腹巻猫です。「ミュージックファイル」シリーズの高島幹雄さん主催のサントライベント「ミュージックファイルフェスタ Vol.8」に出演します。7月17日(日)阿佐ヶ谷ロフトAにて、12時開場/13時開演。冒頭30分ほどの出演ですが、「ベルサイユのばら 音楽集[完全版]」の制作秘話などをお話しする予定です。前売券はイープラスで発売中!
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/46483
「ベルサイユのばら 音楽集[完全版]」がいよいよ6月22日に発売される。その内容を紹介する番外編の第3回。今回は、DISC2とDISC3について。
DISC2と3は〈オリジナルBGMコレクション〉と題して、本編に使用されたオリジナルBGMを収録したディスク。今回の「音楽集[完全版]」で、アニメ版「ベルばら」ファンがもっとも期待を寄せているのが、この2枚の内容ではないかと思う。なんといっても、これまでレコード・CDに収録されていなかったBGMがようやく聴けるようになるのだ。
TVアニメ『ベルサイユのばら』のオリジナルBGMは、1980年4月21日にキティレコードから発売されたLP「ベルサイユのばら 名場面音楽集 薔薇は美しく散る」(品番:MKA7003)に初収録された。内容は、主題歌のTVサイズ2曲とBGM25曲。BGMのうち23曲は数曲を1トラックにまとめて「BGM(1)」〜「BGM(8)」のタイトルで収録されていた。
選曲・構成者の名前はクレジットされていないが、Supervisorとしてクレジットされている、本編の選曲を手がけた鈴木清司の意向が反映されていると思う。原作のクライマックスまでの物語をイメージした流れになっているようだ。ただ、アニメ版の2クール目途中あたりで制作されたものなので、中盤から終盤に向けての音楽演出はまだ決まっていない。そのため、全編を観終わってから聴くと、どうしても「あの曲が入っていない……」という不満が残ってしまうのが惜しい。
今回の「音楽集[完全版]」には、テープ捜索によって発見された『ベルサイユのばら』のオリジナルBGMを全曲収録している。ファンが「あの曲が聴きたい」と思っていた曲もきっとこの中に含まれているはずだ(流用曲は別として……)。
2枚のディスクは、本編のストーリーに沿った構成(曲順)でまとめている。DISC2は第1話「オスカル! バラの運命」から第20話「フェルゼン名残りの輪舞」まで、DISC3は第21話「黒ばらは夜ひらく」から第40話「さようならわが愛しのオスカル」までをイメージした内容にした。長浜忠夫監督の前半と出崎統監督の後半の雰囲気の対比を音楽でも表現するよう努めてみた。
収録は旧レコード・CDとは異なる1曲1トラック方式。例外的に5秒程度の短いブリッジ曲は1トラックに編集して「ブリッジ・コレクション」とした。ネットショップの商品紹介ページでは個々の曲名しか表示されていないが、実際は、BGM数曲を束ねる形でブロックタイトルを付けている。
ブロックタイトルだけを表記すると次のようになる。
DISC2
●アバンタイトル〜オープニングI
●薔薇のさだめ
●マリー・アントワネット
●ベルサイユに咲く花
●死のたくらみ
●わが心のオスカル
●突然、炎のごとく
●ブリッジ・コレクションI
●陽は沈み陽は昇る
●フェルゼン名残りの輪舞(ロンド)
●エンディングI〜次回予告
〈ボーナス・トラック〉
●オープニング主題歌 別テイク・コレクション
●番宣音楽コレクション
●Extra音楽コレクション
DISC3
●アバンタイトル〜オープニングII
●黒ばらは夜ひらく
●アデュウわたしの青春
●かた恋のメヌエット
●黒い騎士
●たとえ光を失うとも
●アンドレ青いレモン
●ブリッジ・コレクションII
●嵐のプレリュード
●熱き誓いの夜に
●あの微笑みはもう還らない
●エンディングII
〈ボーナス・トラック〉
●TVサイズ・カラオケ・コレクション
●MEコレクション
ブロックタイトルはポイントとなるエピソードのサブタイトルから主に拝借した。具体的な名場面・名セリフを思い出しながら聴いてもらおうと考えたからだ。熱心な『ベルばら』ファンならブロックタイトルを眺めているだけで、フェルゼンの「私は逃げるぞ、遠く数千マイルの彼方へ!」(フェルゼン名残りの輪舞)とか、ロザリーの「さよなら私の青春、さよなら私の幸せ、さよなら私のオスカル様」(アデュウわたしの青春)とか、オスカルの「愛しています。私も心から」とそれに続くアンドレの「わかっていたよ、そんなことは。もう何年も前から、いや、この世に生を受ける前から」(熱き誓いの夜に)とか、次々と名セリフが浮かんでくるのではないだろうか。身もだえしながら聴いていただきたい。
では、BGMの聴きどころを紹介しよう。
まずは、アバンタイトルの曲。オープニング前に挿入されるプロローグ部分の冒頭で「ベルサイユのばら」とタイトルが出るときの短いファンファーレ風の曲だ。毎回使用された重要曲ながら、なぜか「名場面音楽集」には収録されなかった。今回は晴れて開幕の曲として収録がかなった。
物語前半はベルサイユ宮を舞台にした話が多いので、DISC2はバロック風の典雅な曲が多い。「移りゆく時代〈時代の流れD〉」「やすらぎの時」「ベルサイユの朝」「新王の治世〈歴史的B〉」などは「名場面音楽集」に収録されていたクラシカルなナンバー。「パリの情景」「無邪気なたわむれ」「華やぐ心」などの比較的短い曲が初収録された。馬飼野康二はこうした曲を書くためにバッハなどのクラシック音楽を聴いて研究したそうである。
オープニング主題歌「薔薇は美しく散る」のアレンジBGMは、「名場面音楽集」では「変奏A」と題された1曲しか収録されていなかったが、今回はたっぷり9曲を収録。その中には第1話で成長したオスカルの初登場場面に流れた曲(オスカル —薔薇のさだめ—)や、ギターソロから始まるスローテンポのしっとりしたアレンジ(オスカル —切ない悲しみ—)、アンドレとオスカルの最期の場面に流れた厳かな変奏曲(オスカル —永遠に—)、毎回の次回予告音楽などが含まれている。
エンディング主題歌のアレンジBGMも5曲を収録した。いずれも劇中での使用頻度は高くないが、第25話「かた恋のメヌエット」でオスカルが舞踏会にドレス姿で現れる場面の曲(愛の光と影 —秘めた恋—)など4曲が初収録。
なお、前回の当コラムで、『ベルサイユのばら』のBGMはポップスのリズム・セクションを入れない編成で録音されていると書いたが、これらの主題歌アレンジはドラムスとエレキベースの入った編成で録音されている。クラシカルな雰囲気のBGMと現代的なリズムを持ったBGMの対比は、18世紀フランスの古い体制とそれを打ち壊そうとする新しい考え方との対比を表しているようでもある。
DISC2の終盤には「優しさの贈り物(Version II)」を収録した。これは、LP「オリジナル・サウンドトラック」にステレオで収録されたBGM「優しさの贈り物」の別バージョンである。
実はもともとLP「名場面音楽集」にも「優しさの贈り物」という曲が収録されていたのである。CD化される際に、おそらく同じ曲が重複すると思われて、この曲は割愛されている。ところが、あたらめて「名場面音楽集」を聴いてみると、こちらの「優しさの贈り物」は「オリジナル・サウンドトラック」に収録された音源よりもややテンポが遅いことがわかった。アレンジはまったく同じだが演奏時間は10秒ほど長い(ライナーノーツでは演奏時間が3分9秒と誤記されているが実際は3分19秒ある)。テイク違いなのか? それともテープの回転速度を落としているのか? 聴いただけでは判別しがたい。
この謎はマルチトラックテープを聴いて解けた。2つのテイクが録音されていて、速いほうがテイク1、やや遅いほうがテイク2だったのだ。そして、本編ダビング用のBGMテープにはテンポの遅いテイク2のみが収録されている。つまり、本編に使用されたのはすべてテイク2のほうだったのである。今回のアルバムでは、テイク2を「優しさの贈り物(Version II)」として収録した(初CD化)。ドラマティックなうねりを持った曲で、ラストシーンにたびたび使用されていたのが印象深い。
物語の後半は、革命に向かっていく時代の中でさまざまな人々の思惑が入り乱れる群像劇。DISC3はシリアスなサスペンス曲や繊細な心情描写曲が多くなっている。
ジャンヌの首飾り事件のエピソードなどに使用された、じわじわと不安感を盛り上げる緊迫曲「蠢く陰謀」「破滅への道」。黒い騎士のエピソードなどで使われた活劇系のスリリングな曲「走る衝撃」「一触即発」「運命の一撃」。どれも全編を通して使用頻度が高いサスペンス曲である。
心情描写曲では、ロザリーのテーマのように使われていた「結ばれた友情」、ダルシマーが甘く切ないメロディを奏でる「甘く悲しく流れて」、オスカルとフェルゼンの別れの場面を彩った「別れ」などが聴きどころ。感情を露わにするのではなく、胸に秘めた想いをしみじみとかみしめるような大人びた曲調。これぞ「ベルばら」ともいうべき珠玉の楽曲である。
そして、アニメ版『ベルサイユのばら』のファンなら忘れられない曲が、ピアノとストリングスが奏でる切なくも美しい曲「切なく想いを秘めて」。第2話で初めてオスカルに出会ったアントワネットがその凛々しさにときめきを覚える場面や第28話でオスカルを押し倒してしまったアンドレが愛を告白する場面、第38話でオスカルが衛兵隊隊員たちに「私は隊長であることをやめる」と決意を伝える場面など、数々の名場面を彩った本作屈指の名曲だ。旧レコード・CDには収録されておらず、本アルバムが初収録。この曲を収録できたことで、長年の宿題が果たせた思いである。
ここで、ボーナス・トラックについて触れておきたい。
DISC2と3のボーナス・トラックには、本編未使用曲も含めて、貴重な蔵出し音源を収録した。
「●オープニング主題歌 別テイクコレクション」に収録した主題歌TVサイズのステレオ版は完成版とは歌い方が異なる別テイク。よく聴くとカラオケのMIXも完成版のオケとは異なっている。仮MIXのオケで録音したテストテイクと思われるが、詳細は不明だ。
「●Extra音楽コレクション」は特定のエピソードや場面用に用意された音源集。第13話で使用されたポリニャック夫人が歌うオペラの歌曲と劇場版で使用されたオスカルが弾くピアノの音源(TV版とは曲が異なる)を収録した。いずれも本作品のために録音された音源である。一部サイトでは便宜上「ポリニャック夫人の歌/武藤礼子」と表記されているが、聴けばわかるとおり、実は武藤礼子サマ(ポリニャック夫人役)の歌声ではありません。
「●MEコレクション」には、音楽テープが発見できなかった楽曲をMEテープから収録した。これはいわば裏ワザ。MEとは「Music&Effect」の略で、主に海外輸出用に作られる、本編ダビング用に音楽と効果音をミックスした音源である。効果音が入っているし、音楽のボリュームも一定しない(セリフの入るところでは音量がダウンする)。それでも「あの場面のあの曲が聴きたい」という願いに応えるべく、収録に踏み切った。……いや、本当は自分が聴きたいので入れました。個人的には後半に登場する吟遊詩人の手風琴(アコーディオン)の音が収録できたのがよかった。音質が良好でないことや諸事情により各曲の詳細が書かれていないことはご容赦ください。
「ベルサイユのばら 音楽集[完全版]」は、TVアニメ『ベルサイユのばら』のために作られた現存するすべての音源を集めて制作したアルバムである。「これが聴きたかったんだよ!」という感動とともに、「こんな音源もあったのか?」という驚きと発見が味わえるアルバムになっていると思う。「ベルばら」ファンの方はもちろん、広くアニメサントラファンにも聴いていただきたい。そして、『ベルサイユのばら』という作品のすばらしさと音楽の魅力をあらためて実感していただけたら、本当にうれしい。
時間がある方は、本アルバムを聴く前に『ベルサイユのばら』の本編をご覧になることをお勧めしたい。音楽に耳を傾けながら本編を観ると、音楽演出の巧みさ、楽曲の質の高さがきっと心に残るはずだ。それから本アルバムを聴いていただければ、感動もひとしおのはず。観て、聴いて、泣いて、『ベルサイユのばら』の音楽世界を心ゆくまでお楽しみください。
本アルバムの「初回限定盤」は三方背スリーブケースつき。なくなり次第ケースのない「通常盤」に移行する。また、ユニバーサルミュージックストアで購入すると、ストア限定特典として主題歌シングルジャケット復刻CDサイズカードが付いてくる。こちらもなくなり次第終了。どちらもお早目に。
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