腹巻猫です。渡辺宙明の初CD化曲、入手困難曲を集めたCD「渡辺宙明コレクション CHUMEI RARE TREASURES 1957-2015」が12月25日に発売されます。1957年の実写劇場作品「スーパージャイアンツ」から2015年の特撮TVドラマ「20世紀未来 地球防衛隊 テデロス」まで、50年以上にわたる映像音楽の仕事を凝縮! 12月23日のイベント「渡辺宙明トークライブPart9 〜女の子のための渡辺宙明〜」(阿佐ヶ谷ロフト)とともに、お楽しみください!
「渡辺宙明コレクション CHUMEI RARE TREASURES 1957-2015」
http://www.amazon.co.jp/dp/B018LQ3I62/
「渡辺宙明トークライブPart9 〜女の子のための渡辺宙明〜」
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/39916
妖怪研究家としても知られるマンガ家の水木しげるが11月30日に亡くなった。少年時代から側にあった水木マンガは、見えない世界の存在を感じさせてくれる旅案内のような存在だった。水木しげるは亡くなったというより、妖怪の世界へ旅立ったのだと思いたい。
水木しげるの代表作『ゲゲゲの鬼太郎』は5度にわたってTVアニメ化されている。1968年(放送開始、以下同)の第1シリーズ、1971年の第2シリーズ、1985年の第3シリーズ、1996年の第4シリーズ、2007年の第5シリーズの5作だ。
音楽は、第1&2シリーズが歌謡界のヒットメーカー・いずみたく(第2シリーズ用の追加録音はされていない)。第3シリーズは竜童組のキーボーディスト、アレンジャーとして活躍した川崎真弘。第4作は伊福部昭に師事した和田薫、第5作が『ドラえもん』の長編劇場シリーズの音楽などを手がけた堀井勝美。2008年に公開された劇場アニメ『ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』では『宇宙海賊キャプテンハーロック』の横山菁児が音楽を担当した。多彩な顔ぶれの作曲家が、それぞれに個性を生かした音楽を提供している。
今回は『ゲゲゲの鬼太郎』第4シリーズの和田薫の音楽を紹介したい。というのも、筆者は個人的にこの第4シリーズがお気に入りなのである。第1&第2シリーズは別格として、ヒーロー色が強い第3シリーズに対し、平成になって登場した第4シリーズは水木マンガの原点に返るような暗さと土臭い匂いがあった。
キャラクターデザインと作画監督は美形キャラで知られる荒木伸吾と姫野美智のコンビ。もともと荒木伸吾は劇画を描いていた人なので、鬼太郎のキャラクターもなかなかはまっていた。シリーズディレクターはTVアニメ『DRAGON BALL』(1986-1989)、『DRAGON BALL Z』(1989-1995)の監督を務めた西尾大介。音楽の和田薫とはOVA『3×3EYES』(1991)で組んだ仲で、『ゲゲゲの鬼太郎』への和田の起用は西尾監督の希望によるものだった。
和田薫は1962年、山口県下関市出身。本題と関係ないが、実家はふぐ料理を出す老舗の割烹旅館だ。少年時代から音楽に親しみ、高校生になってから独学で作曲を始める。たまたま聴いた伊福部昭の音楽に衝撃を受けて、伊福部が教鞭を取る東京音楽大学に進学。伊福部昭に師事して作曲を学んだ。卒業後は、純音楽作品を発表する傍ら、劇場作品やTV、舞台、ゲーム等の音楽の作曲・アレンジ、音楽プロデュース等で活躍。純音楽の分野では邦楽器を取り入れた意欲的な作品も多数発表している。90年代に伊福部昭が音楽を手がけた平成ゴジラシリーズの音楽制作にも参加。伊福部音楽の再生に一役買った。
筆者の中で和田薫といえば「妖怪音楽」というイメージなのである。美少女と妖魔の戦いを描く『サイレントメビウス』(1991)を始め、『3×3EYES』もアジアの妖怪と戦う話だし、『宇宙の騎士テッカマンブレード』(1992)はエイリアンが相手、『学校の怪談』(2001)はホラー、『D.Gray-man』(2006)はAKUMAと呼ばれる禍々しい悪性兵器が敵となる。きわめつけは、海外でも人気のヒット作『犬夜叉』(2000-2004)ですよ。邦楽や民族音楽の要素を盛り込んだ独特のカッコいい音楽は、「和田サウンド」と呼ぶほかない強烈な個性を持っている。さすが伊福部昭の弟子である。あ、和田薫には『疾風! アイアンリーガー』(1993)、『金田一少年の事件簿』(1997)、『プリンセスチュチュ』(2002)、『キャシャーンSins』(2008)といったTVアニメ作品もあります。念のため。
TVアニメ世代の和田薫は、『ゲゲゲの鬼太郎』の第1&第2シリーズを少年時代に観ていたという。だから、鬼太郎ワールドの世界観やキャラクターのイメージはくっきりとできあがっていた。加えて、日本古来の楽器や音楽を研究し、作品に取り入れてきた和田薫の音楽は、日本の風土に根差した妖怪を表現するのにまさにぴったりだった。結果、鬼太郎音楽の決定版と呼べる音楽ができあがった。尺八、篠笛、能管、琵琶、和太鼓などの邦楽器を取り入れた、森や土の匂いがする音楽である。
本作のサウンドトラック・アルバムは1996年4月に「ゲゲゲの鬼太郎 オリジナル・サウンドトラックVol.1」のタイトルでワーナーミュージックから発売された。のちに日本コロムビアからANIMEX Special Selectionの1枚として復刻されて、現在も比較的容易に入手可能である。なお、タイトルには「Vol.1」と付いているが、「Vol.2」は発売されなかった。
収録曲は以下のとおり。
- ゲゲゲの鬼太郎(TVサイズ)
- サブタイトル
- ゲゲゲ行進曲
- 朝もやのかかる森
- ゲゲゲハウス
- 目玉の親父朝風呂につかる
- ねずみ男のテーマ
- ねずみの悪だくみ
- 不吉な予感
- 地獄絵巻
- 恐怖の夜
- 無気味な影
- 妖怪出現
- 妖怪大暴れ
- 鬼太郎登場!
- 戦いが始まる
- 攻防戦
- 鬼太郎ピンチ!
- 仲間が来た!
- 激しい攻撃
- 苦闘が続く
- 総力戦!鬼太郎勝利
- レクイエム〜魂の安らぎ
- 宿命
- 封印、妖怪帰る
- 故郷
- 鬼太郎!宴会じゃ
- カランコロンの歌(TVサイズ)
構成は、鬼太郎ワールドへの導入から始まり、妖怪出現、鬼太郎登場、鬼太郎と妖怪の戦いを経て大団円となる流れ。『ゲゲゲの鬼太郎』の物語を音楽で再現する趣向になっている。アルバムの半ばを過ぎてからようやく「鬼太郎登場!」となるのが『ゲゲゲの鬼太郎』らしくていい感じだ。
トラック2は琵琶と尺八によるサブタイトル音楽。べべん! という音とともにサブタイトルが浮かび上がる印象的な演出は、第5シリーズでも受け継がれている。
トラック3「ゲゲゲ行進曲」は主題歌のメロディをストレートに演奏したマーチ・アレンジ。金管と木管によって、鬼太郎の主題が力強く演奏される。鬼太郎ワールドの開幕を告げる曲だ。
トラック4「朝もやのかかる森」はうっそうとしたゲゲゲの森をイメージさせる情景描写曲。
トラック5「ゲゲゲハウス」はサブテーマ「カランコロンの歌」のミュージカルソー、篠笛などによるのどかなアレンジ。トラック6で目玉おやじのテーマ、トラック7、8でねずみ男のテーマが登場し、主要キャラが勢ぞろいする。篠笛と琵琶が和風のメロディを奏でる目玉おやじのテーマが出色だ。土俗的な匂いがする第4期「鬼太郎」らしい音楽である。
尺八とファゴットが怪しげな旋律を奏でるトラック9「不吉な予感」から、いよいよ妖怪のテーマになる。
弦楽器群の恐怖描写と低音の金管がおどろおどろしさを盛り上げるトラック10「地獄絵図」、弦のピチカートと打楽器の畳み掛けるリズムが切迫感を呼ぶトラック11「恐怖の一夜」、低音の木管と弦楽器のうねりがじわじわと不安感をあおるトラック12「無気味な影」。東西楽器による怪奇音楽の見本市という感じで、妖怪登場の舞台は整った。
激しいショック描写から始まるトラック13「妖怪出現」は、オーケストラとシンセサイザーで描かれる妖怪出現のテーマ。妖怪の中でも怪獣級のスケールの大きな怪異の出現をイメージさせる曲だ。
次の「妖怪大暴れ」は、琵琶と能管が活躍する緊迫感に富んだ怪奇音楽。能管というのは歌舞伎などで幽霊が登場する場面に使われる笛。お化け映画音楽にも多用された、日本古来の怪奇描写楽器である。
トラック15「鬼太郎登場!」で、ようやく主役登場となる。勇壮なリズムをバックに篠笛とストリングスが鬼太郎の主題を奏でる。ここで流れるのは主題歌「ゲゲゲの鬼太郎」のメロディではなく、和田薫によるオリジナルの鬼太郎のテーマだ。本アルバム中の聴きどころのひとつである。
トラック16「戦いが始まる」は代表的な戦闘曲のひとつ。主題歌のメロディがオーケストラで激しく、緊迫感たっぷりに奏でられる。
ここからトラック22までは息つく間もないバトル曲の連続。トラック22「総力戦!鬼太郎勝利」では「鬼太郎登場!」と同じ和田薫版鬼太郎のテーマで鬼太郎の勝利が歌われる。
トラック23「レクイエム〜魂の安らぎ」は胡弓がしっとりと奏でる妖怪たちへの挽歌。これも和田薫らしい、第4シリーズならではの曲。邦楽だけでなく、広くアジア音楽のエッセンスが含まれているのも和田薫による鬼太郎音楽の特徴である。
トラック25「封印、妖怪帰る」とトラック26「故郷」は、「レクイエム」のモチーフの変奏曲。大暴れした妖怪が、ふたたび自然の中に還っていく……。そんなシーンが眼に浮かぶ、郷愁感ただよう平和曲である。
BGMパート最後の「鬼太郎!宴会じゃ」は太鼓、篠笛が入ってにぎやかに奏でられる大団円の曲。日本人なら誰もが懐かしく感じる日本の祭りのリズムが取り入れられている。
締めくくりは憂歌団が歌う「カランコロンの歌」。オープニングとともに、いずみたくの原曲にあるブルース魂をみごとに受け継いだ名カヴァーだ。
水木マンガの土俗的な雰囲気を表現した和田薫の音楽は、歴代鬼太郎音楽の中でも出色の出来だと思う。生の邦楽器が生み出す独特の音のゆらぎは、シンセの打ち込みでは到底再現できない力を持っている。琵琶のひと鳴りが、能管のひと吹きが、その場の空気をがらりと変え、聴くものを一気に怪異の世界に引き込んでしまうのだ。直接的な恐怖を表現するというより、現実のベールをべろんと一枚はがして闇を垣間見せるような、そんな音楽である。その闇は、怖いけれどどこか懐かしい。
本作の終了から10年後、和田薫はTVアニメ『墓場鬼太郎』(2008)でふたたび鬼太郎音楽を手がけることになる。『ゲゲゲの鬼太郎』の音楽をさらにダークにした和田サウンドが、正義の味方でない鬼太郎の世界を描き出していた。水木マンガの神髄に迫るようなこちらの音楽もたまらない。
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