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第87回 ガルーダに捧ぐ 〜超電磁ロボ コン・バトラーV〜

 腹巻猫です。9月3日(土)にサントラDJイベント「Soundtrack Pub」を10ヶ月ぶりに開催します。特集は「冨田勲の世界」! 詳細は下記参照ください。

Soundtrack Pub【Mission#29】冨田勲の世界
http://www.soundtrackpub.com/event/2016/09/soundtrack_pubmission29.html


 今回は、前々回(第85回)で取り上げた『勇者ライディーン』の後継作品とも呼べる『超電磁ロボ コン・バトラーV』を紹介したい。1976年4月から1977年5月まで全54話が放送されたTVアニメ作品である。
 本作は東映(東映動画ではなくTVドラマなどを作っている東映テレビ事業部)が企画・製作、アニメーション制作を創映社(現・サンライズ)が担当した。監督の長浜忠夫以下、キャラクターデザインの安彦良和、脚本の辻真先ら『勇者ライディーン』のメインスタッフの多くが本作にも参加している。長浜忠夫は本作に続いて、『超電磁マシーン ボルテスV』(1977)、『闘将ダイモス』(1978)、『未来ロボ ダルタニアス』(1979/前半まで)を監督。のちに「長浜ロマンロボットアニメ」と呼ばれる作品群を作り出した。
 地球侵略を図るキャンベル星人と、それを迎え撃つバトルチームの戦いを描く物語。目玉は5体のマシンが合体して、巨大ロボット=コン・バトラーVとなるシステムである。スタジオぬえによるメカニック設定と発進・合体プロセスはSF的合理性とカッコよさを兼ね備えたもので、「嘘のない合体だ」と評判になった。
 ドラマ面では、葵豹馬ら5人の少年少女の生き生きとしたキャラクターと市川治演じる敵将軍ガルーダの悲劇的なエピソードが強く印象に残る。長浜忠夫作品でいうなら、『侍ジャイアンツ』+ロボットアニメみたいな、破天荒で突きぬけた面白さに満ちた作品である。『機動戦士ガンダム』(1979)以降、本作のような作品は「リアリティがない」とちょっと分が悪い雰囲気になってしまったが、今でも筆者は『超電磁ロボ コン・バトラーV』が大好きだ。

 さて、本作の音楽は、主題歌=小林亜星、劇中音楽=筒井広志、という黄金コンビが担当している。
 小林亜星は言うまでもなく、『狼少年ケン』(1963)、『魔法使いサリー』(1966)、『科学忍者隊ガッチャマン』(1966)など、数々のアニメソングの名曲を世に出してきたヒットメーカー。筒井広志は小林亜星とコンビで多くの作品を手がけた名アレンジャー・名コンポーザーである。本作では主題歌のアレンジも担当している。
 筒井広志は1935年、東京生まれ。慶応義塾大学法学部在学中にTBSラジオ小説「私の好きな小説」の音楽を担当して作曲家デビューする。卒業後、作曲家・広瀬健次郎に師事。日劇、東宝歌舞伎、コマ劇場等の舞台音楽を手がけた。この頃知り合った小林亜星と意気投合し、小林亜星が主催する音楽事務所アストロミュージックに創設時より参加。多くのCM音楽、TV番組の音楽を担当した。
 アニメ音楽のデビュー作は、広瀬健次郎が主題歌を担当したTVアニメ『オバケのQ太郎』(1965)(劇中音楽を担当)。小林亜星と出会ってからは、主題歌=小林、劇中音楽=筒井のコンビで多くの作品を手がけた。『ハゼドン』(1972)、『快傑ライオン丸』(1972)、『ドロロンえん魔くん』(1973)、『超電磁ロボ コン・バトラーV』(1976)、『超電磁マシーン ボルテスV』(1977)、『未来ロボ ダルタニアス』(1979)、『花の子ルンルン』(1979)、『怪物くん』(1980)、『プロゴルファー猿』(1985)などなど。また、『魔法使いチャッピー』(1972)、『風雲ライオン丸』(1973)、『とびだせ!マシーン飛竜』(1977)では、主題歌・劇中音楽とも筒井広志が手がけている。
 『勇者ライディーン』の小森昭宏は外科医から作曲家に転身した変わった経歴の持ち主だったが、筒井広志も変わった経歴を持っている。作曲活動をしながら、小説家としてデビューしたのだ。
 1981年、『月刊BIGMAN』(世界文化社)にSF小説「我等が宇宙永遠に平和なれ」を連載して執筆活動を開始。『アルファ・ケンタウリからの客』『アンダンテで行こう』『不思議の国からきた少女』など10作を超える小説作品を発表した。のちには自らの原作・シナリオ・音楽でミュージカルも上演している。作家活動に力を入れるためか、1980年代後半からはTV音楽の仕事は減少した。音楽に文芸にと才能を発揮したが、惜しくも1999年3月、63歳の若さで亡くなった。

 筒井広志は、ショー音楽経験者らしく、聴いていてワクワクするエンタテインメント性豊かな音楽を書く作曲家である。ロボットアニメではブラスサウンドを生かしたダイナミックな曲、少女アニメでは弦と木管がやさしい美しい曲、と作品に合わせて書き分けた。軽快なウエスタン調の曲やブルージーなジャズ・ロック調の曲も筒井広志が得意とした曲調だった。
 『超電磁ロボ コン・バトラーV』は筒井広志の初のロボットアニメ作品。のちに手がける『超電磁マシーン ボルテスV』や『未来ロボ ダルタニアス』等につながる曲想を聴くことができる、筒井流ロボットアニメ音楽の原点とも呼べる作品である。
 本作のサウンドトラック・アルバムは放送終了後の1981年2月に「テレビオリジナルBGMコレクション 超電磁ロボ コン・バトラーV」のタイトルでLPレコードの形で発売された。1992年8月にはLP版の構成を生かしながら未収録曲を追加する形で再構成したCD「EVER GREENシリーズ 超電磁ロボ コン・バトラーV」がリリースされる。さらに、2006年8月には完全新構成による2枚組CD「ETERNAL EDITION 2006 超電磁ロボ コン・バトラーV」が発売された(発売はすべて日本コロムビア)。
 しかしながら、「EVER GREEN」と「ETERNAL EDITION」のCDは現在入手困難。今回は、2003年に〈ANIMEX 1200シリーズ〉の1枚として発売された「テレビオリジナルBGMコレクション」の復刻版CDをもとに本作の音楽を紹介しよう。
 収録曲は以下のとおり。

  1. コン・バトラーVのテーマ(TV用唄入り)
  2. キャンベル星人の挑戦
  3. 正義の使者コン・バトラーV
  4. 地球を守る5人の仲間
  5. 戦い・孤独・そして愛
  6. 戦え!コン・バトラーV
  7. 平和の砦南原コネクション
  8. 大将軍ガルーダの悲劇
  9. 最後の戦い、そして勝利
  10. 行け!コン・バトラーV(TV用唄入り)

 複数のBGMを1ブロックにまとめる構成で、全36曲のBGMを収録。
 構成・解説は長浜ロボットアニメを高く評価していた故・富沢雅彦。オリジナル盤のライナーノートでは、鋭い批評精神とユーモアが横溢する富沢節を読むことができる。あらためて、サントラの愉しみは音楽だけではなく、ライナーノートにもあると思わせてくれる秀逸な解説だ。この解説がCDには再録されていないのが惜しい限り。
 1曲目と10曲目は水木一郎が歌う主題歌のTVサイズ。小林亜星節炸裂のメロディラインと筒井広志のロック調アレンジが合体して「これぞアニメソング!」と言うべきカッコよさを生み出している。
 BGMパートは、宇宙からの敵を描写するブロック「キャンベル星人の挑戦」から始まる。
 おどろおどろしい雰囲気の「大地底海」、悪の基地を描写する「オレアナ像」、敵幹部ガルーダのテーマ「怪鳥人ガルーダ」、悪の尖兵の出撃を描写する「悪魔のどれい獣」の4曲を収録。「快傑ライオン丸」などでも聴かれる筒井広志流悪のテーマ・襲撃のテーマのつるべ打ちで、一気に戦闘気分が盛り上がる。
 続くトラック3は「正義の使者コン・バトラーV」と題して、バトルチーム出動から合体、戦闘までを再現する本アルバムきっての聴きどころだ。
 1曲目はクレシェンド〜デクレシェンドを繰り返すティンパニのリズムをバックにエレキギターとフルートが緊迫感に満ちたフレーズを奏でる「出動!バトルチーム」。豹馬たちがシューターに飛びこんでからバトルマシンが発進するまでの出動シーンに流れたおなじみの曲だ。数あるロボットアニメの出動シーンの中でも、最高傑作に数えられるシーンだと思う。他のロボットアニメだと出動シーンには主題歌アレンジなどのアップテンポで高揚感のある曲が流れる例が多いのだが、本作ではじわじわとサスペンスが盛り上がる曲が流れて、戦いの前の緊張が伝わってくるのだ。
 2曲目の「バトルメカ発進」も15話などでバトルチーム出動シーンに選曲された緊迫感あふれるナンバー。そして、「レッツ・コンバイン!」で5台のバトルマシンが合体、コン・バトラーVが登場する。緊迫した曲が続いたあとに主題歌アレンジが流れて、音楽的にも盛り上がるところだ。アナログシンセのうねうねした音が主題歌のメロディを奏で、「超電磁」の力で合体するイメージを表現している。コン・バトラーV登場の短い曲に続いて、ダイナミックな「コン・バトラー戦闘開始」で戦闘に突入。力強いエンディングテーマ・アレンジ「初めての勝利」でこのブロックは終わる。
 もうすでにお腹いっぱい。『超電磁ロボ コン・バトラーV』のカッコいいところはみんなこのブロックに入ってますよ。
 再構成された「EVER GREEN」版と「ETERNAL EDITION」版では、出動から合体までの曲はもっと後ろのほうに配置されている。平和〜敵の襲来〜危機〜メンバー集結〜出動、といった流れである。そういう構成もオーソドックスでありだろう。
 が、音楽アルバムとして聴いたとき、頭からいきなり「敵の襲撃」〜「バトルチーム出動!」となる「テレビオリジナルBGMコレクション」版の構成は実に決まっている。本編のたたみかけるようなドラマ展開のイメージと重なるのである。
 ここでひと息。トラック4「地球を守る5人の仲間」とトラック5「戦い・孤独・そして愛」は、キャラクターテーマと心情テーマを集めたブロックだ。本作のテーマのひとつである「友情」を表現する楽曲群である。「一人ぼっちの豹馬」「ちずる・オトメチックに」「安らぎのとき」「戦いの中の悲哀」などでは、戦闘曲とは対照的な筒井広志音楽のリリカルな面を聴くことができる。
 LPではここまでがA面。以下がB面になる。
 トラック6「戦え!コン・バトラーV」は、キャンベル星人の新たな攻撃とバトルチームの戦いを描くブロック。不気味なアナログシンセの音とブラスの荒々しい響きが戦いの緊迫感・焦燥感を盛り上げる。リズムセクションとブラスセクションのアンサンブルによる「ダダッダダッ」といった「キメ」のフレーズが実に効果的。このキメは筒井広志音楽によく登場する、ファンにはおなじみの音型である。後半の2曲はバトルチーム反撃の曲。コン・バトラーVの必殺技テーマ「必殺!超電磁スピン」がバトルチームを勝利に導く。「レッツ・コンバイン!」と同じオープニングテーマのアレンジ曲だが、合体シーンの軽快さと比べて、こちらはパワーを感じさせる力強いアレンジになっているのに注目だ。
 トラック7「平和の砦 南原コネクション」はバトルチームの基地・南原コネクションの日常を描くブロック。平和な「ひととき戦いを忘れて」、コミカルな「ドタバタ」に続いて、「緊張と焦燥」「危機迫るコネクション」の2曲が平和な日常の終わりを表現する。次のブロックへの橋渡しとなる選曲だ。
 トラック8は「大将軍ガルーダの悲劇」。本作の評価を高めた敵幹部ガルーダのエピソードをイメージしたブロックである。
 1曲目の「決闘!豹馬対ガルーダ」はティンパニとトランペットが対決ムードを盛り上げる、いかにも筒井広志らしいマカロニウエスタン風の曲。時代劇でもOKな曲調だ。バイオリンのメロディとギターのバッキングが悲壮感をあおる「悲壮なる戦い」、フルートとビブラフォンが切ない「孤独のガルーダ」が誇り高きガルーダの心情を表現する。4曲目には、女性型ロボット・ミーアがガルーダのために命を捧げる場面に流れた「ガルーダ愛のテーマ」が「ガルーダに捧ぐ鎮魂歌として」(富沢雅彦の解説文より)収録されている。この曲は、トラック4に収録された「一人ぼっちの豹馬」の変奏でもある。そう思って聴くと、さらに味わい深い。
 物語はここまでが中盤。ガルーダの死とともに敵は一度倒れるが、すぐに新たな敵が現われ、第27話からは女帝ジャネラとマグマ獣を相手にした死闘が繰り広げられる。
 が、富沢雅彦はその後半の展開をばっさり割愛。トラック9「最後の戦い、そして勝利」で潔く締めくくる。このブロックでは、最終決戦と勝利が追加録音曲を中心とした4曲で描かれている。ラストを飾るのはオープニング主題歌のボレロ風アレンジ「正義の凱旋」だ。

 本アルバムを物足りないと感じるファンもいると思う。のちに未収録曲をフォローしたCDが発売されたのもうなずける。
 しかし、これはいいアルバムである。未収録曲があっても、物語が前半までしか描かれていなくても、そう思う。『超電磁ロボ コン・バトラーV』の雰囲気とおいしいところを音楽で再現した、名アルバムだと思うのだ。繰り返しになるが、冒頭からいきなり「敵の襲来」〜「バトルチーム出撃!」というたたみかける曲順が燃えるし、アルバムのクライマックスに「大将軍ガルーダの悲劇」が充てられ、その余韻を残したまま、すぱっと終わる締めくくり方もいい。
 筒井広志は、のちに小説、ミュージカルと、自ら物語を作り出す道に進んだ。彼が手がけた音楽には、人の心をかき立てるドラマ的なるものが秘められている気がする。『超電磁ロボ コン・バトラーV』の音楽は、ドラマ的な長浜忠夫作品に筒井広志のドラマ的な曲想がぴたりとはまった名作だ。そのドラマ性を最大限に生かしてまとめあげた富沢雅彦の構成もすばらしい。作品と音楽の魅力をストレートに伝えているという点で、この富沢イズムあふれたアルバムの価値は少しも衰えていない、と思うのである。

テレビオリジナルBGMコレクション 超電磁コン・バトラーV

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ETERNAL EDITION 2006 超電磁ロボ コン・バトラーV

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