COLUMN

105 『傷物語〈III 冷血篇〉』に拍手

 公開日の最初の回で『傷物語〈III 冷血篇〉』を鑑賞した。『傷物語』3部作の完結編である。超力作だった。どこまでも過激であり、力いっぱいにアバンギャルド。アニメーションとしても魅力があり、登場人物に対して真摯でもある。お色気シーンも力一杯。ギャグも忘れてはいない。過剰な作品だ。カルトという言葉が相応しいのではないか。
 監督は尾石達也。『さよなら絶望先生』や『化物語』の頃にもっと彼の個性が色濃く出た作品が観たいと願った。まさにそれが『傷物語』3部作であり、その頂点が『傷物語〈III 冷血篇〉』なのだ。この作品で僕の願いが叶った。制作会社のシャフトとしても到達点のひとつとなった作品であるはずだ。

 尾石達也という不世出のクリエイターが、その才能と意欲の全てを叩きつけたフィルムだ。かつての彼は、あふれる情熱を持て余している印象があった。ひょっとしたら、今までのどの作品も不完全燃焼で終わっていたのかもしれない。しかし、『傷物語』3部作はそうではないはずだ。彼にとって初めての「やり切った作品」になったのではないか。さらに言うと、やり切っただけでなく、彼にとって情熱や稚気を維持したまま成熟した作品になっている印象だ。それもまた素晴らしい。

 『傷物語』の制作発表が2010年であったから、僕達は(「僕」ではなく、ここは「僕達」と書こう)足かけ8年、この作品の完成を待っていたわけだ。その間、ずっと制作を続けていたのかどうかは分からないが、長い時間がかかっているのは間違いない。であるにも関わらず、『傷物語』3部作には「煮詰まり感」がない。場面によっては作り手の初々しさすら感じた。僕が一番の驚きを感じたのはその点だ。

 尾石監督とシャフトに拍手だ。そして、尾石監督の次回作を1日も早く観たい。次は8年も待たせないでほしい。

(2017/01/11)