COLUMN

第97回 燃える作曲家の挑戦 〜勇者エクスカイザー〜

 腹巻猫です。本年もよろしくお願いいたします。昨年末の話になりますが、12月28日に東京ムービーレコードから発売された「珍豪ムチャ兵衛 音楽集」の構成・解説を担当しました。1971年に放送されたTVアニメ『珍豪ムチャ兵衛』の初のサウンドトラック・アルバムです。音楽は『ど根性ガエル』の広瀬健次郎。マイナー作品ですが、生きのいい音楽は一聴の価値あり。一般CDショップでの販売はなく、Amazon限定のDODというシステムで販売しています。東京ムービーレコードとしても初めての試みで、これがうまくいけば、今後マイナー作品のリリースにも道が拓けるかもしれません。

珍豪ムチャ兵衛 音楽集
http://www.amazon.co.jp/dp/B01MU28IXT/


 この原稿がUPされる1月10日には、関東地方などでTVアニメ『鬼平』の第1回が放送されている(Amazonプライム・ビデオでも配信)。中村吉右衛門主演のTVドラマでも親しまれた池波正太郎の時代小説「鬼平犯科帳」をアニメ化した意欲作だ。音楽は田中公平と川村竜が担当している。
 今回は、その田中公平が1990年に手がけた『勇者エクスカイザー』の話。

 『勇者エクスカイザー』は1990年2月から1991年1月までテレビ朝日系で放送されたサンライズ制作のTVアニメ。1997年放送の『勇者王ガオガイガー』まで続く「勇者シリーズ」の第1作である。
 宇宙の宝物を狙って星々を荒らし、地球にやってきた宇宙海賊ガイスターと、それを追ってきた宇宙警察カイザーズとの戦いを描くSFロボットアニメ。カイザーズは肉体を持たないエネルギー生命体で、地球では車や列車などの乗り物と融合して活動している。主人公の少年・星川コウタの家の自動車と融合したのがカイザーズのリーダー・エクスカイザーである。
 サンライズが制作してきたリアルロボット路線の作品群とは方向を変えた、明るく楽しい娯楽作品だ。人知を超えたエネルギー生命体のエクスカイザーが、少年コウタと出逢い、共闘し、しだいに深い友情で結ばれていく描写が感動的。SFファンなら「20億の針」や「ウルトラマン」「ヒドゥン」など、さまざまな作品のタイトルが頭に浮かぶ設定と展開である。少年とロボットとの友情という要素は、その後の「勇者シリーズ」にも受け継がれた。
 監督は、本作のあとに続いて『太陽の勇者ファイバード』『伝説の勇者ダ・ガーン』を監督する谷田部勝義。シリーズ構成は円谷プロ作品への参加も多い平野靖士、音楽は田中公平が担当した。
 田中公平は1954年生まれ。大阪府出身。医師の家に生まれ、少年時代にクラシック音楽に魅せられて音楽家を志した。東京藝術大学卒業後、ビクター音楽産業に入社して宣伝部に勤務するも、3年で退職。バークリー音楽院に2年間留学し、帰国後、作・編曲家として活動を開始した。
 アニメ音楽の最初の仕事は1982年放送のTVアニメ『わが青春のアルカディア 無限軌道SSX』の挿入歌「星の涙」(作曲・菊池俊輔/歌・山野さと子)の編曲。1985年にTVアニメ『コンポラキッド』の劇中音楽(BGM)を担当し、これが本格的なアニメ音楽デビュー作となった。その後、『エスパー魔美』(1987)、『トップをねらえ!』(1988)、『チンプイ』(1989)、『魔動王グランゾート』(1989)などの音楽を手がけ、1990年に担当したのが『勇者エクスカイザー』である。
 本作は田中公平が手がけた初の本格的なロボットアニメである。というと『トップをねらえ!』と『魔動王グランゾート』があるではないかと言われそうだが、『トップをねらえ!』はパロディ要素が多く、『魔動王グランゾート』はロボットアニメというより、SFファンタジーに近い。ロボット対ロボットの戦いをストーリーの主軸にし、メカニックの発進・変形・合体という3要素を毎回の見せ場にした王道のロボットアニメ作品は、本作が初なのだ。本作のあと、田中公平は『絶対無敵ライジンオー』(1991)、『機動武闘伝Gガンダム』(1994)、『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』(1996)、『勇者王ガオガイガー』(1997)、『OVERMAN キングゲイナー』(2002)など、ロボットアニメ作品を次々と手がけることになる。
 「変化球ではない真っすぐなロボットもの」の依頼に田中公平は意欲を燃やし、巨大ロボットの重量感を表現するために「『ゴジラ』のような風格のある曲を書こう」と考えた。その言葉どおり、『勇者エクスカイザー』の音楽は重厚で骨太、それでいてロマンティックな香りと品格もあわせ持つ名曲ぞろいである。

 本作の音楽集は放映当時「ミュージック・フロム・エクスカイザー」と同「Vol.2」のタイトルで2枚のCDアルバムがキングレコードから発売されている。しかし、曲と曲とをクロスフィードしてつないでいたり、同じ曲が2度収録されていたりして、ファンには不満の残る内容だった。
 2004年に本作の音楽をすべて収録するというコンセプトで2枚組CD「勇者エクスカイザー 総音楽集」がキングレコードからリリースされた。構成と解説は筆者が担当させていただいた。収録曲数は主題歌のTVサイズ・フルサイズ計4曲を含めて143曲。短いブリッジ曲やトラックダウン違いによる別バージョンまですべて収録した。当初は主題歌のカラオケを収録するプランがあったが、CDの収録時間いっぱいとなって見送った。
 収録内容は、キングレコードのサイトに今も残る商品案内ページを参照いただきたい。
http://king-cr.jp/special/exkizer/

 本アルバムでは2枚組の1枚目と2枚目を異なるコンセプトでまとめた。
 1枚目は1話完結エピソードのオーソドックスなフォーマットを再現したサウンドトラック。第2話以降定番となったアバンタイトル曲から始まり、コウタの日常、ガイスターの暗躍、コウタとカイザーズの捜査、ガイスターロボ出現、カイザーズの戦い、平和の訪れ、という流れで、「毎回観ていた番組の雰囲気」を音楽で描いてみた。最後は次回予告音楽で締めくくった。
 2枚目は「ピアノとオーケストラの組曲〈勇者〉」と題して、第35話「勇者に贈る音楽会」に登場するオーケストラ曲「交響曲〈勇者〉」が実在したら……とイメージをふくらませて構成してみた。カイザーズの発進・変形・合体・必殺技等の重要曲はこちらに収録されている。
 となると、1枚目はカッコいい曲が少なく物足りないのではないかと思われそうだが、そんなことはないのだ。
 1枚目には、コウタのテーマを始めとするキャラクターテーマや日常曲などを主に収録している。『勇者エクスカイザー』という作品の明るく楽しい雰囲気を支えていた楽曲たちだ。聴くと「ああ、エクスカイザーってこんな番組だったよな」と思い出がよみがえってくる。
 筆者が気に入っているのはコウタのテーマを収録した「コウタは今日も元気いっぱい」のブロックと、ストリングスとピアノの響きがうっとりすくるくらい美しい「ときにはロマンティックに」のブロック。豪快なアクション曲とはひと味違う、田中公平のロマンティストの一面、すぐれたメロディメーカーとしての一面がよく表れた楽曲群である。
 1枚目にはロボットアニメに不可欠なサスペンス曲やアクション曲も収録している。注目は、「カイザーズ捜査開始」「カイザー・アクション」「蒼空の追撃」「Go with me! エクスカイザー」等のブロックに収録した、アクション曲の「リズムのみ」バージョンだ。
 「リズムのみ」バージョンとは、ドラム、ピアノ、エレキベース、エレキギター、パーカッション等のリズムセクションのみをミックスしたバージョンのこと。本来はこの上に弦楽器や管楽器などのメロディ楽器(上物=うわものと呼ばれる)が加わって楽曲として完成する。リズムのみバージョンは音楽演出の必要上作られるもので、楽曲としては完成形ではない。だから、こうしたバージョンをサントラに収録するのは本意でないという作曲家も多い。
 しかし、本作では、このリズムのみバージョンがなかなかカッコよく聴きごたえがあるのだ。メロディ楽器がないぶん、リズムの躍動感やコード進行の心地よさが際立つ。ロックバンドのインスト曲を聴くようなグルーブ感がある。田中公平の編曲の巧みさとスタジオミュージシャンの技量が堪能できる楽曲群である。2枚目に収録された同じ曲の完成形と聞き比べてみるのも面白い。
 2枚目の「ピアノとオーケストラの組曲〈勇者〉」には、本作の音楽のハイライトとなるメカニック描写曲、アクション曲をこれでもかとばかりに詰め込んだ。燃える音楽を続けて聴きたいという構成者の願望も入っている。オーケストラは管弦楽だけで40人を超える大編成。リズムセクションはこれに含まれず、別録音された。今ではなかなか実現できないスケールである。
 「第1章 プロローグ」は第1話冒頭で流れた全編の導入部となる楽曲。大作SF劇場作品の冒頭のような壮大なムードで組曲が開幕する。
 「第2章 疾風!マックス・チーム」はカイザーズのマックス・チーム=ドリルマックス、ダッシュマックス、スカイマックスの3体のロボのテーマ。本作ではカイザーズのメンバーそれぞれにテーマが作られている。田中公平は各キャラクターの特徴をとらえ、曲想を変えて書き分けた。「第4章 颯爽!レイカー・ブラザーズ」も同様である。正義のロボットの凛々しくカッコいいイメージが音楽によってさらに広がり、わくわくする。番組を観ていた子どもたちも同じ気持ちだったに違いない。
 聴きどころは、エクスカイザーの登場と自動車から人型ロボットへの変形シーンを描く「第7章 勇躍!エクスカイザー」、そして、カイザーズの合体テーマを集めた「第11章 交響曲〈勇者〉」。本作の音楽の白眉と呼べる楽曲群である。特にエクスカイザーの変形・合体テーマであるM-10、M-11は「これがアニメのBGMか!?」と思うような超重量級の曲で、本格的な交響曲作品の一部であってもおかしくない。レコーディングの際、田中公平は真っ黒に見えるくらい音符を書き込んだ譜面を見たミュージシャンから「読めないよ、こんなの。夜遅くにこんな大変な曲できるか」と文句を言われたそうである。
 本作は2クール目に向けて追加録音が行われている。そのとき録音された新合体ロボと新必殺技のテーマを収めたのが「第15章 宇宙の戦士!ドラゴンカイザー」と「第18章 勝利の神剣!グレートエクスカイザー」。第1回録音の曲を超えるスケールと迫力をという要求にみごと応えた、渾身の楽曲だ。
 田中公平はロボットアニメで大切なのは「バンクシーンの曲」だと語っている。バンクシーンとはロボットの発進・変形・合体シーンのこと。ここで歴史に残る曲を書かなければロボットアニメ音楽としては失敗だ。『勇者エクスカイザー』はその点でも田中公平ロボットアニメ音楽の最初の完成形であり、後世に残る作品である。
 ディスク2のラストには最終回の終盤に流れた曲を収めたブロック「第19章 さよなら勇者たち」「第20章 エピローグ〜本当の宝物」を配置した。
 「さよなら勇者たち」はコウタと勇者たちの別れの場面に流れたオープニング主題歌のピアノソロ・アレンジ。コウタと勇者たちの会話がよみがえり切なくなる。主題歌「Gather Way」は田中公平の作曲ではないが、本作のパワフルで前向きなイメージを具現化した名曲である。
 「エピローグ〜本当の宝物」の1曲目M-47は、別れのあとの寂しい気持ちをまぎらそうとするコウタとそんなコウタを気遣うママの場面の曲。バイオリンの繊細な響きが胸に沁みるエレガントな曲だ。ここでも田中公平の優美なメロディを聴くことができる。次のB-23は最終回ラストシーンの曲。メニューでは「感動のエンド」と題されている。明るく希望に満ちた曲調が本作のラストにはぴったりだ。そして最後の曲は最終回エンディング用に書かれたB-24B。エンディング主題歌「これからのあなたへ」のモチーフを取り入れた感動的な楽曲である。ストリングスに絡むサックスの音色がちょっと大人になったコウタを表現しているようで、物語を最後まで観てきたファンの心にぐっとくる。

 『勇者エクスカイザー』は、田中公平が本当に腰を入れて書いた最初のロボットものである。第1回録音では約90曲をオーケストレーションも含めてわずか18日で一気に書き上げたという。当時の田中公平はアニメ音楽を手がけるようになってまだ5年目。書けるよろこびと書きたい曲が胸にあふれていた。そんな情熱とパワーが詰め込まれた熱い作品である。
 その『勇者エクスカイザー』のメインターゲットが子どもたちだったことも重要だ。本作が伝える勇気と友情のメッセージは、すばらしい音楽とともに子どもたちの心に真っすぐに届き、今も心の中の宝物になっているに違いない。
 本作のあと、田中公平は先述のロボットアニメ作品や『サクラ大戦』(1996〜)、『ONE PIECE』(1999〜)といったヒット作を手がけ、その作風や言動から「燃える作曲家」と呼ばれるようになる。今でも「燃える作曲家」であることに変わりはないが、その燃え方は少しずつ変化している。2008年からはオリジナル曲を作曲し、自ら歌う活動を始めた。作風はより研ぎ澄まされ、深みを増している。田中公平の燃える作曲家魂は、過去の自分を超え、世界に向けたアニメ音楽を創出する挑戦に向けられているのだ。
 そんな田中公平が作り出す『鬼平』の世界。どんな音楽を聴かせてくれるか、新年から目が(耳が)離せない。

鬼平 公式サイト
http://onihei-anime.com

勇者エクスカイザー 総音楽集

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