COLUMN

第3回 レイアウトとタイムシートを読み解く

 今回からはやっと実作業の話に入っていきます。
まずは撮影のみならず、アニメーションの制作現場において非常に重要なツールであるレイアウトとタイムシートの話から。ざっくり言うと、レイアウトは画面の配置に関する指示が、タイムシートは各種タイミングに関する指示が書き込まれた設計書、あるいは仕様書といったものです。記された具体的な指示を元に撮影の作業が進められます。逆に、いくら画が上がっても、これらの書類がないと作業に入れません。

 レイアウトは、アニメを制作する上で実際の画面を設計するのに欠かせません。絵コンテを元に、原画担当やレイアウターが画面の構図とキャラクターの動きや配置などをレイアウト用紙に描いたものです。アニメ関連の出版物や展示会などで、実際に目にしたことのある方も多いと思います。動画と同じくタップ穴が空いていて、前回説明したフレームが印刷されています。紙質は薄めですが、各社によってまちまちです。表はツルッとして裏がザラザラした感じのものがありますが、裏側が描きやすいという理由で裏返して描くアニメーターさんもいます。このレイアウトには、画面の要素以外に撮影に対する演出的な指示も書き込まれています。カメラワークやbookの指示と動きに関する情報、画面外からの入射光、エフェクトの指示など、情報は多種多様です。撮影担当者は、これらの指示を元に実際の撮影用のデータを構築していきます。
 基本的に他の素材と共にカット袋に入っていますが、作業では、仕上部門で動画のスキャン時に同時に取り込まれてデータ化されたものを使用します。動画と同時にスキャンする事で、レイアウトのフレームと動画のフレームがそのまま位置合わせできます。背景もデータで送られてきますが、こちらにもレイアウトが入っており、合わせる位置がわかるようになっています。ただし、背景の場合は、解像度がセルと違う場合があるので、拡大率を調整する事もあります。
 レイアウトに記載されているものにカメラワークがあります。これは動きのスタート&エンド位置や方向、速度などの情報です。元の指示に×がつけられて、新たな指示が書き込まれることも多いので、見落としのないよう注意する必要があります。
カメラワークを指示するフレームが描かれていることもありますが、定規こそ使っていても、比率や位置が正確とは限らないので、実際の素材を見ながら現場の判断で位置決めをします。背景やbookなどもレイアウトと実際に上がって来た素材には誤差もありますので、実際にセルを配置すると画的に見にくい場合などが出てきます。そういった場合は、印象が変わらない範囲で背景やセルをほんの少しずらすといった微調整も行います。場合によっては、素材を複製してPhotoshopでレタッチすることもあります。このあたりは、撮影にも、単に技術的な能力だけでなく構図やバランスなど「画を見る」力が求められるところです。
エフェクトや画面の効果は、今やアニメには欠かせない要素ですが、これらもおおまかな指示がレイアウトに書き込まれています。画面全体の印象を左右する重要な光源の位置やぼかしの指示などです。さすがに細かな色や数値までは指示できませんから、例えばボケなら、大中小のように大まかな指定となります。監督や演出家によっては、具体的にPhotoshopで作られたサンプルが送られてきたりする場合もあります。その場合はそちらを参考にします。その他の特殊な効果等は別途撮影打ち合わせであらかじめ決められているので、詳細に記入されている事はありません(エフェクト作業については、次回以降に改めて)。

 タイムシートは基本的には動画を順番に並べるための指示書になります。タイミングに関するものは全てここに書かれています。こちらも原画集などに掲載されている事もあるので、見たことがあるかもしれません。大抵はB4かA3サイズの厚めの上質紙にマス目が印刷されています。紙、インクともパステルカラーが多く、ピンク、グリーン、イエローなど会社によって異なります。用紙サイズが大きめなのは二つ折りにしてレイアウトや原動画を挟んでまとめるためです。色がついているのはマス目に黒い鉛筆で書き込んだ数字が見やすいというのが理由のようです。フィルム時代には暗室での撮影でしたので、暗い場所でも見やすいように色を決めた、という話を聞いたこともあります。
 表計算ソフトのシートのように縦横にマス目が並んでおり、縦軸が時間、横軸がセルの順番になっていて、1枚で6秒分書き込めるようになっています。最近では、デジタル撮影での無制限セル重ねに対応した3秒シートというものもあります。1枚で指定できる秒数は短くなりますが、多くのセル重ねが指示できるようになっています。3秒シートがない場合、6秒用のものに無理やり書き込むのですが、見にくくなって撮影としては大変です。
タイムシートにはセルの重ね順と並べ順が記載されていますが、他にもオーバーラップやフェードイン・アウトするタイミング、あるいはカメラの動きの加速減速やタイミングの指示などが書き込まれています。タイムシートは一見すると暗号表のようになかなか複雑で、一般の方にはちょっとどう読むかわかりづらいかもしれません。実際、独特な作法などもあり、新人はまずこれをどう読むかで迷うことになります。
 実際の作業では、まず指示どおりに「セル」を並べていく事から始めます。データ上で行うので、AfterEffectsに一気に連番で読み込ませ、並び順の番号をキーフレームとして打っていき、タイミングをつけています。一コマずつ入力するのは効率が悪いので、現在はスクリプトで行う方法や紙のタイムシートと同じインターフェースを持ったコマ打ち専用の外部ツールにタイムシートどおりに打ち込んだデータをコピー&ペーストするやり方があります(AfterEffectsのキーフレームデータはテキストデータなので、このような運用が可能になっています)。自分は、以前は表計算ソフトで自作したツールを使っていましたが、今はアニメーターでもある、ねこまたやさん謹製の「りまぴん」http://www.nekomataya.info/nekojyarashi/wiki.cgi?%A4%EA%A4%DE%A4%D4%A4%F3という外部ツールを使っています。OSのプラットフォームを選ばず使えますし、シートデータも別途保存できるので、リテーク対応などがしやすいといった利点があります。
いずれの方法でも、繰り返しの入力なども自動化が可能なので、たとえ長い走りのカットであっても何度も入力する必要はありません。ただ、コマ数や順番が変則的になっている場合は注意が必要で、慎重にシートと比較しつつ入力しなければなりません。最近では、スケジュールの遅れから、カット袋が届かず、スキャンしたシートを画面上で確認しながらといった場合や、白黒の縮小コピーのタイムシートで作業せざるを得ない場合もあります。モニターや白黒コピーだと格段に視認性が下がるので、より注意が必要です。特に急いで書かれたタイムシートは、文字の判別が難しかったり、マス目にまたがって書かれていたり、と一目で判断できないものもあります。他に記載ミスのケースもあるので、それも確認しつつ修正します。カットの秒数が延びた場合など、書き直すのではなく、上に別のシートを貼り付けて伸ばしてすますこともあります。こうなると、撮影としてはちょっと面倒です。

 余談ですが、撮影に就くとき言われたことのひとつに「シートのコマ数をすぐに計算できるようになる事」というのがありました。1秒24コマ、シート1枚で6秒144コマ、半分なら3秒で72コマというように、タイムシートをさっと見てすぐに秒数が出てくるようにするという事です。これが身につくと、カットの把握が楽になり、作業効率も格段に上がります。タイムシートは6コマごとに罫線が太くなり一区切りとなっているので、自分の場合はこれを目安に判断しています。

 タイムシートにはメモ欄や空欄があり、そこにレイアウトに書かれたものとは別に細かな指示が書き込まれている場合があります。サムネイルのような小さな画が描かれて、具体的な指示が示されていることもあります。シートの裏側に指示や申し送りがあることもあるので、忘れずに確認。スキャンデータの場合も、ちゃんと裏側までスキャンされています。細かな数値的な指示はもちろんですが、気分的なものも書かれています。例えば加速減速の感じをカーブで図説したものや、動画の中割指示のような図などを見かけます。これらはあくまで感じなので、そのまま撮影に反映されるわけではありませんが、気分が伝わることは重要です。単に減速と書かれているより、データを作る上で大きな手がかりとなります。もちろん、それを感じる感性が撮影側にも必要になるわけですが……。
 大前提として、撮影には、1カットだけでなく、絵コンテの流れから演出の意図や話の流れをきちんと汲み取る能力が求められます。一般にはあまり知られていないようですが、撮影というのは、単に指示どおりに素材を並べるだけでなく、絵コンテやレイアウトからある種行間を読むような能力が必要な職種なのです。撮影とは、これを描いた人がどのような画を想定しているかを読み取り現実化する仕事です。そういう意味でも、レイアウトとタイムシートは、演出、作画と撮影とを橋渡す重要なツールなのです。
ただ、今後3DCG制作やデジタル作画環境が進んでいくと、それもまた変わっていくだろうと思われます。例えば、デジタル作画では、基本的にシートが不要になります。その場合、今まで書かれていた指定を、どうやって他のセクションに伝えるかといった問題も起きてくるでしょう。一社だけで制作が完結しないアニメの世界においては、全体で考えていかねばならない問題も出てくるでしょう。

 今回はこの辺で。次回はカメラワークについてお話ししたいと思います。