腹巻猫です。7月15日に「FAIRY TAIL ORIGINAL SOUND COLLECTION Vol.2」(エイベックス)、7月27日に「美少女先生セーラームーン Crystal ORIGINAL SOUNDTRACK II」(キングレコード)と構成を担当した2枚組サントラが相次いで発売されます。音楽はどちらも高梨康治さん。渾身のメタルサウンドです。猛暑を乗り切るBGMとしてもお奨めです!
FAIRY TAIL ORIGINAL SOUND COLLECTION Vol.2
http://www.amazon.co.jp/dp/B01DDMDC06/
美少女先生セーラームーン Crystal ORIGINAL SOUNDTRACK II
http://www.amazon.co.jp/dp/B01G2G7CCY/
去る6月5日に作曲家の小森昭宏が亡くなった。『宇宙エース』(1965)、『勇者ライディーン』(1975)、『くまの子ジャッキー』(1977)、『超人戦隊バラタック』(1977)、『名犬ジョリィ』(1981)などのアニメ作品、『忍者キャプター』(1976)、『バトルホーク』(1976)などの特撮作品で忘れられない仕事を残した作曲家である。
2001年、筆者は『勇者ライディーン』のDVD-BOXの仕事で小森昭宏にインタビューをした。もちろんそのときはお元気だったし、つい昨年、ライヴハウスでお会いしたときも元気でにこにこされていた。だから突然の訃報に驚いた。
今回は、小森昭宏と代表作『勇者ライディーン』の話をしたい。
小森昭宏は1931年東京生まれ。母親は代々医師の家系、父親はNHK交響楽団のティンパニ奏者だった。幼少時から先生についてピアノを習った。終戦後は進駐軍とともに入ってきたジャズに夢中になる。高校生の頃は友人とバンドを組み、米軍の将校が出入りするクラブでジャズを演奏して小遣い稼ぎをしていた。そのとき、ジャズのアドリブを自分で考えて演奏していたのが、のちのち作曲・編曲の仕事に役立ったという。
高校は九段高校から慶応義塾高校に転入した。同じ慶応高校で同級(同学年)だったのが冨田勲と小林亜星と林光だ。冨田と小林と林の3人はよく顔を合わせて音楽談義をしていたが、小森は高校生時代は冨田らと交流はなかった。しかし、のちに冨田勲とは音楽の現場で知り合って仲良くなり、亡くなる直前まで親交が続いた。
話を高校時代に戻そう。小森は慶応高校で演劇部に所属し、役者をやりながら劇の音楽も担当していた。一緒に芝居を作っていたのがのちに劇団四季を立ち上げる浅利慶太。あるとき、演劇部で劇作家の飯沢匡の戯曲「崑崙山の人々」を取り上げることになり、飯沢におうかがいを立てに行った。飯沢は快く了承してくれた上、稽古や公演も見に来てくれた。飯沢は小森が書いた音楽を気に入り、文学座の芝居やラジオドラマの音楽の仕事を紹介してくれるようになる。また、飯沢の紹介で知り合った作曲家・三木鶏郎からは音楽事務所「冗談工房」(いずみたく、越部信義らが参加していた)への参加を誘われた。しかし、小森は作曲家になろうとは思っていなかった。医者を志していたのだ。
高校卒業後、小森昭宏、冨田勲、小林亜星の3人は慶應義塾大学に、林光は東京藝術大学に進学する。冨田勲は慶大の文学部、小林亜星と小森昭宏は医学部に進んだ。医学部は予科が2年、本科が4年の6年コース。本科へ移るときに試験があり、学生の半分はそこで脱落する。小林亜星は途中で進級をあきらめ、経済学部に移ってしまった。小森は本科に進んで卒業。希望どおり、脳神経外科医となった。医師として勤務するかたわら、アルバイトで音楽の仕事を続けた。
TV放送の時代になり、小森の音楽の仕事はどんどん忙しくなっていった。音楽録音の直前に急な手術が入り、録音を2時間待たせて、手術を終わらせてからスタジオに駆けつけたこともあった。1960年には、飯沢匡が原作・脚本を務めたNHKの子ども番組「ブーフーウー」の音楽担当に抜擢される。「みんなのうた」や「うたのメリーゴーラウンド」の音楽も手がけるようになった。1969年には編曲を担当した「黒ネコのタンゴ」が大ヒット。まだ外科医も続けていたが、音楽の仕事が忙しく、ほとんど開店休業のようなありさまだった。とうとう、医者はやめて音楽を専業にすることを決心した。
医者の家に生まれ、医者になることを期待されながら音楽の道に進んだという作曲家は多い。小林亜星も冨田勲もそうだ。が、実際に医者になったあと作曲家に転職したのは小森昭宏ぐらいだろう。
作曲家専業になったあとも、小森はずっと外科学会の会員だった。後年、外科学会の教授から依頼されて学会用の祝典序曲の作曲を手がけている。それが気に入られて、結局、祝典用の曲を3曲も書いた。
さて、小森昭宏とアニメーションとのかかわりは、1965年の『宇宙エース』から。このときは主題歌がいずみたく、劇中音楽が小森昭宏の担当だった。
続いて1972年、『マジンガーZ』に先立つ、人間(少年)とロボットが一体となる形の巨大ロボットアニメ『アストロガンガー』の主題歌と劇中音楽を担当。
そして、1975年に手がけたのが『勇者ライディーン』である。
『勇者ライディーン』は1975年4月から1976年3月まで放送されたTVアニメ作品。アニメーション制作は創映社とサンライズ・スタジオ(のちのサンライズ)が手がけた。監督は第1話から26話までが富野喜幸(現・由悠季)、第27話から50話までが長浜忠夫。キャラクターデザインは安彦良和が担当。スマートで美しい神秘のロボット・ライディーン、ムー大陸の伝説をベースにした設定とストーリー、美形悪役の元祖とも言われるプリンス・シャーキンの登場など、『マジンガーZ』に代表される巨大ロボットアニメとは一線を画した、独特の魅力を持った作品になった。
音楽は主題歌・挿入歌・劇中音楽のすべてを小森昭宏が手がけている。放送中に主題歌・挿入歌を収録したアルバム「アクションデラックス 戦え!ライディーン」が日本コロムビアから発売された。サウンドトラック・アルバムの発売は番組終了後の1980年11月。「テレビオリジナルBGMコレクション」シリーズの1枚として、同じく日本コロムビアから発売された。現在入手しやすいのは、後者のアルバムをCD化したものだ。
収録曲は以下のとおり。
- 勇者ライディーン(TVサイズ/歌:子門真人)
- レッド団
- 平和の時
- 敵の出現〜フェードイン
- 苦難
- 神秘と恐怖
- 対決!妖魔軍団
- 戦火の中の追撃
- 神と悪魔
- 大団円
- おれは洸だ(TVサイズ/歌:子門真人)
1曲目と11曲目は主題歌のTVサイズ。
オープニング主題歌「勇者ライディーン」が心躍る名曲だ。子門真人ののびのびした歌唱もすばらしい。山川啓介の歌詞をもらった小森昭宏は、メジャーのマーチ調の曲とマイナーの8ビートの曲の2種類を書いてスタッフに選んでもらった。選ばれたのはマーチのほう。ヒーロー番組の主題歌といえばアップテンポのロック調が主流になっていた当時、ミドルテンポのマーチ調は冒険だった。が、結果的に個性が際立ち、印象に残るものになった。
中盤の「たちまち……」の部分は、ピアノスケッチではもっと大人しいメロディだったのを編曲の段階で変えたという。聴いていると、そこで曲調が変わるのでちょっとひっかかる感じがある。それがブレイクになり、サビの爽快感が強調される。聴くたびに味わいの増す曲だ。なお、小森昭宏は本作以前にもCMソングで子門真人とたびたび一緒に仕事をしていたそうである。
エンディング主題歌「おれは洸だ」はオープニングとは対照的なアップテンポのマイナーのナンバー。TVサイズはスリリングな弦のイントロから始まるが、フルサイズだとその前にチェンバロの導入部がある。それが独特の気品とロマンティシズムを生んで、『勇者ライディーン』のドラマにマッチしている。ぜひ、フルサイズで聴いてもらいたい。
BGMパートは代表曲を9つのブロックにまとめて収録。本作の音楽は3月、4月、10月と3回に分けて録音されているが、録音順にはこだわらない構成だ。ちなみに小森の証言によれば、音楽録音は早稲田アバコスタジオで行われた。
トラック2「レッド団」には洸と仲間たちの日常を彩る軽快な曲やユーモラスな曲を収録。子ども向けの曲を多く手がけてきた小森は、楽器の音色やリズムに工夫を凝らし、思わず笑みがこぼれるような楽しい曲を書いている。小森の持ち味が生かされたブロックである
トラック3「平和の時」はおだやかな情景描写音楽を集めたブロック。美しいメロディを持つリリカルな楽曲は、小森昭宏のすぐれたメロディメーカーとしての一面を象徴するもの。妖魔の魔女リディアとの出会いの場面に流れた I R2-M14 の大人っぽい曲調が耳に残るほか、チェンバロや木管のアンサンブルによる I R2-M19 の端正な響きが印象深い。本作のBGMには予算の都合からストリングスが使われていないのだが、それを感じさせないアレンジの妙にも注目だ。ラストには平和ムードを破るように不気味なショック音楽 II R1-M12 が置かれて次のブロックへの橋渡しとなる。
トラック4「敵の出現〜フェードイン」は緊迫感に富んだ曲の連続で前半の見せ場を再現したブロック。洸がライディーンにフェードインする場面に流れた I R1-M1 は番組を観ていたファンには忘れられないBGMだ。フルサイズを聴くとちょっとしたドラマ仕立てになっているのがわかる。
トラック5「苦難」は戦いを描写する曲を集めたブロック。悲壮感のただよう II R2-M4 は最終回のラストシーンの曲。熱心なファンなら「え、この曲がここなの?」と思うところだが、アルバムの構成意図としてはこの曲順なのだろう。
LPレコードでは、ここまでがA面。以降がB面になる。
トラック6は「神秘と恐怖」と題してミステリアスな曲を集めている。洸と母レムリアのドラマをイメージさせる雰囲気だ。シンセサイザーが発達していない時代ならではの、ピアノ、ビブラフォン、グロッケンシュピール、鍵盤ハーモニカなどを使った幻想的なサウンドが味わい深い。
トラック7は「対決!妖魔軍団」は決戦に向けて危機感を盛り上げるブロック。随所に主題歌のメロディを崩したフレーズが登場し、洸と仲間たちの緊張感と苦戦ムードが強調される。
そして、トラック8「戦火の中の追撃」でいよいよ最終決戦に突入。激しい戦いを表現するアップテンポのバトル曲2曲に続き、ライディーン優勢への展開をイメージさせる II R2-M2。ヒロイックな曲調にぐっとくる、本アルバムの中でも聴きどころの1曲だ。ライディーンの勝利をうたう II R2-M3 と平和を描写する II R1-M22 が続いてこのブロックは幕を下ろす。
トラック9は本作の挿入歌中でも屈指の人気曲「神と悪魔」のインストゥルメンタル。ここでは、ライディーンの勝利をイメージしての選曲だ。
BGMパートのラストはエンディング・イメージの曲を集めた「大団円」。はじめの4曲は悲劇的な場面を飾った沈んだムードの曲。後半はハッピーエンドに使われた明るい曲が並ぶ。最後は予告編音楽で締め。
本作は大河ドラマ的要素もある作品だが、アルバムの構成は、のどかな日常〜敵の襲来〜ライディーン出撃〜前半戦〜小休止〜敵の逆襲〜後半戦〜勝利、という一話完結のフォーマットを意識した作りになっている。ほとんどのブロックが5分を超える組曲的な構成。同じ曲調の曲が続くので、単調さを感じる部分もあるのが惜しい。もし再構成する機会があれば、ライディーンの目覚め〜仲間との共闘〜シャーキンとの対決〜新たな敵幹部の登場〜ムートロンの謎〜最終決戦、といった大きなストーリーをイメージした曲順にまとめたほうがファンにはよろこばれるだろう。
本作の音楽演出を語る上では主題歌・挿入歌の使用も忘れてはならない。劇中の戦いの場面では、主題歌の「勇者ライディーン」「おれは洸だ」、挿入歌の「戦え!ライディーン」「神と悪魔」などの歌入り、メロオケがよく使用されていた。ほかにも堀江美都子と子門真人のデュエットによる「行こうよ洸」、「子門真人が気に入ってくれて、ほうぼうで歌ってくれた」(小森の証言)という「海よ」など、本作の挿入歌には名曲が目白押し。大杉久美子が歌うアイドル歌謡風の「女の子だもの」もいい。現在は「スーパーヒーロークロニクル スーパーロボット主題歌・挿入歌大全集III」で聴くことができるので、サントラと合わせて聴いてもらいたい。
本作のあと、小森昭宏は『忍者キャプター』『バトルホーク』『超人戦隊バラタック』などアクション系の作品を次々手がける。しかし、本人は『くまの子ジャッキー』や『名犬ジョリィ』などのファミリー向けの作品のほうが好きだった。『勇者ライディーン』には戦い一辺倒ではないリリカルな部分や楽しい子どもたちの描写もあり、そういう意味でも小森昭宏の代表作と呼ぶにふさわしい作品だ。
小森は舞台の音楽もたくさん書いた。別役実作の『あかずきんちゃんの森の狼たちのクリスマス』『羽衣』、谷川俊太郎作の『おばけりんご』『くさびら』、川本喜八郎が人形を作った日中合作人形劇『三国志』の音楽も手がけた。
大人向けのTVドラマの音楽も書いたが、小森は子どものための音楽を大切にしていた。童謡をたくさん作ったし、「大人向けよりも子どものもののほうが大事」と語っていた。
「小さい頃からまずいものばかり食べていると味覚が発達しない。それと同じで、いろいろな音楽が聴けるように、子どものころから脳の枝分かれをこしらえてあげないといけない。そういう音楽でありたい」と、脳神経外科医ならではの持論を持っていた。
後年、小森はあるパーティで外科学会の先輩からこんなことを言われたという。
「君はいい仕事をしているね。ぼくは今まで3000人くらい手術して助けたかなあ。でも3000人だよ。あなたは1曲作って、それが放送されれば、何万人、何百万人という人が聴いてくれて、みんなに喜んでもらえる。それに、ぼくが手術して助けた人もいつか年寄りになって、みんな亡くなるんだよ。でも、あなたの音楽は、あなたが亡くなったあともずっと生きているわけだ。だから、いい仕事だね」
そのとおり、小森昭宏が紡いだ音楽は、これからもずっと生き続けるに違いない。