迫した場面の合間に挿入されて世界観に深みを与えている。
 次の「ムーンライト」はブラスとシンセがリードする軽快なフュージョン曲。これも『DALLOS』の戦闘一辺倒ではない一面を表す曲だ。
 しかし平和ムードはここまで。曲は切れ目なく緊迫感のある「鉄の爪」に突入する。第1話でアレックスとメリンダの乗った月面シャトルがレジスタンスに襲撃される場面に使われた。危機感が盛り上がったところでトラック10「チェイス」になだれこみ、レジスタンス対警察軍の激闘が表現される。
 「チェイス」はラテンパーカッションとシンセのリズムの上でブラスセクションがスリリングなフレーズを展開するアップテンポの曲。「ドッグ・ファイト」とともに本作の戦闘場面を彩ったアクション曲である。
 短い静寂を挟んで、曲はトラック11「レジスタンスのテーマ」へ。レジスタンスの活動場面にくり返し流れた曲だ。中心となっているのは、ボレロ的なリズムをバックにシンセが奏でる悲壮感をたたえたメロディ。レジスタンスと孤独と決意を感じさせる曲である。
 アルバムもいよいよ終盤。トラック12「ルナリアンの夢」は鳥の声を模したようなシンセの導入からピアノによる哀愁を帯びたメロディに続いていく。
 月面開拓民の想いを象徴する曲で、第3話でメリンダがタイゾーから開拓民の厳しい人生を知らされて心を動かされる場面に使用。第4話ではモノポリスを離れたシュンとタイゾーが月面基地の残骸の横を通り過ぎ、望郷の地にたどりつく場面まで、ほぼフルサイズ流れている。本作のテーマに直結する、第2のメインテーマとも呼ぶべき曲だ。
 そして、曲は途切れることなく最後のトラック「ダロスのテーマ」に続く。トラック1に置かれたメインテーマのロングヴァージョンである。『DALLOS』の物語、月面開拓民の歴史と想いを知った上で聴くと、また違った趣がある。シュンやメリンダの人生がどう続いていくかは本作を観たひとり一人の想像にゆだねられたが、「組曲ダロス」は本曲をもってひとまずの決着を迎える。
 「組曲ダロス」はOVA『DALLOS』のサウンドトラックにとどまらず、『DALLOS』がめざした世界観と物語、めざして到達できなかったイメージが反映されていると思う。新田一郎・難波弘之の音楽性と、難波のSFファンとしてのセンスが創り上げた、ジャンルを超えた組曲だ。世界初のOVAにふさわしい、意欲的なアルバムである。

 難波弘之は本アルバム発売の1ヶ月後に平井和正の小説を題材にしたイメージアルバム「真幻魔大戦」をリリース。これは難波のプログレアルバムとしても評価の高い名盤で、ぜひあわせて聴いてほしい作品だ。1983年に公開された劇場アニメ『幻魔大戦』はプログレの雄=キース・エマーソンと青木望が音楽を手がけたが、もし難波弘之が担当していたら……と想像してしまう。

組曲ダロス
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ダロス/テクノポリス21C
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