腹巻猫です。《SOUNDTRACK PUB》レーベル最新作「劇場版 エースをねらえ! 総音楽集」を11月30日に発売します。主題歌とBGMを収録した2枚組。11月20日に阿佐ヶ谷ロフトで開催する「『Bugってハニー』サントラ発売記念トークライブ」にて先行販売を行います。同トークライブ内では『ジャングル黒べえ』のサントラ盤に収録できなかった秘蔵音源も紹介する予定。ふるってご参加ください! 前売券発売中!
『Bugってハニー』サントラ発売記念トークライブ 〜東京ムービーレコードの逆襲!〜
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/51789
2008年5月25日、東京ムービーレコード第1弾として「パンダコパンダ オリジナルサウンドトラック〜完全版〜」が発売された。1972年公開の劇場アニメ『パンダコパンダ』の初のサントラ盤だ。いろいろな意味でインパクトのあるリリースだった。
インパクトのその1は、映画公開から30年以上経っての突然のサントラ発売だったこと。1982年にキングレコードからドラマ編LPが発売されているが、そのときはBGMは収録されていない。音楽のみの商品化は初だった。
インパクトのその2は、発売元が「東京ムービーレコード」という初めて聞くレーベルだったこと。過去に東宝レコードや大映レコードなど、映画制作会社の名を冠したレーベルは存在したが、アニメ制作会社の名を冠したレーベルは初だ。
そして、インパクトのその3がざっくりした作りのパッケージ。手作り感ただようジャケットやライナー。曲名も音楽リストの表記をそのままタイトルにしたような感じ。「東京ムービーレコード」ってどんなレーベルなんだろう? と興味はいや増した。
その興味のほうは11月20日のトークライブで深く突っ込むことにして、今回は『パンダコパンダ』の音楽について語りたい。
『パンダコパンダ』は1972年12月に「東宝チャンピオンまつり」の1本として公開された劇場アニメ。原案・脚本・場面設定が宮崎駿、監督は高畑勲、作画監督は大塚康生と小田部羊一が担当した。両親のいない少女ミミ子と動物園を抜け出してきたパンダの親子との交流を描くコミカルタッチのメルヘンである。1973年3月には続編『パンダコパンダ 雨ふりサーカス』が公開されている。どちらも40分足らずの短編作品だが、日常と非日常が同居する物語、生き生きと動き回るキャラクター、レイアウトや作画の魅力など、アニメーションの楽しさがぎゅっと詰まっている。丹念な日常描写が1974年の『アルプスの少女ハイジ』にもつながる作品だ。
音楽は2作ともジャズピアニストとして知られる佐藤允彦が担当した。
佐藤允彦は1941年、東京生まれ。高校時代からクラブでピアノを弾き始め、慶応義塾大学在学中にジョージ川口ビッグ4+1のメンバーに抜擢された。1966年よりバークリー音楽院に留学。帰国後はニュージャズ運動の先頭に立って活躍する。現在も、作曲・編曲・演奏に多彩な活動を続けるジャズ・ミュージシャンである。
この連載でも以前紹介したことがあるが、慶應義塾大学に「慶応三羽ガラス」と呼ばれた名ジャズピアニストが3人いた。『ルパン三世』の大野雄二、『海のトリトン』の鈴木宏昌、そして佐藤允彦である。佐藤允彦はフリージャズなどの先鋭的な音楽活動をする傍ら、60年代から映像音楽の仕事もこなしていた。アニメでは『パンダコパンダ』のほかに虫プロの劇場アニメ『哀しみのベラドンナ』(1973)、TVドラマでは「アタック拳」(1966)、「お荷物小荷物」(1970)、「火曜日の女」(1969-1973)、「水戸黄門外伝 かげろう忍法帖」(1995)など、劇場作品では「神田川」(1974)、「夜叉」(1984)といった作品を手がけている。
『パンダコパンダ』の音楽はジャズというより、ノンジャンルのバンド音楽といった趣。ドラムス、ベース、ギター、キーボード、トランペット、トロンボーン、パーカッションなどの中編成で、解説書には「12名程度」書かれているが、もっと小編成に聴こえる。音はシンプルだが、スカスカ感はない。息の合ったノリのよい演奏が聴いていて気持ちいい。佐藤允彦がいつも一緒に演奏しているメンバーを集めて「せーの」で一発録りしたのだろう。もちろん、打ち込みなどない時代だから、すべて手弾きの音楽。人間臭くてライブ感のある魅力的な音楽だ。
本作の音楽商品は、公開当時、主題歌「ミミちゃんとパンダコパンダ」と挿入歌「ねんねんパンダ」を収録したEPレコード(品番:DT-1004)が東宝レコードから、歌とドラマを収録したソノシート(品番:APM-4036)が朝日ソノラマから発売されている。「ねんねんパンダ」は『パンダコパンダ』では使用されず、『雨ふりサーカス』で初めて使用された。
サウンドトラック・アルバムは2008年に初めて東京ムービーレコードから発売された。
収録曲は以下のとおり。
1.ミミちゃんとパンダコパンダ(歌:水森亜土)
2.ミミちゃんとパンダコパンダ(カラオケ)
3.ミミちゃんとパンダコパンダ(モノラル)
4.〜31.『パンダコパンダ』BGM(M01〜M30)
32.〜64.『パンダコパンダ 雨ふりサーカス』BGM(M01〜M30)
65.ねんねんパンダ(歌:水森亜土)
66.ねんねんパンダ(カラオケ)
67.ねんねんパンダ(モノラル)
主題歌「ミミちゃんとパンダコパンダ」とそのバリエーションをアルバム頭に置き、アルバムのラストは挿入歌「ねんねんパンダ」とそのバリエーション。BGMパートは前半に『パンダコパンダ』、後半に『パンダコパンダ 雨ふりサーカス』をMナンバー順に収録する構成になっている。BGMの詳細は省略したが、1曲1トラック形式である。
第一の聴きどころはなんといっても主題歌「ミミちゃんとパンダコパンダ」だ。軽快でユーモラスな一度聴いたら忘れられないメロディ。作詞の真田巌は、当時、佐藤允彦夫人だった中山千夏のペンネーム。同じく真田巌名義で「ねんねんパンダ」の作曲も手がけている(作曲補・佐藤允彦)。歌の水森亜土は『ひみつのアッコちゃん』(1969)の「すきすきソング」や『Dr.スランプ アラレちゃん』(1981)の「ワイワイワールド」などの歌唱でも印象深いイラストレーター・歌手・女優のマルチタレント。この主題歌を得たことで、本作の音楽の成功は決まったようなものだ。
BGMは、主題歌のメロディを中心に、いくつかのモチーフのバリエーションで作られている。
明るく素朴な「M01 マリンバによるテーマ」は『パンダコパンダ』の冒頭シーン、ミミ子が田舎に帰るお祖母ちゃんを見送ってから帰宅するまでに流れた曲。ミミ子のテーマともいうべき曲だ。
このモチーフはミミ子とパンダ親子が公園で過ごす場面の「M19 シロフォン・テーマ〜スロー」で再び登場する。
次の「M02 シンセ・コミカル」はミミ子がコパンダ=パンちゃんと初めて出会う場面のユーモラスな曲。このモチーフはコミカルなシーンの定番として映画全編にわたって使われている。続編の『雨ふりサーカス』にも継続して登場する本作の主要モチーフのひとつである。
挿入曲「ねんねんパンダ」は『パンダコパンダ』では歌入りでは使われていない。しかし、そのメロディだけはミミ子がお祖母ちゃんに手紙を書く場面の「M09 ED〜ミュージック・ボックス」などいくつかの曲で使用されている。「ED」と表記されているので、当初は「ねんねんパンダ」がエンディング主題歌候補だったのかもしれない(実際は「ミミちゃんとパンダコパンダ」がオープニングとエンディング双方に使用された)。
ところで、サントラ盤では上記のように曲名が「Mナンバー+テーマ+楽器(もしくは曲調)」で表記されている。どんな曲かわかりやすい反面、「どの場面で流れた曲」かはさっぱりわからない。ここはやはり、「イメージが広がる曲名」をつけてほしかったなあと思うところだ。
そこで参考までに劇中使用曲と使用場面をリストにして紹介しよう。本作の音楽はすべて画に合わせたフィルムスコアリングで、同じ曲を2度使う等の使い回しはしていない。『パンダコパンダ』と『雨ふりサーカス』はどちらもM01からスタートするが、別の曲である。
『パンダコパンダ』
M01:お祖母ちゃんを見送って買い物をしながら帰るミミ子
M02:ミミ子、縁側のパンちゃんを見つける
M03:「私たちきっと友だちになれるわね」と逆立ちするミミ子とパンちゃん
M04:ミルクを飲むパンちゃんとミミ子
M07:たずねてきたパパンダと話すミミ子
M05:パパンダがお父さんになると言ってくれて、ミミ子大よろこび
M06:パパンダに帽子をかぶせ、パイプをくわえさせ、抱きつくミミ子
主題歌カラオケ:竹を食べるパパンダとパンちゃん〜上機嫌のミミ子
M09:お祖母ちゃんに手紙を書くミミ子
M10:朝のしたくをするミミ子
M11:パパの会社はお休みだと言うミミ子
M12:学校へ行くミミ子についていくパンちゃん
M13:パンちゃんが先生に見つかってごまかすミミ子
M14:給食の調理室に入っていくパンちゃん
M15:パンちゃんのせいで大混乱の調理室
M16:調理室から逃げ出すパンちゃん〜職員と生徒たちに追われるパンちゃん
M17:お祖母ちゃんに手紙を書くミミ子
M18:ミミ子の家でパンダに出くわしてぎょっとするおまわりさん
M19:パンダ親子と公園で過ごすミミ子〜ミミ子の家を取り囲む警察官たち
M20:なわとびをするミミ子とパンダ親子
M22:パンちゃんにとびかかる犬
M23:犬を手玉にとるパンちゃん〜逃げていく犬と少年
M24:動物園のことをパパンダに聞くミミ子
M25:警官と動物園の職員に囲まれるパパンダとミミ子
M26:(未使用)
M27:川を流されて水門に近づいていくパンちゃん〜川に飛び込むミミ子
M28:パンちゃんをつかんだまま急流に流されそうなミミ子
M29:パパンダに助けられるミミ子とパンちゃん
M30:動物園に戻ったパンダ親子〜出勤するパパンダ
『パンダコパンダ 雨ふりサーカス』
M01:ミミ子の手紙を読むお祖母ちゃん〜ミミ子の家を訪れる男たち(サーカス団員)
M02:大中小の歯ブラシを見つける男
M03:巨大な生きものがいると感づいておびえる男
M04:窓の外からのぞくパンちゃん、ミミ子
M05:家に入ってくるミミ子とパンダ親子〜泥棒が来たとはしゃぐミミ子たち
M06:夕食を食べるミミ子とパンダ親子
M07:家の中を探索するパンちゃん〜あちこちに小さな足跡
M08:鉢合わせして大慌てのパンちゃんとトラちゃん
M11:トラちゃんを見つけるミミ子とパパンダ〜トラちゃんを歓迎するミミ子たち
M27:夕食を食べるトラちゃんとミミ子たち〜パンちゃんとトラちゃんを寝かせるミミ子
M10:洗濯物を干すミミ子〜買い物に行くミミ子とパンちゃん、トラちゃん
M13:サーカスのようすをうかがうトラちゃんとパンちゃん〜玉で遊ぶパンちゃんとトラちゃん
M15-3:玉に乗ろうとするパンちゃん
M15-2:玉から落ちて転げるパンちゃん
M09:玉に乗ってサーカスの中を走り回るパンちゃん
M15-4:トラの檻に入ってしまうパンちゃん
M15-1:探しに来たミミ子に飛びつくトラちゃん
M16:パンちゃんをくわえて檻を出るトラ〜トラと対面するミミ子
M17:トラに抱き着くトラちゃん、ミミ子に抱きつくパンちゃん〜ミミ子の顔をなめるトラ
M18:雨が降り始める〜サーカスを心配するパンちゃん
M19:トラ型のクッキーをもらってご機嫌のパンちゃん
M20:降り続く雨〜浸水しているミミ子の家
挿入歌「ねんねんパンダ」:パンちゃんを眠らせるミミ子
M21:雨が上がる〜一面水に覆われているミミ子の家の周り
M22:屋根の上で朝食を食べるミミ子たち
M23:ミミ子に頼まれて水没した家の中へジャムを取りに行くパパンダ
M14:流れてくるサーカスの玉〜玉を広い上げるパンちゃん
M24:トラちゃんを助けにベッドの船で出発するミミ子たち
M25:取り残されている動物たちを助けに行くミミ子たち
M12:動物たちに「もう大丈夫」と呼びかけるミミ子〜トラちゃんと再会するパンちゃん〜動物たちを助けるパパンダとミミ子
M26:汽車の火室に石炭を入れるトラちゃんとパンちゃん
M28:汽車で町に帰ってくるミミ子と動物たち
M29:丘を越えて森を抜けて進む汽車〜汽車を追う団長たちの車
M30:暴走する汽車を止めたパパンダを讃えるミミ子と町の人々
一部、Mナンバーと劇中使用順が一致していない部分がある(特に『雨ふりサーカス』はそれが多い)。アルバムはMナンバー順収録なので、劇中使用順に並べ直して聴いてみるのも一興だろう。
本作の音楽は「独立した楽曲として完成している」といったタイプの音楽ではない。画に合わせた音楽で、ほとんどの曲が1分未満の長さ。昔の漫画映画っぽい効果音的表現も聴かれる。基本的には「画と一緒に楽しむ音楽」だ。
それでも、本作の音楽には映像から独立してもつい聴き入ってしまうような魅力があふれている。『雨ふりサーカス』の「M08 ゴーゴー〜ピアノ」や「M09 ゴーゴー〜バンド」などはその魅力がストレートに伝わる好ナンバーだ。音楽を作る楽しさ、演奏する楽しさまでが伝わってくる。それは佐藤允彦とその仲間たちが作り出す音楽の力なのだろう。手練れたちの息の合ったセッションを間近で聴くような気分で楽しめる、愛すべき作品である。