COLUMN

第519回 手描きの有りよう


と、今週のイボ事情も最終回を迎えたトコで、今回は単刀直入に

動画を100枚も描いたことない人に
「やっぱりアニメは手描きでしょ!」と言ってほしくありません!

って。モブシーンやアクションシーン、メカやダンス、楽器演奏シーンに至るまで、動画100枚すら描いたことない監督に、そう易々と「やっぱりここは手描きじゃないとなー」とか「なんで皆なんでもCGにしちゃうのかなぁ」「アニメの監督なんだから、もっと手描きを大事にしないとさぁ」などなど。まあ、絶対言うなというのは言い過ぎですが、少なくとも

一度、手描き動画の「手間」を想像くらいしてみてください!

と。こう言うとアニメーターではない制作出身の監督さんで「失敬な! 自分は制作時代、何カットも動画をやったことくらいはある!」と仰る方、何人も知ってます。が、その方々がやったことある動画って、せいぜい「各話演出時代に足りない目パチ・口パクを描いたことがある!」だったり「中割りを2〜3枚足したぜ!」くらい。いいとこ「原トレ(原画のトレス)のみの止めは描いたことある」です。俺が言いたいのは

原トレ何十枚、中割り何十枚の「普通の動画」のこと!!

です。アニメーター出身でない監督さん、分かります? 動画用紙にビッシリ埋められたモブや爆発、髪・フリルの嵐のようななびき美少女、ロボットアクション。これ動画1枚何時間かかって、1日何枚描けるか!? ヘビーな内容のヤツは1日3枚しか上がらないとかあるんですよ! 昔の名作○場的な、線が少なくカゲなしキャラで繰り返し鑑賞しないこと前提な動画なら「ワシの若い頃は1日30枚は当たり前じゃった!」とか言ってられますが、現在のブルーレイやネット配信で何回こすってもボロが出ない、カゲ付きロボやフリフリ美少女の中割り動画を、1日30枚描けると思いますか? もうその基準自体が現代に相応しくないでしょう? あと

手描きの動画だから無条件に高尚なアニメ!

とかってのもどうですか? 1970年代生まれなら、いちばん多感な時期にジブリアニメを見て以来、今の今まで手描きアニメ素晴らしき! となるのは自由ですが、2000年生まれの若者に「手描き=高尚」は通じますかね? こーゆーと今度は「だからこそ手描きの素晴らしさを伝えなければならんのじゃろ!」とか言われそうですが違います。俺が言いたいのは「ほどほどに!」です。今の視聴者さんは、子どもの頃からCGバリバリ回り込みのゲームとかで遊んでるわけで、つまりは「画が動くなんて普通のこと」。その人たちに手描きの素晴らしさを伝えたいなら、ある程度——それこそほどほどに普段彼らが慣れ親しんだ映像をベースにするところから始めなきゃならないはず。その上で、手描きの魅力を味わえる作品を監督は作らなきゃなりません。でないと、作っても古くてまず観てもらえないでしょう。そしてさらにアニメータ側からすると

監督さん、そんなに「手描き、手描き」言うなら、あなたのコンテはこれだけの手間と労力のかかる手描き動画を十分に活かせる内容なんですか!? 本当に信じていい、このコンテ? 自分の何週間分の労力、絶対に無駄になりませんよね?

なんですよ。ご理解いただけますでしょうか、無条件手描き至上主義監督の方々様。